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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十一章 覚悟を捧ぐエンドレスラストバトル
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第265話 三本目/当日/『最終決闘』三本目、Take100037:後

 絶句している皆へと、タイジュがさらに畳みかける。


「この『チャンバラごっこ』に、本当の意味で決着をつけよう。ラララ」

「チ、チャンバラ、ごっこ……ッ!?」

「そうだ、俺達がやっていることは、所詮、ただの『チャンバラごっこ』だよ」


 おののきを見せるラララへ、彼は重ねて断言する。


「タイジュ……ッ!」


 当然、それにラララは反発を示す。

 彼女にとって、今日の戦いは最後の、そして最高の決闘になるはずだった。


 最初から、覚悟を決めていた。

 どのような結果になろうとも今日で終わりにしよう、と。

 そして、自分は剣を捨てる。そのつもり、だったのに――、


「君が、このラララとの最後の決闘を、何だと……ッ!」

「どれだけの想いを込めようと、俺達がやってることは『遊び』だ、ラララ」


 しかし、タイジュはそれすら否定するように、首を振るのだ。

 そしてそう思った理由を、彼は告げてくる。


「だってそうだろ。俺達の『剣』に『死』はないんだから」

「……『死』が、ない?」


 言葉の意味がわからずに、ラララがオウム返しに言う。

 するとタイジュはうなずいて、その顔を俯かせる。


「『剣』だの『剣士』だの、『剣の才』だの『剣聖』だの、何だかんだ言ってるけど、俺達がやってることは蘇生前提なんだよ、ラララ。なぁ、そうじゃないか?」

「それは、そうだよ! 当たり前でしょ! だって、そうしなきゃ……」


 そうしなきゃ、死んでしまう。

 蘇生しないと生き返ることができず、生き返れなかったら、死ぬ。死んで終わる。

 何を当たり前のことを、と、思うラララだが、次のタイジュの言葉に息を飲む。


「じゃあ、ラララ。きくけどさ、死ぬ覚悟もない『剣士』って、何だ?」

「それは……」


 ラララは、言い淀んでしまった。

 自分が、死ぬ覚悟。死ぬ覚悟なら、できている。いつだってできている。


 でもそれは、死んでも『次』があるからだ。

 死んだところで蘇生されれば、その死はなかったことになる。

 自分の覚悟は、そういう前提がある上で甘っちょろいモノ。彼女はそれに気づく。


「『剣士』なら『剣』が云々とご高説を垂れる前に、するべきことがあるだろ」

「それが『死ぬことへの覚悟』だって、タイジュは言いたいんだね?」

「そうだ。その『覚悟』があるからこそ『剣士』は『剣士』たり得る。違うか?」


 こちらをまっすぐ見つめるタイジュに、ラララは、首を横に振るしかなかった。


「違わない。『剣士』なら、ちゃんと『自分が終わる覚悟』も、『相手を終わらせる覚悟』も固めておくべきだと思う。それが、人を殺す武器を選んだ私達の責務だよ」

「ああ、ラララならわかってくれる。そう思ってたよ、俺は」

「でもタイジュ、あなたの条件を飲んだら、この、決闘は……ッ」


 本当の意味で、ただの『殺し合い』になる。

 魔法による回復もなし。決着後の蘇生もなし。勝利条件は、剣による相手の死。


 どちらかを殺さねば終わらない戦い。そして死んだら方はもう生き返れない。

 それでいいのか、と、ラララはタイジュに目で訴える。


