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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十二章 史上最大の仕返し『冬の災厄』

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第286話 眉村絹の奮闘

 二人の異面体(スキュラ)は、とても似通っていた。


「――神威雷童(カムイライドウ)!」

威烈風羅(イレツフウラ)――!」


 純白の装甲に、首に巻かれた漆黒のマフラー、タマキの異面体、カムイライドウ。

 漆黒の装甲に、首に巻かれた純白のマフラー、シルクの異面体、イレツフウラ。

 共に自己装着型で、全体の造形も似通っている。


「わ、何かオレとそっくりだー!?」


 と、タマキ自身も驚くくらいに、二人の姿には共通点が多かった。

 シルクが笑う。


「アハハハハハ、本当! 本当にそっくり、何の因果かな?」


 笑いながら、シルクは両足を少し広げる。

 それだけで立ち姿は変わらないが、全身から放たれる『威』が一気に増大する。


「へぇ……」


 それは、タマキをも感心させるほどのもので、彼女もまた同じく両足を少し広げ、


「いいじゃん、わかってるじゃん」


 同じく『威』を放ち、その声からも軽薄さが消える。


「わぁ……」


 向かい合う二人を遠巻きに眺めているヒナタが、気圧されて小さく呻く。

 近くで見ているケントも軽く眉間にしわを集めて、


「マジかよ、あのシルクとかいう女」

「タマキの(あね)ちゃんに負けず劣らずの圧とはね。これは面白い」


 タマキと同じく『戦う者』である二人は、その身でビシビシと感じていた。

 シルクから感じられる力は、タマキとほとんど相違ない。


 彼女の、あのタマキそっくりの姿は単なるモノマネではない。

 今の時点で、すでにケントとラララはそれを察している。


「…………」

「…………」


 白と黒の仮面戦士は、構えも取らずに向き合ったまま沈黙を保っている。

 いや、構えている。すでに二人は、構えを取っている。


 足を広げ、重心をやや下に置いたこの立ち姿こそ、最も柔軟に動ける構えなのだ。

 そうして十秒ほど経って、


「こっちから行かせてもらうよ!」


 先に動いたのはシルク。仮面の奥から笑っている気配がタマキに伝わる。

 加えて、シルクの小さな呟きも耳に届いた。


「――答え合わせ」


 次の瞬間、シルクはタマキの懐の中にいた。

 それを見て、ケントが気色ばむ。


「……まさか、あれはッ!?」


 見覚えがあった。

 体勢はそのままに、瞬間移動したかのようにさえ映る、超速の動き。

 遅れて気づいたラララが、その歩みの名を呟く。


「『縮地』か……ッ!」


 シルクが、ほとんど予備動作なしに左拳を真っすぐ打ち込む。

 反応したタマキは頭を後ろに引きつつ、右腕で拳を受け止めにかかる。グチャッ!


「タマちゃんッッ!」


 受け止めたタマキの右腕が、千切れ飛んだ。

 カムイライドウの装甲は、ヒナタの異面体のビームに十秒以上耐える強度を持つ。

 それが、まるで意味をなさない。


全快全癒ヒール・パーフェクション!」


 タマキは全回復魔法で即座に傷を癒すも、一度後方に跳躍して間合いを空ける。


「ふぅ~、ビックリしたぁ~!」


 息を吐き出すタマキの前で、シルクが諸手をあげて跳び上がる。


「やった、やったやった! 私の拳が『史上最強の生物』に効いたわ! 私の考えは間違ってなかった! やっぱりこれが『真打(しんうち)』なんだわ! やったぁ!」

「……嘘だろう?」


 聞いてたケントが、軽く唸る。

 しかし、確かに今シルクが見せた一撃には見覚えがあった。

 最短軌道を最速で撃ち抜く、最強の威力を持った必殺の一撃。――『真打』だ。


「驚いたぜ」


 タマキが、素直にシルクを称賛する。


「異世界じゃ、オレと同じ技を使えるヤツなんて一人もいなかったのによ」

「そうよね? そうでしょ? だから三百年後の世界じゃ、あなたが『真打』を使ったっていう話も半ば信じられてなかったの。でも私は信じてた。あなたは『真打』を使えるんだって、ずっと信じてた。そして並びたくて、必死に鍛錬を積んだのよ!」


