表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

392/621

第355話 防御無視、一撃必殺をご堪能ください

 金鐘崎美沙子は、異世界ではミーシャ・グレンという女傭兵だった。

 幼い頃は快楽殺人に身を浸し、一夜にして二つの街を滅ぼしたこともある。

 そのことから『喜々にして死屍』とも呼ばれた。


 二人の幼馴染の協力もあって、彼女は『人』になることができた。

 だがやはり戦いから足を洗うことはできず、大人になってからは傭兵となった。


 知性に富み、行動力に優れ、何事にも物怖じしない強靭な精神力。

 その用兵は巧みであり、その戦術は大胆で、戦場の空気を知り尽くした女傭兵。


 数多の戦場を生き延びて、彼女は『竜にして獅子』と称えられるようになった。

 だが、ミーシャ・グレンは三十ちょっとで一線を退いた。


 子供ができたのだ。

 血こそ繋がっていなかったが、彼女は自らの全てを捧げ、子供を愛し、育てた。

 そして傭兵として教えられることを、子供に叩き込んだ。


 その後、息子が独り立ちしたのを見届けて、ミーシャ・グレンは姿を消した。

 全ては己が息子の足枷とならないために。


 戦乱の世において、血縁は武器になると共に弱点にもなりうる。

 過去の経験からそれを知るミーシャは、あえて息子から離れることを選択した。


 その後は、山奥の村で隠遁生活を送った。

 まだまだ女ざかりの年齢で引退した彼女を惹かれる者は多かった。

 しかし、最終的にミーシャはその後、誰とも結ばれることなく人生を終えた。


 その理由については、彼女は息子にも語っていない。

 何事にも動じることなく、一人でも強く生きた女性がミーシャ・グレンだ。


 ――そんな彼女に今、最大の危機が迫る。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ちっちゃいマガツラが、ちっちゃいNULLに乗って美沙子の前にやってくる。

 その両手に、デジタル時計を抱えている。


『クカカカカカカカカカカカ! 金鐘崎美沙子! カウントダウンを始めるぜェ!』

「何だい、マガツラちゃん、そのカウントダウンってのは?」


 美沙子が、時計を見てみる。

 そこには30:00というタイムが表示されている。


『制限時間三十秒! その時間内に、あんたが愛する『異性(シンラ限定)』に愛のメッセージを叫びな! いいか、制限時間は三十秒だ。そいつを過ぎたらあんたは無情にも爆死するから注意するこったな! クカカカカカカカカカカカカカカカ!』


 邪悪な笑いを響かせるマガツラだが、その声は五歳くらいのアキラそっくりだ。


「何だか、アキラがテレビの特撮番組の悪役のマネをしてたのを思い出すねぇ」

『だってよ、本体! クカカカカカカカカカ!』

「何でそこで俺がダメージを受けなきゃならんのだァ!?」


 城門近くにミフユと一緒にいるアキラが、顔を真っ赤にして怒鳴った。

 美沙子は小さく笑いながら、その視線を浮いてるマガツラへ向け直して、


「で、シンラさん限定なのかい……?」


 言うその頬には、ちょっと赤みが差している。


『無論だぜ、金鐘崎美沙子! あんたにゃ俺の本体という『愛を告げられる異性』がもう一人いるからなぁ。そっちへの愛はいくらでも叫べるだろ? それじゃあ企画倒れってモンだぜ、面白くねぇ。こいつは仕返しだ。ダメージは受けてもらう!』

