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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十一章 覚悟を捧ぐエンドレスラストバトル
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第266話 戦い終わって、ケジメをつけて

 タイジュ・レフィードがぐんにゃりしている。


「…………。…………。…………。…………。…………疲れた」

「だ、大丈夫……?」

「もう何か、一千万年くらい走り回ったような感じだ。体が重い。重すぎる」


 白い空間の真ん中で、タイジュはラララに膝枕をしてもらっている。

 実際、彼の総計で一千万年を駆け続けたワケで、その疲労は相当なモノだった。


 決闘が終わって、全回復魔法で傷を癒しても、まだ体が重い。

 辛いわー。辛いわー。ラララのお膝最高だわー、な、今のタイジュであった。


「なぁ、タイジュよ」


 膝枕されている彼に、アキラが問いを投げる。

 ちなみに、タイジュとラララはバーンズ家と関係者にすっかり囲まれている。


「何です、親父さん?」

「おまえさ、自分が真剣勝負する度胸ないって知ってて、真剣勝負を提案したのか」

「そうですよ」


 彼はそれをこともなげに認めた。


「思い出してくださいよ、親父さん。あの『絶界コロシアム』を」

「おう、あそこでの戦いか?」

「え、私とタイジュが戦ったときのこと?」


 立て続けに言ってくるアキラとラララに、だが、タイジュは首を横に振る。


「いや、そっちじゃなく、少年Tと少女Lの対戦の方です」

「そっちかよ!?」

「そっちです。そして、それが答えだったんですよ」


 タイジュも共に思い返す、あのときのこと。


「俺とラララは互いに今より小さくさせられて、記憶を奪われて戦わされた。そのときはどうなりました? どっちが殺されて、どっちが勝ちました?」

「死んだのはおまえで……」

「そうです。勝ったのはラララでした。結果は、その時点で出てたんですよ」


 恐怖に固まり、動けないまま少女L(ラララ)に斬殺された哀れな少年T(タイジュ)

