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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十三章 怒りと赦しのジャッジメント・デイ

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第324話 終末前日譚/田中楽々々の帰宅:前

 田中が田中んチに帰ってきた。

 何日ぶりのことだろうか。


「あー……、二日ぶりくらいかな。やけに懐かしく感じるけど」


 そう独り言をこぼしながら、ラララは家の鍵を開ける。


「ただいまー」


 いつものように、彼女は誰もいない家で帰宅の挨拶をする。

 家族はいない。よって、返事などない。

 ここで返事をするのは家族ではない。佐藤だ。


『ああ、おかえり』


 と、いつもならば返してくれる。

 大体何故か毎日、タイジュの方が帰りが早いのだ。何故か。


 しかし、今日に限ってはその返事もない。

 タイジュは夢見の封印水晶の中で眠っていて、所持者はラララ自身である。


 サラの家で借りた服から部屋着に着替えて、ラララは楽な格好になる。

 少しはしたないかもしれないが、彼女は自分の部屋の畳の上に盛大に寝転がった。


「あ~~~~、疲れたよ~~~~!」


 中学生の肉体といえども、動けば疲れるし、疲れれば愚痴りたくもなる。

 キリオ達には見せられない姿ではある。見せていいのは、やはりタイジュだけだ。


 兄に対してわがままを言った、という気持ちはある。

 だが、どうしても一度帰ってきたかった。

 昨日から緊張の連続ではあったが、今日は特にひどかった。心身共に疲れ果てた。


 あのあと、キリオとサティとはホテル前で別れた。

 理由はちゃんと説明した。

 ラララは、明日の『最終決闘(ラストバトル)』前に、気持ちの整理をつけておきたかった。


 キリオはそれを了承してくれた。

 サティはサイディの襲撃を危惧していたようだが、それはきっとない。


 ラララは、サイディ・ブラウンことザイド・レフィードのことをよく知っている。

 彼は約束事を破ることなど屁とも思わない人種だ。

 傭兵ではあったが、アキラがいなければ契約も軽く扱っていただろう。


 そして、ザイドはわかりやすい人間でもあった。

 自らを至上とし、自分以外は下に見ていた。唯一対等と認めたのは、アキラだけ。


 厚顔無恥で傲岸不遜。尊大で自信過剰。唯我独尊で高慢ちき。

 居丈高で、常時ナチュラル上から目線なプライドの塊、エゴが人の形をしたもの。

 それがザイド・レフィードという男。


 要するに、サティが危惧していたようなことは起きない。

 それを、ラララは自信をもって断言できる。

 あんなプライドだけで生きてるような人間が、自分を不意打ちするはずがない。


 ザイド――、サイディはラララのことを絶対的な格下と決めつけている。

 彼女が奇襲を仕掛けるなど、自分で自分のプライドに傷をつける行為でしかない。


 だからこそ、ラララはキリオに一時帰宅を言い出した。

 番外としてエンジュが奇襲を仕掛けてくる可能性も考えたが、それもないだろう。


 ザイドの目的は、ラララにとことん嫌がらせをし尽くして殺すこと。

 一番の嫌がらせは、エンジュが見てる前でラララを斬り伏せて敗北させることだ。

 それを思えば、エンジュが来る可能性も極めて低い。


 よって、明日の夜まではゆっくりできるワケだ。

 それを再確認し、ラララはヒョイッと跳んで立ち上がる。おなかすいた。


「お米炊かなきゃ……」


 時計を見れば、もう午後九時近い。そりゃあ、空腹にもなるってモンである。

 考えてみればサラ・マリオンの部屋で食べて以来、今日は何も食べていなかった。


「ダメだよー、ご飯はちゃんと食べないとー」


 一人で呟きつつ、お米を研いで早炊きセット。

 冷蔵庫を確認すると、魚の干物があったのでそれを焼いて食べることにする。

 野菜も幾つかあるので茹でるかサラダにするか。


「ベリーちゃ~ん」

『はぁ~い、仮マスター、お料理の時間ですか~!』


 収納空間からポンッと出てきたのは、真っ白い聖剣包丁のベリーであった。


「野菜をね、ザクっとね」

『はぁ~い! ベリーちゃんにお任せ~♪』


 今日の午前中、サラの部屋でもベリーを使ったラララだが、正直、ヤバかった。

 よく切れる包丁というものは割とあるが、思うように切れる包丁は初めてだった。


「今後、ベリーちゃんをママちゃんに返したあとが心配だよ、このラララは……」

『フフ~ン、ベリーちゃんは最高よりも最善をお届けする包丁で~す』

「それね。本当、それね」


 その言葉に一切の誇張がないからこそ、困る。

 今後、確実に包丁を使う場合はベリーを基準に考えてしまうだろうから。