「ひどいスゴロクもあったもんさね……」


 とはいえ、マガツラの言う通りこれは仕返し。

 自分がやったことを考えれば、受け入れないという選択肢など取れるワケもない。

 だが――、


「美沙子さん、余はいつでもOKです!」

「アンタがそんなだからこっちゃやりにくいんだってのさ……」


 言われる側のシンラが威風堂々と腕を組んで受け止める構えを見せている。

 それが、美沙子にはたまらなく気恥ずかしく感じられてしまう。


『クカカカカカ! カウントダウン、スタート! あ、ポチッとな!』


 マガツラがデジタルウォッチのスイッチを入れる。

 残り時間三十秒。その間に、美沙子はシンラへの愛を叫ばねば爆発してしまう。


「イベントって割に、エグいことやらせるねぇ、あの嬢ちゃんは……」


 扇子で顔をあおいでいるカリンの方をチラリと見やりつつ、美沙子は考える。

 彼女とて、異世界で人生を全うした身。

 恋愛経験についてもそれなりにはあるし、恥ずかしい思いだってしたことはある。


 だが、これはなかなか新鮮で、そして受け入れがたい恥ずかしさだ。

 今から自分が愛を叫ぶ。しかもその様を、対象者当人に目の前で見られる。


 うわぁ、キツい。

 それが美沙子の素直の感想である。


「だからこその仕返しなんだろうけどねぇ……」

『おっと、ブツブツ言ってる余裕があるのかい? あと十五秒だぜェ?』


 時間が過ぎるのが早すぎる。

 美沙子は即座に覚悟を決めて、腹の底にグッと力をこめる。

 この辺りはさすがに歴戦の女傭兵。判断も決断も速攻だ。


「スゥ――」


 思い切り、大きく息を吸い込んで、金鐘崎美沙子は腹の底から声を出す。


「アタシァ! シンラさんのことが大好きだよォ――――ッ!」

「俺もですッッ!」


 叫んだら、やっぱり叫び返されてしまった。


「知ってますってば!」


 こっちも負けじと言い返して、すぐさまその場にうずくまった。

 羞恥が、怒涛の如く全身に押し寄せてくる。


 そうなるとわかっていたから速攻で勝負を決めた。

 少しでも躊躇を見せれば、その時点で自分は何も言えなくなってただろう。


「お義母様、素敵でしたわ~!」

「おとしゃんのおかしゃん、カッコよかった~!」


 ミフユやらタマキやらが口々にはやし立ててくる。美沙子は消えたくなった。


『クカカカカカカッ! さすがの決断力だぜ、金鐘崎美沙子!』

「はいはい、ありがとね。これで爆死はしないで済んだんだろ? ったく……」


『おお、その通り! だがおまえはリア充だ! 今のは間違いなくリア充認定だ!』

「あ」


 察し。


『リア充は爆発しやがれェェェェェ――――ッ!』


 マガツラが親指を下に向けた瞬間、美沙子は自分の足元が膨らむのを感じた。

 そして、チュドォォォォォ――――ンッッ! と、大、爆、発!


「美沙子さァ――――んッ!?」


 という、シンラの悲鳴が、美沙子が聞いた最期の音声だった。

 最初から、何をやっても彼女は爆死するさだめにあった。これ、仕返しだからね。


 即死した美沙子の体は高々と宙に投げ出され、そして落下。

 完全に真っ黒焦げです。何かブスブスいってます。そこに光が降り注ぐ。


 ラ~ラララ~ラララ~♪ ララララ~ララ~♪


 讃美歌みてぇな清らかなBGMと共に、輝きを纏った天使が美沙子へと降り立つ。

 彼女は直ちに蘇生されて、天使と音楽は消えていった。


「ひ、ひどい目にあっちまったねぇ……」


 よいしょと美沙子が起き上がる。

 ちなみに今の蘇生は、単に蘇生アイテムが使用されただけだ。

 天使は実物ではなくカリンの異面体による演出にすぎない。


「大丈夫ですか、美沙子さん!」

「シンラさん、体は大丈夫だけど、メンタルはガリガリに削られましたよ」


 美沙子が、シンラに向かって優しく微笑む。

 それを見て、アキラは悟った。


「あ、あの笑顔、間違いなくお袋は思ってる。シンラや、他の連中に『早くアンタもアタシと同じく生き恥を晒しちまいな。こっちに来るんだよ』と、そう考えてる!」

「アキラ、余計なことは言わないでいいんだよ」

「あ、すいません、すいません」


 笑顔のままの美沙子に釘を刺され、アキラは軽く震え上がった。

 だが、その異面体はNULLの上で抱腹絶倒だ。


『クカカカカカカカカカカカカカカ! 笑うわッ!』


 NULLが光を瞬かせる。『笑えないわねぇ』とでも言っているのだろう。

 こうして、シカエシスゴロクの陰惨たる第一投は終わった。続いては――、


「オレだァ――――ッ!」


 バーンズ家長女、最強存在にして三大問題児筆頭、タマキ・バーンズである。


「ウオオオオオ、振るぜ振るぜ、ダイスを振るぜェ~~~~!」

「何でそんなに楽しそうなの、あんたは……」


 現地リポーターのミフユがちょっと引くほどに、タマキが張り切っている。


「だってなんかこういうの楽しそうじゃん! 死ぬけど!」

「すでに死ぬことを受け入れてるあんたは無敵なのね。……なるほどねー」


 と、軽く納得するミフユではあるが、その顔に意地の悪い笑みが浮かぶ。


「さてさて、どこまで無敵でいられるのかしらね~?」

『クカカカカカ! さぁ、タマキ・バーンズ! ダイスを振りなァ!』

「わかったぜ、マガツラしゃん! とりゃ~ッ!」


 バヒュンッ!

 タマキが全力で投げたダイスが、大きく弧を描いて壁に当たって跳ね返る。

 遠投かってくらいに飛んだダイスは、そのまま転がって、出目は六。


「うおおおおおお! やったぜ六だぜ~! 一番デケェ数だぜ~!」

「いいから進みなさいよ」


 ガッツポーズをとるタマキに、ミフユが軽く促す。

 タマキはそのまま鼻歌交じりで六マス先へと進み、そこに書いてある指示を見る。


「え~っと……」


 見下ろした床には、こう書かれていた。


『一分間、恋人と会話せよ。ただし一人称『私』で男口調禁止。できなきゃ爆死』

「え」


 タマキが固まる。その眼前に、いきなりケントが転移してくる。


「な、何、何すか? いきなり俺の出番?」


 何が何やらという感じのケントが、目の前にいるタマキに気づく。


「あれ、タマちゃん?」


 彼はタマキの目線に気づいて、自分も目でそれを追った。

 そして、床に書かれている指示を見つけ、自分もまた読んでしまう。


「え」


 見せたリアクションは、タマキと全く一緒。


「「え」」


 二人は同時に顔を上げて互いに相手を間近に凝視してしまう。

 タマキの顔が急に真っ赤に染まる。


「ォ、オレ、こんなのできな」


 チュドォォォォォォォォォォォォォォォ――――ンッッ! 大ッ、爆ッ、発ッ!


「タマちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ん!?」


 ふしぎなちからに守られたケントが、吹き飛ばされたタマキを見上げた。

 タマキ・バーンズ、爆死!

 優しいBGMと共に降臨する蘇生の天使に、タクマが流れる汗を手の甲で拭う。


「このスゴロク、やべぇって……」


 大魔王城シカエシスゴロクは、まだまだ始まったばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