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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十一章 覚悟を捧ぐエンドレスラストバトル
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第256話 三本目/当日/『最終決闘』三本目:中

 満たされないことを満たそうとする。

 そういった行動を、人は『欲求を満たす』と呼ぶ。


「――邪道、刻空士烙草(コックウシラクサ)!」


 戦いの始まりと共に、ラララは六本の空剣(スライサー)を出現させ、操作する。

 魔剣六道之六、邪道・刻空剣。

 それはラララにとっての切り札であり、唯一、王道・魔装剣を源流としない技。


「このラララは、この戦いに時間をかけるつもりは、ない!」


 その叫びと共に、六振りの空剣がそれぞれ別の軌道を描いて高速飛翔する。

 魔剣術の中でも特に高度な魔力操作を必要とするそれは、習得難易度が最も高い。


「来てみろ、ラララ」


 それを、タイジュは手にした愛刀の刃を白く輝かせ、迎え撃とうとする。

 彼が使うのは、刻空剣以外の全ての魔剣術の祖、魔剣六道之壱、王道・魔装剣。


 魔力消費こそ激しいが、全ての祖であるため、全ての技を内包する総合魔剣術。

 飛び来る空剣を、白く輝く刃が打ち払う。

 だが、ラララも見ているだけではない。その姿が、影と共に消える。


「タイジュウゥ――――ッ!」


 刃が閃く。刃が重なる。

 瞬時に繰り出された斬撃の数、三百二十三。

 超高速で放たれるソレは、魔剣六道之弐、天道・瞬飛剣。


 コロシアムのときよりも、一本目よりも、二本目よりも、それは鋭くキレがある。

 タイジュは魔装剣の防御術によって対抗しようとするも――、


「まだまだ、速度は上がっていくぞ!」


 ラララの言葉通りに、さらに増していく斬撃の数。

 そこに、六本の空剣も加わって、タイジュの体に小さな傷が刻まれていく。


「どうだい、タイジュ。このラララの技の味は!」

「…………」


 誇るラララに、タイジュは無言を返すのみ。

 それを、彼女自身もわかっている。この程度、もう幾度も見せつけてきた。

 まだ足りない。まだまだ足りない。まだまだまだまだ、足りない。


「タイジュッ!」

「来い、ラララ」


 六本の空剣を操りながら、ラララがタイジュに躍りかかった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ――ラララ・バーンズにとって『剣』とは何なのだろう。


