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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第353話 敏腕プロデューサー・カリンさん

 かつて異世界の人々は彼女をこう呼んだ――、『聖女にして魔女』。

 母、ミフユ・バビロニャにも通じるその二つ名で呼ばれた理由は非常に明快だ。


 彼女が、世界全土にその名を知らしめた超一流の歌手であったからだ。

 吟遊詩人として世界各地を周り、その歌声によって人々を魅了し続けた、彼女。


 それは、日本でいうところのトップアイドルに近しい存在。

 歌で、笑顔で、ダンスで、人々に元気を与え、笑顔を与え続けてきた。


 小さい村の祭りから、大国の王都での大規模なワンマンライブまで。

 彼女は常に仕事を選ばず、場を選ばず、戦乱に惑う人々に歌を贈り続けてきた。


 ある者は言う。

 彼女こそは、戦いに疲れた人々の心を癒すために生まれてきた本当の聖女だと。


 ある者は言う。

 彼女こそは、その歌で数多の人々を戦いへと駆り立ててしまう生粋の魔女だと。


 その絶大な人気からもてはやされ、妬まれ、人々に見られ続けてきた彼女。

 そんな彼女の名は――、ササラ・バーンズ。

 バーンズ家の七女にして、最もアキラとミフユの手を焼かせた娘。


 彼女は、タマキともう一人と共にバーンズ家三大問題児に数えられてもいる。

 そんなササラの才能を見抜き、吟遊詩人として世の送り出したのが、カリンだ。


 いわば彼女はササラのプロデューサー。

 音楽ユニットで時々いる、プロデューサーが実際に参加してるアレである。


 カリン自身も吟遊詩人としては上位に属する実力を持つ。

 しかし、ササラに比べれば実力では及ばず、人気では比較対象にもなれない。

 だが、そんなササラを見出したのがほかならぬ彼女であった。


 人の得意不得意を見抜く目については、シイナですら及ばない。

 それが、カリン・バーンズ。


 今回、そんな彼女が率先して企画したのが、大魔王キリオ企画。

 すなわち、大魔王キリオ様によるバーンズ家絶滅計画なのだった――。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 キリオの帰りを待つ俺達の前に突如現れた六女、カリン。

 今は宙に浮いているが、どうしてこいつが現れたのか。一体、何があったのか。


「オイ、カリン。おまえ、キリオに会ったのか?」

「ととさまか。うむ、会ったわい。つい三週間前に『出戻り』したワシが、自分もこうなったんだからもしかしたら皆もいるのではないかと探し始めて一週間。北は青森から南は沖縄まで、全国津々浦々探しまくった挙句、日本一周してやっと見つけたのがキリオの兄御じゃったわ! ワシァ……、ワシァ泣いてしもうたわァ!」

「ああ、そういえばおまえ、信じがたいレベルで方向音痴だもんな……」


 日本一周したのも、したくてしたんじゃなくていつの間にかしてたパターンか。

 こいつ、飛翔の魔法を使ってもなぜか迷子になれる天性の才の持ち主だからなー。


「はぁ!? ワシが迷子などと、そんなことあるわけがなかろう! ちょ~っと寄り道に寄り道を重ねてたら日本を一周しとっただけじゃ! ワシという人間のスケールが日本の枠に収まりきらないだけじゃ。だから決して、迷子などではないのじゃ!」

「どう言い繕ったところで、キリオと会って泣いた事実は変わんねぇよ?」

「……うん、まぁ、うん」


 急にテンション下げんのやめろよ。俺がいじめてるみたいになるじゃねぇか!


「ええい、とにかくじゃ!」


 と、カリンが顔を赤くして、話を強引に前に進ませる。


「キリオの兄御から話は聞いたぞ! おんしら、ちょっとひどくない!?」

「「「すいません」」」


 プリプリ怒るカリンに、俺含め全員が反論などできるはずもなく謝る。


「ととさまとかかさまの意図は何となく見えはするけどのう、でもハブるのはいかんじゃろ、ハブるのは! ということで、ワシはキリオの兄御の側につく! ついでに、仕返しを受ける側じゃない面々も残らずこっちについてもらうからのう!」


