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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十三章 怒りと赦しのジャッジメント・デイ

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第301話 キリオとサティ、真問真答一対呪:後

 続きです。


「私のことを、愛してくれていらっしゃいますか?」


 サティが、強い。


「え、あ、え? え? え?」


 二問目にしてすでにキリオがたじたじだが、そこは夫、


「愛しているに決まっているであります!」


 堂々と、そう叫んで返すのだった。

 ラララジャッジ、30点。

 そこは叫ぶのではなく、いとも普通にあっさり返すのが理想なのになぁ、と。


「……わかりました。私も愛しています。ありがとうございます」


 サティはあっさり引き下がる。すまし顔だが、明らかに嬉しさを隠しきれてない。

 惜しいなぁ、と、ラララは思う。叫ばなければきっと表情も崩れてたのに。


「む、むぅ……」


 そして、キリオも顔が赤い。

 この兄はそこまで鈍くはないが、やや奥手なのだとラララは思い出す。

 次なる一問はキリオ。一答はサティ。


「おまえは本当に『もう一人のキリオ』の正体を知らんのでありますか?」

「知りません。彼は本当に、ある日突然、私の前に現れたのです」


 かなり重要な質問だが、サティは淀みなくきっぱりと答えきる。

 呪いは発動しない。少なくとも彼女の中では、今言った内容が事実ということだ。


 何かの方法で『そう思い込まされている可能性』もないではない。

 だが、ラララが見るに魔法や暗示による刷り込みの形跡は見られない。


 仮に見られたとしても、それはそれでサティ自身は潔白であるという証明になる。

 自分自身に暗示をかけている可能性は、さすがに薄かろう。

 次なる一問はサティ。一答はキリオ。


「マリエ様のどういったところを愛していらっしゃいますか?」

「えぇ……」


 キリオが驚き呻く。この兄、まだ状況を理解できていないのか。

 質疑応答が続く限り、サティはキリオのその辺を根掘り葉掘りするに決まってる。


 愛した夫に、自分以外の妻がいる、なんてなったら気にしないはずがない。

 いや、大半は気にするを通り越して即時嫉妬爆発コースだろう。


 ラララから見れば、サティの何と理性的で寛大なことか。

 それは、マリエとの出会いがサティの死後であったことが理由なのだろうが。


 異世界では、エンジュがシンラの帝国に仕えていた。

 それもあったラララはキリオとたびたび会うことがあったので事情は知っている。


 サティが病で死没したのは、キリオがちょうど50歳のとき。

 森の国で出会い十代末で結ばれて、三十年以上を共に過ごした夫婦の別離だった。

 彼女を失った直後のキリオは生きてるのに死んでいる状態だった。


 そして、彼がマリエと出会ったのが、60を過ぎてから。

 ラララ含め、それを知った当時の兄弟達は、大層驚愕したものである。


「お答えください、キリオ様」

「むぅ……」


 困ってる困ってる。キリオが困ってる。

 ラララが腕を組んで見守る中、キリオはしばし口ごもってのち、ようやく答える。


「マリエは、何も言わずにそれがしの隣に立って、共に歩もうとしてくれる女性であった。当時のそれがしには、それが心地よかったであります。そう、ありのままのそれがしを受け入れてくれる。そういったところに惹かれたであります。他は、挙げればキリがない」

「そうですか。わかりました。ありがとうございます」


 サティがペコリと頭を下げる。

 表情はすまし顔のままで、声は別に硬くなっているワケでもない。


 でもこれ、キリオからすると不気味で怖いだろうなぁ。

 ラララの『敏感肌』がそれを感じとるが、これを望んだのは彼自身であるし。

 次なる一問はキリオ。一答はサティ。


「おまえは『もう一人のキリオ』の異能態と『真念』を知っていたでありますか?」

「『真念』については知りませんが、異能態のことは『彼』から聞かされました」


 これは、ラララも予想していた通りの答えだった。

 サティが『キリオ』の『真念』を知っていたら、キリオに教えないワケがない。

 異能態も、72時間というタイムリミットはサティが教えてくれた情報だ。


「『彼』は言っていました。異能態の使用は、自分にとっての最終手段だ、と……」


 最終手段。

 尋常ならざる表現だが、使わずにいた理由が何かあるということかもしれない。

 呪いが発動しないということは、サティは実際にそう聞かされたのだろう。


「最終手段と言ったことの意味は私にもわかりかねます」


 呪いは発動せず。嘘ではない。


「わかったであります」


 キリオもうなずいて、次なる一問はサティ。一答はキリオ。


「私のどういうところを愛してくれていますか?」

「えッ!?」


 キリオは何を驚いているのだろう。

 マリエについて尋ねたのだから、次はサティ自身の番に決まっているじゃないか。


「ぅ、ううむ……」

「お答えください、キリオ様」


 言葉を詰まらせる彼に、サティがさらに突っ込んでいく。

 強い。サティが強い。でもラララからすると、そんなサティが可愛く見えてくる。

 だって今の彼女は、キリオに褒めてほしくて仕方がない状態だから。


「サティは、それがしを支えてくれる女性であります。それがしの弱さに敢然と『否』を突きつけ、奮い立たせてくれる。その『強さ』と、それがしを気遣ってくれる『優しさ』に、それがしは惚れてしまったであります。……こ、これでいいか?」

「――はい。キリオ様!」


 うっわ、嬉しそう。サティ、超嬉しそう!

