表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十三章・後日談 愉快! 痛快! 仕返し会!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

382/621

第345話 地獄から、帰ってきたぜェ!

 朝も夜もない。

 天も地もない。

 上も下もない。

 右も左もない。

 前も後もない。


 あるのは生と死だけ。

 生きている俺達が、死に続けるという事実だけが、その世界のルール。


 昨日は刺し殺されて、食い殺されて、殴り殺されて、飢え死にさせられた。

 一昨日は叩き殺されて、引き殺されて、圧し殺されて、凍え死にさせられた。


 それより前はどうだったか。

 このところ、記憶も曖昧になってきている。


 いつ頃からだろうか。

 俺の記憶が少しずつ鮮明さを失い始めたのは、いつ頃の話だったか。


 ほんの数日前な気がする。

 もうちょっと前だったような気がする。


 数週間前な気がする。

 数か月以上前であるようにも思える。


 一年?

 三年?


 五年?

 十年?


 どうだっただろうか。

 どうだったかも、もう今となっては覚えていない。


 殺されて、殺されて――。

 殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて――。

 殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて――。


 殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて、殺されて――。


 もう、俺の体におかしくなっていない部分などない。

 目は見えない。耳は聞こえない。匂いは嗅げない。味もわからない。

 今の俺にわかるのは、自分が死ぬときの痛みと、どう殺されるかという情報。


 あとは、俺の感覚器官の中で残っているのは、触覚だけ。

 それもだいぶ擦り切れてはいるが、まだかろうじて俺の指先は感触を感じられる。


 ――だから、今も感じてる。俺の右手は、今も《《あいつ》》の手を握っている。


 今となってはそれだけが、俺という人間が存在しているしるべ。

 この手に感じるかすかな感触だけが、周りの『無』と俺とを区別する境界線。


 この感触まで失われたら、俺はもう俺でなくなる。

 ただ、この無間地獄で無限に死に続ける『誰か』でしかなくなってしまうだろう。


 自分が何者かも忘れ、だが殺される苦しみだけは無間に続く。

 逃げることも、壊れることも、何も叶わずに、ただただ殺され続ける『誰か』に。


 だが俺は忘れない。

 まだ俺は忘れていない。


 俺にはあいつがいる。家族がいる。待っているヤツらがいる。

 ここで幾度死に続けても、俺はそれを忘れない。忘れてなるものか。絶対に。


 なぁ、そうだろ、ミフユ?

 そう言う代わりに、俺は強く右手を握り締める。

 すると、しっかりとあっちも俺の手を握り返してくる。


 ああ、大丈夫だ。これなら大丈夫だ。

 そう安心して、俺は今日も殺され続ける。一日の区切りなんてわからないけど。


 刺される痛みは嫌いだ。

 溺れる苦しみも嫌いだ。


 潰される圧迫感なんて好きなワケがない。

 生きながら解体されるときは怖くて泣き叫ぶ。だがやめてもらえない。


 辛い。

 苦しい。


 キツい。

 やめてほしい。


 常にそう思いながら死に続けて、今日も――、あれ、何だ、この光?



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 最初の感じたのは、ひんやり。

 しかもそれはやたら鮮明で、俺は『うぉ、寒ッ』と思ってしまった。


「――の、……え、どの」


 声が聞こえる。久しぶりに聞く声な気がする。

 いや待て、聞こえる? 声が? 耳なんてとっくにイカれてんのに?


「……ぁ?」

「あッ! 見るであります、マリエ! 父上殿に反応ありでありますよ!」

「あなた様、こっちもですよ! ミフユさんが、身じろぎを!」


 いきなり耳に飛び込んできた声は、やたらうるさく響いた。

 俺はビックリして、その場で跳ね起きて抗議する。


「ッだァ! うっせぇな! 何、何事ですかねッ!?」

「父上殿ォォォォォ~~~~!」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~ッ!?」


 いきなり、身を起こした俺に勢いよく飛びついてくる。――って、キリオかッ!

 キリオ。キリオ・バーンズ。

 俺の息子で、四男で、そして、確か――、


「おまえ、キリオ……」

「父上殿!」


 キリオが、俺の顔を間近に見つめている。その顔には、清々しい笑み。

 周りを見れば、そこは宙船坂家の地下にある『観神之宮』。

 こいつがこんな顔をしていて、俺がこの場にいるってことは、もしかして……!


