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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十四章 大魔王キリオ様のバーンズ家絶滅計画!

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第352話 超絶デッドエンドダンジョン・大魔王城!

 もうね、大ブーイングですわ。


「ほらー! やっぱりこうなったじゃないですかー!」

「こうなるってわかってたっつーかよー、予想できたことじゃんね?」


 シイナがプリプリし、タクマが呆れていらっしゃる。

 キリオが出ていったあとの部屋の中、俺達は座って円を作り、反省会中だ。


「俺の言いたいことはキリオに伝わったとは思うんだがなー」

「そうだとしても、ハブるのは悪手でしたよ、団長……」


 む、ケントにまで言われてしまった。

 まぁ、キリオの反応見て『あ、ヤッベ』ってなったのは俺もだけどさ。


「あ~ぁ、どうすんだよ、おとしゃん~」

「ウチまだ、おキリ君にちゃんと謝れてないよぉ~」

「しかも、父上と母上に置かれましてはすでにケジメはつけたとのこと。その上で余達の側に回るのは、やはりまずかったのではないでしょうか……?」


 おうおう、不満噴出泣き言バリバリですねぇ。


「とはいえなぁ……」

「そーなのよねー」


 俺とミフユは互いに顔を見合わせる。


「ケジメつけたっつったって、キリオから仕返しされたワケじゃねーからな、俺ら」

「パパちゃん達に仕返しするかどうか決めるのはキリオの兄クンだよね」


 くふぅ、ラララに見事に痛いところを突かれてしまった。

 それは全くその通り、なんだが――、


「いやいや、それを言うなら何でおまえが仕返しをされる立場になるんだよって話にもなるじゃないですか、ラララさんよぉ。いくらエンジュの付き添いでもさ」

「それは仕方なくない? このラララはエンジュのお母さんだよ?」

「いや、全然仕方なくねーよ。何ならおまえだってキリオ並に仕返しする立場だよ」


 俺とラララが話している横で、エンジュが完全に恐縮している。

 近くにあった袋入りのチョコをポンとそっちに投げ渡し、


「かしこまんな、エンジュ。おまえがどうだって話じゃねぇよ」

「そうよぉ、エンジュ。全部、この小学生の形をしたジジイのせいよ」


 お、言ってくれますねー、この中学生の形をした母親め。


「わかってる~……」


 エンジュが袋を開けてチョコを小さく一口二口。

 そう答えはするものの、顔は俯いている。


「ま、これからのことはキリオが帰ってきてからよねー。言っておくけど、こうなったらちゃんと仕返し受ける組と受けない組は分けるわよ。それもケジメだからね」


 ミフユがそんな風に言って場を仕切る。まぁ、しゃーない。

 何となく、で済ませていいことではなかった。その部分を間違えてしまったねー。


「キリオ、帰ってくるかな……」

「キリオ君は打たれ弱いようで打たれ強いので、きっと大丈夫ですよ。お兄ちゃん」


 心配するマリクに、ヒメノが実に的確な評価を下して笑う。


「私達、どんな仕返しされるんでしょうね、タクマさん……」

「どんな仕返しでも受け入れるしかないので考えるだけ無駄だぞー。心を無にしろ」

「ひぃん。それはわかってますけど、怖いものは怖いんですよー!」


 泰然自若としているタクマと、プルプルしてるシイナが実に対照的だった。

 しかし、どんな仕返し、か……。


「キリオもマリエも、仕返しの内容とか考えるの苦手そうだよな……」

「苦手そうっていうか、絶対苦手でしょ。特にマリエさん」


 俺が思っていたことを口に出すと、ミフユが肩をすくめて太鼓判を押してくる。

 マリエは、うん、特にそうだよなー。あいつの気質を考えると……。


「そうですよ。真理恵さんは仕返しとかいう概念とは縁遠い人ですからね!」


 別に求めちゃいないのに、ケントが口を挟んでくる。


「出たな、マリエの厄介ファン」

「それを堂々とタマキの隣で言えるあんたの胆力も大したモノだわ」


