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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十三章・後日談 愉快! 痛快! 仕返し会!

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第347話 くたばれ、サイディ・ブラウン!:後

 ――タイジュ視点にて記す。


 自分は、何もできなかった。

 あの『キリオ』が仕掛けた異能態の一件で、何もできなかった。


 エンジュは、ラララを貶めるためにわざわざ発見され、サイディの手で殺された。

 ただ普通に生きていたのに『出戻り』させられたのだ。


 ラララは、サイディに娘と己の立場を奪われて、家族からは落伍者扱いされた。

 それでも決死の思いで、キリオと共に辛苦にまみれた三日間を走り抜けた。


 では、自分は一体、何をしていた。

 その間、自分は何をしていた。

 異能態の支配から逃れるために、夢の世界に心を置いて眠っていただけだ。


 全てをラララに委ねて、情けなくも逃げていただけ。

 エンジュが操られている間、ラララが苦しんでいる間、自分は何もできなかった。


 そばにいてやることすらできなかった。

 声をかけることも、励ますことも、慰めることも、力づけてやることも、何も。


 ラララは、きっと気にしないだろう。笑って許してくれる。

 しかし、その笑みを見ることで、自分はきっと自分を許せなくなってしまう。


 ああ、わかり切っているよ、そんなこと。

 だって、妻が、娘が、家族が大変なときに、そばにいてやれなかったんだから。


 胸の中に、嵐が吹き荒れている。

 心を直撃した台風が、さらに勢力を増して荒れ狂っている。


 刃を振らずにはいられない。

 自分は死ぬ度胸もないような『剣士』のまがいものだが、それでも!


「……だからこれは俺からの八つ当たりだよ、サイディ・ブラウン」


 サウディ・ブラウン。

 いいや、ザイド・レフィード。


 自分の養父にして師匠。

 戦災孤児だった自分を拾って魔剣術を叩き込んでくれた恩人。


 そして同時にラララの立場を乗っ取って、エンジュの母親になろうとした女。

 理由は、ラララに対する嫌がらせだったそうだ。


 そうかそうか、なるほどなるほど。

 すでに彼女はラララに二回ほど肉片にされ、エンジュにも拷問の末に殺された。

 それだけを見れば、落とし前はつけられたように思える。


 だが残念ながら、蘇生できる命の価値は、とても安い。

 一度や二度の落とし前で、一体何が決着するというのだろうか。生き返れるのに。


「だったら、俺があんたに終わりをくれてやる」


 表情筋を一切動かすことなく、タイジュは告げる。

 右手に『羽々斬(ハバキリ)』、左手に『士烙草(シラクサ)』を握って。


「この先の数分が、あんたが過ごす人生最後の時間だ、サイディ」


 ラララと同じく『比翼剣聖(クラウ・ソラス)』となって、タイジュが刃を振るう。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 バーンズ家が見ている前で、サイディ・ブラウンの悲鳴がこだまする。