「おまえ、やったのか?」

「はい、父上殿。それがしは見事、託された使命を果たして参りました!」

「おぉ……」


 堂々と胸を張ってそれを俺に報告してくるキリオに、俺は驚嘆の声を漏らす。

 そうか、そうか。……そうかぁ!


「やったか、キリオ! やったんだな! おまえ、やったんだな!」

「やりました、それがしはやりきりました! これも父上殿の薫陶のおかげ!」

「……ん? 薫陶?」


 俺、何かやったっけ?

 カディルグナの無間地獄にミフユと堕ちたあと、ずっと殺され続けてたはずだが?


「いえ、その、昨日こちらに伺った折、それがし、マガツラと会話を……」

「マガツラと? え、何それ、怖い!」

「父上殿? そのリアクションは逆にそれがしが怖いでありますが?」


 いやいや、だって待ってくださいよ、キリオさん。

 こっちにゃロクに記憶が残っちゃいねぇんですけど。え、何それ、マガツラが?


「父上殿はそれがしに合わせる顔がないからと……」

「うわ~、覚えてねぇ~。ちょっと、カディルグナさん? ちょっと~?」

『確かにマガツラとNULLだけで動いてたのよ』


 はい、カディルグナさんからも証言いただきました~。

 ってことはマジかい! え、マガツラが自律行動!? 何ですかソレェ!


「マ、マジで覚えてねぇんでありますか……?」

「う~ん? いや、う~ん……?」


 キリオが不思議がっているが、本当に記憶がない。でも、言われてみれば……?

 って、そうだ、記憶といえばミフユは大丈夫か?


「おい、ミフユ?」

「大丈夫よ。心配はいらないわ」


 ふとそちらを見ると、ミフユはマリエに支えられて立ち上がるところだった。

 俺は、見た目、特に変化はないミフユに向かって、何となく手を伸ばす。


「ん」


 ミフユが、何も聞き返さずに握り返してくる。

 握り慣れた、柔らかいミフユの手の感触を、俺は久々に十全に感じる。

 それはあっちも同じか、ミフユが俺の手をやけににぎにぎしてくる。


「この感触のおかげで、わたし、何とか耐え凌げたわ」

「それは俺もだよ。ホント、笑うわ」

「どこがよ。奇跡の生還すぎて、笑えないわねぇ」


 俺とミフユはそう言って、結局二人して笑い合う。

 それを、キリオとマリエがニヤニヤと笑って眺めている。何ですかね、貴様ら?


「え~、で、現状はどうなってんだ? つか、サティはどうしたよ?」


 俺とミフユがカディルグナの地獄に落ちる前は、キリオはサティと一緒だった。

 だが今は、共にいるのはマリエだ。どっかで待ってんのか?


「サティは――」


 首をかしげる俺に、キリオはこれまでにあったことをザックリ話してくれた。

 皆がいるといういつものホテルへ向かうさなか、俺達はそれを聞く。


「はぇ~……」


 そして、大体聞き終えた俺の新鮮なリアクションがこちらです。


「ちょっと待って、情報量多すぎて認識が追いつかないわ……」

「魔王『キリオ』の正体はテンラで、それを魔王『キリオ』に変えた元凶はサティの暴走した愛情で、キリオとマリエは愛の奇跡でそれを打ち破ってビターエンド!」


 ミフユがちょっと悩んでいたので、俺なりに噛み砕いた説明をしてみる。


「ものすごい端的にまとめたわね、あんた」

「しかも大体合ってるところが当事者として何とも言えないであります……」

「伝わりゃいいんだよ!」


 わかりやすさは正義という、百か国以上で親しまれている言葉を知らんと見える。


「――で、サティとは一度別れて、五年置くことにした、ってのか?」

「その通りであります」


「まぁ、おまえの心情を考えりゃ、今すぐサティを許すってのは無理だわな」

「正直申し上げて、五年で心の整理がつくかも怪しいであります。それがしは……」

「あなた様――」


 やや苦しげに声を低くするキリオに、マリエがそっと寄り添う。

 聞けば、異世界でサティが死んだときも、十年以上引きずってたらしいしな。


「けど、五年って期間はおまえが設定したんだろ? だったらそのときまでに何らかの形で答えを出しておくのが、おまえがやるべきことだろ、キリオ」

「わかっているであります。ただ……」

「ただ? 何よ?」


「まずは五年後を見据えて、今後の計画を詰めるところから始めようかと考えているであります。それがしは五年後には大学四年生。就活も終わり、就職も内定しているはずの時期でありますゆえ、今のうちからどこの大学に進み、どの道に進むかを明確にしておくべきと考えているであります。高校卒業後はマリエと同棲を始めるつもりではありますが、サティとのこともあるので入籍などは五年後まではせず、それまでは貯蓄に励むつもりであります。マリエが警察官なことを考えると、フレキシブルに動ける業種が理想でありますな。……と、すると在宅でできる仕事を探すべきかもしれんでありますな。あとは家事と料理についても学ばねばならんであります」

