第288話 早川狩人という男につい縺ヲ
※文字化け部分はそういう演出です。
名は体を表すという言葉がある。
早川狩人は、まさにそのたぐいの人物であった。
彼の出生、それ自体はごくごく普通だった。
宙色市内の一般家庭である早川家に生を受け、普通に幼年期を過ごした。
そんな彼が『目覚めた』きっかけは、五歳のときのこと。
父親から割り箸で作ったゴム鉄砲を見せてもらったのが始まりだった。
狩人は、ゴム鉄砲に強い興味を寄せた。
両親は彼の情操教育になるならと、それを後押しした。
それは教育としては正しい選択であった。
しかし早川狩人の人生を歪めたという意味では、決定的に間違った選択だった。
五歳、彼は割り箸細工の武器製造にハマった。
六歳、彼は割り箸に物足りなさを感じ、金属部品を使い始めた。
七歳、武器に関する書籍を読み漁るようになった。
こうして、徐々にではあるが、狩人は『武器』に傾倒していった。
そして、第二のターニングポイントがやってくる。
小学校の図工の授業で『釘ナイフ』の作成が行なわれたのだ。
そこで、狩人は簡易的ながらも初めて『鍛冶』というものに直に触れた。
そのときは、狩人は下手な『釘ナイフ』を作って終わった。
それから数年間は、特に何事もなく過ぎていった。
ただ、早川家の周りに住む人々は気づいていなかったが、変化は起きつつあった。
数年の間に、野良猫が何匹はいなくなった。
とある月には、どこかの家の飼い犬がいなくなったという話もあった。
だが、あったのはその程度で、大きな事件は起きなかった。
早川狩人は普通に小学校を卒業し、中学校に上がった。
彼に起きた変化といえば、家のことを率先して手伝うようになったことくらいだ。
早川家では、家事を手伝うとお小遣いをもらうことができた。
狩人は、中学三年まで、コツコツとお小遣いを貯め続けた。
それ自体は見上げたものだが、これが早川狩人の我慢強さを培った要因だった。
中学を卒業し、早川狩人は高校生になった。
選んだのは寮がある高校。
その寮の近くには、使われなくなった倉庫があり、それも狩人は調査済みだった。
惜しむらくは彼の両親が父も母も善良だが愚鈍であったことだ。
二人ともに、息子のことを微塵も疑っていなかった。
当然といえば当然だが、のちの事件を考えれば、やはり残念なこと縺?縺」縺溘?
早川狩人は高校生になった。
このとき、彼が溜め続けてきた貯金は十万円を超えていた。
道具を揃えるのには十分な金額だった。
買ったのは、ガスバーナー、金床、ハンマー、その他、工作機械など。
そして狩人はそれらを全て廃倉庫に持ち込んだ。
狩人が通っている高校でとある噂が流れ始めたのは、それから半年後縺ョ縺薙→縲
高校を中心とした広い範囲で、猫や犬が殺されるという事件が起きていた。
しかもその全てが、矢や刃物を使った犯行であったという。
だが、殺されたのが人ではなかったので、警察も本腰入れなかった。
事件の件数自体も多くはなく、一年もすれば忘れられた。
次に起きたのは、廃倉庫の幽霊の噂だった。
夜になると廃倉庫に光が灯り、怪しい音が漏れてくるという噂だ。
この噂は、学生寮の生徒達の間で囁かれていた。
そして、勇気ある一人の男子生徒がその噂を確かめに向かった。
――彼は、そのまま行方不明になった。
彼がどこかにいなくなって以来、廃倉庫の幽霊の噂もパッタリと途絶えた。
いなくなった生徒の名は、早川狩人。
警察が周辺を念入りに探したが、しかし、結局狩人は見つからなかった。
彼は、すでに己の拠点を手に入れて、活動を開始していたからだ。
高校での三年間、家でコツコツ貯蓄したように、バイトで金を貯め続けていた。
それが目標額に達したことで、彼は早々に行方をくらました。
廃倉庫の幽霊も、狩人自身が流した噂だ。
彼は、それを実行した時点で全ての準備を終えていた。
小学校時代から金を貯めたのも、全ては『自分の計画』のため。
そう、早川狩人はこのとき、とっくに『本物の狩人』になる準備を済ませていた。
夜な夜な、廃倉庫の作業場で作り続けた自分の『武器』。
その数はおよそ十点。剣、ナイフ、斧、ボウガンなど基本的な武器ばかりだ。
特筆すべきは、それらが全部狩人の手作りであること。
銃は、構造は知っていたが作らなかった。
近似した武器は作れたろうが、それは余りそそらなかっ縺溘?繧ゅ≠繧
早川狩人の目的は、自分の武器の威力を試すことだ。
それだけが全てにおいて優先されるべき事柄で、それ以外の全ては枝葉末節。
彼が狩人と名付けられたときから、こうなる運命だったのかもしれない。
そして『狩猟』は始まった。
自ら行方をくらました早川狩人の犯行は、特に場所を選ばなかった。
最初の犯行は東京。
