第273話 敵対組織『Em』に関する調査ファイル
――スダレ・バーンズ、記す。
バーンズ家対立組織『Em』。
主な活動地域――、宙色市、天月市、星葛市、他。
本拠地――、部門ごとの本拠地は宙色市内に計四カ所が点在。総本拠地はなし。
・構成員
主要構成員は『出戻り』、総勢11名。
リーダー『ミスター』とNO.2『ミセス』については個人特定に至らず。
残り9名の構成員については下記を参照のこと。
・組織構成
敵対組織『Em』の組織構成は主に三部門に分かれる。
魔法アイテムの研究・開発を行なっている『技術部門』。
この部門は別名『工房』と称されていることを確認。
活動資金の捻出、各部門本拠地の管理を行なう『運営部門』。
この部門は別名『宮廷』と称されていることを確認。
有事の際に直接的な戦力として運営される『戦闘部門』。
この部門は別名『騎士団』と称されていることを確認。
※その他、組織運営に必要な外部交渉などは『ミセス』が担当してた形跡あり。
時間内の調査では確証までは得られず。
・組織規模
敵対組織『Em』は少数精鋭組織であり、全て『出戻り』で構成されている。
組織を構成する三つの部門は、それぞれ三名の『出戻り』が所属している。
・組織構成員詳細
敵対組織『Em』を構成する11名のうち9名の詳細を下記に記載する。
・技術部門『工房』構成人員
・レンジ・カルヴェル/柏木蓮司
36才、元化学教師。薬物の窃盗により勤め先の学校を免職される。
薬物に対して異常な執着を持ち、毒で苦しむ他人を観察するのが趣味。
錬金術師として一時期、ジルー・ガットランと協力関係にあった。
・ミサキ・リュークト/嘉村水咲
29才、元宗教団体代表。宗教団体を運営し、多額の金銭を稼いだ。
いわゆる『霊感商法』詐欺により多数の人間から訴えられており、逃亡中。
異世界ではとある教団の司祭職を担っていた。マリクを敵視している。
・ジオ・ランカッツ/浦川地雄
8才、小学三年生。『工房』を統括する『工房主任』。
自ら『実験』と称した悪戯により、ペットや野良猫などを殺した経験あり。
異世界においては合成獣の研究で知られていた。
・運営部門『宮廷』構成人員
・サラ・マリオン/真柴紗良
17才、女子高生。『パパ活』をしており、多数の男性と関係を持つ。
金銭に異様な執着を見せており、金銭を管理することを何より好む。
異世界においてはとある商会の女店主を務めていた。ユウヤの実の母親。
・ライト・セルジオ/関頼人
26才、会社員。大手不動産会社勤務。仕事ぶりは真面目で成績優秀。
優秀な『盗聴犯』であり、多数の物件に盗聴器を仕掛けている。
異世界においては多数の情報を取り扱う『隠密』の一族の当主だった。
・ユキコ・ガルセル/隈川由紀子
40才、主婦。『宮廷』を統括する『宰相』。
日常ではごくごく普通の主婦だが、実質上『Em』の運営を行なう権力者。
異世界においてはシンラに滅ぼされたガルセル帝国の皇族だった。
・戦闘部門『騎士団』構成人員
・ガレン・バーゼル/高坂我蓮
29才、元暴走族。『堕悪天翼騎士団』初代ヘッド。
学生時代から犯罪を繰り返し、少年院と刑務所に複数回服役。現在無職。
異世界においては巨人の血をひく一族最強の戦士だった『人外の出戻り』。
・シルク・ベリア/眉村絹
14才、女子中学生。『喧嘩屋ガルシア』のフォロワー。大ファンらしい。
小学生の頃から強い暴力性を見せ、『出戻り』前に実質二人殺している。
異世界においては世界に名を馳せた武闘家だった。『未来の出戻り』。
・カルツ・ヴェート/早川狩人
32才、連続殺人犯。『騎士団』を統括する『騎士団長』。
自作武器の威力を試すことを生き甲斐としており、人間は獲物でしかない。
異世界においては優れた武器職人であり、同時に歴戦の傭兵でもあった。
・組織拠点について
敵対組織『Em』の拠点は宙色に二か所。天月に一か所。星葛に一か所。
そのうち宙色市内の一か所は『共同拠点』であり、会議などに使用される。