「ラララ」


 だが、タイジュはうなずいた。


「それが『剣士の決闘』なんだよ、ラララ」


 そして告げられたその言葉は、何故かすっと彼女の中に入り込んできた。


「けんしの、けっとう……」


 半ば呆然となりながら、ラララは彼の言葉を繰り返す。

 直後に、彼女は衝撃的な事実に気づいた。


 ――タイジュが、自分のことを『剣士』として扱ってくれてる。


「ぇ、うそ……」


 思い返してみれば、血の涙を流してからずっと、タイジュはそんな態度だった。

 あれほどまでに自分の『剣』を認めようとしてくれなかった、彼が。


 ラララが見てみれば、タイジュもまたこちらを見ている。

 強い力のこもったまなざし。身が竦む。胸が跳ねる。心が高ぶる。そういう目だ。


「そうか。そうだね……」


 タイジュが、自分を『剣士』として扱ってくれている。

 その事実に気づいて、だからこそ、彼の挑戦を受けないワケにはいかなくなった。


 負けるのはイヤだ。死ぬのは怖い。

 タイジュを殺すことなんて、自分にはできない。

 そういった諸々を、彼女はいっとき腹の底にグッと飲み下して、笑う。


「ハァーッハッハッハッハッハァ――――ッ! そこまで君が望むのであれば、仕方がないね! いいだろう、このラララは一振りの輝ける刃として、最大のライバルたる君に最後の引導を渡してやろうじゃないか、タイジュ・レフィードよ!」

「ああ、今度こそ決着をつけよう。ラララ・バーンズ」


 二人の間に火花が散る。今度こそ、両者は『決闘』の準備を終えた。

 だが、そこに割って入る声があった。


「ふざけンジャネェエェェェェェェェ――――ッ!」

「そうよ、ラララ! あんた、一体何考えてるのよ……ッ!」


 横槍を入れてきたのは、サイディと、そしてミフユだった。

 両者共に顔色を青くして、タイジュとラララを止めようとしてくる。


「タイジュ! テメェは一体何を考えてヤガル!? 蘇生ナシダト? アホカヨ!」

「ラララ、そんな条件、受けちゃダメよ。負けたらあんたは、あんたは……!」


 言い募る二人、だけではない。

 アキラを始めとした他の面々も、タイジュとラララに何か言いたそうにしている。


 ラララはタイジュを見た。

 タイジュもラララを見た。

 二人は同時にうなずき、そしてお互いの保護者に向かって、叫んだ。


「「う る さ い ッ ッ !」」


 重なった怒声が、他の一切の声を掻き消して、余韻ののちに静寂だけを残す。

 タイジュが、サイディへと言う。


「俺とラララの決闘に口を挟まないでくださいよ、お師さん。邪魔です。黙ってろ」

「ナ、タイジュ、テメェ……ッ!?」


 吐き捨てるように言って、タイジュは気色ばむサイディから早々に目線を外す。

 一方で、ラララがミフユへと謝る。


「ごめんね、お母さん。でもこれは私とタイジュの『決闘』なの。これが私の選択で、私の心の赴いた先なの。……本当にごめんなさい。悪い子で、ごめんなさい」

「……ラララ」


 ミフユは目を見開いたまま、しばしその身を震わせる。

 その瞳にはみるみるうちに涙が溜まり、空いていた口は強く歯を噛み合わせる。

 そして彼女は白い地面に座り込んで、バシン、バシンと幾度も地面を叩き、


「母親を、ナメんじゃないわよ!」

「お母さん……」


「伊達や建前で、わたしとアキラは『子供の心は子供のモノ』なんて言ってるワケじゃないのよ! ラララ! それがあんたの選択なら、謝るな! 胸を張れ! あんた自身に恥じるところがないなら、あんたはその選択を、堂々と主張しなさい!」