 やがて、おかずを作り終え、米が炊けて夕飯の時間。

 とっくに夜の十時過ぎ。

 食べてはいけない時間に突入しているが、腹に背は変えられない。おなかすいた。


「いただきます!」


 元気に言って食事を始める。

 正直、自作料理はあまりおいしいとは思わないがベリーのおかげでかなりマシだ。

 普段から自分より上手なタイジュが作ってくれるから、舌が肥えてしまっている。


「…………」


 ラララは、一人無言で食事を終えて、食器を洗ってシャワーを浴びる。

 その間にサラに借りた服を返さなければならないで、洗濯機に突っ込んで洗う。


 風呂場に向かうと、洗濯機の回るゴウンゴウンという音がうるさい。

 新しい洗濯機が欲しくはあるが、ちょっとの音程度で買い換えるのも何だかなぁ。


 ラララは髪は短いが、相応に風呂に時間をかける。

 今日はシャワーで済ませたが、いつもはしっかり湯を張ってじっくり体を温める。

 疲れているので風呂に入るべきなのだろうが、それも億劫だった。


「はぁ……」


 シャワーヘッドから注ぐ熱い湯を浴びてるうち、何となくため息が漏れる。

 冬の風呂場はすぐに白い湯気に染め上げられ、自分の姿をほぼ覆い隠してしまう。


 自分しかいない家。

 自分しかいない風呂場。

 自分しかいない真っ白い湯気の中。


「参ったなぁ」


 シャワーヘッドを見上げながら、ラララが濡れた髪を両手で掻き上げる。

 こうしていると、どうしても感じてしまうことがある。


「ん……」


 ラララはシャワーを止めて、湯気が消えないうちに風呂場を出た。

 そしてバスタオルでしっかりと体を拭いて、寝間着に着替える。


 髪が短いとドライヤーで乾かすのも楽だ。

 洗濯機はすでに止まっていて、中身をカゴに出して、さっさと干してしまう。


 その後、自分の部屋へ。

 古い家なので、畳の上に布団を敷いて寝る。

 時刻を見るとすでに日付が変わっていた。思っていたより長風呂をしてしまった。


「時間が、過ぎていくなぁ……」


 一人だけの部屋、ラララは敷いた布団の上に大の字に寝転んだ。

 そして、ついに言ってしまう。


「さみしぃ~~~~!」


 両手両足をピーンと伸ばして、彼女はそれを叫んだ。


「あ~、さみしぃさみしぃさみしぃ、すっごいさみしぃよぉ~~~~!」


 ここには、タイジュもいない。エンジュもいない。自分一人しかいない。

 あの二人は、キリオ達とはまた違う意味で特別な二人。


 今はどちらも会えないのが、とにかく、さみしくてさみしくて仕方がない。

 そんなに大きくない田中んチが、広々感じてどうしようもないのだ。


『あれ~、仮マスター、さみしいんですか~? ベリーとお話しますか~?』

「ベリィィィィィィィちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!』


 またしても収納空間からポンッと出てきたベリーに、ラララは叫んでしまう。

 ヤバイよヤバイ、この聖剣タイミングが凶悪すぎる。依存しちゃいそうかも……。


 気持ちの整理をしたい。

 帰宅理由はキリオに語った通りだが、いざ一人になると孤独感がすごかった。

 一刻一秒間断なくさみしさが押し寄せる自宅は、何か精神が汚染されちゃいそう。


「あ~、我ながら弱ってるなぁ~……」

『それならキリオさんと一緒にいればよかったのに~』

「私だってここまでさみしく感じるとは思ってなかったの~……」


 ため息を共に、ラララは手の中にタイジュが眠る封印水晶を取り出す。

 そこに眠るタイジュの姿を見て、ラララは口を半分開けて声を垂れ流す。


「あ~~~~、タイジュ~~~~」

『参ってますねぇ~、仮マスターったら~』

「いよいよ、明日だからねー。どうしたって緊張もするし、怖くもなるよー」


 唇を尖らせて反論したのち、ラララは封印水晶を握り締める。

 そして、彼女は目を閉じて両腕で自分の体を抱きしめた。

 耳の奥に、別れる前にタイジュから聞いた言葉がはっきりと蘇ってくる。


 ――覚えておいてくれよ、ラララ。これが俺の感触だ。


 まぶたの裏に浮かぶタイジュへ、彼女は微笑んで小声で呟く。


「覚えてるよ、タイジュ。私、ちゃんと覚えてるよ」

『タイジュさんのこと思い出してるんですかぁ~? 仮マスターったら~♪』

「い、いいでしょ、別に!」


 おだてるように言うベリーに気恥ずかしさを感じて、ラララは声を張り上げた。

 だが直後、その声も一気にしぼんでしまう。


「ねぇ、ベリーちゃん……」

『はぁい、何ですか、仮マスター!』


 元気に返事をするベリーに、ラララはこれまで口にしなかった本音を吐露する。


「……私、明日、勝てないかも」

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