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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十三章 怒りと赦しのジャッジメント・デイ

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第304話 自然公園の戦い/最悪すぎる乱入者

 考えるよりも先に、体が動いた。

 それはキリオもラララも変わらなかった。サティもエンジュも変わらなかった。


 ラララとサティはキリオに駆け寄り、エンジュは全力で距離を取る。

 そしてキリオはラララ達の方に向き直り、マントと背中で二人を覆う壁となる。


 場を満たした白光が、地面を焼き抉って派手に炸裂する。

 大爆発。大爆音。大爆炎。余波が巻き起こす風は、まるっきり暴風域そのもの。


 轟々と唸る風の音が爆心地間近にいるキリオ達の耳に襲いかかる。

 全身を焼く光と熱は、だが、マントとキリオの体でラララとサティには届かない。


 実時間にすれば十秒足らず、しかし体感数分にも及ぶ長い時間が過ぎた。

 光が消え、熱がやわらぎ、風が収まり、音が消える。

 丸まっていたキリオの背中には、巻き上げられて降ってきた焦げた土砂が積もる。


「……大丈夫でありますか?」


 キリオが、自分の腕の中で縮こまっていたラララとサティに問いかける。


「ああ、何とかね」

「大丈夫です。キリオ様」


 二人は無傷。何とか守り切れたようだ。

 キリオとしてもそれについては一安心できたものの――、


「あれ、防がれちゃった」


 耳に届く幼い声に、そんな安心など消し飛んでしまう。


「まさか、ここで遭遇するとは思わんかったであります……」


 一気に高まった気温に汗を流しながら、キリオが前へと身を振り向かせる。

 超高熱に焼かれた地面が、今だジュウジュウと音を立てて燻っている。


 目の前に、ちょっとしたクレーターができあがっている。

 地面は大きなお椀上に抉れ、黒く焦げた地肌から煙が上がっている。

 原っぱは広範囲にわたって焼き払われて、金属符が貼られた木も半ば焼けている。


 キリオは見る。

 クレーターの向こう側、焼けた大地のただ中に、彼女は立っていた。


「ヒナタ」


 そこにいたのは兄弟の末っ子。

 四歳という年齢ながらバーンズ家最強火力を誇る『最終兵器』ヒナタ・バーンズ。


「当たり前のように名前を呼ばないでほしいなぁ、『ミスター』」

「それがしはキリオでありますよ」

「同じような能力を持ってるのは認めるけど。顔が全然違うよ」


 やはり、ヒナタも異能態の支配下にある。彼女にとってのキリオは『キリオ』だ。


「割と威力高めで撃ったのに、無傷なんてね」


 呟くヒナタの頭上に、キリオが見た二つ目の太陽が降りてくる。

 それは彼女の異面体である『燦天燦(サンテンサン)』。

 キリオが防いだ強烈な熱光線も、ヒナタがこの小天体より放ったモノだ。


「やいコラ、クソガキ!」


 キリオがヒナタと向かい合っているところに、サイディが抗議をしてくる。


「テメェ、ワタシら巻き込むつもりカヨ!」


 噛みつくようなその言い方に、だが、ヒナタは表情を変えず一瞥をくれるのみ。


「敵がいるのに、チンタラやってる方が悪いんでしょ」

「あァン!?」


 サイディが露骨に機嫌を悪くするが、ヒナタはもうそっちを見ていない。


「お姉ちゃん、ごめん。防がれちゃった」


 そして、そんなことを言い出す。

 聞いた瞬間、キリオの背筋に冷たいものが走る。


 今この場にヒナタが姉と呼ぶべき存在はラララだけしかいない。

 だが、ヒナタから見てラララは敵。なら他に誰がいる。ヒナタは誰を姉と呼んだ。


「気にすんな、敵が天晴れだっただけだぜ」


 立ち上る煙の向こうに聞こえてくる、その声。

 ラララも、サティも、サイディですら、その声の主を知って、おののく。


「ヒナタと一緒でありましたか」


 そこに現れた彼女を前に、キリオが苦虫を噛み潰したような顔になる。


「――タマキの姉貴殿」


 すでに『神威雷童(カムイライドウ)』を展開済みのタマキが、そこに立っていた。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 異世界にいた頃、バーンズ家には必勝の戦闘パターンがあった。