 自分が『真打』を使えたことがよっぽど嬉しいのか、シルクは饒舌になる。


「これで、私は『史上最強の生物』に並んだのよ!」

「へぇ、並んだ。……並んだ、か」


 喜び跳ねるシルクに、タマキは含みのある物言いをして、首をかしげる。


「いいのかよ。……並ぶ程度で」

「――そう、ね」


 シルクの気配が膨れ上がる。その刺々しさは、ヒナタが息苦しさを感じるほど。

 だが、シルクの声は、歓喜に溢れていた。


「並んだからには、越えていかなくちゃねェェェェェェ――――ッ!」

「その意気や良しってな!」


 タマキとシルクの姿が、共に消える。

 そこから展開するのはまるで漫画のバトルシーンのような光景。


 互いに、打ち合う音だけを響かせ、時々残像を刻みながら、されど姿は見えず。

 床が凹む。壁が砕ける。天井にすら衝撃が響く。


「わわッ、あわわわ……!」


 目まぐるしい攻防かすらわからずに、ヒナタが声をあげる。

 ケントとラララは目だけで二人の攻防を追いながら、


「すごいな、あのシルク・ベリアって女……」

「ああ、三百年後の異世界にタマキの姉ちゃんに匹敵する武闘家がいるとはね」


 二人の目から見ても、タマキとシルクの実力はかなり拮抗している。

 互いに、繰り出す攻撃は全て最小挙動からの必殺を誇る『真打』で防御は無意味。

 打ち合う音は、攻撃前の牽制を捌く際に発生していた。


「……全快全癒ッ!」

「全快全癒……ッ!」


 ここまで実力差が小さいと、互いに全の攻撃を回避というわけにはいかない。

 拳によって相手の腕がちぎれ、蹴りによって相手の腹が抉れる。

 だが全回復魔法によってダメージは消え去り、何事もなかったように戦いは続く。


 戦いが一分以上も続いて、ケントもラララも気づいてくる。

 シルクは、動きまでもタマキに似通っている。


「随分とタマちゃんにこだわりがあるみたいじゃないか、あの女」

「そうだね。そっくりそのままというワケではない。自分なりのアレンジも施されてはいるけど、技の起こりや諸々の所作が、タマキの姉ちゃんに近いよね」


 二人の見立ては、まさしく当たっていた。

 こちらで眉村絹が『喧嘩屋ガルシア』に憧れ、妬んでいたのと同じだ。

 異世界でのシルク・ベリアは『史上最強の生物』タマキ・バーンズに憧れていた。


 三百年後の異世界では伝説と化しているバーンズ家。

 その中でも、シルクは『史上最強の生物』タマキの逸話に特に心を惹かれた。


 長らく続く武の歴史の中で最強と謳われたタマキ・バーンズ。

 その存在に憧れて、シルクも武闘家の道を志した。

 そして自分なりに推論を重ね、鍛錬を積み上げ、ついに本物の『真打』に至った。


 彼女の執念は、実際に大したものだろう。

 三百年も前の人間への憧れを原動力にして、武の極致にまで至ったのだから。


「アハハハハハハハッ! すごいよ、強いよ! さすがだね、タマキ・バーンズ!」

「おまえも強いぜ? 異世界で戦った人間の中じゃ、一番強いかもな!」

「でしょ? でしょ? そうよ、私は強いのよ。あなたよりも、誰よりも!」


 互いに必殺の一撃を交わしながら、二人の武闘家が言葉も交わす。

 それをしっかりと聞きながら、ケントは「ああ」、と、小さく一声漏らす。


「……異世界で戦った《《人間》》、ね」

「ま、そういうことだね」


 ラララも肩をすくめていた。

 一人気づいていないヒナタが二人を見上げる。


「どーゆーことー?」

「簡単なことだよ、ヒナタちゃん」


 ケントが説明する。


「異世界で戦うのは、人間だけじゃない。ってことさ」

「あ、そっか~!」


 ヒナタも、言われて気づく。

 そうだった。異世界には人間以外の脅威が、数多存在するのだ。


「なぁ、ラララ。もしかしてだけどよ――」

「何だい、ケントの義兄(あに)クン?」

「『真打』と『縮地』が、タマちゃんの底、じゃないのか?」


 問われ、ラララはそれに対する答えは返さずに、全く別の話を始める。


「ケントに義兄クンは、どうしてタマキの姉ちゃんが異世界で『史上最強の生物』と呼ばれてるか知ってるかい? このラララもジュンの義兄クンに聞いたんだけどね」

「ん? いや、知らないけど、何だよ。何かあるのか?」

「考えてみてくれたまえよ、タマキの姉ちゃんが強いとはいえ、パパちゃんには勝てないんだぜ? それに搦め手とか、苦手分野がないワケじゃない」


 言われてみれば、と、ケントは思う。

 アキラの使うマガツラに、タマキは勝てない。だが、最強の名はタマキが持つ。


「……そう呼ばれるに値する何かを、タマちゃんが持ってるんだな?」