「バカ言わないでくださいよ、女将さん。これについてはすでに俺とタマちゃんの間で長い時間話し合って、キチンとした共通認識を築くことに成功してるんです」

「まーなー! マリエのやつ、ケンきゅん助けてくれたらしいしなー!」


 胸を張るケントに、タマキもニカッと笑ってうなずく。

 ほぉ、ちゃんと筋は通してるってコトですか。ちゃんとやってるなら素晴らしい。

 しかし、助けたっていうのは郷塚のときの件か、それともキャンプのことか。


「それにしても、仕返しの内容ね。キリオはそういうの苦手そうではあったが――」


 だったら、逆にそういうのを考えるのが得意なヤツがいるかな、と考えてみる。

 俺は、まぁ、こういう人間なんで割と得意。

 ミフユも俺ほどじゃないけど、そういうのは考えられるヤツだ。


 タマキとケントはあんまりって印象だ。実際は知らんけど。

 シンラ、お袋……、あ、お袋は絶対得意だ。そういうのも傭兵の仕事のうちだし。


 マリクは、その場、そのときの気分で何もかも変わるのでわかんね。

 ヒメノは一番なさそうかなー。実は案外……、何てこともあるかもだが。


 スダレは案外根に持つタイプではある。

 だけど仕返しの方法を考えるとかは、得意そうなイメージはないな。


 タクマ、シイナ――、二人はマリエ並にそういうのからかけ離れたイメージだな。

 ラララとタイジュは剣でズバズバだろうから、考える前に手が動きそうな。


「……やっぱ《《あいつ》》だよなー」

「何がよ?」


 考えているうちに声が漏れてしまった。ミフユが反応する。


「ウチで仕返しとかの内容を考えるの得意そうなヤツ」

「あー……」


 さすがはミフユ、俺が言ったそれだけで、誰のことかわかったようだ。


「そうね、仕返しっていうか、そういうイベントごとを考えるのは――」


 ミフユが言いかけたそのとき、おもむろに部屋のドアが開いた。

 俺含め、全員がキリオが帰ってきたのかと思って、ドアの方へと注目する。

 だが、キリオの姿はそこにはなく……、


「ん?」


 ドアは開け放たれたまま、数秒しても何も起きないので、皆が不思議に思った。

 そのとき、ドアから部屋の中に何かが放り込まれる。

 これは――、金属符!?


「な――!」


 驚く間もなく、場が『異階化』し、風景が一変する。


「ななな、何ですぅ~!?」


 バカ驚きするシイナが、空を見上げる。

 そこに閃く稲光。屋内にいたはずの俺達は、分厚い暗雲立ちこめるどこかにいた。


 カッ、とまた稲妻が瞬いて、雷鳴が轟き渡る。

 周りには、ねじくれた枯れ木が連なる死んだ森の中。そこに、俺達はいた。


「こいつは……ッ」


 タマキを始めとして、ケントやラララが一気に警戒度を増す。

 何が起きたのかを認識する前に、まずは敵の有無を確認しなければならない。

 俺も、そう思ったところで、やっと俺達は『ソレ』に気づいた。


「何だよ、こりゃあ……!?」


 タクマが声を荒げる。

 今の今まで、そんなモノは見えていなかった。

 確かに見えていなかったはずなのに『ソレ』はいきなり俺達の前に出現した。


 ――真っ黒い、城だった。


 高い城壁に囲まれた、何本もの尖塔がある、入り組んだ構造の禍々しい外見の城。

 俺達は、高くそびえる城門の前にいるようだった。


「こんな目の前にあって、気づかなかっただって……?」


 お袋が、俺と同じ疑問を覚える。

 雷鳴を背に、不気味に照らし出される黒い城。一体、何が起きているというのか。


『ファ、ファ、ファ――』


 戸惑う俺達の耳に、突如として笑い声が届く。

 聞こえた方向は、上。俺も皆も、笑いの発生点へと顔を見上げさせる。


『どうやらお揃いのようじゃのう、バーンズ家の諸君!』


 そこにいたのはいかにも悪い魔導士ですって感じの黒ローブを纏った何者か。

 背の高さも体格も、フワフワと浮いてるローブのおかげでわからない。


 顔は、見えているのは口元だけ。あとはフードで隠れて見えない。

 聞こえる声も、男か女かもわからない。明らかに魔法で声を変えている。


「おまえ、誰だよ!」

『ファ、ファ、ファ、ワシのことは謎の黒幕Xとでも呼ぶがよいわ!』


 謎の……、黒幕Xだと!?