 彼女自身、剣を嫌っているワケではない。

 それなら最初からやっていない。ラララは、剣を振ること自体は好きだった。


 剣を握り、できないことができるようになっていくのは気持ちがよかった。

 剣を振って、強いと思っていた相手に勝てたときの爽快感は得難いモノだった。


 そう、ラララは剣を嫌っていない。親しみすらも感じている。

 だからこそ、彼女の異面体(スキュラ)は剣の形を取った。


 それこそ、ラララの中にある剣というものの象徴だ。

 自分の隣にある、自分の体の一部。自分というモノの延長線上にあるもの。

 それが、ラララにとっての『剣』というものだ。


「タイジュ――――ッ!」


 ラララが、剣を手にタイジュへと躍りかかる。

 刃が閃いて、タイジュの刃と激突し、そこに大きく火花を散らす。


 この火花が、ラララは好きだ。

 心の底から綺麗だと、いつも思っている。もっと見たいとも思っている。


 だけど、それは相手がタイジュじゃないと成り立たない。

 何故かはわからない。でも、そうなのだ。

 自分が綺麗だと思える火花は、相手がタイジュじゃないと、散ってくれない。


 シラクサに帯びる魔力を瞬飛剣から斬象剣にスイッチ。

 攻撃力を一気に底上げして、ラララはタイジュにさらに激しく切り込んでいく。


 今のタイジュは、斬象剣を使う彼女とも打ち合うことができる。

 それは、ラララにとって脅威であり、そして同時に歓喜すべき事実でもある。


 タイジュが強い。

 その事実が、ラララは嬉しい。


 タマキがケントの強さを信じ続けたように、ラララもまた彼の強さを信じている。

 彼は強いんだ。彼はすごいんだ。彼は大きくて、そして雄々しいんだ、と。


 タイジュと打ち合うたび、その信頼が証明される。

 それが、ラララは嬉しくてたまらない。彼への想いが、さらに強くなっていく。


 そして思うのだ。

 自分もまた、彼のように強くありたい。彼の隣に在れる人間でありたい。


 ラララ・バーンズは、タイジュ・レフィードにとって相応しい人間でありたい。

 極論、それこそがラララが『剣』を振るう理由だった。


 刃が衝突し、火花が散る。

 二人だけの戦場を彩るそれを目にしながら、ラララは刃を強く握る。


「どうしたんだい、タイジュ。君は、こんな程度じゃないだろう!」

「当たり前だ、ラララ」


 互いに減らず口を叩き合う。

 斬り合いの中に混じるそういった一瞬もまた、いとおしい。


 胸が高鳴る。汗が煌く。顔には自然と笑みが浮かんできてしまう。

 勝たねばならない戦いだ。そんなことはラララだって十分わかっている。


 それでも、彼とのせめぎ合いの中に、ラララはどうしても感じてしまうのだ。

 喜びと、幸せを。


「ハァーッハッハッハッハッハァ――――ッ! このラララは今からが真骨頂だ!」

「そうか、だったら勝つのは俺だな。俺の真骨頂は、まだだいぶ先だ」


 互いに一言喋れば、相手は必ずそれに応じる。

 例え無言であっても、表情で返す。雰囲気で答える。


 そして、ラララは実感する。

 自分の『剣』は今、間違いなく、タイジュのそれに匹敵している。

 彼に並び、彼を確実に追い込みつつある。


 その事実が、たまらなく嬉しいと思ってしまう。

 歓喜が、幸福が、血に乗って熱となり全身を巡り、彼女の能力をさらに高める。


 ラララ・バーンズは、戦いながらさらに成長していく。

 タイジュを倒すためではない。彼に並ぶために、彼の強さに追いつくために。


 始まりは、あの日の出会い。

 剣を振っている彼を見て、素直に『カッコいい』と思った。


 きっとそれは、一目惚れだった。

 だってあの日からずっと、ラララの胸の中には彼の姿が焼きついたままだから。


 だから欲した。だから求めた。

 自分が『カッコいい』と思った、憧憬の対象である彼からの褒め言葉。

 それが聞きたくて、ラララは剣を握った。自らの憧れに追いつきたいと願った。


「――瞬飛、士烙草ァ!」


 攻める、攻める、攻める。

 魔力に優れ、攻撃に特化した『斬魔剣聖(デュランダル)』が、一気呵成に攻める。


「金剛、羽々斬――」


 防ぐ、防ぐ、防ぐ。

 剣才に優れ、防御に特化した『守護剣聖(コルタナ)』が、金城鉄壁の守りを見せる。


 二人の戦いはやはり互角。

 ラララが攻め切るか、タイジュが守り切るか。そういう戦いになっていく。


 ――ああ、やっぱりこの人はすごい。


 必死に攻め続けながら、ラララの中にその思いが浮かぶ。

 自分の攻撃を、タイジュはほぼ完全に防ぎきる。その動きの一つ一つが流麗だ。


 こんなにも強くてすごい人だからこそ、褒めてほしい。

 ラララが、その思いを新たにする。

 剣を握る理由として、誰かに褒められたいという思いはそこまで不純ではない。


 人が道を歩み出す理由など、それこそ十人十色。

 金を欲し、利益を求め、強さを望み、あるいは死に場所を見つけるため、など。


 そういった理由の中に『好きな人に褒めてほしい』というものがあったっていい。

 確かに、他に比べれば幼稚かもしれない。愚かしいかもしれない。


 だが、それだけを求め、願い、望み続けた結果として、ラララは今、ここにいる。

 幼いながらも純粋なその一念が、少女を『斬魔剣聖』にまで至らせたのだ。


 そして今、ラララは最後の機会に臨んでいる。

 異世界、日本を通して、タイジュに自らの剣を認めさせる、最後のチャンス。


 この戦いに勝てば、自分は『剣』を続ける。

 この戦いに負ければ、自分は『剣』を捨てる。


 タイジュとの間に交わした取り決めはそれだけ。

 だが、すでにラララは決意を固めていた。


 これを、本当の『最後』にする。

 勝っても負けても、もう自分は、タイジュには挑まない。


 仮に自分が勝ったとして、それでも彼が認めてくれなかったら。

 そのときは、潔く諦めよう。

 ずっと持ち続けてきた願いを捨てて、自分は『佐藤が好きな田中』に戻ろう。


 タイジュに『最終決闘』を挑んだときから、そう決めていた。

 その決意が、今、ラララを勝利へと駆り立てている。この瞬間、力を与えている。


「このラララは君に勝利する。勝利するんだ、タイジュ・レフィード!」

「それを阻み、おまえに剣を捨てさせる。ラララ・バーンズ」


 刃と刃がぶつかり合い、二人の『剣士』が鎬を削る。

 そこに、ラララは遥か遠い過去の光景を重ね見た。自分と彼との勝負の日々を。


 異世界で、日々斬り合っていた自分とタイジュ。

 結局は、それは今と変わらない。

 自分が彼に褒めてほしくて、ただずっとその一念で、挑み続けていただけ。


 ――今と、変わらない?


 いや、もしかしたら、それは少しだけ違うのかもしれない。

 だって今は、前よりもずっとずっと『褒めてほしい』という気持ちが強い。


 ラララにとって、その想いこそ、力を生み出す源泉だ。

 彼女という『剣士』を形作った基礎の基礎、根底の根底。全ての始まりの想い。

 だからこそ、ラララは自らの剣を彼に誇ろうとする。


「このラララの技のキレ、まだまだ上がり続けるよ、タイジュ!」


 そうして彼女は、自分がどれだけ強くなったのかを彼に示し続けるのだ。


 タイジュ――、この技を見て、すごいでしょ!

 タイジュ――、あなたの技を避けたよ、私。ねぇ、すごいでしょ!


 今、ラララ・バーンズは生涯最高の絶好調をもって、タイジュに己の技を誇る。

 全ては『彼に褒めてほしい』という、純粋にして無垢なる乙女の一念なれば。


「タイジュ・レフィード、この戦いをもって、私は君を越えていく!」


 ――私、あなたのおかげで、こんなに強くなれたよ、タイジュ!

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