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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十三章 怒りと赦しのジャッジメント・デイ

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第315話 Side:ラララ/こんなこともあろうかと

 ――キリオとサティが出ていった直後まで遡る。


「あたし達も出るんでしょ? 歩くのとかヤなんだけど……」

「サラちゃんは生粋のお嬢様か何かかい……?」

「ただの中流家庭生まれの一般人よ。可愛いからお姫様扱いはされてるけど」


 呆れるラララの前で、サラ・マリオンは長い髪を掻き上げて、自らの美貌を示す。


「可愛いのは認めるよ、少々ケバいけど」

「ケバいってゆーな! 男ウケするメイクとかしてるだけよ!」


「え~? 男の子ってそういうの好きなの~?」

「主に貢ぎもののコスメ使ってるからっていうのもあるかしらね」

「貢ぎものて……」


 ラララ、さらに呆れる。


「あんたもやってみる? パパ活。あんたならすごい儲かりそうだわ~」

「御冗談。このラララには心に決めた人がいるからね!」


「え~? あんた中坊よね? その年齢でもう一人に決めちゃってんの!?」

「決めちゃってんのっていうか、え、何? いけないかい?」


「もったいないって言ってんの! それだけ可愛いんだから活用しなさいよね~!」

「その褒め言葉は素直に受け取っておくけど、大きなお世話だね!」


「バーンズ家って意味わかんないわね~……」

「はいはい、そんなことより歩きたくないんだろ。なら安心してくれよ」


「安心って何よ、どういうこと?」

「このラララもリリスおばあちゃんのおうちの住所は知らないからね!」

「はぁ~!?」


 堂々たるラララの宣言に、サラは口をあんぐり開けてのどの奥から声を絞り出す。


「ちょ、じゃあどうやって会いに行くのよ!」

「ちゃんと準備はしてあるさ。そろそろなんじゃないかな?」

「……そろそろ?」


 サラが怪訝な顔つきになった直後、遠くから甲高いクラクションの音がする。

 二人でそちらを見れば、一台のミニバスが走ってくるのが見える。


「あれは……」


 ミニバスの側面には『何でもやッたる片桐商事!』と大きく描かれている。


「報酬を先払いしておくよ、サラちゃん」


 告げるラララとサラの前に、ミニバスが止まった。

 そして、窓越しにサラは彼女の姿を確かに見る。バスに乗っている、四女の姿。


「……シイナ・バーンズ」



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 乗ってたの、四女だけじゃなかった。


「やっほぉ~、おララちゃん、おっす~!」

「え、何でスダレの(あね)ちゃんまで一緒なの!?」


 バスのドアが開き、降りてきたスダレにラララが驚く。


「実はぁ、昨日からぁ~、おクマ君のおうちにお泊りしてたのぉ~!」

「え、ジュンの義兄(あに)クンは……?」


 ラララがそれを口にした瞬間、スダレの顔がフグになった。


「え、あれ? 何その反応? 私、何か地雷踏んじゃった?」

「ジュンさんな、急な出張でおとといから一週間県外だって。そっとしといてやれ」

「あららぁ~……」


 同じく降りてきたタクマに言われ、ラララとしても反応のしようがない。


「それにしても、まさかおまえからの依頼とはな、ラララ……」


 タクマは、複雑そうな顔つきでラララを見る。

 異能態の影響下にある彼からすれば、ラララは『バーンズ家の落伍者』だ。


「異世界のことは置いておいて、ちゃんとしたやり方でお仕事をお願いしてるんだから、そこは社会人としてきちんとお客さんに対応してくれると信じてるよ、兄クン」

「料金は前払いで受け取ってるからな、仕事はきちんとやるけどよ」


 ラララも、タクマのそういった部分は信頼している。


「けどよぉ……」


 だが、タクマの視線が、ラララの隣に立つ少女の方へ注がれる。


「サラ・マリオンだろ、そいつ」

「ああ、その通り。この子がサラ・マリオンだよ」

「『Em』だよな?」


 タクマの声が、一段低くなる。目つきも鋭さを増して射貫くような感じになる。


「兄クン?」

「ラララ、何でおまえが『Em』と一緒にいる? ……いや、そもそも何でおまえは『ミスター』なんて野郎と一緒に行動してやがるんだよ? 教えてくれよ」


「教えなきゃ、仕事はしてくれない?」

「いや、仕事はする。だがそれとこれとは話が別だ」


 タクマは、一歩も引こうとはしない。

 話が別と言われた以上、ラララはここで何らかの回答をしておくべきなのだろう。

 しかし、次に口を開いたのは、サラの方だった。


「なるほどね……」


 軽く腕組みをしながら、彼女はタクマをジロジロとねめつける。


「そういう感じになってるのね。……大変ねぇ、あんたも」

「『Em』の君に同情されるのも、何だか複雑だよ」


 ラララは軽く苦笑しながら、タクマにきっぱり言い返す。


「このラララが『ミスター』なんてヤツと一緒なワケないだろ? 私がさっきまで一緒にいたのは、キリオの兄クンさ。って言っても、通じないだろうけどね」


 言いはしたものの、ラララはハナから理解など求めてはいない。

 今現在、あの『キリオ』の異能態の影響下にあるタクマ達に通じるはずなどない。

