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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十二章 史上最大の仕返し『冬の災厄』

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第289話 運命の時間は午後23時36蛻?シ托シ倡ァ

※文字化け部分はそういう演出です。

 運命の時間まで、あと5分。


「――エンジュ?」


 目の前に立つ、眼鏡をかけた長い三つ編みの少女。

 その手に提げているのは、飾り気こそないが、同じく穢れもない白木造りの刀。


 刀の名は『矛洛雲(ムラクモ)』。

 そして少女の名は、エンジュ・レフィード。

 ラララとタイジュの、一人娘である。


「ど、どうして……?」


 呆然となりながらラララが問う。

 だが、エンジュと呼ばれた少女はまるで父親のように無表情で、答えを返さない。


 タイジュに似たのか。

 いや、そんなことはない。ラララはちゃんと覚えている。


 異世界でのエンジュは、大人しくはあったがこんな無表情ではない。

 怒るのは少し苦手だったが、笑顔が世界一可愛い子だった。それが今は――、


「その、西洋剣型の異面体……、そうか、それが『士洛草(シラクサ)』」

「エンジュ……?」


 何を言っているのか、ラララにはわからなかった。

 エンジュは、ラララのシラクサを知っている。それが、初めて見るような反応。


「エンジュ、一体どうしたの……? 何で、あなたが……」

「馴れ馴れしい」

「え……」


「裏切り者のクセに、随分馴れ馴れしいわね、ラララ・バーンズ。初対面よ、私」

「しょ、たいめん……?」


 何を言っているのか、ラララにはわからなかった。

 本当に、目の前の少女が何を言っているのか、何で、そんなことを言うのか。


「ッぶねぇ!」


 声と共に、何かがラララのすぐそばで衝突する。

 片方は『戟天狼(ゲキテンロウ)』を展開し、割って入ったケント・ラガルク。

 では、もう片方は――、


「Shit! 邪魔しヤガッテ!」


 すぐそばから聞こえたのは、つい先日までよく聞いていた声だった。


「な……ッ!?」


 遠のいていく大きな女の姿。その髪の色は灰。その瞳は、野性を宿した狼の瞳。

 手にするのは、シラクサを一回り大きくしたような西洋剣型の異面体。


「……『牙煉屠(ガレント)』。お師匠ちゃん、サイディ・ブラウン!」

「今さらテメェに師匠呼ばわりサレル筋合イはネェナ、ラララ・バーンズヨォ!」


 瞬飛剣による奇襲だったのだろう。

 サイディはケントに阻まれ、そのままエンジュの隣まで移動する。


 エンジュは、サイディを守るようにして彼女の前に立つ。

 その光景が信じられず、ラララは、ただ立ち尽くすしかなかった。

 彼女が見ている前で、元師匠が自分の娘に何かを確かめるべく、声をかける。


「Hey、エンジュ。カルツ・ヴェートはスレイしたのカヨ」

「はい、《《ママ》》」


 え。


「Good、いい子ダゼ、エンジュ。ママのKissはいるかい?」

「やめてください、私はもう子供じゃないですよ、ママ」

「HAHAHAHA! ワタシからスレバ、テメェはガキサ、いつまでもナ!」


 は?