「君、本当にタマキの姉ちゃんのこととなると速度が上がるね。身も心も、頭の回転も。だけどその通りだよ。異世界人類史上、姉ちゃんだけが成し遂げた偉業がある」

「な……」


 異世界人類史上、タマキだけが。

 その、あまりにも大げさな物言いに、さすがにケントも驚きを隠せない。


「俺が死んでる間に、タマちゃんは何をしたんだ?」

「タマキの姉ちゃんはね――」


 と、ラララが言いかけたところで、タマキとシルクの戦いにも変化が生じる。


「うん、よし、大体わかった!」


 タマキが、シルクとの攻防を一旦ストップして、そんなことを言い出す。


「どうしたの? ねぇ、早く続きしようよ。私の全身が、あなたを越えろって騒いでるの。ねぇ、だからもっとしようよ、もっともっと、ぶつかり合おうよ!」


 シルクが身を震わせて叫ぶが、タマキは冷静な声でそれを遮る。


「いや、もうわかったよ。このままじゃオレは勝てない」

「……は?」

「オレはおまえに勝てないし、おまえはオレに勝てない。千手観音だ!」


 千日手である。


「何、言ってるの? 勝負がつかないなら、何なの? まさか引き分けとか――」

「《《本気を出す》》」


 タマキのその言葉に、シルクはさらに脱力して「は?」と抜けた声を返す。


「まさか、今まで力を抜いてたと、でも……?」

「いや、十分本気だったぜ。ただし、武闘家としての本気な!」

「はぁ……?」


 全く理解できない様子でいるシルクを眺めながら、ラララはケントに言った。


「タマキの姉ちゃんはね、史上唯一、《《神を滅ぼすことに成功したんだよ》》」

「……は?」


 ケントが見せた反応はシルクとほとんど変わりなかった。

 異世界に実在する上位存在『神』。それを殺したとなれば、確かに偉業ではある。


 しかし、ケントが知る限り『神殺し』を実現した人間はごく少数だが存在する。

 それに神は不死であり、死しても時間を置けば復活――、いや、待て。


「《《殺す》》じゃなく、《《滅ぼす》》。そう言ったか、ラララ……!」

「その通りだよ、義兄クン。滅びた『神』は復活しない。滅びとは真なる死だよ」


 語っているラララの頬を、汗が伝い落ちていく。

 同じく、聞いているケントの頬にも。

 二人は硬い顔つきのまま、再びタマキとシルクの方を見る。


「嘘でしょ、タマキ・バーンズ。勝てないからって、そんな嘘、何になるの!?」

「嘘じゃねぇって、いいから来いよ。ちゃんと見せてやるから」


 自分の話を信じていない様子のシルクに、タマキはそれだけを返して構えを取る。

 不思議な構えだった。

 足を曲げ、身を低く保ち、左足を突き出して身を傾け、右拳だけを握る。


 左腕は力を入れず垂れ下げたまま、右腕を腰溜めに構える。

 ただ、右手で殴るためだけの構えだと、シルクは一見して看破する。


「何、その無様な構え。何、その理合いから外れた構え……!?」

「いいから来いって。そっちが来ないなら、こっちから行ってもいいんだぜ?」

「き、来てみなよ! そんな構えから、何ができ――」


 シルクが言い終える前に、タマキは彼女の目前にいた。

 それは『縮地』――、ではない。

 これまでタマキが見せていた『縮地』よりもさらに数段速い。理外の速度。


「は、速……ッ!?」

「おとしゃんはこれをこう呼んだよ『莫迦駆(ばかがけ)』って」


 シルクの懐の中で呟くタマキの白い装甲に、ビシビシと亀裂が入る。

 そこまでの力を振り絞った、全力全開の超速移動。タマキにしかできない、力業。


「そして、これが……ッ!」


 握り込んだ拳に、タマキの全ての力が注がれる。魔力も、生命力も、全て。

 それは、最大効果がある箇所を見切って、最短の軌道で最速で打ち込まれる最強の一撃。を、さらに超える、一撃必殺ならぬ一撃必滅を実現しうる――、


「『神討(しんうち)』だァァァァァァ――――ッ!」


 放たれた拳が、シルクのみぞおちに深くめり込む。


「ぁ……」


 そして、その身を覆う漆黒の装甲全体に亀裂が入り、あっけなく砕け散った。

 生身に戻り、吹き飛ぶシルク・ベリア。


「ふぅ~……」


 だが、タマキは追撃を仕掛けず、殴った格好のまま息を吐き出す。

 彼女もまた、殴った右腕から顔の右半分にかけて、装甲が砕けてしまっていた。

 目と耳と鼻から、血が流れている。


「……びくとりぃ!」


 それでもタマキは、ケントとラララに向かって、勝利のVサインを掲げてみせた。

 まさに『史上最強の生物』の名に恥じぬ勝利であった。

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