 と、彼女は思っていたが――、


「うにゅ~ん、そっかぁ~、やっぱそうなのかなぁ~?」


 スダレが、何やら妙な反応を見せた。これにはラララも驚く。


「スダレの姉ちゃん……?」

「オイオイ、本気で言ってるのかよ、スダレ姉。ラララが一緒に行動してたのがキリオなら『ミスター』は誰だよ? 俺達が知ってる『キリオ』ってか? 冗談!」


 タクマが見せる反応の方が、現状では普通のはずだ。

 だがスダレは首をグニャングニャンにひねって、


「ふみゅ~ん、わかんないなぁ~、わかんなぁ~いなぁ~……」


 と、繰り返すばかり。


「何なの? あんたのお姉さん、大丈夫……?」

「大丈夫、だと思いたいなぁ~……」


「昨日からずっとあんな調子でよ。何がわかんねぇのかもわかんねぇんだとよ」

「えぇ……」


 苦々しい顔をするタクマに、ラララも「何それ」といわんばかりの顔になる。

 そこに、まだバスの中にいたもう一人が降りてくる。


「まだ出発しないで大丈夫なんですか?」

「シイナの姉ちゃん……」

「おとといの夜ぶりですね、ラララちゃん。そして――」


 シイナの目が、サラを捉える。


「サラ・マリオンさん」

「あんたが、シイナ・バーンズね?」

「そうですよ。私がシイナです」


 簡潔な自己紹介をするシイナを、サラはジッと舐め回すようにして見つめている。


「……何か?」


 その視線が不快だったか、シイナが片腕で自分を抱いてサラへ問う。

 するとサラは、


「――オバサンね」


 禁断の一言を、シイナに向かって浴びせかけたのだった。


「な……ッ!」

「ちょっと、サラちゃん!?」


 絶句するシイナに、悲鳴をあげるラララ。それから当然、


「今、何て言いやがったよ、おまえよォ!」


 タクマがキレる。


「は? 何でそっちのお兄さんがキレるのよ。実際、オバサンじゃないのよ。二十代半分過ぎてんでしょ? 立派なアラサーでしょ! だったらオバサンじゃない!」

「おまえ、俺のシイナになんてこと言いやがるッ!」

「ぉ、俺のシイナァ!?」


 キレて怒鳴るタクマに、逆にサラが仰天する。

 彼女は、タクマとシイナの仲を知らないようだった。


「え、待ってよ、あんた達、姉弟なんじゃないの!?」

「異世界ではそうだけど、こっちじゃ別に違うだろうが! それがどうしたァ!」

「あ、そっか……、こっちじゃ別に関係ないのかぁ……」


 言われて、サラも納得したように手をポンと叩く。

 だがその反応が、タクマのさらなる怒りを誘う。


「例え血が繋がってても、俺はキレるぜ。家族をバカにされて我慢できるか!」

「タクマさん、落ち着いてください」


 しかし、怒髪天を衝く勢いのタクマを、バカにされたシイナ自身が止める。


「けどよぉ、シイナ!」

「私は大丈夫ですから落ち着いてください、タクマさん。所詮は『年をとる』ということの意味もまだ正確に掴めていない高校生のガキのたわごとです。若いうちは大体みんなそうなんです。若い自分は特別だって思ってしまうモノなんですよ。でも、それって所詮幻想ですから。人はみな等しく年をとっていくんです。私もそうでした。そう、ある日、寝て起きても昨日の疲れがとれていないことに気づきました。そのときの絶望を、この子もいずれ味わうのです。ああ、かわいそうに! 高校生なんて、まさに『これから若さをなくしていきます。その前のロウソクの最後の一燃えです』みたいな時期じゃないですか! もはや後は転落していくだけ! 二十歳を越えたらメイクは自分を飾るものから自分をごまかすモノに変わっていきますからね、覚悟しておくことですね! チクショウ! 何か色々思い出して切なくなってきましたよ、あ~、私、ここじゃあ最年長か~! 最年長っていい言葉ですよね、上に立ってる的な響きがありますよね! 実際は一番年寄りってことなんですけどね~! 年寄り? はぁ? 年寄り!? 何ですかそのワードは! どうしてそんな的確に人の心を抉るワードを紡ぎだせるんですか! クッソー! 喧嘩ですね? いいでしょう、喧嘩なら買ってやりますよ! 麻雀で! 半荘やってやりますよー!」

「落ち着け、シイナ、落ち着け。……な?」


 タクマをなだめようとしたシイナがキレてタクマがなだめようとしている。


「何、これ……?」


 サラ・マリオン、ドンビキしすぎて物理的に三歩ほど後ろに引く。


「何って、ウチのシイナの姉ちゃん。愉快でしょ?」

「これを愉快で済ますあんたの感性もなかなか愉快だと思うわ、私……」


「ま、いいんですけどね。サラさんが私に突っかかってくるのはわかってましたし」

「わかってた割に、色々な恨み辛み妬み嫉み僻み嫌みやっかみが混然一体になってた気がしたけど、まぁ、いいわ。……あとは、バスの中で話しましょうか」


 何となし、ぐったりしている様子のサラ。

 彼女は力ない足取りで、バスに乗り込んでいく。


「フフン、勝ちましたよ、タクマさん。所詮、若年層ですね!」

「おまえさ、そこで自分から相手を若年層とか言っちゃダメだろ……」


 タクマはまともなツッコミを入れるのだが、勝利に浮かれるシイナには届かない。


「みゅ~ん、わかんないなぁ~、わか~んないなぁ~」


 周りで騒いでいても、スダレは海中のワカメみたいにユラユラしているのだった。

 三分後、ようやくミニバスは出発した。

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