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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十三章 怒りと赦しのジャッジメント・デイ

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第318.5話 Side:ラララ/サラ・マリオンの目的

 これは、ラララがフライパンで魔剣術指南をしているときの、バスの中の話。


「タクマさん! もうリリスおばあ様のおうちって近いですよね!?」

「お、おお。こっからなら歩いて十分かかんねぇはずだ!」


 フロントガラス越しに戦いを見ていたシイナが、タクマに大声でせっつく。


「それじゃあ、すぐにおばあ様に連絡してください! 早く!」

「で、でもよ……」


 タクマが、シイナとラララ達を交互に見やって、困惑の声を上げる。


「エンジュはタイジュを取り戻しに来たんだろ? いいのかよ、邪魔して!?」

「そんなの、わかりませんよ!」


 シイナもまた、自分の考えに確信を持てない様子だった。

 しかし彼女が感じたのは、それだけではなく、


「だけど、ダメです! 《《あの二人は戦わせちゃいけない気がします》》!」

「――――ッ、わかった!」


 他の誰でもない、シイナの言葉。

 それだけで、タクマにとっては従う理由となる。彼はスマホを取り出した。


「何で……、どうしてこんな風に感じるんでしょう。あの二人を見ていると……」

「わからないの?」


 自分でも不思議がっているシイナに、声をかけたのはサラだった。


「……サラさん」

「これから、彼がリリスって人を呼ぶんでしょ。で、あんたは何をするの?」


「私は、特には。外に出たって、できることなんてありませんし」

「ただの占い師のあんたが邪魔したって、細切れにされちゃうだけだモンね」

「それは女商人だったサラさんも一緒ですよね?」


 言い返し、シイナはフロントガラスの方を指さす。


「見てください、あっちを!」

「見てるけど……」

「何かすごく、チャカチャカしてるじゃないですか! 行けますか、あそこ!?」


 彼女の言う通りだった。

 戦闘経験などないサラから見ても、ラララ達がすごくチャカチャカしている。


「人間って、あんな風に動けるのね……」

「そうですよねー。私もビックリです……」

「って、そうじゃないのよ!」


 納得しかけていたサラが、眉間にしわを集めて勢いよく首を横に振る。


「な、何です?」

「あんた、やることないならちょっと私に付き合いなさいよ」

「えっ」


 突然の申し出に、シイナがギョッとする。


「……サラさん」

「何よ」


「いくら、百合ジャンルが盛り上がってるからって、リアルでそういうのは――」

「…………」


「うわっ、すごいイヤそうな顔をされてしまいました!?」

「ホントふざけんじゃないわよ、あんた?」

「わぁぁぁ、声、ひっく!? す、すいません、何かすいません!」


 サラの威圧感に負けて、シイナは彼女に従わざるを得なくなる。

 そして、バスの外でラララ達がチャカチャカやっている中、二人はバスの最奥へ。


「い、一体何事でしょうか……?」

「そんな、借りてきたチワワみたいにビクビクしないでよ」


「いえ、あ、すいません、すいません……」

「はぁ……」


 ビクビクしっぱなしのシイナに、サラはめんどくさそうにため息をつく。


