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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十二章 史上最大の仕返し『冬の災厄』

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第287.5話 ケント・ラガルクのやり方

 タマキの話を聞き終えて、シルク・ベリアがションボリしている。


「ううう……」


 ションボリしすぎて、声もない様子である。


「そ、そこまで沈む……?」


 これには、話をしたタマキの方が心配するほどであった。


「だって、タマキ大先生のお母さんを襲うとか、あり得なさすぎる……」

「大先生はやめろよォ!?」


 思わぬ不意打ちに、タマキが悲鳴をあげる。


「え、じゃあ、大師匠?」

「何で『大』をつけたがるんだよッ!」


「なら、先生」

「やだー! 何か勉強しなくちゃいけない感じがするからヤダー!」


「……師匠?」

「それも何かおじいちゃんみたいでヤだぞッ!?」


「…………センパイ?」

「あ、それいい!」


 散々ヤダヤダ言ってたタマキの表情が、一転してパッと輝く。

 シルクは、自分がタマキを笑顔にできただけでも大層嬉しかったらしく、


「タマキセンパイ!」

「いぇ~い、センパイだぜ、いぇ~い!」

「テンションたっけーな、タマちゃん……」


 シルクを前にダブルピースなどをカマすタマキに、ケントが若干の呆れを見せる。


「だってだって~!」

「はいはい。気持ちはわかるから、落ち着け?」


 両腕をブンブカ振り回すタマキをケントがなだめつつ撫でる。

 それを見て、ふと、シルクが一言、


「もしかしてあなた……」

「ん?」


「『宙色の次世代超新星ニュージェネレーション・スーパーノヴァ』郷塚賢人?」

「ぶっふッ!?」


 聞いたこともない異名に、ケントが噴いた。


「その反応、やっぱり! 『喧嘩屋ガルシア』の彼氏って話、本当なのね!?」

「そ~だぜ~! ケンきゅんはオレの、か、か、か、か、彼氏……、なんだぜ~!」


 ケントが激しく咳き込んでいるところに、タマキが恥じらいつつ腕を絡めてくる。

 ラララとヒナタは、ケントの異名を聞いて腹を抱えて笑っている。


「アハハハハハハハハ! 何だい、そのハイセンスなニックネームは!」

「うるせェなッ! 『田中の王子様』なおまえにだけは言われたくねぇよッッ!」


「いいなー、私もそういうの何か欲しいなぁ~!」

「ヒナタちゃんは『火にして陽』とかあるでしょ~!?」


 怒鳴ったりわめいたりして息を切らすケントの頭を、タマキが「よしよし」する。


「もう、何なんだよ……、一気に疲れたわ……」

「え、自分で名乗ってたんじゃないの?」

「名乗るかァ!? いくら何でも、その異名はセンスを疑うわ!」


 不思議そうに言うシルクに、落ち着きかけた呼吸を再び乱して、ケント大絶叫。


「何か、苦労してそうなのね……」

「主にここにいねぇ自称弟子のバカのせいだよ。キリオとかいうバカのよ~……」


 そこはかとない同情を見せてくるシルクに、ケントはガックリと肩を落とす。

 そうだ、自分がこんな扱いを受けるようになったのは、あのバカのせいだ。


 元はといえば、キリオがタマキに果たし状など送るからこうなったのだ。

 それが、あの百人以上いる中での『タマキの彼氏宣言』に繋がってしまった。


 だから、ぜ~んぶキリオのせい。

 帰ったら全力での八つ当たり確定である。と、


「……キリオ?」


 そこで、シルクが妙な反応を見せる。


「『喧嘩屋』を知ってるならそっちも知ってるか。『黒鉄の風紀委員長』とかいう」

「ああ、伊集院霧生(いじゅういん きりお)かぁ……」


「苗字がすでにナマイキだよな、あいつ」

「ケントの義兄(あに)クン、さすがにそれは言いがかりすぎるよ?」


 ラララにたしなめられてしまった。


「ん? う~ん、キリオ、キリオ……?」

「何だよ、シルク・ベリア。キリオに何かあるのかよ?」


 シルクは、妙にキリオを気にしている。風紀委員長以外に何があるというのか。


「わからない、けど……。何か、他にどこかで聞いたことがあるような……」

「何だァ、そりゃあ?」

「だからわからないってば。思い出せないのよ!」


 歯切れが悪いシルクは、結局すぐに考えるのをやめる。

 ケントも、思い出せないならその程度のことだろうと納得し、追求はしなかった。


「ところで――」


 通路の先を見て、ヒナタが皆へと話しかける。


「あれ、どーするー?」


 彼女が指さしたのは、通路の先から迫ってくる無数の人影だった。

 人間、ではない。人間は、頭の真ん中から円形ノコギリを生やしたりはしない。


「『騎士団長』謹製のアームドゴーレムの群れ、だね……」


 シルクがすぐさま警戒を示すが、ラララが軽い調子でヒナタに指示を下す。


「ビームでドーン! で!」

「はぁ~い、ヒナタ隊員、ビームでドーン! しまぁ~す!」


 敬礼するヒナタの頭上に真っ白に燃え盛る小太陽が出現する。

 ヒナタの異面体である『燦天燦(サンテンサン)』だ。


「ビームでドーン!」


 ヒナタがゴーレムの群れを指さすと、サンテンサンが輝き、極太ビームを発射。

 真っ白い光線が、通路を埋め尽くすゴーレムの群れを一瞬で蒸発させる。


「う、うわぁ……」


