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第271話 準備、準~備、準備だ、準備ィ~♪:前

 お袋が帰って来まして。


「あらあらあらあら、アキラさんのお母様ですのね、初めまして~」

「まぁまぁまぁまぁ、ミフユちゃんのママさんかい? こちらこそ初めまして~」


 ママさん同士のご挨拶が始まっちゃったよ!


「ウチのミフユちゃんがお世話になっておりまして、ありがとうございます。これまでご挨拶もできず、お恥ずかしい限りです。これから仲良くしてくださいませ」

「いえいえ、こちらこそ、ミフユちゃんには本当にウチのアキラがよくしてもらってて、こちらこそありがとうございます。アタシの方も仲良くしていただければと」


「そういえば、アキラさんのお母様はあちらの世界では傭兵をしていらしたのでしたね。『竜にして獅子』といえば私でも知っておりますわ。今度、いつかの席にお母様のお話などお聞かせいただければと思っておりまして――」

「まぁまぁ、そんな! こちらこそ『天空娼館ル・クピディア』の女店主のお名前は何度も伺っておりまして、それこそアタシの方がお話をお聞きしたいくらいですよ。……そうですねぇ、今度、都合をつけてご一緒にお茶などいかがですか?」


「まぁまぁ、アキラさんのお母様にお誘いいただけるなんて、何て幸運なんでしょう! これはとてもではありませんが、お断りできませんね。是非!」

「あら、嬉しい。勇気を出してお誘いしてよかったわぁ。それじゃあ、こちらでスケジュールを確認しておきますので、失礼ですが連絡先など……」


 す~ごい勢いでお茶会の約束とりつけちゃいましたわよ、このママ×2(男女)。


「あ~、鼻の奥が痛いのよ……」

「泣き過ぎだろ。笑うわ」

「な~んにも笑えないのよねぇ……」


 リリス義母さんに抱きしめられ、散々泣いたミフユが部屋を出てくる。

 場所はアパート敷地内、ミフユの部屋の玄関前。

 そこで、リリス義母さんとお袋が、互いにペコペコ頭を下げあっている。


「……しっかしマジかー、リリス義母さん、サイディの逆パターンかー」

「どうでもいいわよ、そんなの。リリスママはリリスママなんだから」

「それはそーね」


 配達のお兄さんなままのリリス義母さんを前に、ミフユは朗らかに笑っている。


「本当はよー」

「何よ?」


「リリス義母さんを探して、おまえの誕生日に会わせようと思ってたんだよな」

「え……?」


 もう無駄になってのでそれを言うと、ミフユがちょっとした驚きを見せる。


「そ、そんなこと考えてたの、あんた……?」

「おう。約束したからな。探すって」


 だから、どうせなら会わせるタイミングも最高のモノにしたかったんだが。

 まぁ、ミフユの誕生日は来週だし、これもプレゼント扱いできそうか。


 だけどよぉ、それとは別にやっぱ何か贈りたいよな、せっかくの誕生日なんだし。

 と、ミフユを前にして俺が考えているところに――、


「ち、父上ッ、父上ェ~~~~!」


 何か、聞き覚えのある声が凄まじく慌てふためいた様子で俺を呼んでるんですが。

 走ってきたのは、仕事帰りのスーツ姿のシンラ君。わぁ、レアい。


「よ~、シンラ。おかえり~」

「シンラじゃない。お仕事お疲れ様。おかえり」

「はい、父上、母上。このシンラ、本日無事に――、で、は、な、くッ!」


 何だぁ?

 シンラらしからぬ慌てようだが、何事だぁ?


「こッ、この男は何者ですかァァァァ~~~~ッ!?」


 シンラが指さしたのは、お袋と和やかに話しているリリス義母さんだった。

 それを見た俺は「ああ……」と呻きつつ、今のシンラに何となく既視感を覚える。


「あら、シンラさん。おかえりなさ――」

「美沙子さん!」


 シンラが、声を裏返らせお袋の前に立って、リリス義母さんとの間に割って入る。

 うわぁ、うわあああぁぁぁぁ……ッ!


「あ、あの、シンラさん……?」


 戸惑うお袋に背を向け、シンラはリリス義母さんに向けて敵意を剥き出しにする。


「貴様、このご婦人とやけに親しげだが、どういう関係か聞かせてもらうぞ!」


 やめろぉ、シンラ、やめるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!


「どうしたのよ、アキラ。顔が真っ赤よ……?」

「今のシンラの行動が、まんまさっきの俺すぎて、見ててお辛いです……」


 頬が、頬が熱いッ!

 そうか、これか。これが共感性羞恥ってヤツなのか! うわあああぁぁぁぁぁぁ!