「ギャヒィィィィィィ――――ッ!」


 それは、サイディの右腕が斬り飛ばされた際の悲鳴だ。

 タイジュに斬りかかった彼女が、ハバキリで防がれ、シラクサで斬られた。

 のたうち回るサイディに、タイジュは動きを止めて上から告げる。


「待っててやるから回復しろ」

「ゥ、ァァ、アアア、ヒ、全快全癒ヒール・パーフェクション……!」


 サイディの傷が回復する。

 それを見届けてタイジュが再び動き出す。


「あんたが、エンジュのママなんだって?」

「ギヒャアアアアァァァ――――ッ!」


 今度は、サイディの右足を太ももから斬り飛ばした。

 そしてまた動きを止め、泣き喚いているサイディへと、彼は同じことを言う。


「回復しろよ」

「ゥゥゥ、ァァ……、ヒ、ヒ、全快全癒……ッ」


 サイディの傷が回復して、彼女は何とか立ち上がろうとする。


「異世界では俺と結ばれてエンジュを産んで、幸せだったんだって?」

「アァギャアアァァァァァァァァア――――ッ!?」


 そう問いかけて、今度は左腕と左足を同時に斬って、蹴り転がす。

 それからまた、タイジュは動きを止める。


「待っててやるから、回復しろよ」

「ゥゥ、ヒ、ヒィィ……、モ、モォ、頼ム、タイジュ、ワ、ワタシヲ……」


 回復魔法を使わずに、サイディは片腕で地面を這って泣きながらタイジュに縋る。


「タ、助けてクレ、ワタシガ、悪かッタ……、タイジュ、タ、タノ……」


 涙を流して懇願し、タイジュを見上げるサイディが見たものは――、


「断る」


 タイジュの靴底だった。

 彼は上げた右足で、思い切りサイディの後頭部を踏みつけた。


「ギャ、ブェッ!?」

「あんたが悪いのなんて最初からだ。今、それを認めて、何か意味があるのか?」

「ゲギャッ! ガベッ!? グブォ、アッ!」


 平坦な声で言いながら、タイジュは幾度も幾度も、サイディの頭を踏みつける。

 踏まれた彼女は、衝撃にまず鼻骨が砕け、次に前歯が全て折れた。


 口を開けたままの状態で踏みつけられたため、顎骨に粉砕されてしまう。

 ワイルドながらも美しかった顔はひしゃげ、潰れて、見る影もない。


「ァ、ァ、ゥゥ、ヒ、全快全癒……」


 耐えきれず、サイディは全回復魔法で傷を癒す。


「治したな」

「ヒギャアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ――――ッ!」


 だが、治したそばからタイジュがサイディの四肢を切り刻み、悲鳴が響く。

 さらにまた、彼は靴底で彼女の後頭部を容赦なく踏みつけていく。


「ギァッ! グヒィ! ヒギャア! モ、モウ、勘弁……」

「命乞いする気力があるなら回復したらどうだ。俺はあんたを簡単には殺さないぞ」

「ゥ、ァァ、アア、アアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ――――ッ!」


 再び心が折れたか、サイディが血まみれの顔で盛大に泣きわめく。

 だがそれを、タイジュは一顧だにしない。


「うるさい」

「ギビュェエェ……ッ!」


 その一声のみで、彼はサイディの後頭部をダンと踏みつける。

 彼女の泣き声が潰されたカエルが漏らすような、奇妙な音に変わってしまう。


「ゥヒッ、ヒィ、ヒィ! ヒ、ヒ、全快全癒……ッ!」

「治したか」

「アァァァァァァァ、ギャアアアアアアアアアァァァァァァァァァ――――ッ!」


 治せば斬られる。

 治さねば潰される。


 タイジュは、徹底してサイディをいたぶり続けた。

 そしてその苛烈さは、どれだけの時間が過ぎても一向に緩むことはなかった。


「ヒィィィアアアァァァァァァア~、ィヒィィィィィィィィアァァァァァ~……」


 股間を前も後ろもみっともなく濡らして、サイディが泣いている。

 その顔は、治しても治しても潰されて、今もダラダラと血を流し続けている。


「どうしたんだ、サイディ・ブラウン。あんたの魔力はまだまだ尽きないだろ? その程度の傷はすぐに回復できるはずだ。回復をしろ。すぐに治せよ。さぁ、さぁ?」

「ヒ、ヒ、ヒィィ……、ヒ、全快全癒……」

「魔剣式――、天道・瞬飛士烙草(シュンヒシラクサ)


 復元された四肢も、次の瞬間にはミリ単位で細切れにされて、消えてなくなる。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「また手足が全てなくなったぞ、サイディ。さぁ、治せよ。早く治せ。早く」