 構えかけていたシルクが、圧倒的破壊力を目の当たりにして小さく呻く。


「ラララ隊長、ビームでドーン! 完了しました~!」

「うむ、ヒナタ隊員、ビームでドーン! ご苦労! いぇ~い!」

「いぇ~い!」


 ヒナタとラララが、唖然とするシルクの横でハイタッチをしている。楽しそう。


「あれが『最終兵器』のヒナタちゃんかぁ……」


 実はサンテンサンを初めて目にするケントも、シルクと似たような心持ちだった。

 見た目、タマキの『真打』以上に喰らいたくねぇわ、と思ってしまう。


「さて……」


 ケント達は近くにあったドアを開け、部屋に入るとドアの内側に金属符を貼る。

 それは、ただの金属符ではなく『竜胆符(リンドウフ)』。

 バーンズ家の今回の拠点であるヒメノの『竜胆拠(リンドウキョ)』に繋がる金属符だ。


「よし、戻ったな」


 部屋は、リンドウキョ内に幾つもある使われていない一室。

 そこにタマキ達四人を待たせて、ケントはアキラに向けて魔力念話を飛ばす。


『やいこら、団長』

『うぉ、ビックリした! 何、何ですか!?』


 驚きにトーンを跳ね上げるアキラの声が、タマキ達にも聞こえる。


『えー、こちら『騎士団』拠点攻略真っ最中のケントと愉快な仲間達です』

『お、おう……。何、どしたん?』


 いきなりのケントからの連絡に、アキラも困惑を隠しきれずにいる。


『『騎士団』の一人のシルク・ベリアがタマちゃんの弟子になりました』

『……何て?』


『『騎士団』の一人のシルク・ベリアがタマちゃんの弟子になりました』

『…………オイ』


 繰り返される報告に、やっと認識が追い付いたのか、アキラの声色が変わる。

 それを聞いたシルクの顔つきが、一瞬で恐怖に染まる。

 アキラの短い一声には、それだけの強烈な『威』が込められていた。


『オイ、じゃねーわ。何をエラそうに怒ってんだ、七歳児』


 しかし、ケントは小指で片耳をほじくりながらめんどくさそうにそう返す。


『文句あるならおまえが攻略代われよ、アキラ。こっちはこっちの判断でやってんだよ。むしろ報告するだけありがたいと思ってもらいたいモンですねぇ~』

『……ケント、おまえ』


 タマキ達にも、怒気を孕んで硬くなっていくアキラの声は聞こえている。

 ラララなどはすでに戦々恐々というていだが、ケントは態度を変えようとしない。


『ダイスを使ったケジメの取り方。俺が死んだあとで、あんた、あんな方法採用してたんだな。全く、えげつねぇこと考えますよね、団長らしいっちゃらしいけどよ』

『その言い方、じゃあ、シルク・ベリアは……』


『八十六回だ。俺達は、いや、タマちゃんはそれでシルクのケジメとしたぜ』

『……そうかよ』


 アキラの物言いがつっけんどんになる。

 その一言一句に、タマキもラララも、ヒナタでさえ、身を強張らせ汗している。


『不服そうだがね、団長。言っておくがこっちは負ける要素が見つからないぜ? 何せ、あんたの長女と五女と末っ子が味方にいるし、何なら、女将さんにリリスさんも味方につけちゃえる自信があるんだよなぁ~、俺。あ~、負ける気がしねぇ~!』

『わかったわかった……!』


 ついに、アキラが音を上げた。勝利を確信したケントの顔が大きく破顔する。


『ったく、わざわざタマキ達を安心させるためにこんな念話寄越しやがって。仕返しが済んで、ケジメもつけたってんなら、俺は何も言わねぇ。そこは現場に任すよ』

『あららら、見抜かれてら』


『おまえがタマキに対して過保護なのは俺が一番よく知っとるわ!』

『そりゃあ何せ、俺はタマちゃんの彼氏ですから~! アハハハハハハ!』

『くたばれ、バカ彼氏バカ! それじゃ念話終わンぞ! 仕返し続行、よろ!』


 そして、アキラの方から念話が切られた。

 部屋の中に、余韻めいたものを残しつつも静寂が戻ってくる。


「う~っし、報告完了。そんじゃ、戻るか~」

「あ、あの……!」


 軽く伸びをするケントに、シルクが何かを切り出そうとしてくる。


「ありがとう、ございます……」

「ああ、いいよ。気にすんな。おまえがタマちゃんの弟子なら、俺の身内さ」


 深く頭を下げてくるシルクに、ケントは手をヒラヒラ振って軽い声で返した。

 そこに、横からタマキが残像ができる速度でまっすぐズドーン!


「ケンきゅんカッコよかったァァァァァァァア~~~~!」

「げっふぅ~!?」


 ケント・ラガルク、くの字! ケント・ラガルク、真ん中からくの字です!


「やっぱケンきゅんは最高だぜェ~! すっげぇカッコよかったぜェ~!」

「あ、そ、それはよかった……」


 床に倒れ込みながら、ケントは息も絶え絶えに何とかタマキにうなずいた。


「素晴らしい! さすがだね、ケントに義兄クン!」

「うんうん、今のは私もちょっと『カッコいいな~』って思っちゃったよ~」


 ラララは拍手し、ヒナタもケントを褒めちぎる。

 すると、タマキは途端にプリプリし始めて、ケントの首に両腕を回した。


「ダメだからな! ケンきゅんはオレんだかんな! 誰にも渡さないかんなぁ~!」

「あの、タマちゃん、む、むね、むね……ッ」


 しっかりと胸板に押し付けられたタマキの胸の感触に、ケントが硬直する。

 アキラに毅然たる態度を貫こうとも、ケントは所詮、エロ猿な中坊なのであった。


 ――『騎士団』拠点攻略は、続く。

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