「別にとって食いやしないわよ……。話を聞きたいだけだから」

「話、ですか……?」

「そうよ。――ユウヤの話を聞かせて」


 サラが口に出した名前に、シイナが小さく目を剥いた。


「知ってるんでしょ、あたしとあいつの関係」

「はい、異世界では親子、だったんですよね……?」

「そうね。あいつが自分の店を持ってからは没交渉だったけど」


 つまり、異世界においてはサラはシイナの義理の母親だった。ということになる。

 だが、シイナはユウヤの親に会ったことはなかった。


 サラ自身が今言った通り、ユウヤとは没交渉だったのだろう。

 今回の『Em』制圧の一件で、シイナも初めてサラの存在を知ったくらいだ。


「あいつがバルボ・クレヴォスの息子なのは知ってる?」

「はい、知ってます」


「ユウヤが話したの?」

「いいえ、私が掃除中に彼の日記を見つけてしまって……」

「何か、昔の何とかいうドラマみたいね」


 サラは小さく笑う

 そこに、シイナに対する敵意などは感じとれないが、


「サラさんは、私を探していたんですか?」

「そうよ。あたしが会いたかったのはあんたよ、シイナ・バーンズ」


「ユウヤさんの話を聞くために……?」

「そう」


 存外素直に、サラはそれを認めた。


「それを聞いて、サラさんはどうするんです?」

「聞いてから決めるわ。まずは、話を聞かせてもらえないかしら」


 シイナは、ジッとサラの顔を直視し続けた。

 敵意はない、ように思う。それに、真意を隠すつもりもなさそうな気配だ。

 ユウヤの話を聞きたい。その言葉通りだという風に、シイナには見えた。


「わかりました。何からお話ししましょうか」

「異世界でのことはいいわ。こっちでのことを聞きたいの」

「こっちでのユウヤさん、ですか……」


 途端に、シイナの声の調子が沈む。

 こっちでのユウヤ・ブレナンの様子。それはつまり――、


「ユウヤさんが亡くなるまでの話を、聞きたい、と……?」


 そういうことになる。

 マヤ・ピヴェルと共に一計を案じて、自らはシイナを手に入れようと画策した。

 その話を、サラ・マリオンは聞きたいというのか。


「そうね、あたしが聞きたいのはそれよ。あいつは、どうやって身を滅ぼしたのか」

「本気、ですか……? 絶対に気持ちのいい話にはなりませんよ?」

「いいから話して。あたしはそのためにここまで来たのよ」


 ごうやら、サラの決意は相当固いようだった。

 そこまで求められては、押しに弱いシイナとしては話すしかなくなる。


「わかりました。お話します」

「頼むわ」


 シイナは、こちらでもユウヤとの再会から話し始める。

 彼女は、ユウヤがやったこと。そのせいで起きたことを余すところなく話した。


 サラはジッと黙り込みながら彼女の話を聞き続ける。

 話しながら、シイナは彼女の様子を窺ったりもしたが、ただ無言のままだった。


「ユウヤさんは――、あの人はどこまでも『特別』であることにこだわり続けているようでした。お金があっても、名声を得ても、まだ足りていないような感じで……」

「そう、そうなのね……」


 全てを語り終えて、シイナは最後に自分のユウヤに対する所感を述べる。

 サラは短く応じつつも、まだ聞く体勢をたもった。


「あの人にとって、私はきっと『自分が特別であることを証明するもの』だったんだと思います。私の能力以上に、私という人間を所有することこそが、自分が『特別』であることを裏付けてくれるんだって、そんな考えが根底にあるようでした」