 カリンは随分と情に篤いことを言う。まぁ、そうなるのもわかるんだが。

 俺は、周りにいるミフユとラララやタイジュ、ケントにチラリと目配せして、


「俺達は、キリオの側につくことにしてるけどさ――」

「ほぉほぉ、さすがに己のやらかしに気づいたか。うむ、殊勝な心掛けじゃのう」


「おまえも随分と、キリオに肩入れしてるようじゃねぇか」

「一週間かけて日本一周した末に戻ってきて初めて出会えた家族じゃよ?」

「あ、はい。そりゃあ情も移りますわね」


 うんうん、そうだね。会えて嬉しかったろうね。わかる。わかるよー。でもね、


「カリン、本音は?」

「こっちに戻ってから何も企画やっとらんから欲求不満なんじゃ~! キリオの兄御の話を聞いて企画考えついたから、ワシはそれを開催するぞ、ととさまぁ~!」

「そんなこったろーと思ったよッッ!」


 こいつ、自分の娯楽を何よりも優先させる俗物だからな!

 情に流されてる部分だってあるだろうが、メインに理由は間違いなくそっち。


 カリンは企画屋だからな。いつだって企画企画ですよ。

 異世界でも、ササラと組んだ主な理由は自分のやりたいことをやるため。


 吟遊詩人だが、同時にイベンターであり、プロモーターでもあるのがカリンだ。

 キリオやマリエが苦手としている部分を補うの人材としては最適ではある。


「さて、ととさまよ」


 カリンが、す、と右手を俺の方に向けてくる。


「キリオの兄御から聞いておるぞ、ワシに寄越すがよい」

「主語を省くな、主語を。何をだよ?」

「決まっておろう。かの古代遺物『金色符』じゃよ」


 おっと、よりによってアレか。


「ととさまが持っていたところで無用の長物じゃろ? ワシに寄越せ。きっとそれを家族の中で最も有用に使えるのがワシじゃ。『金色符』はワシにこそ相応しい」

「なるほど、な……」


 カリンの魂胆が見えた気がした。

 俺達の目前にそびえている大魔王城。カリンはそれを『金色符』で構築する気だ。


 あの『金色符』は使用者の任意の異空間『絶界』を造り出す古代遺物。

 企画者として設定や構成を考えることに慣れてるカリンなら十全に扱えそうだ。


 正直、俺が持っていてもあまり意味がないのはその通り。

 ならば、ここでカリンに渡すのもありっちゃありなのだが――、


「まさかカリン、タダで渡せとか言わねぇよな?」

「ほぉう?」

「今の『金色符』の持ち主は俺だぜ。何の対価もなしに渡せってのは、なぁ?」


 俺が肩をすくめると、カリンは開いた扇子で口元を隠し、


「ふむ、話はわからんでもないがのう。では戯れに聞こうぞ。何を対価にしろと?」

「そんなモン、決まってるだろ……!」


 クワッ、と、俺は目を見開いて、カリンに指を突きつけた。


「日本一周したなら、ご当地特産品マニアのおまえが何も買ってないはずがない! 何か、美味しそうなご当地特産品かお土産を要求する! 美味しそうなヤツ!」

「では、京都で買った生八つ橋と、沖縄のサーターアンダギーでどうじゃ!」

「契約成立ですッッ!」


 やった、沖縄のサーターアンダギー、食べてみたかったんだァ~~!