 まさか、そんな……! そんなことが……ッ!


『フ、声も出んようじゃのう。このぱ~ふぇくつなネーミングに……!』

「いや、コテコテのベタベタすぎて反応に困った」

『フフフッ、声も! 出んようじゃのうッ!』


 だが俺の率直な感想は、謎の黒幕Xの高らかな声に書きこされてしまう。

 おのれ、無駄にポジティブだな、こいつ……!


『ファ、ファ、ファ! おぬしらをこの地に招いた理由は他でもない! これよりお主らには、この『超絶デッドエンドダンジョン・大魔王城』に挑戦してもらう!』


 お、何か始まったぞー。


『この『大魔王城』の内部は、一度入ったら出た者は一人もいない、生還者などいるはずもない高難易度ダンジョンとなっておる。ダンジョン内に待ち受ける屈強なモンスター達に加え、どこに仕掛けられているか、いつ発動するかもわからず、一度発動すれば死は免れ得ない無数のデストラップ。さらには入り組んだその複雑にして難解な構造はまさに死の迷宮と呼ぶに相応しい! 難易度ルナティックハード!』


 大きく身振り手振りを交え、謎の黒幕Xが大魔王城とやらについて熱弁を振るう。

 だが、それを聞かされている俺達の思いは一つだ。

 何これ、全然ついていけないんですけど?