 それが『最終兵器』と『最強存在』の組み合わせ。


 まず、ヒナタがサンテンサンで敵陣を大さっぱに焼き尽くす。

 次に、カムイライドウを発現させたタマキが単身乗り込んでいって大暴れ。


 それだけで、大抵の敵は白旗を上げる。

 喰らう側とすれば、まさしく悪夢の組み合わせだ。


 その喰らう側に、今、キリオや自分は立たされている。

 タマキの姿にそれを自覚し、ラララの体を流れる汗が全て冷や汗に変わった。


「いたな、ラララに『ミスター』。見つけたぜ……」


 普段はノリの軽いタマキが、ゾッとするほどの低い声をラララ達に向けてくる。


「ぅ……」


 サティが、顔から色を失わせてその場にうずくまる。

 タマキの放つ気当たりに、彼女の心身がダメージを受けている。


 ただその場に立っているだけで、常人は精神を削られていく。

 まさに人の形をした嵐。バーンズ家最強の暴力。異世界史上唯一の『神滅ぼし』。


「お姉ちゃん、気をつけて。『ミスター』、相当硬いよ」

「ああ、わかったぜ、ヒナタは援護を頼む」

「了解」


 まずい、と、ラララは思った。

 タマキが『本気』だ。全く遊びがない。一気に決めるつもりだ。


 異世界で、ラララは何度もタマキに挑んでいった。

 タマキもそれなりに本気で応じてくれていたが、今はそれとはワケが違う。


 完全に『敵』を滅するだけの『最強存在』としてのタマキになっている。

 こうなると、タマキには心身共に隙がなくなる。


「タマキさん……」

「いたのかよ、菅谷真理恵」


 こっちを睨みつけているタマキに、マリエが話しかける。


「あなた達は、どうしてここに? ここは『異階』なのよ?」

「範囲設定を広くしすぎたな。オレとヒナタがいた場所も、範囲内だったんだよ」

「そうそう。私達二人で『ミスター』を追ってたら、『異階化』に巻き込まれたの」


 何てこと。と、ラララは言いたくなる。

 そんな偶然があるのか。そんな、最悪極まる偶然が。


「それはわかったけど、どうして割って入ってきたのかしら。これは私達の――」

「バカか、おまえ」


 タマキが、マリエを一言のもとに切り捨てる。

 言い終えることもできず、マリエは目を見開いて固まってしまう。

 それを一顧だにせず、タマキはキリオを指さした。


「こいつらは敵だぞ。敵は殺せよ。変なこだわりだの何だのはいらねぇんだよ」

「クク、クックック! HAHAHAHAHAHA! そりゃソウダ!」

「マ、ママ……?」


 突然笑い出したサイディに、エンジュがびっくりする。


「エンジュ、今、タマキが言った通りダゼ。敵は殺すモンサ」

「そういうことだね」


 サイディが笑って殺気を放ち、それにヒナタも同調する。

 こりゃあ参ったぞ、と、ラララは苦笑するしかない。ヒナタとタマキが本気かぁ。


「一応、確認させてもらっていいかい、ヒナタ」

「何、ラララお姉ちゃん」


「君やタマキの姉ちゃんから見ても、このラララは敵なのかな?」

「『ミスター』を見捨てて、こっちに戻ってくる?」


「それはできかねる。キリオの兄クンもサティの義姉ちゃんもほっとけないし、サイディは敵さ。このラララは八つ裂きの八つ裂きの八つ裂きにする使命を帯びている」

「そ。じゃあ、仕方がないね。ラッラお姉ちゃんも敵だよ」

「そっかー。やっぱりそうなっちゃうかー」


 あまり深刻な響きのないラララとヒナタの会話だが、中身は決定的な決裂。

 この瞬間、ヒナタの殲滅目標にキリオだけでなくラララも加わった。


「さぁて、どうしようかな……」


 と、己の愛刀『士烙草(シラクサ)』を構えてはみるものの、状況は絶望的だ。

 サイディやエンジュに加えて、ヒナタとタマキがあちら側。これは参ったぞ。


 ラララは剣を手にしたまま、チラリとサティとキリオを見る。

 サティもキリオを見つめていた。やはり夫を案じている。


「タマキの姉貴殿」

「…………」


 タマキ、無言。そして直後に、その姿はキリオの懐の中にあった。

 あまりにも滑らかな『縮地』の歩法。目の当たりにしたラララが寒くなるほどに。


「死ね」

「断るであります」


 そこから数秒間、烈火の如きタマキの連撃がキリオの身を撃ち続ける。

 そのいずれもが最速最強の『真打(しんうち)』だが、キリオの無敵化には通じない。


「……チッ、なるほどな!」


 タマキが舌を打って一度距離をあける。

 キリオはその場に留まって、離れる姉を見送った。


「ヒナタの言う通りだな。随分と硬いじゃねぇか。『キリオ』みたいだぜ」

「そりゃあ、それがしがキリオでありますからな」

「どこがだよ。似ても似つかねぇ」


 兄弟の中でも仲の良かったタマキが、キリオにそんなことを言う。

 信じられない。と、ラララは別に思わなかった。

 何せタマキはこんな感じで騙されて家族に攻撃を仕掛けることはよくあったので。


 異世界史上に『バカ力にしてバカ』の異名を刻んだ女が、あのタマキなのだ。

 そこを忘れてはいけない。


「さて、どうしようか、キリオの兄クン……」


 だが、タマキがバカであるとはいえ、完全に追い詰められている。