「シンラさん、この人は……」


 お袋がリリス義母さんについて説明をしようとする。

 しかし、その前にパンッ、と、義母さん本人が手を叩いてにこやかに笑った。


「まぁまぁまぁ! シンラさん! あなた、美沙子さんとそういう間柄なの!? あらあら、何てことでしょう! アキラさんは御存じなのかしら? どうなの?」

「あ、知ってます。はい……」

「あらまぁ、何て素敵なこと! いいわねぇ、私も心から祝福するわ~!」


 ニコニコと、明るく笑うリリス義母さん。

 そしてシンラが、目ん玉をレンズのように丸くして、俺を見てくる。


「…………。…………父上?」


 言わんとしていることが目に見えているので、俺は一言だけ、


「そーだよ」


 怒りと嫉妬に真っ赤になってたシンラの顔が一気に青ざめた。カメレオンか?


「リ、リリスおばあ様とは知らずに、とんだご無礼をォ~~!」

「いいんですよ、シンラさん。私もこの姿ですから、勘違いもしちゃいますよね」


 あ~、この全肯定な反応。

 リリス義母さんがいつも子供らに見せてたな。懐かしさが込み上げてきますわ。

 って、お袋とシンラが揃ったか……。ふむ。


「よぉ、お袋。シンラ」

「何だい、アキラ?」

「父上、どうかされましたか?」


 二人が俺の方を向いたところで、俺は単刀直入に告げる。


「ミフユが襲撃を受けた。犯人は『Em』だ」

「え……」

「何と、それは……!」


 顔色を変える二人に、俺は奥歯をギリと噛み鳴らし、通達する。


「これから『Em』を潰す準備に入る。二人も来てくれ。『竜胆拠(リンドウキョ)』だ」

「ああ、もちろんさね。……シンラさん」

「行きましょう。美沙子さん。相手が『Em』であるなら放置はできませぬ」


 二人は、それぞれ手に通常とは違って花の紋様が刻まれた金属符を取り出す。

 その金属符は『竜胆符』。

 それを使って『異階化』を行なえば、ヒメノのリンドウキョに直行できる。


「リリス義母さんにも渡しておきますよ」

「はい、アキラさん。受け取らせていただきますね。私は配達所に戻りますので」


 そういえば宅配のお兄さんなんだよね、この人。こっちだと……。


「ママ……」

「着替えたら私もすぐに向かいますからね、ミフユちゃん」

「うん!」


 リリス義母さんが、ミフユの頭を撫でる。

 それに、ミフユは本当に年相応の――、まるで『僕』のように笑ってうなずく。


 ああ……、本当によかった。

 本当に、本当にミフユがリリス義母さんに会えてよかった。俺は心底そう思った。

 うん、だからアレだね、アレだよ、アレ――、


「ブッ潰してやるよ、『Em』さんよ……」


 俺はそう一人ごちてから『竜胆符』を取り出した。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 二時間後、リンドウキョの会議室には、リリス義母さん以外の全員が揃っていた。