「ああ。ならばママちゃん。これこそが、このラララの選択だとも!」


「だったら、わたしがあんたに言うことはたった一つよ! ……がんばりなさい!」

「――うん!」


 泣きながら応援してくれる母親に、ラララも、もらい泣きしそうになってしまう。

 だけど、まだ泣くわけにはいかない。

 今日流す涙は、勝ったときの嬉し涙だけと決めている。


「さすがは、女将さんだな。親父さんも他のみんなも、今ので納得したみたいだぞ」

「このラララの、自慢のママちゃんさ。……あげないよ?」

「……フフ」


 タイジュが小さく笑って、そしてラララから離れていく。


「始めよう、俺達の、本当の『最終決闘(ラストバトル)』を」

「ああ、そうだね。そうしよう」


 二人は、互いに間合いを保った状況で剣を構える。

 タイジュは、日本刀に似た形の『羽々斬(ハバキリ)』を。

 ラララは、西洋長剣に似た形の『士烙草(シラクサ)』を。


 もはや、アキラは何も言わない。

 始まりの合図は、二人が勝手に決めるだろうから。


「ラララ・バーンズ」

「タイジュ・レフィード!」

「「いざ尋常に――、勝負ッ!」」


 生涯一度きりの真剣勝負が、始まった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ――タイジュ視点で記す。


 十万三十何回目の『最終決闘』を、今のタイジュは自覚していない。

 ただ、これまでになく、彼は己の心に自覚的であった。


 ラララの瞳の中に垣間見た、自分に何かを訴えようとする自分。

 そして、彼女に心配されてから流れた血の涙。


 これまでにない何かが、自分の中に脈づいている。

 タイジュはそれを認識し、そして、その脈動の導きのままに動いてみた。


 その結果が、この現状。

 回復なし、蘇生なし、完全なる一発勝負。本当の意味での一騎打ち、決闘。


「魔剣式――、六道之弐、天道、瞬飛士烙草(シュンヒヒラクサ)!」


 ラララが、まずは先手を取って瞬飛剣を己の刃に纏う。

 ここで、タイジュは金剛剣で防御に回るべき場面。


 それがラララとタイジュの戦いのセオリーとも呼ぶべき展開だった。

 ラララはそう思っているだろう。

 タイジュ自身も、そう動こうとしている。


 戦いを見守るアキラ達に至ってはこれより始まる死闘を予想しているだろう。

 きっと、一戦目や二戦目よりも激しい戦いになるだろう、と。


 ……そんなはず、ないのにな。


「ま、魔剣式……ッ、六道、の……」


 全身の震えが、声にまで表れていた。

 まともに喋ることもできず、タイジュは剣を構えて、奥歯を噛み鳴らす。


「こ、金剛、剣……ッ」


 飛来する百を超える斬撃を、何とか発動させた金剛剣で、半分程度受け止める。


「ぅ、ぐ、ぐぉ、ぉぉッ」


 半分程度。そう、半分程度だ。

 残り半分は容赦なくタイジュの全身を浅く切り刻み、彼は血だるまになった。


 痛い。痛い。痛い。痛いッ。

 焼けつくような痛みに、タイジュは小さく喘ぐ。

 普段ならば容易に我慢できるそれも、背後に『死』があると思うと――、


「ひ、ひーる、ぱーふぇく……ッ」


 叫びかけるも、だが回復禁止だ。

 自らが出した条件を、彼は差し迫る恐怖に圧され、反射的に破ろうとしてしまう。


「……う、……ッ、ぐ」


 間一髪気づいて、何とか踏みとどまった。

 とはいえ流れ出る血の感触が、タイジュから平常心を奪っていく。


「……ふっ、ふゥッ、はぁ」


 呼吸が乱れる。

 超速で刃を繰り出すラララに、ただただ心を圧迫される。


「ナ、何をしてヤガンダ! タイジュ! 動ケッ、とっとと走レ! 反撃シロ!」


 サイディが何か言っている。

 だがその声は、耳には届いてもタイジュの意識には届かない。

 今のタイジュは、《《それどころじゃない》》。


「タイジュッ!」

「ぉ、おお、ぉ、ラ、ラララ……ッ」


 躍りかかってくるラララの振り下ろしを、タイジュは何とか受け止める。

 反撃をしろ?

 バカを言うな。今の自分の様子が見えていないのか?