 ここから巻き返しは図れるのか。少なくとも、ラララには光明が見えないが――、


「タマキの姉貴殿、それ以上、動くなであります」

「へ?」


 いきなり、キリオがタマキにそんな要求をしてくる。

 これにはラララも、サティも揃って驚く。


「ちょっと、お兄ちゃん?」

「あの、キリオ様?」

「あ~ん? 何だおまえ、オレにそんな要求できる状況だと思ってんのか?」


 タマキ自身も意味がわからんといった感じで首をかしげている。

 だが、キリオは強気な態度を変えようとしない。


「動くなでありますよ、タマキの姉貴殿」

「笑わせんな。オレが動けばどうなるってんだ? 何かあるのかよ?」

「姉貴殿がそれ以上、それがしに近づくのであれば――」


 言って、キリオが取り出したのは、指先の大きさほどのクリスタル。

 それを見た瞬間、ラララは兄の外道っぷりに戦慄した。


「この、ケント殿が眠ってる『夢見の封印水晶』をそれがしの収納空間にブチ込んで、二度と取り出せないよう、ロックかけちまうでありますからねェ――――ッ!」

「うぇぇぇぇぇぇぇぇ、ケ、ケンきゅぅぅぅぅぅぅぅ――――んッ!?」


 響き渡る、キリオの脅迫。タマキの悲鳴。

 サティが感動に両手を合わせ、声を大きく震わせて言う。


「素晴らしい機転です、キリオ様……!」

「いや、これは褒めていいのかなぁ……、鬼畜生の所業にしか思えない……」


 さすがに、素直に褒めることはできない、ラララであった。


「お、お、お、おまえェ! 何でおまえがケンきゅん持ってんだよぉ~!?」

「フフフフ、何故でありましょうなぁ~? 何故で、ありま、しょうなぁ~ッ!」


 悪者か?

 変な勝ち誇り方をするキリオを見て、ラララはそんな感想を抱いた。


「タマキお姉ちゃん、まさかあの水晶、本当に……?」

「ケンきゅん!」


 尋ねるヒナタに、タマキがコクコクうなずく。

 彼女がそう言っている以上、ヒナタも「そうかぁ」と納得するしかない。


「フフフフ、わかったでありますねぇ~? 動くな、動くなでありますよぉ~!」

「グギギギギ……、ケ、ケンきゅん……」


 さすがにケントが関わるとなると、タマキも平静ではいられないようだ。

 悔しそうに歯噛みしつつ、キリオに従って、その場から動かなくなる。


 何とか、危機は脱せれそうか。

 そう思うラララだったが、キリオが水晶の他に何かを取り出す。


「タマキの姉貴殿」

「何だよッ!」


 ふてくされたように声を荒げるタマキに、キリオが差し出したのは封筒。

 それと、ケントが眠っている封印水晶だった。


「これを、受け取って欲しいであります」

「え……」

「な、キリオの兄クン!?」


 ラララは愕然となる。

 タマキに対して、ケントを人質にするやり方は到底褒められるものではない。


 しかし、この場を凌げる唯一の方法であることはラララも理解していた。

 その方法を、キリオは自ら投げ出そうとしている。


「元々、姉貴殿に会ったら、こうするつもりだったでありますよ、ラララ」

「その手紙は……?」


 キリオが差し出した手紙には見覚えがあった。

 ケントが別れ際、キリオに渡していたものに間違いない。宙船坂集宛のものだ。


「中に、もう一通、手紙が入っていたであります。タマキの姉貴殿にあてたものが」

「え、お、オレに……?」

「偽物ではありませんぞ、姉貴殿なら、見ればわかるはずであります」


 皆が注目する中で、タマキは震えながら手紙を受け取る。

 そして、中身を出して、広げたそれに目を落とした。


「ケンきゅんの字だ……」


 そう呟き、彼女はしばし、手紙を読み進めて――、


「ぁ……」


 全身を包む純白の装甲が消えて、元の姿に戻ったタマキは手紙を折り畳んだ。

 そしてそれを懐に後生大事にしまいこんで、彼女は封印水晶を見つめる。


「わかった。ケンきゅんがそう言うなら、オレ、そうするよ」

「タマキお姉ちゃん……?」


 不思議がるヒナタの前で、タマキは地面に転がっている石を拾い上げる。


「――ふッ!」


 そしてそれを、近く焦げた木に向かって投げつけた。

 金属符が張り付けられた、『異階』の発生点となっている木へと。


「な……!?」


 投げられた石は見事に金属符に命中し、これを破砕。

 周辺一帯の『異階化』が解除される。


「ナ、何をしヤガル!?」

「今だけ、オレは全てを忘れて、こいつらにつく」


 面食らうサイディに、タマキは決然とそう宣言する。

 まさに、これまでの一切合切を覆し、ラララ達の絶望を粉砕する、その言葉。


「テメェ、どっちの味方なんダヨ!」

「オレはいつだって、ケンきゅんの味方だァ!」


 威風堂々大声を張り上げるタマキに、サイディもエンジュも、何も言えなくなる。

 ただ、マリエだけはその顔から一切の表情を消し、冷めた目を向ける。


「そう、タマキさん。あなたもあの人の邪魔をするのね」


 そして彼女は、自分の収納空間から『彼』より受け取った一振りを取り出した。

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