「ちょっと、生八つ橋、わたしにも少しちょうだいね。あれ、割と好きなのよ」

「お、いいぜ~」


 ミフユに軽くうなずきつつ、俺は取り出した『金色符』をカリンに投げ渡す。


「ほらよ~。お望みの品だぜ~」

「キャッチ! ヌフフフフフ、ついに手に入れたぞぉ~、『金色符』ちゃん!」


 ちゃん付けかよ。と、思った瞬間――、


「お?」


 周りの空気が一変する。

 景色は全く変わっちゃいないが、こいつは『異階』じゃなく『絶界』、だな。

 目の前の大魔王城も、ハリボテじゃなくなった、か……。


「早速使ったのか、カリン」

「無論じゃよ、ととさま。すでに催しは始まっておる。大魔王キリオ様によるバーンズ家絶滅計画という名の仕返しイベントは、とっくに開幕しておるのじゃ!」


「って、その割に、大魔王なキリオはどこにいるんだよ?」

「そりゃ、大魔王様なんじゃから、今は城の中におられるわい。ちなみにさっき金属符投げ込む前まではワシと一緒に部屋のドアの前にいたんじゃよ」


 つまり『異階化』の範囲の中にはいたってことか。


「そして――」


 カリンの目が、俺からケント達の方へ移る。


「マリクの兄御を始めとした『仕返し受けない組』には大魔王キリオ様の配下になってもらう予定なんじゃが――、ふむ、そこな苦労人気質が垣間見える中坊よ」


 言って、カリンが扇子で指し示したのは、ケントだった。


「え、俺!?」

「うむ。おんしが、ととさまの友人であるケント・ラガルク殿じゃな」

「お、おお。そうだけど……」


 そういえばカリンはケントとは初めてか。

 ずっと浮遊していたカリンが地面に降りて、ケントの前まで歩いていく。


「何だよ……」


 若干警戒を見せるケントに、カリンは穏やかに笑って紙の箱を取り出し、


「お初にお目にかかります。わたくし、カリン・バーンズと申す者でございます。ケント・ラガルク様におかれましては、父のアキラのみならず、姉のタマキと兄のキリオが大変お世話になっているとのことで、娘、また妹として感謝に堪えません。本当にありがとうございます。今後は家族の一員としてお付き合いさせていただくことになると思いますが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。あ、こちら、お菓子の詰め合わせでございます。ご笑納いただければ幸いでございます」


 そう言って、ケントの前で深々と頭を下げるのだった。


「ぁ、ぁ、……はい。ヨロシクオネガイシマス」


 ケントが完全に圧倒されて、ギクシャクしながら紙の箱を受け取った。


「うんうん、いい感じね、カリン。さすがは業界人。この辺はそつがないわね」

「何故そこでおまえが満足げなのか、それが俺にはわからない……」


 腕組みして後方センパイヅラしてるミフユに、俺は眉根を寄せるのだった。


「これにて挨拶は完了! 今後はケントの義兄御と呼ばせていただくぞえ!」

「ア、ハイ、ワカリマシタ」

「ケントー! ロボットのままで切り替えができてないぞ、ケントー!?」


 いや、この場合はカリンの切り替えがスムーズすぎるのか。


「さて、次は――」


 カリンはそう言って、さらに新たな菓子折りを取り出し、今度は――、お袋?


「お初にお目にかかります。わたくし、カリン・バーンズと申す者で――」

「あれあれ、まぁまぁ」


 ケントにしたのと同じ調子で、カリンはさらにお袋とジュンにも挨拶していった。

 本当に何というか、そつがないな、こいつ。


「挨拶回り終了じゃあ! そうしたら、今イベントの概要を説明するからよく聞くがよいぞ! 有責組が大魔王城に挑んでギャー! 以上。説明、終わりじゃ!」

「はっやい!?」


 でも言わんとしてるところがわかるのすごいな! 要点掴みすぎだろ!?


「大魔王城に挑んでもらう有責組は敬称略で行かせてもらうが、美沙子、シンラ、タマキ、スダレ、シイナ、タクマ、ヒナタの七名じゃ。中立はリリス、ジュンの二名じゃ。有責組のサポートに回ってもらうぞ。そして大魔王配下はワシ、ととさま、かかさま、ケント、マリク、ヒメノ、ラララ、タイジュ、エンジュじゃ。こちらには大魔王城の愉快なアトラクション(死亡率激高)の案内人などを務めてもらおうぞ!」

「しっかり仕切ってきやがりますねー」


 スラスラと説明をするカリンに、俺はそう述べつつ、軽く挙手をする。


「ちなみに、ヒナタもお袋達と同じなのか? こいつ四歳児だぞ?」

「七歳児のお父さんがそれを言うのか~。私はみんなと同じでいいんだけど……」


 ヒナタが俺に文句を垂れるが、まぁ、一応の確認ってやつである。


「フフン、ヒナタの言う通り年齢など気にしてどうするという思いもあるが、そこは有能イベンターにして辣腕プロモーターのワシ! ちゃんと考えてあるわ! ヒナタには『ヒナタ専用特別八大地獄コース』による仕返しを敢行させてもらうぞ!」

「ヒナタ専用――」

「特別八大地獄コースだとォ~!?」


 何か、とてつもなく禍々しいネーミングだが、そ、それは一体、どんな……!?