「どうしたんだい、タイジュ。全然、動きが精彩を欠いているよ?」

「……さぁ、な」


 尋ねてくるラララは、自分を心配などしていない。彼女は笑ってすらいる。

 こっちも、一応は強がって笑い返すが、それをするのが精一杯だ。


 ああ、怖い。怖いな。何て怖さだよ、こいつは。

 これが『死という終わりを目前にした感覚』ってヤツなのか……。


 これが、本物の『剣士』が立つ世界。

 これが、本当の『決闘』というものなのか。


 心が凍えるほどに寒くなる。

 なのに体は熱に冒されて、流れる汗は冷たくて、意識はしっちゃかめっちゃかで。


「ぉ、おおお、ぉぉ、おッ」


 タイジュが、ハバキリを振るってラララに斬りかかろうとする。

 しかし、背後に常に『死』を感じながらのそれは、あまりにへっぴり腰だった。


「ウソだロ、タイジュ! 何ダヨ、そりゃあヨ!?」


 一戦目、二戦目とは全く違うタイジュの情けない攻撃に、サイディの悲鳴が響く。

 だが、そんなことを言われても、どうすればいいのかわからない。


 この『決闘』が始まってから、タイジュはまともな思考など一度もできていない。

 常に意識しなければならない『死』の存在が、彼の心を激しくかき乱している。


 そう、これこそがタイジュ・レフィードの真実。

 彼は死ぬのが怖かった。どうしようもなく怖かった。その恐怖に体が強張った。

 真剣勝負に臨む度胸など、最初からタイジュにはなかったのだ。


 そんな自分の、何が『剣士』だ。何か『剣の才』だ。

 百年後の最強傭兵の伝説も、結局は回復魔法ありきのものに過ぎない。


 回復魔法。蘇生アイテム。

 そういったものに頼ることは、もちろん悪いことではない。


 だが『剣士』を称するのならば、剣一本で世を渡り歩く『覚悟』が必要だろうに。

 それもなしに『剣士』などと、ジョークにしても笑えない。センスがない。


 しかるに、タイジュ・レフィードに『剣士』たる資格などない。

 そんなものは最初からありはしなかった。

 この男には、剣一本で死線に挑む覚悟も、決意も、まるで足りていないのだから。


「反撃シロ! ラララを斬レ、タイジュ! テメェは『剣士』ダロウガァッ!」


 サイディ・ブラウンがまだ何かをわめいている。

 バカバカしい。心底、バカバカしい。

 タイジュ・レフィードは『剣士』などではないと、きっとあの女は理解できない。


 本物の『剣士』は、ちゃんと別にいるじゃないか。

 自分と同じ条件で戦ってるのに、のびのびと剣を振るうラララという『剣士』が。


「まだだ、まだ、ラララ……ッ」

「わかっているさ、タイジュ。こんなものじゃないだろ、なぁ!」


 ああ、その曇った目じゃ見えないのか、サイディ・ブラウン。

 ラララが躍っている。その手に、愛刀シラクサを握って、軽やかに舞っている。


 同じなんだ。

 彼女だって自分と同じで『死という終わりを目前に置いた状況』なんだよ。

 それなのに、ラララの動きを見ろよ。こんなにも冴え渡っている。


 彼女が剣を振るうたび、タイジュに傷が刻まれていく。

 その一撃に、手加減はない。

 きちんと殺気が込められ、技術を駆使した、文句のつけようのない『剣技』だ。


 タイジュだって負けじと剣を振るっている。

 でもそれは、届かない。

 魔剣術は使っている。金剛剣だって、属性剣だって、魔装剣ですらも。


 だけど通じない。届かない。弾かれる。跳ね返され、今もラララは無傷なままだ。

 当然、タイジュは手加減などしていない。そんなものをする余裕もない。


 それなのに、この『差』だ。この『違い』だ。

 今、タイジュが立てているのは必死に彼女から逃げているからに過ぎない。


 だがその途中で足がもつれ、彼は無様にもその場にすっ転んでしまう。

 そこに生じる大きな隙を、今のラララが見逃すはずがない。


「追い詰めたぞ、タイジュ! 今こそ、このラララが君に勝つッ!」