「今後のビジョン明確すぎるの笑うんですけど?」


 本当に噴き出すかと思ったよ、ぼかぁ。


「警察官の彼氏やるなら、そのくらいはしっかりしてた方がいいのは確かよね」

「そうですね、やはりどうしても多忙な業種なので……」


 言うミフユに、マリエも恐縮している。いや、刑事さん立派だと思うよ、俺ァ。

 自分からは絶対にお近づきにはならんけどねッ!


「いやぁ~、五年後にキリオ君はどんな結論を出すんでしょうね! 片方を選ぶのか、二人とも選ぶのか! だが残念、日本は一夫一妻制だ!」

「野次馬やめろであります。そもそも異世界でも重婚が認められてた国はそんな多くなかったでありますよ。……ま、五年間、考えるであります」

「おう、そうしろそうしろ」


 悩め悩め、時間をかけて散々悩め。

 そうして出した答えなら、それがどんなものでも納得はできるだろ。


「ところで、父上殿、これを――」

「ん? こいつは……?」


 ホテル前で、何かを思い出した様子のキリオが俺にそれを差し出してくる。

 金属符によく似た、金色の長方形のプレート。……これは、もしや?


「もしかして、これが『金色符』か?」

「そうであります。テンラ殿下から回収しておいたであります」


「俺に渡していいのか?」

「正直、それがしには使い道が思い当たらんでありますよ」

「色々と使えそうだけどねぇ~?」


 ま、いいかと思いつつ、俺は受け取ったそれを自分の収納空間に放り込む。


「あ、それとアキラさん、ミフユさん。お二人が地獄にいらしたことは、他の皆さんには言っていませんので、話を合わせていただけますでしょうか」


 最上階に繋がるエレベーターを待っていたところで、マリエがそれを言ってくる。


「どうしてかしら?」

「お二人が地獄にいたとか知ったら美沙子殿とリリスばば殿のメンタルがヤッベェことになると思うでありますが、それは気にしないでよかったでありますか?」

「キリオ君、ファインプレイ!」


 そーだー! お袋とリリス義母さん、絶対ヤバいわー!

 いや、お袋はまだしも、リリス義母さんはあかん。何が起きるかわかんねーわ!


「ナイスよキリオ。リリスママはまだしも、お義母様はまずいわ。何が起きるかわからないわ。隠し通すに越したことはないわね。……って、何よ、アキラ。その顔」

「いや、考えることは一緒だなーって……。笑うわ~」

「何なのよ。笑えないわねぇ……」


 さてさて、エレベーターの中ですよ。何か、みんなと会うのも久々な気がする。


「テンラとサイディは?」

「テンラ殿下――、ああ、いや、テンラは魔法で眠らせてるであります。サイディは、エンジュが一度殺して、収納空間に死体を入れているはずであります」


 そっかー。つまりいつでも仕返しできる状態ってことですねー。


「じゃあ、二人の仕返しからだな」

「……から、とは?」

「何を不思議がってるんだい、キリオ君。その二人にみんなで仕返ししたあとは、君がみんなに仕返しするターンなんだぜ。自分でもわかってンだろ?」


 こともなげに告げる俺に、キリオは納得し、マリエは仰天する。


「え、あ、あの、仕返しって……?」

「だってあるだろ、俺達に。恨み」

「そりゃあもう、ギンギンに燃え盛っているであります!」


 目を白黒させているマリエとは対照的に、キリオはグッと握った拳を突き上げる。


「ケジメが必要なのよ、納得しときなさい、マリエ」

「う~ん、やっぱりバーンズ家ってそういう感じなんですね、ミフユさん」

「そうよ。何を今さら」


 困ったように笑うマリエに、ミフユはほんの小さく微笑を返す。

 聞き慣れた『リンゴ~ン』という音と共に、俺達はホテル最上階に到着した。

 そんじゃ始めよっか、仕返し会!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そんな多くはなかったようだけど、やっぱり異世界で重婚が認められてる国はあったんだな。 確かに日本では重婚は禁じられてるけど、最終的に重要なのはどれだけ覚悟があるかなんだよね。 結婚といっても…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