 照れきって顔を下に向かせているキリオとは対照的に、今にも空を飛びそうだ。


 そこから、さらに一問一答は続いていく。

 キリオは主に『もう一人のキリオ』について尋ね、サティがそれに答える。


 いずれも嘘はなく、呪いは発動しなかった。

 しかし、ラララからすると、サティの返答は半ば期待外れ。

 キリオの『真念』に繋がりそうな情報どころか、目新しい情報自体が少ない。


 それは逆説、サティが何も隠し事をしていなかった、ということの証でもある。

 サティに対する疑念は、これによってほぼなくなったといってもいい。

 一方で、サティからキリオへの質問は、まぁ、キリオの防戦一方だよね。という。


「マリエ様との一番の思い出は、どのようなものですか?」

「それを答えて、どうなるでありますかぁ!?」

「お答えください、キリオ様」


 サティが強い。とても強い。

 ラララから見ての話だが、サティは別にマリエに悪感情は抱いていなさそうだ。


 ただ、知りたい。

 そんな感じじゃないだろうか。思うところがないワケではないだろうが。


「ぐぐぐ……、マ、マリエとの思い出は、全てが輝かしいであります……」


 キリオもキリオで真っ正直に答えるから、サティがあれこれきいてくるのだ。

 彼自身は余裕を完全になくしており、そこまで気づいていない様子だが。


 そして、両者の一問一答が始まって、およそ三十分。

 ここでサティからの質問の風向きが少し変わる。


「次、次の質問、ドンと来いであります!」


 キリオ、もはや半分ヤケ。開き直って、腕組みして質問を待っている。


「では――」


 サティが問う。


「マリエ様との思い出の中で、一番イヤだったものは何ですか?」

「ん?」


 と、疑問の声を発したのはキリオではなく、ラララ。

 それまでは、サティの質問の意図が丸わかりだったのに、その問いだけは違った。


 それを知って、一体どうしたいのだろうか。

 ラララがそう思ってしまうような、意図不明の質問だった。


「…………」


 キリオが、黙り込む。

 そして、かすかにうつむいて目を伏せ、答えた。


「笑わせてしまったことだ」


 その声は、今日聞いた中では突き抜けて重苦しい声だった。


「あの日、それがしが皇位簒奪の罪で刑に処された日、マリエもまた民衆の前で処刑された。それがしは泣き叫んだ。やめてくれと懇願した。マリエだけは、と。だが、叫ぶそれがしへ、マリエは笑って言ったのだ。『ありがとうございました』と」


 それは、ラララも初めて聞く話だった。

 キリオの公開処刑の場に、彼女は行っていない。行けるはずがない。


 だから知らなかった。

 キリオとマリエの最期に、そんなやり取りがあったなんて。


「辛かったはずだ。怖かったはずだ。マリエにはそれがしを恨み、憎む理由など山ほどあったはずだ。それなのに、最期に出た言葉が感謝で、最期に見せたのが、笑顔だった。それをさせたのは誰でもない、それがし自身なのだ……」


 キリオの顔が、泣き出しそうに歪む。

 さすがにこれは、サティも何も言えずにいるようだ。


「おまえのときも同じだったよ、サティ……」

「え――」


 急に、キリオはサティのことを語り出す。


「おまえが病に伏せ、死を待つばかりとなったときも私は無力感に苛まれた。何もできない自分に絶望したよ。聖騎士などと、名ばかりは立派でもこのザマか、とな。好いた女一人救えぬ、無力で哀れな、情けない男。そう、自分をなじったものだ……」


 そのときのことを克明に思い出したのか、キリオがはらはらと涙を流す。


「キ、キリオ様……」

「口が裂けても、赦してくれなんてことは言えない。何もできずおまえを見送り、マリエを死に追いやって最期に笑顔にさせてしまう。私はそういう人間なんだ」

「キリオ様!」


 サティが、顔面を蒼白にしてキリオを抱きしめる。

 彼女もまた、その瞳に涙を浮かべている。


「ごめんなさい、私、そんなつもりで言ったのではありません。キリオ様……!」

「わかっているよ、サティ。わかってはいるんだよ、私も」


 キリオもサティを抱きしめ返し、その手で彼女の髪を撫でる。


「ただやはり、痛いな。己のなしたこととはいえ、痛いものは痛い、仕方がないが」

「私が、支えます。私が、あなたを支えてみせますから……!」

「ありがとう、サティ……」


 抱きしめ合う夫婦を見て、ラララは一問一答の終わりを悟る。

 もうそんなこと、やってられる空気じゃない。というのが理由の大半だが……。


「何か、なし崩しのうちに終わっちゃった……」


 そう呟きながら、佐藤に会いたいなぁ、と思う田中であった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 畳敷きの和室でキリオとサティが抱きしめ合っている、そのとき。

 宙船坂家のチャイムが鳴った。


「は~い、どちら様ですか~?」


 集が対応に出てドア越しに声をかける。


「ごめんください、こちら、宙船坂さんのお宅で間違いございませんでしょうか?」


 聞こえたのは、若い女性の声。

 誰だろうと思いながら、集はドアを開けてみる。

 すると、やや背の低い女性が、柔らかく笑ってお辞儀をする。


「宙船坂集さん、ですね?」

「ええ、そうですけど、あなたは……?」

「私、菅谷真理恵と申します」


 マリエが、来た。

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