 なるほど、確かにこれは明確な差だと、アキラも納得する。


「保険がなきゃ真剣勝負もできないような俺に比べれば、ラララの方がよっぽど立派な『剣士』です。本当に、何が『守護剣聖(コルタナ)』だって話ですよ……」


 心底くだらなさそうに言うタイジュの頭を、ラララが優しく撫でつける。


「そんなこと言わないでよ。私から見たら、タイジュも立派な『剣士』だよ」

「ラララが言うなら『剣士』でもいいかなー。っていう、その程度の価値ですね」

「おまえ、何か、吹っ切れたねぇ……」


 アキラがしみじみそんな感想を呟く。そこに、ミフユがやってくる。


「タイジュ」

「ああ、女将さん。待ってましたよ。……よっこいしょ」


 ミフユの姿を見て、タイジュは何とか身を起こし、その場に座り込んだ。


「それじゃあ、早速なんですけど」

「何よ、まだ何も言ってないわよ、わたし」

「顔、見ればわかりますよ。だから、お願いします」


 タイジュは晴れ晴れとした顔つきで、笑いながらミフユに言う。


「俺を、殺してください」


 言われた瞬間のミフユの顔が、タイジュにはちょっと面白く感じられた。


「……タイジュ?」


 隣に座るラララが呼吸を止めて彼を見る。

 アキラでさえラララに近い表情を浮かべている。その上位互換が、ミフユである。


「タイジュ、あんたは――」

「まず言っておきます。俺、知ってました」


 あっけらかんと、彼は言い放った。


「知ってた、って……?」

「ラララの『願望』のことだ。俺に褒められたいってこと、知ってたよ」

「えっ」


 ごく短い、単音でのラララの驚きの声。

 だがそれは、これ以上ないレベルの驚きを表す発声であった。


「あんた、やっぱり……!」

「そうです。女将さんの考えてる通りですよ、大体合ってると思います」


 一気にその顔を険しくするミフユに、タイジュも笑みを消してうなずいた。


「二つほど、答えてくれないかしら、タイジュ」

「いいですよ。何でもどうぞ」


 それは、やり直される前とも似た流れだった。

 ミフユはきつく強張った顔つきで、タイジュも無表情で、それに応じる。


「あんたはどうして、ラララの挑戦を受けたの?」


 かつて、ここではない時間軸でミフユがタイジュに浴びせた質問と同じもの。

 そのときは、タイジュは言葉を濁し、答えを回避した。

 しかし今回は――、


「ラララとの戦いが楽しかったからです。俺にとって、最高のひとときだからです」

「……本気で言ってるの?」


 自分が知るタイジュ像と合致しないからか、ミフユは怪訝そうな顔をする。


「あんた、剣なんてどうでもいいんじゃなかったの?」

「ただのポーズです。そう言っておけばラララはもっとムキになってくれますから」

「タイジュ……ッ!?」


 語られた内容に、ラララが口に手を当てて再び驚愕する。

 本来の時間軸ではミフユが異能態を使わなければ暴けなかった、タイジュの内実。

 それを、今は彼自ら進んで皆に向けて明かしている。


「――二つ目の質問よ」

「はい」


「こっちに『出戻り』したラララを、焚き付けたのは……」

「俺です。それも、俺の差し金です」

「な、何、焚き付けたって……、差し金って!」


 問うミフユに、認めるタイジュに、頭を抱えて悲鳴じみた声をあげるラララ。


「よく考えて見なさいよ、ラララ。何で『出戻り』したあんたが今さら『剣』でタイジュに挑戦するのよ。『出戻り』は別に若返りじゃないのよ?」

「あ……」


 声を低くして説明するミフユに、ラララはハッとなる。


「そうです。俺がラララとの思い出話の中で、それとなく話をそこに持っていきました。ラララが過去の『願望』を思い出して、俺にまた『剣』で挑んでくれるように」

「どうして、タイジュ。な、何でそんなことを……?」


 自分を信じられないような目で見てるラララに、タイジュは笑みを返す。

 その笑みは、誰が見てもそうとわかる、自分を嘲る笑みだった。


「それはな、ラララ。俺が『剣士』のつもりだったからだよ」

「つもり、って……?」

「俺は『剣士』として、おまえという『剣士』に勝ちたかったんだ。『最終決闘』も、おまえに勝って終わるためのものだって、俺は認識してた。そして『出戻り』して、思ったんだよ。ああ、世界が変わったからしがらみもなくなった。これでまたラララと戦える。また、ラララに勝つことができる。そう思ったんだ、俺は」


 饒舌に語るタイジュに、ミフユも、そしてアキラも、一様に顔つきを変えていく。


「さっき、ラララの『願望』を知ってたって言ったな、タイジュ」

「はい。ラララは俺に褒めてもらいたいんだってことを、俺は知ってました」

「そうか、それがラララの『願望』だったんだな……」


 先の時間軸とは違い、アキラはこのタイミングでそれを知った。


「重ねてきくぜ、タイジュ。いつからだ?」

「最初からです」


 タイジュの返答に、ラララはみたび驚愕に襲われ、絶句する。


「ウ、ソ……」

「本当だよ、ラララ。おまえは俺にそれを話してくれたことはないけど、俺は気づいてた。知ってたんだ。ずっとずっと前、おまえに出会ったときから」


 ラララに、タイジュは優しく笑いかける。

 その、細まった瞳から、つと、一筋の涙がこぼれた。


「そうだよ、俺はおまえの願いを知りながら、ずっと、それを無視してきた。おまえが一番欲しいモノを、おまえに負けたくない一心で、踏みにじり続けてきたんだ」

「タイジュ、そんな――」

「だから、俺にはおまえの隣にいる資格なんて、ないんだよ」


 彼は、ミフユの方に向き直り、先刻告げた頼みを、再度口にする。


「俺を殺してください、女将さん」

「タイジュ、あんたは……」

「こんなクズ野郎を、娘さんの隣に置いちゃいけませんよ。そうでしょ?」


 笑顔のまま、だが瞳からはボロボロと涙がこぼれていく。


「もう俺は、一秒たりとも生きてたくないんです。こうして生きてるだけでも、恥ずかしいし。俺が、俺を許せないんです。……死んで、ケジメをつけたいんです」


 静かに、だが重々しい声で死を懇願するタイジュに、誰も、何も言えなかった。

 ミフユですら、どうすればいいのかわからないという顔をしている。


「お願いします。お願いしますから、俺を殺してください。一人で死ぬような勇気もない、この臆病な虫けらを、誰か、殺してください。俺を、殺してくれ……ッ!」


 深く俯き、タイジュは激しくかすれた声で懇願する。

 バーンズ家の面々は、それぞれが顔を見合わせる。どうする。どうすればいい。


「冗談じゃないわ」


 突如場に響いたのは、ミフユにも似た物言いの声。

 タイジュが、バッと顔を上げる。

 彼がそこに見たものは、今まさに自分へ迫らんとする、見慣れた彼女の拳。


「せいやっ!」

「ぬぐはァッッ!?」


 ラララの右ストレートが、タイジュの鼻っ面にクリティカルヒット!

 吹っ飛んだ、タイジュ、見事に吹っ飛んだ!