「なるほどね。そっか、それであいつは――」

「はい。父様の逆鱗に触れて、恨みを買って仕返しされました」


 そうして、シイナは全てを語り終える。


「これが、私があの人と再会して、あの人が身を亡ぼすまでの顛末です」

「…………」


 話が終わったとき、サラはしばし無言で俯いていた。

 彼女は、ユウヤのことをゆっくりと咀嚼している。シイナにはそれがわかった。


「――バカね」


 だが、そう呟いたサラが泣き出したのは、シイナも予想外だった。


「サ、サラさん……?」

「バカなヤツ。本当にバカなヤツ。身の丈に合わない欲は持つなって、教えたのに」


 肩を小さく震わせて、サラ・マリオンは涙を流す。

 呟く声はしっかりとしていて、嗚咽を漏らすこともなく、だが、涙を流す。


「あたしが『Em』に入ったのはね、あいつを探すためだったのよ」

「そう、なんですか……?」

「そうよ。あたしが『出戻り』したのは二月頃で、もしかしたらユウヤもいるんじゃないかと思って探したけど見つからなくて、そこで『Em』に勧誘されたのよ」


 今度は、サラが語る番。シイナはそれを、静かに聞いている。


「探し出して、何がしたかったってワケじゃなかった。ただ、8月の終わり頃にようやく見つけたと思ったら、それから少しして、また行方知れずになっちゃったのよ」

「それは――」

「そうね、あいつがやらかして、破滅したときよ」


 そこでシイナは理解する。

 だから、サラは自分に会いたがったのか。ユウヤのことを知っている自分に。


「私達を、恨みますか?」

「恨む気持ちもないではないけど、仕方がないっていうのがほとんどね」

「仕方がない、ですか……?」


 自分の息子を破滅に追い込んだのは、間違いなくバーンズ家。

 それに対して『仕方がない』で済ませられるのか。割り切れるというのか。


「お金だけでよかったのよ」


 サラが語る。


「お金だけでよかった。それで十分だった。あいつは商才があった。そうでしょ?」

「はい、それは間違いなく。ユウヤさんはすごく羽振りがよかったです」

「それだけで十分じゃないのよ。……本当に、バカなヤツ」


 たびたび口にする、サラの『バカ』という声に、シイナは言い知れぬ悔いを見る。

 ああ、そうか。このとき、彼女はサラ・マリオンの真意を知った。


「ユウヤさんのことが心配だったんですね」

「そうなんでしょうね。きっと、そうだったんだわ……」


 サラには、しっかりとした自覚はないようだった。

 だが、彼女は涙を流している。ユウヤ・ブレナンという男のために、涙を。


 サラ・マリオンは母親だった。

 それが、彼女が『Em』に入って、シイナに会いたがった本当の理由だった。


「元々、欲の皮の突っ張ってるヤツだったけど、本当に、もう!」

「サラさん……」

「あいつは自滅したのよ。自分で自分を殺したの。それをわかってて、あんたやあんたの家族を恨んだって仕方がないじゃない。そんな恨みに、何の意味があるのよ!」


 この人は、バーンズ家を恨んではいない。

 ただ、間に合わなかったことを悔やんでいる。遅きに失した自分を責めている。

 そんなサラに、ユウヤを破滅に追い込んだ当人であるシイナは、


「私のことを恨んでください、《《お義母さん》》」


 そう言って、両手でサラの手を包むようにして握った。

 サラが、驚いて顔を上げる。


「あんた……」

「サラさんがどう思っても、ユウヤさんを破滅に追い込んだのは私です。それは彼の自業自得ではありましたけど、私は自分のしたことから逃げる気はありません」


 強くもなく、力がこもっているわけでもなく、しかし芯の通った物言いだった。

 サラは、しばし呆然となってシイナを見つめる。


「…………」


 少し開いたままだった口が、声も出ずにパクパク動き、サラは言った。


「……オバサン」

「オバッ! え、この場面でそういうこと言えちゃうんですか! えぇッッ!?」

「フン、うっさいわね!」


 肩で涙を拭って、サラがシイナの手を振り払う。


「あんたなんかにお義母さん呼ばわりされる筋合いはないのよ! あたしの方が若いし、可愛いし! あんたなんて何よ、オバサンじゃないっていうならもうちょっとオシャレしたらどうなの? そのネイルとか、全然可愛くないわ! ダサいのよ!」

「何です? いきなり何ですか!? 私、割といいこと言ったと思うんですけど、どうしてそんな罵詈雑言を浴びせられてるんですか! な、納得が行きませんよッ!」

「フン……!」


 顔を青ざめさせるシイナに、サラは腕組みしてそっぽを向く。

 不機嫌そうなその顔で、彼女はシイナを見ようともせず、だが小さな声で、


「今度、あたしがよく行ってるネイルサロンに連れてってあげる。その野暮ったい見た目も、あたしが少しは見れるようにしてあげるわよ。話してくれた報酬ね、これ」

「サラさん……」

「あんたに恨みなんて、持てないわよ。悪いのは全部、あのバカなんだから」


 これで話は終わりだとばかりに、サラは席を立って前の方に歩いていく。

 その背中を見送りながら、シイナは小さく苦笑する。


「素直じゃないですね、あの人」


 目的地に到着したあと、サラとシイナがお互いに連絡先を交換したのだった。

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