各部門の拠点については下記参照。
・『工房』拠点
星葛市郊外のビル。住所:星葛市――、
三階建てだが魔法アイテムによって内部が実質迷宮化している。
また『工房主任』が造り出したキメラが多数徘徊している。
内部構造は下記図を参照のこと。
・『宮廷』拠点
天月市繁華街のビル。住所:天月市――、
五階建て。魔法アイテムによって内部が実質迷宮化している。
また『隠密当主』が設置した無数の罠によりトラップタワー化している。
内部構造は下記図を参照のこと。
・『騎士団』拠点
宙色市住宅地の一軒家。住所は――、
二階建て。魔法アイテムによって内部が拡張されている。
また『騎士団長』が想像した武器内蔵型ゴーレムが多数配置されている。
内部構造は下記図を参照のこと。
・リーダー『ミスター』について
調査するも男性であること以外、詳細不明。
超強度の情報隠蔽能力を持つ古代遺物所持の可能性大。
現時点で判明している情報:異空間創成の古代遺物『金色符』所持の可能性大。
・NO.2『ミセス』について
調査するも女性であること以外、詳細不明。
超強度の情報隠蔽能力を持つ古代遺物所持の可能性大。
現時点で判明している情報:外部との交渉、折衝を担当していた。
・先代『剣聖』について
先代『剣聖』サイディ・ブラウンは『Em』に合流した可能性大。
ただし、今回の調査範囲内で発見することはできず、現在行方不明。
おそらくは『ミスター』、または『ミセス』に同行しているのではないか。
・その他、特記事項
現時点で『ミスター』、『ミセス』、サイディ・ブラウンの現在地は不明。
その他の構成員9名は各部門の拠点に在籍中であることを確認済み。
また、世界各地の『Em』と関わりを持つ組織について詳細は下記参照――、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
配られたスダレの調査報告書を、俺達は読み進める。
「……えぇ、ユウヤさんの実母!?」
「ほぉ、ガルセル帝国とは、何とも懐かしい――」
「見て見て、喧嘩屋フォロワーだってよ、ケンきゅん! で、フォロワーって何?」
そこに記載された9人の情報の中には、俺達とも関わりがある名が幾つか。
全員ではないが、俺も知っている名前も何個もあった。
「しかしこいつは、あれだな……」
構成員の情報を読み進めて、俺は思ったことを口に出す。
「大体どいつも、経歴がクソだな」
「そういう人間をぉ~、積極的に集めたみたいだねぇ~」
報告書を作成してくれたスダレが、自分の私見を述べる。
「リーダーの『ミスター』がぁ~、そういう『居場所のないロクでなし』に居場所を与える形で『Em』に勧誘したっぽいかなぁ~って。ウチは思うよぉ~」
「多分、その推測は当たってるだろうな……」
しかし、リーダーの『ミスター』とNO.2の『ミセス』か……。
「『ミスター』とかの情報は、調べられなかったんだな?」
「うん~、悔しいけどねぇ~」
アップデートしたスダレで調べられないなら、今はひとまず放置だな。
まずは仕返しできる相手に仕返ししてからにしよう。いずれ必ず追い詰めるが。
「さて、それじゃあこれからの動きについて指示するぜ。おまえら」
大きな会議室で、俺は場にいる皆に指示を下していく。
報告書に記載されている9人は一人も逃さない。今日、これから死んでもらう。
「ここにいる面子を四つに分ける。対『工房』班、対『宮廷』班、対『騎士団』班、後方支援を担当するサポート班だ。三カ所の拠点を、同時に攻撃する。異論は?」
俺はそう告げてしばし待つ。
しかし、異論も反論も、一つもあがらなかった。
「OKだ。それじゃあ――」
俺は位置を目を伏せて、すぐに目を開けて行動開始を告げる。
「『Em』を滅ぼせ」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」
今、このときより『Em』の黄昏が始まる。