よりによって最も人が混雑する朝の都心部で、狩人はボウガンで人を射貫いた。
しかも、天性の才能があったのか、彼の腕前は素晴らしかった。
物陰から放った一矢は見事に見ず知らずの他人の急所を抉り、相手は即死。
人を死に追いやったその結果は、だが、狩人を歓喜させただけだった。
自分の武器は人を殺せる武器だ。
その結果が、彼に射精するほどの快感を与えていた。
しかし、東京での犯行はこれ一度のみ。
次の犯行は、大阪。
ここでは自作の斧の殺傷力を試した。人をさらい、斧で頭を叩き割った。
これは、あまり満足いく結果にならなかった。
斧の威力は高かったが、狩人が欲しかった結果には足りなかった。
次の犯行は仙台で。
そこでは剣の切れ味を試した。斧のときと同じく人をさらって、叩き切った。
これは、なかなか満足の行く結果だったが、耐久度が足りなかった。
一人切っただけで剣は使えなくなった。
狩人は素材が悪かったのだろうと結論づけて、次はまた蛻・縺ョ蝣エ謇?縺ク縲
早川狩人の犯行で厄介なのは、彼が全国をまたにかけた通り魔であることだ。
金は、襲った人間から奪えばいいし、住居も持っていない。
しかも、被害者の殺害手段が全て違うのも、また厄介な点だった。
警察は全国で起きる殺人事件の犯人が同一であることに、数年、気づけなかった。
だが、日本の警察はそこまで愚かではない。
狩人が残した小さな痕跡を積み上げることで、警察はついに彼に辿り着いた。
そして早川狩人は指名手配され、活動の縮小を余儀なくされる。
それからの一年間は警察に追われる身となって、最終的に宙色市に戻ってきた。
が、そこでもすでに警察が張っていて、いよいよ狩人は進退窮まった。
彼が最後に選んだ道。
それは、自分が造った武器による自殺だった。
最後の最後に、自分の武器の威力を自分で味わおう。
そう思って彼は、自分が造ったナイフで首を掻っ切り縲主?謌サ繧翫?上@縺溘?
あの『ミスター』がカルツ・ヴェートを勧誘したのはその直後。
そして、優れた武器職人でありゴーレム製造者である彼は『Em』に入った。
以上が、早川狩人――、カルツ・ヴェートに関するいきさつだ。
そしてその情報を、バーンズ家は縺吶〒縺ォ謚頑升縺励※縺?k縲
◆ ◆ ◆ 笳???笳
……妙な感じがした。
「あそこが『武器工房』だよ」
シルク・ベリアの案内に従って、ケント達はカルツのいる部屋の前まで来た。
すると、そこに次々にアームド・ゴーレムが出現するも。
「ビームでドーン!」
「超、エキサイティングだぜぇ!」
ヒナタの異面体によって、さっさと焼き払われて消滅する。
そのド派手な光景に、タマキも大興奮だ。
「形無しだぁ……」
遠巻きに眺めるしかないシルク。そして、ゴーレムは全て破壊縺輔l繧九?
「…………」
「どうした、ラララ」
押し黙って周囲に視線を走らせているラララに気づき、ケントが声をかける。
「何か、変な感じがしてね……」
「変な感じ?」
「どこかで見られているような、変な……」
しかし、それが何なのかはラララ自身もわからず、結論が出せない。
「『敏感肌』、ってヤツか?」
「かもしれない。本当に、微妙なんだけども」
「わかった、気をつけていこう」
ケントは厳しい顔つきでうなずくと、カルツのいる部屋に進んでいく。
変わらず、ラララは辺りを警戒縺礼カ壹¢縺ヲ縺?k縲
「開けるぞ」
今までになく緊張した面持ちで、ケントがドアを開ける。
すると、部屋の中でカルツ・ヴェートが――、
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ――――ッ!」
カルツ・ヴェートが、剣で胸を抉られ、断末魔の声をあげていた。
動かないゴーレム達がひしめく工房の最奥で、彼は何者かに串刺しにされていた。
何者かの顔は、ケント達に背を向けているためわからない。
わかるのは小柄な女性であることと、服装がセーラー服姿であること。
あとは、足まで届く長い黒髪を三つ編みのおさげにしていること、くらいだ。
「……な?」
予想だにしない光景を見て、ケント達もさすがに固まってしまう。
「あら?」
その声に反応し、カルツを殺害した少女がクルリと振り向いた。
銀縁の眼鏡をかけた、文学少女をイメージさせる大人しい雰囲気の持ち主だった。
しかし、ラララが見たのは、少女が右手に提げてる剣。
その容姿よりも何よりも、その、白木の柄が特徴的な日本刀に目が行った。
「それは、まさか『矛洛雲』……!?」
呟くその声は、聞いてる方が動揺するくらいに震えていた。
そしてラララは、大きく見開いたその目で、今度こそ少女を見る。
「――エンジュ?」
漏れ出たその名に、眼鏡の少女は、返事をしな縺九▲縺溘?