 タイジュの責め方は執拗で、徹底的で、だが絶妙に加減されてるのでタチが悪い。

 サイディが傷を治せば、またすぐに手足を斬り飛ばす。

 彼女の心が折れても、直接痛めつけて回復へと追い込んでいく。


 延々と、その繰り返し。

 それを見ているアキラ達はすでに終わりを確信している。


 サイディの魔力が尽きたときが決着だ。

 しかし、そこでタイジュはパターン化していたサイクルから外れた行動をとる。


「ヒィ、ヒィ……、全快全癒……」


 息も絶え絶えな状態で、サイディが何十回目かになる全回復魔法を使う。

 体はまた回復するのだが、タイジュは刃を振るわずにそれを見下ろしている。


「ウ、ァ、アアアアァ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 それに気づいたサイディが、怯えた悲鳴を響かせて、その場から逃げ出す。

 皆が、タイジュの行動を不思議に思った。

 あのサイクルを繰り返してサイディの心を壊し尽くすのではなかったのか……?


「ゥ、ゥウ、ゥ……!」


 タイジュを前に、サイディは卑屈に身を丸めて、彼の顔色を窺っている。

 だが、その手にはまだ『牙煉屠(ガレント)』が握られている。


「サイディ」


 二刀を握るタイジュが、今までと変わらない平たい声でサイディに宣言する。


「俺を殺さない限り、あんたはまたさっきと同じ目に遭う。……どうする?」

「ウ、ゥゥ、ウゥゥゥ、ゥゥゥゥゥゥ……ッ」


 痩せ衰えた野良犬のように唸りながら、サイディはタイジュに牙を剥く。


「来いよ、サイディ・ブラウン」

「ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 やらねばやられる。

 その単純な道理に背中を押され、サイディがタイジュへと斬りかかる。


 だが、その突撃の何と無様なことか。

 魔剣術を使うでもなく、剣技を用いるでもなく、剣を棒のように振り回すだけ。

 自分にとって親であり師であった彼女のその姿を見て、


「……ああ」


 タイジュが、一つうなずく。

 そして彼は落ち着いた動きで右手のハバキリを一閃。

 サイディの手から、ガレントが弾かれてしまう。


「ゥ、ウ……ッ!」


 サイディは唸って、剣がなくなった手とタイジュを交互に見る。

 一方で、タイジュはそれまで無表情だった顔に、かすかながら色をにじませる。


「ありがとう、サイディ・ブラウン」


 彼は、いきなり礼を言った。


「これまで、俺の中にはあんたへの感謝や情、尊敬の念もかけらほどだが残ってた。でも、今のでそれがようやく全てなくなった。やっと、あんたへの愛想が尽きたよ」


 その呟きが終わった直後、タイジュの足元から力が噴き上がり、渦を巻く。


『む、タイジュ、貴様……!?』

「ガルさん、ちょっとお願いがあります」


『何だ?』

「これから起きることで、俺は脳が破壊されるかもしれません。助けてください」

『それは――』


 唐突すぎるタイジュからの頼みに、さすがにガルさんは事情を聞こうとする。

 だが、渦を巻く力は強まるばかりで、すぐにでも形を持ちそうだ。


『あとで説明はしろよ?』

「必ず」

『ならばいい。任せろ! 使い手一人守れずして、何が神喰いの刃か!』


 頼りになるな、と思いながら、タイジュは高まる力に身を任す。

 そして、彼の頭の中に、徐々に記憶が蘇ってくる。


 それはかつて、ラララを救うために繰り返した十万三十七回のやり直しの記憶。

 タイジュは今ここに、己の『真念』を再び手にしようとしている。


 ラララを救うという目的を果たした彼が、今日までそれに至れなかった理由。

 それは、サイディ・ブラウンにあった。


 彼の中に今日まで燻り続けていたサイディへのわずかばかりの情。

 それに決着をつけ、彼女の存在を過去にした瞬間、全ての条件はクリアされた。


 同時に、人の身で受けるには莫大すぎる情報量が脳に押し寄せる。

 何もしなければ、タイジュの脳みそは焼き切れて、彼は今度こそ廃人と化す。


 だが今は、ガルさんがいる。

 ガルさんという、頼りになる親戚のおじさんがいてくれるのだ。