「ファ、ファ、ファ、怯えるがよい。おののくがよい。ヒナタだけが味わうことになる八大地獄を今から楽しみにしておるがよいわ~! ファ、ファ、ファ、ファ!」

「あ、名前は物々しいけど、中身は普通に楽しめるアトラクションですね、これ!」

「シイナの姉御ォォォォォォォォォォォォォォ――――ッッ!」


 大魔王城の城門前に、再び響き渡るカリンの絶叫。


「ねぇ、ワシさっき言ったよね? ネタバレして何が楽しいのって、言ったよね? 何で? 何でまたそうやってネタバレしちゃうの? 姉御はワシをいじめてるの?」

「え、あの、すいません。何か、すいません。泣かないで、カリンちゃん!?」

「…………」


 ヒナタ専用特別八大地獄コース(笑)。


「し、しかしッ! それでもせっかく用意した八大地獄じゃ! ヒナタにはそっちを堪能……、もとい満喫……、じゃなくて味わってもらうからな! 絶対だからな!」


 カリン、もはや意地の様相。だげど堪能とか満喫ってさぁ、おまえさぁ……。

 どんな地獄が待ち受けているか、何となく想像つくの、笑うわ。


「もう、仕方がないなぁ。みんなと一緒でもいいけど、私はそっちに行くよ~」

「ありがとう。本当にありがとう、ヒナタ。本当にありがとう」


 腰に手を当てて言うヒナタに、カリンが心底感謝して頭を下げている。


「シイナ、これに懲りたら、今後はネタバレはやめような」

「はい……」


 俺はシイナの肩を叩き、シイナはしょぼんとしつつうなずいた。ネタバレは悪!


「うむ、よし、舞台設置完了。人員配置完了。参加者への説明完了。イベント開始前にやることはおおむね終わった。が、しかし、あと一つ重要なものが残っておるな」

「え、まだ何か準備が必要なのか?」

「うむ。マスコットの準備ができておらんではないか」


 ……マスコットとな?


「これイベントじゃし、必要じゃろ? マスコット」

「そ、そうなんかな……」


 どうしよう、その辺の感性は俺にはよくわからない。

 いや、でもテレビとかで見るイベントでは大体いるような気もする。マスコット。

 あとはロゴマークとか、そういうの?


「今回は時間なきゆえ、デザインは大まかに決めてわしがよく使う魔法のパペットで代用するとするかのう。できれば、一か月くらいかけて案を練りたいところじゃが」

「そんな時間かけんの!?」

「何言ってるのよ、アキラ。当たり前じゃない。マスコットなんだから」


 そこで、ミフユが俺を前にしてため息つきつつ肩をすくめる。

 おまえはさっきから何なんだよ。


「ふ~む、どんなデザインにするかのう……」


 カリンが唸りながら考えている。


『クカッ、クカカカカカカカカカカカカカカカァ――――ッ!』

「お、何じゃ、ととさま。いきなりバカ笑いしおって。何ぞいい案でもあるのか?」

「いやいや、待って、俺じゃないよ、今の笑い声!」


 でも、俺の笑い声っぽく聞こえたけど、何だよ、今の笑い声!?


『そのマスコット、俺達が務めてやろうじゃあねぇか! クカカカカカカカカ!』


 再び聞こえる、随分と居丈高な声。

 しかし、響くその声質は、何というか口調の割に可愛さが優るアニメ声。


「何者じゃ!」

『クカカカカカカカ、俺だァァァァァァ~~~~!』


 みたび響く声と共に、俺とカリンの見ている前でポンッと煙が爆ぜる。

 そして、そこに現れたのは俺よりも背が低い二頭身の黒い鎧姿の、赤い瞳の――、


「…………マガツラ?」

『クカカカカカカカカカカカカカカ! そうさ、マガツラ様よォ~!』

「マガツラァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!?」


 現れたのは、ちっちゃいマガツラだった。

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