「ところで、ママ――、あの女」

「アア、そうダゼ、エンジュ。あれガ、ラララ・バーンズダ」

「ラララ・バーンズ……ッ」


 エンジュが、タイジュと等しいほどに愛しい娘が、ラララを睨みつけてくる。

 そのまなざしに宿るのは、強烈にして根深い怒りであり、憎悪だった。


「エ、エンジュ……?」

「気軽に呼ばないで、ラララ・バーンズ。おまえが――」


 ギリッ、と咬み合わせた奥歯を鳴らし、エンジュ・レフィードが刀を向けてくる。


「おまえが、私とママからタイジュパパを奪ったんだッ!」

「は、ぁ……?」


 開いた口から、魂が抜けていくかのような声が出た。

 何を言われたのか、わからなかった。

 何を言われたのか、全くわからなかった。


「わ、たしが……、ぅ、ば、った……?」

「下手な演技はやめなさい、ラララ・バーンズ! パパは返してもらうわ!」


 声をかすれさせるラララに、エンジュは厳しい調子でそれを宣言する。

 ラララの脳裏に、タイジュの顔が浮かぶ。

 それで、ショックに停止していた思考がやっと動き出す。


「違う、違うわ! 違うわよッ!」


 だが、思考が働いても、激情は炎となって胸中を噴き上げ、渦を巻いて荒れ狂う。

 この状況で、ラララが冷静でいられるはずがなかった。


「ふざけないでよ、サイディ・ブラウン! あなたが、エンジュの母親? バカを言うな! エンジュの母親は、私だ! この世界でただ一人、このラララだけだァ!」


 目に涙を溜めて絶叫するラララを、サイディはニヤニヤ笑って見つめている。

 それは、負け犬の遠吠えを聞いて愉悦に浸る勝者の笑みだ。


「この女、何を……? おまえが、私の母親って!?」

「アア、そうサ、エンジュ! 聞いたロ、このラララって女はこういうヤツダ! テメェ自身に強烈なマインドコントロールを仕掛ケテ、キャラを作り上げるノサ!」


「あ、危ない女だわ……。こんなヤツに、パパは……ッ!」

「だからワタシとテメェで救うんダヨ、ワタシ達の愛するパパヲ、タイジュヲヨ!」

「はい、ママ。私、がんばるわ!」


 エンジュが、ラララを憎々しげに睨みながら、サイディの言うことにうなずく。

 その光景を見せつけられて、ラララの理性が瞬時に焼き切れる。


「デタラメばっかり言うなァァァァァァァァァ――――ッ!」


 シラクサを手に、ラララがサイディへ考えなしの突撃を仕掛けようとする。

 しかし、それを後ろからケントが羽交い絞めにして止めた。


「タマちゃん、シルク、任せた!」

「はぁ~い、任された~!」

「やった、センパイと共闘だぁ~ッ!」


 異面体を展開し、白と黒の変身ヒーローがサイディ達に向かっていく。


「タマキ伯母さん、どうして邪魔をするんですか!」

「ヘヘ~ン、今のおまえに話す理由はないモンね~! このおバカ!」


 言い合う娘と姉の声を聞きながら、ラララが激しくもがく。


「放して、放してよケントさん! どうして止めるの!」

「おまえに死亡フラグが立ちっぱなしだからだよ、バカ! 相手は『剣聖』だぞ!」


「そんなの、関係ない! 私は、私はァッッ!」

「そんなだから止めるんだろうが、無策で突っ込んで勝てる相手かよ!」

「避難路、開けま~す!」


 ヒナタが、自身の『燦天燦(サンテンサン)』によって壁の一角に大穴を開ける。


「でかしたぞ、ヒナタちゃん。適当なところで戻ってくれていい!」

「はぁ~い、タマキお姉ちゃんにも伝えておくね~!」


 手を振るヒナタに手を振り返し、ケントはラララを抱えたまま大穴に突入。

 隣の部屋に入るなり『竜胆符(リンドウフ)』を使って『竜胆拠(リンドウキョ)』に転移する。


「よし」


 一息ついて、ケントはラララを床に下ろした。


「エンジュ、何で……、何で……」


 ラララは力なく座り込み、泣きじゃくっている。

 異世界とこちら、二度に渡る人生の中でも、ここまでのショックはそうそうない。

 ベクトルは違うが、タイジュに褒めてもらえたときに匹敵する衝撃だ。


「やれやれ……」


 泣いている自分を見るケントが、ふぅ、と息を漏らす。


「しっかりしろよ『田中の王子様』。凹んでるのはわかるが、凹みすぎんな」

「だって、だって……ッ!」

「同情はするが、尾を引くな。冷静になれ。いいか、必要なことを見極めろ。それ以外のことは切り捨てろ。おまえは今、明らかに『やられてる側』なんだからな」


 ケントは、決してラララを励まそうとはしなかった。

 だが事務的というワケでもない物言いで、ラララに言い聞かせようとする。


「あのエンジュって子は、おまえの娘なんだな?」

「……うん」


「だったら、その子を取り戻すために必要なことを考えるんだ」

「取り戻すため、に……」

「そうだ。あの子の様子を見ればわかるだろ。見るからに認識をいじくられてた。精神操作か、洗脳のたぐいだろう。正気じゃないなら、正気に戻してやれ」


 ケントの言葉は寄り添うようなものではない。

 だが、膝を屈して泣くばかりラララに、立つ力を与えてくれた。


「そう、だね――」


 ラララが、立ち上がる。


「何でエンジュがサイディと一緒にいるのかはわからない。でも、今のあの子はおかしくされてる。私は、取り戻さなくちゃ、私が。……母親の、私が!」


 涙に濡れた瞳に、決意の光が宿る。それを見て、ケントも笑ってうなずいた。

 部屋の壁掛け時計が音を鳴らしたのは、そのときのことだった。


 ボーン。

 ボーン。

 ボーン。

 ボーン。と。


 レトロチックな形の壁掛け時計が、そんな音を鳴らす。

 二人の視線が、時計の方に吸い込まれる。そして、異変に気付いたのは、ケント。


「あれ、おかしいな。まだ0時になってないのに、音が」


 時計の針は、23時36分18秒を過ぎたと縺薙m縲

 ついに、運命の時間が訪繧後◆縲


 これから起きる縺ョ縺ッ縲∫悄縺ェ繧九?主?縺ョ轣ス蜴??上?

 彼らの譛ェ譚・繧呈アコ繧√k?暦シ呈凾髢薙′縲√%縺薙↓髢句ケ輔r蜻翫£繧九?



  ◆ 笳???笳???笳???笳



 ――『宮廷』拠点、屋上。


 現時刻、午後23時35分。

 ケントが、ラララを連れてリンドウキョに一度戻った頃の話だ。


 冷たい雨が降っていた。

 12月の、年末も近い夜、彼は冷たい雨を浴びながら、自分自身と対峙していた。


「貴殿、何者でありますか……?」

「見ればわかるだろう? 私は君だよ。君も私ではあるがね」


 対峙するのは、二人のキリオ・バーンズ。

 一人は、二人目の妻マリエと行動を共にしていた、少年のキリオ・バーンズ。

 一人は、一人目の妻サティと行動を共にしていた、老齢のキリオ・バーンズ。


 片や、着慣れた学ラン姿で、片や、着慣れたスーツにコート姿。

 少年キリオは濡れた床に膝をついて、その腕に一人の女性を抱えていた。


 一緒に行動していたマリエ、ではない。

 腹にダガーを突き立てられて、今も大量の血を流しぐったりとしている彼女。


 その名は、サティアーナ・ミュルレ。

 キリオ・バーンズの、一人目の妻である女性であった。

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