 堂々とした声と共に、ラララが繰り出すのは斬象剣。

 全てを切り裂く必殺の刃が、へたり込んだタイジュを上から狙ってくる。


 ――そのとき『声』が聞こえた。


 今まで、タイジュを勝たせ続けてきた『剣の声』。

 極限まで追い込まれたことで、ここでついにタイジュの『剣の才』が目覚める。


 その『声』に従えば、タイジュは勝てる。

 勝てる、はずだ。その『声』に、従いさえすれば……、


「タイジュ――――ッ!」

「ラララ……」


 刃を振り上げるラララを前に、だが、タイジュは動かなかった。動けなかった。

 聞こえる『声』を無視して、彼はラララを見上げている。


 タイジュはこのとき、あろうことか、自分を斬ろうとするラララに見とれていた。

 だって、彼女の動きが、その『剣』が、あまりに美しく目に映えて、だから――、


「……ああ、綺麗だ」


 自然と笑みが浮かんで、そんな呟きが漏れた。


「これが、おまえの『剣』なんだな、ラララ」


 そしてタイジュは納得と共に目を閉じる。

 血が流れ過ぎて、もう、体が動かない。剣を握ることだって億劫だ。


 だが、最期にいいものを見ることができた。

 たった今目に焼き付けたそれは自分にとって間違いなく世界で一番美しいものだ。


 そんなものを土産にして逝けるのだから、これは幸せな『死』に違いない。

 そう納得しながら、タイジュはラララの刃が己を断つ瞬間を待った。


 待った。

 待った。


 三秒待った。

 五秒待った。

 七秒待って、十秒待って、十五秒待って、二十秒が経過し――、おや?


 いつまで経っても自分が生きている。

 その事実を不思議に思いながら、タイジュはもったいないと思いつつ目を開ける。


 そこに見えたのは、鼻先にまで近づいたシラクサの白刃。

 そして、タイジュの頬に大きな雫が落ちる。


「ラララ……?」


 刃を寸前で止めたまま、ラララはその瞳から大粒の涙を零し、泣いていた。

 震える唇が、濡れた声で言葉を紡ぐ。


「やっぱり、無理……」


 振り絞るようなそのかすれた声に、タイジュの心が竦んだ。


「無理、無理だよ、やっぱり。斬れないよ、私……!」


 剣を振り下ろしかけた体勢で、ラララは鼻をすすって泣き続ける。

 それに、タイジュはしばししてから「ああ」と笑って、


「そっか。じゃあ、仕方がない。引き分けだな、この勝負」


 どう見ても負けているクセにどの口がそれをのたまうのか。

 そう内心に苦笑しつつも、彼はとびっきりの優しい声で、ラララにそう返した。

 ラララの身が、ビクリと震える。


「タイジュ、ごめんね。私――」

「あとなラララ、これだけは言わせてくれ」

「え、な、何……?」


 タイジュは大きく息を吸い込んで、自分の言葉を待つラララへ、告げる。

 それは、実に十万三十七回の『やり直し(リトライ)』の果て、辿り着いた一言。

 その事実を覚えていなくとも、今、万感を胸に彼は告げる。


「おまえの『剣』、綺麗だった。世界一、綺麗だったよ」

「ぁ、……」


 そうして、ラララの顔から表情が消えて、その手からシラクサがこぼれ落ちて、


「ぁぁ、ぁ……、タイジュ……、タイジュ――、ッ、タイジュッ!」


 ラララは、タイジュの胸に飛び込んでいった。

 あとはもう、彼の胸の中で子供のように泣きじゃくる少女の声が場に響くばかり。


「体中、痛いんだけどな……」


 そうボヤきながらも、タイジュはラララの頭を撫でて、真っ白い空を見上げる。

 何となくだが感じたことがあって、彼はそれを小声でポツリと漏らす。


「ああ、そうか。俺、やったのか」


 自分が歩んだ一千万年に及ぶ道程をタイジュが思い出すことは、生涯、なかった。

 ただ、やり切った結果が、今、彼の胸の中で大声をあげて泣いていた。


 ――『最終決闘(ラストバトル)』三本目、勝者:なし。

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