 場所は円卓が据えられた広い会議室。

 そこに、お袋もシンラも、タクマもシイナも、マリク、マリエも集まっている。


「ミフユが『Em』に襲われた」


 事情を知ってるリリス義母さんがいないままで、俺はそれをまず告げた。


「『Em』についてはおまえらには話したな。シンラの一件で関わった連中だ」

「ええ、聞いてるっすよ、傍迷惑な連中っすよね」

「ああ、本当にな」


 言ってくるケントに同調し、俺はうなずき、そして、


「だから今から『Em』を潰す」


 俺が告げる。


「今からだ。今から潰す」


 俺が、重ねて告げる。

 それに驚く者はいなかった。問い返してくる者もいなかった。


「『絶界コロシアム』の一件は、すでに恨みを晴らした。主催者を消し、視聴者千人を消して、ケジメはつけた。だが連中はまたやってくれたんだよ。ミフユを襲った」


 自然と、俺の顔に笑みが浮かんでくる。


「なぁ、おまえら。俺の愛しいおまえら、俺と親しいおまえらよ。俺は問うぜ?」


 笑顔のままで、俺は奥歯を噛み鳴らす。


「おまえらにとってミフユは何だ? 襲われてもどうってことはない存在か? 仕返しなんてしないでもいいと考える程度の存在か? 俺は違う。おまえらはどうだ?」

「そんなことないよ、おとしゃん!」

「無論、そのようなことは絶対にありませぬぞ、父上!」


 俺の問いかけに、タマキが、シンラが、そして他の面々も続けて俺に同調する。

 場の熱が、それによって徐々に上がり始めていく。


「ああ、そうだ。そうだよな。俺にとってそうであるように、おまえらにとってもミフユは大切な存在だと、俺は信じてる。それを確認させてくれてありがとよ!」

「……やめてよ、笑えないわね」


 俺の隣で、ミフユがちょっと頬を赤らめさせて俯く。嬉しいクセに。


「そう、俺にとって、おまえ達にとって、大切な存在のミフユが襲われた……」


 右手でグッと拳を握り締め、俺は一瞬溜めたのちに告げる。


「この前、お袋とシンラとヒナタを巻き込みやがった『Em』の連中に、だ」

「『Em』……」

「サイディさんが関わった連中か」


 同じく『コロシアム』に巻き込まれたラララとタイジュが、顔つきを険しくする。


「なぁ、我が子らよ、我が同胞よ、俺ァ――、最高にムカついてんよ、今」


 ギチと、握り締めた拳が小さく音を立てる。


「だから今から『Em』を潰す」


 俺が告げる。


「今からだ。今から潰す」


 俺が、重ねて告げる。


「もしかしたら『Em』にも俺達と友人になれるようなヤツがいるかもしれない。『コロシアム』のイベントとか知らない『出戻り』とかもいるのかもしれない。何の罪もなく、何ら過失のない、そういう『出戻り』も参加してるかもしれない――」


 だが、だが……!


「だが潰す」


 握った拳を震わせて、俺は厳かにそう宣言する。


「『Em』に関わった連中は全員潰す。一人残らずだ。骨も残すな、灰にしてやれ。地獄という言葉の意味を悟らせて、自分が後戻りできない場所に立ってることをとくと教えてやれ。連中に、自分達が辿る末路を懇切丁寧に教えてやれ、じっくりと!」


 拳を開いて、右腕をバッと振り回す。


「俺達の恨みを買うってことがどういうことか、存在の根底に叩き込んでやれ。怒りを燃やせ、恨みを抱えろ、憎しみを肯定し、その全てで『Em』を焼き尽くせ」


 皆が、俺の言葉を聞いている。

 皆が、俺の言葉にうなずいている。

 空気は過熱し、皆の心に確かな怒りの炎が宿る。


「やられた分を、百億倍にしてやり返せ。やり返しすぎるのが、ウチの流儀だッ!」

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」


 会議室が強烈な熱気に包まれる。

 だがそれは、熱狂ではない。歓喜でもない。怒り。怒り。憤怒。憤り。憤激。


 そうだ、俺と共に歩く家族達よ、俺の『怒り』を共に感じてくれ。

 この胸の奥底から噴き上がる、赤く熱く激しく熱を上げるものを感じとってくれ。


「……マリエ」


 俺は、ほとんど全員が声をあげる中、一人だけ押し黙っているマリエを見る。

 こいつは、警官だ。女刑事の菅谷真理恵だ。


「おまえはどうする。俺達を止めるか?」


 こいつがいることを知りながら、俺は言ったのだ。

 これから俺達は、仕返しのために大量虐殺を実行するのだ、と。言ったのだ。


「――止めるべきなんでしょうね。何があっても」


 マリエは、そう言ってくる。

 それは、実に菅谷真理恵らしい物言いで、いっそ安心すらする。


「でも、今の私はマリエ・ララーニァとしてこの場に立っています」

「そうだな」


「だったら私の心は皆さんと共にあります。皆さんと、キリオ様と共に――」

「マリエ、よいのでありますか……?」


 ハッキリと自分の立場を表明するマリエに、キリオが尋ねる。

 すると彼女は、少しだけ困ったように笑って、小さくうなずいた。


「はい、キリオ様。私は常にあなた様と共にあろうと決めた女です。法と家族。どちらにも正義があるのなら、私は皆さんと同じ正義を選びます。私が決めたことです」

「……感謝するであります、マリエ」


 キリオは本当にいい嫁さんを捕まえたなぁ。

 いや、前の嫁さんのサティもいい人だったけどね~、マリエも負けず劣らずだわ。


「まぁまぁ、随分と賑やかなのね。何か楽しいことでもあったのかしら?」


 普段着姿のリリス義母さんが会議室に入ってきたのは、そのときのことだった。

 ケント他、場にいた大勢の顔が、そちらへと向く。


「誰だ……?」

「見たことがない顔でありますな、貴殿、何者でありますか!」


 キリオが前に出て厳しく声をかけようとする。

 だが、その横を駆け抜ける小さな影がある。もちろんそれは、ミフユだった。


「ママッ!」

「は~い、ミフユちゃん。ママですよ~」


 走り寄ってくるミフユを、高身長爽やかイケボのリリス義母さんが抱き上げる。

 それを見たケントやキリオが、シンラと同じ表情で俺を見る。


「…………。…………団長?」

「…………。…………父上殿?」


 もう何か慣れてきたな、この反応。だから俺はこう帰してやるのさ!


「そーだよ」

「「えええええええええええええええええええええええええええええッ!?」」


 広い会議室に、幾つも重なった驚愕の声が響き渡ったのだった。

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