「冗ォ~~~~談じゃないわ! 死ぬなら自分で死になさいよ! それができないなら生きなさいよ! あなたを殺してくれる人なんて、ここにはいないわよッ!」

「ラ、ラララ……!?」


 まさかのラララの鉄拳と啖呵に、ミフユが目を瞠り、アキラがプッと噴き出す。


「ヤッベ! 今のカッケェわ! ミフユそっくり! ラララカッケェ~~!」

「パパちゃん、うるさいから黙っていてくれないか!」

「あ、はい」


 激しい怒りによって王子様化したラララに一言で黙らされる家長アキラ。


「タイジュ!」

「ラララ……、俺は」


 鼻血を流しながら、タイジュは自分を見据える彼女から目を逸らそうとする。

 だがそんなこと、今のラララが許すはずがなかった。


「『最終決闘(ラストバトル)』四本目は、このラララの勝ちでいいね!」


 突然の、この宣言である。


「え?」

「え?」

「え?」


 タイジュ→ミフユ→アキラの順番で、異口同音だった。

 何、その四本目って?

 という意味での『え?』であった。


「ハァーッハッハッハッハッハァ――――ッ! 呆けないでくれたまえよ、諸君! 決闘は二本先取で勝ちだろう? ここまで互いに、一勝一敗一引き分け。勝負を決めなければならないじゃないか。だから、四本目だ。このラララのパンチでタイジュはひっくり返った。つまりこのラララの勝利! さらに言うならば、これでこのラララが二本先取したことになるから、決闘もこのラララが勝たせてもらったよ!」


 怒涛の勢いで説明をこなし、一方的に勝利を宣言し、ラララが右腕を掲げる。

 いつ始まったかも不明な『最終決闘』延長戦は、こうしていつの間にか終わった。


「あの、ラララ、剣……」

「真剣勝負に臨めない者は『剣士』ではないのだろう? ならばタイジュにトドメを刺せなかったこのラララとて『剣士』ではないさ。パンチで勝ったっていいはずさ」


 何気に隙のない理論展開に、タイジュは「うむむ……」と唸るしかない。


「ハァーッハッハッハッハッハァ――――! さぁ、それでは勝者の特権を行使させてもらうよ! 別に事前に約束はしていないが、このラララは勝ったからね! ワガママを言わせてもらうとも、勝ったからね、勝ったからね! いいね、タイジュ!」

「何だよ、ラララ。今さら、俺なんかに何を……」


 そう言って立ち上がったタイジュを、ラララはおもむろに抱きしめた。


「ラララ……?」

「死なないで」


 一言告げられたそれが、ラララからタイジュへの、勝者のワガママだった。


「死ぬの禁止。誰かに殺してもらうの禁止。自分で死ぬのも禁止。生きてるのが恥ずかしいなら、生き恥を晒しながら生きて。死ぬなんて、絶対に許さないわ」

「だけどラララ、俺は……」


「綺麗って、言ってくれたでしょ」

「え……」


 ラララが身を離し、タイジュと向かい合う。

 その瞳には、涙がきらめいている。


「私の『剣』、綺麗って言ってくれたじゃない!」

「ああ、言ったよ。本当に綺麗だった。本当に、世界で一番、綺麗だった」


「まだよ!」

「ま、まだ……?」

「そうよ、私、もっと上手くなって、もっともっと綺麗になるから。だから!」


 そして彼女は、彼を再び抱きしめて、


「もっと、私の『剣』を褒めて。それがタイジュの私へのケジメよ」

「…………。……ああ、そうだな。そうだよな」


 同じく、瞳を潤ませながら、タイジュは笑ってラララの頭を撫でる。


「勝者の特権だモンな。言うこと、聞くしかないよな」

「そうよ。それにね、それに!」


「何だよ、まだ何かあるのか……?」

「私だって……」


「ん、何だよ、声が小さくて聞こえない――」

「私だって『佐藤が好きな田中』、なんだからね……!」


 それを聞くことができたのは、抱かれていたタイジュだけだった。

 タイジュの顔が、またいつもの無表情に戻る。


「やっと、言ってくれたな。田中。ところで月曜のお弁当、何がいい?」

「うっさいのよ、しばらく言ってやらないから、佐藤。……タコさんウインナー」


「わかった。特別に唐揚げもつけてやる」

「やった」


 人目もはばからず抱きしめ合っている二人を見て、アキラ。


「いいのか、ミフユ?」


 彼に尋ねられ、ミフユは軽く肩をすくめた。


「わたしの意見はあんたと一緒よ、アキラ」

「そうかい。なら、これでひとまず、一件落着だな」


 アキラはニヒヒと明るく笑った。

 こうして、ラララとタイジュの『最終決闘』はようやく終わりを告げた。

 そして田中と佐藤は、いつも通りの田中と佐藤に戻った。

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