『ほほぉ、そういうワケか! うむ、俺様が助けてやるぞ、タイジュ!』

「お願いします」


 渦巻く力が臨界点に達し、タイジュに巨大な記憶の津波が押し寄せる。


『俺様の方で受け持ってやろう。この程度の情報量、どうということはない!』


 実に一千万年分に及ぶタイジュの記憶を、ガルさんが代わりに受け止める。

 ガルさんは『魔剣にして魔導書』。

 その記憶容量は、これだけの量の情報を叩き込まれてもまだまだ余裕が残る。


 そして、タイジュが己の刃を透明に変える。

 それこそは時間の逆行さえも可能とする『あらゆる事象を断つ刃』。


異能態(カリュブディス)――、『夢葬羽々斬(ムソウ・ハバキリ)』」


 光を通す透明な刃。

 それが、タイジュの異能態の形。


「何て綺麗な刃……」

「本当だね、お父さん。すごい……」


 これにはラララもエンジュも、息を飲まざるを得ない。


「ウ、ァァァ、アアアアアアアアアア……ッ!?」


 だがサイディ・ブラウンは、またしても泣きながら激しくかぶりを振っている。

 感じているに違いない。

 その透き通った一刀が自分にとってのギロチンの刃であることを。


「ウ、ヒィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ――――ッ!」


 ついに、恐怖に心押し潰されて、サイディは逃げ出した。

 自分に向けられたその背中に、タイジュはかつての死を思い出す。


『いいか、タイジュ。自分に背を向けたヤツがいたら、そいつは自ら獲物ですと宣伝しているバカだ。必ず斬り殺せ。斬って、己の恥をそいつ自身に教えてやれ』

「ああ、わかってますよ、お師さん」


 脳裏によみがえった先代『剣聖』の声にうなずき、タイジュは全力で地面を蹴る。

 そして一挙動にてサイディに追いつき、透けた刃を振り上げて、


「――自業自得だよ、あんた」


 その言葉と共に、全力で振り下ろす。

 刃は、サイディの左わき脇腹の後ろにかけて、背中を斜めに斬り裂いた。


「ァ、ア、ァァァァ、ア……!」


 斬られた勢いで前につんのめって転んだサイディの身が、ブルブルと震え出す。


「タ、イ、ジュ……!?」


 震えながら彼女は振り返り、見開いた目にタイジュが映り込む。


「ナ、ナニ、ガ……」

「あんたの『天寿』を切り裂いた。今この場で老いて死ね、サイディ・ブラウン」

「グゥ、ゥゥ! ア、ァ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 アキラ達は見た。

 サイディ・ブラウンの体が、急激な勢いで年をとっていく。老いていく。


「ウガァ、ァァア、ァァ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!?」


 見事な灰色だった髪が白に変わり、抜け落ちていく。

 引き締まっていた体がたるんで、萎えて、衰えて骨と皮だけになっていく。

 続いていた絶叫も力がなくなって、声が弱まり、ただの呻き声と化す。


「……ァァ、ア……、ァ、ァ、ァァ、ァ」


 開いた口からは歯がボロボロと抜け落ちて、瞳も濁っていく。

 そこにいるのは、野性味溢れる巨躯の美女ではなく、ただの衰え切った老婆。


「……ァァ――」


 あらゆる力を失って、老婆となったサイディが低く泣く。

 そこに――、


「やっぱり気が変わった。あんたは八つ裂きの……」


 タイジュが言うと共に二刀を閃かせ、サイディの朽ちかけた身を八つ裂きにする。


「八つ裂きの……」


 さらに刃は止まらず、八つに分かたれたサイディの身を六十四に斬絶し、


「八つ裂きにした上で」


 ダメ押しとばかりに五百十二の肉片にまで分割して、


「肉片となって残ることすら許さない。――魔装剣、咆光剣撃(ロアブラスト)


 最後にはタイジュが放った純白の閃光に呑まれ、細胞の一片まで焼き払われた。


「あんた、こんなに弱かったんだな、ザイド」


 跡形もなく消滅したサイディに軽く告げて、タイジュは早々に興味を失った。

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