 何だこれ。

 一体何がどうなって俺達はダンジョンアタックなんぞやらなきゃならんのだ。


「あの~……」


 俺がポカ~ンとなっていると、小さく挙手をするシイナ。

 あと、そばにラララとタイジュとエンジュもいる。……おや、この組み合わせは。


『おっと、何やら質問かのう?』


 謎の黒幕Xが、シイナの方を向いて反応を寄越す。


『じゃが心せよ! 当イベントではお客様に内容を100%楽しんでいただくため、事前のネタバレ質問などについてはお答えできかねます! 残念じゃったのう!』


 おい、イベントとか言っちゃったぞ、こいつ。


「え~と、別にネタバレとかはしないでいいんですけどー……」

『ファ、ファ、ファ。ならばよいわ。何じゃ、言うてみぃ』


 笑う黒幕Xへ、シイナが尋ねる。


「……何してるんですか、カリンちゃん」

『…………』


 シイナが呼んだその名に、謎の黒幕Xの動きが止まる。


「えぇ、カ、カリン~!?」


 固まる俺に、ミフユも驚きの声をあげる。

 だが、シイナに加えてラララ達までも――、


「カリンちゃんだよね?」

「ああ、うん。この『匂い』はカリンだな」

「何やってるんですか、カリン叔母さん……?」


 ラララにタイジュ、エンジュまでもが、謎の黒幕Xをカリン呼ばわりする。

 この三人も『敏感肌』やら『超嗅覚』やらで、やたら勘がいいからな。


 ちなみにエンジュは『敏感肌』と『超嗅覚』を両方持っている。

 ただし、その精度はラララとタイジュより若干落ちる。

 ま、ラララとタイジュは二十年に渡る殺し合いで磨かれていったものだからな。


『…………』


 そして、謎の黒幕Xはそこからさらにしばし固まったのち、フードを外す。

 現れたのは、ぱっつんおかっぱ髪の少女、見た目、小学生高学年くらいだろうか。


 白い肌に赤い唇。外見は冷たい美人という感じ。

 しかし、細い眉の下にある瞳は、非常に気が強そうなつり目をしている。

 キツい印象はなくもないが、大半は可愛げが優っている。


 纏っていた黒ローブが消えて、代わりにその身に纏うのは黒い和服。

 扇子を握る右手が、怒りからかワナワナ震えている。


「うわぁ、本当にカリンじゃん……」


 俺も思わず声を上げてしまった。

 カリン。カリン・バーンズ。ラララの一つ下に当たる、ウチの六女だ。

 あ、ってことは、この大魔王城、もしかして……。


「最悪じゃあァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!」


 ピシャッ! ゴロゴロゴロ!

 と、派手に轟く雷光を背に、カリンが腹の底からの怒声を響かせた。


「ど~してそこでワシの名前を口に出すんじゃ、姉御らは! そこは! わかってても、空気を読んで口を閉ざしておくところじゃろ! 第一話から重要ネタバレが載ってる漫画なんて、誰が楽しむんじゃぁ~! ネタバレOKな輩か、おんしらァ!」

「あれぇ、どうして私達、叱られてるんですかぁ!?」

「黙れい、シイナの姉御! つくづく、おんしはワシの天敵よのう! 腹立つわ!」


 ああ、これ。この、異世界でも慣れ親しんだこのやり取り。

 カリンはイベンターだ。正確には吟遊詩人をしている。

 異世界では『作者にして企画者』とも呼ばれた、異世界娯楽の第一人者だ。


「カリン、この大魔王城、ハリボテだな! おまえの異面体だろ!」

「ほらぁ~、見ろ、シイナの姉御! ととさまにもバレてしもうたではないかぁ!」

「それも私のせいなんですかッ!?」


 またしても轟く雷鳴に、シイナが驚愕の声を上げる。

 その雷鳴も、この枯れ木の森も、そびえ立つ大魔王城も、全部が全部演出だ。


 カリン・バーンズの異面体『婆娑羅堂(バサラドウ)』。

 その能力は『全景演出』。

 今のこの場のように、カリンが考えた舞台背景と演出を任意に構築できる。


「フン、まぁよいわ! どうせおんしらはこれから大魔王城で朽ち果てていく身! そしてそこに秘められた大いなる謎とその損実を知って驚愕して――、驚愕……、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! ぢぐじょおおおおおおおおおおおおおお! ワシの正体が明かされるのは第二部後半の予定じゃったのに、ぢぐじょおおおおおおおおおおお!」

「めっちゃ悔しがっとる……」


 そりゃおまえ、不用意にシイナとかの前に出るからだよ……。

 異世界で同じようなミスを何度重ねてたよ、おまえは。少しは懲りろよ。


「つか、この大魔王城、ハリボテだろ? おまえが言ってた超絶デッドエンドダンジョンはどこにあんの? ただの演出とかだったら笑いますよ、さすがに」

「うむ、それはこれから建てるのじゃよ、ととさま」

「これからかよ!?」


 あんだけ自信満々に語っておいて、実物は影も形もないんかい!


「カリンちゃん、どうして私達がそんな物騒なダンジョンに挑戦しなくちゃいけないんですか? さすがに色々起きすぎて、そろそろキャパオーバーなんですが?」

「ファ、ファ、ファ、ファ! それはなシイナの姉御、無論、仕返しのためよォ!」


 白地に筆文字で『超合金!』と書かれた扇子を開いて、カリンが得意げに叫ぶ。


「改めて自己紹介をしてやろうぞ!」


 そしてカリンは、今の自らの立場を名乗った。


「ワシこそは大魔王キリオ様直属・バーンズ家仕返しイベント企画部・本部長、カリン・バーンズよ! バーンズ家の大半共よ! おんしらに終わりを告げに来たぞ!」


 ピシャッッ、ゴロゴロゴロゴロォ~~~~!

 特大の雷光を背景に、カリンは高らかに笑い声を響かせるのだった。


「わ~、やっぱりロクでもないことになりました……」


 対照的に乾ききったシイナの声が印象的だった。

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