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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十一章 覚悟を捧ぐエンドレスラストバトル
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第253話 三本目/二日前/ブチギレピンクプリンセス

 すっかり気持ちが軽くなってしまった。

 本当に、あの野郎は何ということをしてくれるのか。だから離れられないのだ。


「あ~、ホント、笑えないわねぇ……」


 昨日のことを思い出すと、それだけで鼻の奥にツンと来る。

 自分の母親であるリリスのことを思い出したからだ、そうに違いない。


 決して、アキラの提案に感激したワケじゃないモン。

 そう強がるミフユではあるが、結局、思い浮かぶのはアキラの顔なのだった。


 思い返してみると、自分がずっと我慢をしていたことを改めて自覚する。

 甘える相手ならアキラがいる。

 それで自分は大丈夫だと、そうやって虚勢を張っていた。


 大丈夫なはずがなかったのだ。

 アキラと美沙子を見ているときに、羨ましいと思ったことも今まで何度もあった。


 きっと美沙子も甘えてはいい相手だろう。

 だが、やはり違うのだ。あの人はアキラの『親』で、だから遠慮が発生する。


 リリスママに会いたい。

 ずっとずっと、心の底ではそう願っていた。だがそれについて自覚がなかった。


 放っておけばやがて降り積もったそれが口から衝いて出たかもしれない。

 だがその前に、あの野郎が先んじて提案してきたのである。

 それは心から嬉しかったが、同時に見透かされたようでちょっと悔しくもあった。


「いつか出し抜いてやるわ……」


 そんな言葉が、ミフユの口から漏れる。

 今回、自分がやられてしまったことを今度は自分がアキラにするのだ。


 しかし、そうなると一体誰を探せばいいのか。

 少し考えても、なかなか思いつかなかった。

 アキラには現状、すでに美沙子がいる。そして自分もいる。……もはや完璧では?


 どう考えても、非の打ち所がないフォーメーションだ。

 今のアキラに他の誰が必要だというのか。


「あ、そういえば――」


 考えているうちに、ふと気づいた。

 異世界では、美沙子はアキラの『育ての母』だったのだとか。

 じゃあ、異世界側の『生みの親』がいる?


「う~ん……」


 いや、だとしても、その存在は本当にアキラに必要か?

 興味はあるが、探したところで単に興味と好奇心を満たすだけなのではないか?

 色んな考えが頭を巡り、やがてミフユは息をつく。


「保留ね、これは」


 今度、美沙子にそれとなく聞いてみよう。

 自分自身、アキラの『生みの親』の話は気になるのもある。


「『生みの親』から『生みの親』の話を聞くのっていうのも、何か変な感じね……」


 二つの世界にまたがることなので、それも仕方のないことではあるが。

 と、いったところで、目的地に到着した。田中んチである。


 ラララは今、ミフユの部屋から自分の家に戻っていた。

 あさってに迫った『最終決闘(ラストバトル)』、最後の三本目。


 それを前にして、ラララが帰って一人で過ごしたいと言い出したのだ。

 昨日、ミフユが張り詰めていた理由の一つに、そんな五女に対する心配もあった。


 そして本日、アキラのおかげでここは軽くなったが、気になるモノは気になる。

 ということで、ラララの様子を見に来たワケであった。


「大丈夫かしら、あの子……」


 と、田中んチの玄関前に立って、ラララのことを思って呟く。

 今回は自分でも随分入れ込んでいる気もするが、心配になるのだから仕方がない。

 ミフユがチャイムを鳴らそうとした、そのときだった。


「おまえら全員、そこに正座しろォォォォォォォォ――――ッ!」


 耳をつんざく激しい怒声。

 ミフユの動きがピタッと止まり、庭の方を向いたミフユの口から呟きが漏れる。


「……え、マリク?」



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 庭に入ってみると、そこにいたのは目も覚めるような美少女だった。

 フリルとリボンがふんだんにあしらわれたピンクドレスを着た金髪碧眼の美少女。


 肌は雪のように白く、瞳は海のように青く、髪は金糸を束ねたかのようだ。

 顔立ちはやや幼いながらも十分すぎるほど美人で、手足や指先も細くて綺麗だ。

 頭にも小さなティアラをつけて、その見た目は完全にプリンセス。


 が、そんな美少女が、正座する三人を前に腕を組んで仁王立ち。

 その顔も、溢れる怒りに真っ赤に染まっている。


「だから『百年異階』は非常手段だって言ってんだろうがァァァァァ――――ッ!」

「「「ひぃ……」」」


 怒鳴る美少女に、正座している三人が完全に委縮している。

 ちなみに、右からサイディ、タイジュ、ラララである。


「だからな、呪いなんだっての! 呪い! の・ろ・い! 一回くらいなら影響はないけど、二回以上使ったら確実に魂に悪影響出るんだよ、このボケナス共がッ!」


 ものすごい罵声であった。

 傍からそれを眺めるミフユですら絶句するほどの、まっすぐな罵声だ。


「Oh、でもヨ、ティーチャー。モ、もう一回くらいなら影響も少なく済むンジャネーカ? あと一回くらいなら何トカ、ヨ……。ナ? ナ?」


 顔を青ざめさせつつ、何とか美少女の説得を行なおうとするサイディだが、


「KILL YOU」

「スゲェ流暢なセンテンスで『ぶっ殺すぞ』サレタ!?」


 なお、中指おっ立ても付随する本気度合いであった。


「本当にテメェらみたいな人種は『呪い』を軽く考えやがるよな! あと一回なら影響少なくて済むだ? 何言ってんだテメェは! そんなデケェナリしてるクセに脳みそは小さいんか? 恐竜か? テメェは恐竜なのか? あ? 神経伝達速度はインターネット老人会が歓喜するピーガガガってか! 回線遅すぎだろうがッッ!」

「ソ、ソーリー……」


 傍若無人を絵に描いたようなあの先代『剣聖』が、美少女の前で泣きそうになる。

 それを見ているラララとタイジュも、揃って顔色が真っ青だ。


「テメェらもテメェらだよ、オイ、ラララァ……! タイジュよぉ……!」

「うひぃ、ご、ごめんなさい、マリクお兄ちゃん……!」


 あ、やっぱりあの美少女、マリクなのね……。

 そうだろうとは思っていたが、改めてそれを知ってミフユもコメントに困る。


 ブチギレ女装マリク。

 こっちの世界では初めて見た気がする。


 マリクは、ストレスに弱いクセに色々と抱え込んでしまう性格をしている。

 そして限界を超えるとブチギレ化するワケだが、実はさらに上の段階がある。


 それが、ブチギレ女装マリク。

 本気の本気で激怒した場合のみ見せる、マリク・バーンズ憤怒形態である。

 何故女装するのかは、本人曰く『したくなるから』らしい。


 人の趣味やヘキについてとやかく言うつもりはない。

 しかし複雑なのは、女装時のマリクがクッソ可愛いことである。

 下手をすると、バーンズ家可愛いランキングでも上位に食い込みそうなレベルで。


 今だって、言動からマリクとわかったが、見た目だけではわからなかった。

 そのマリクが、ラララとタイジュにブチギレている。


「いきなり呼ばれたから何かと思ったら『二百年異階とかできない?』だ? だから最初に『不老の呪い』だって言ったよな? 『不老の魔法』じゃなくて『不老の呪い』ってさぁ? 何でそれで理解できないの? 呪いなんだからデメリットあって当然って、どうして気づかないの? ……あ、気づいてたけど無視してた? もしかしてそんな感じ? そんな感じなのかな? 全身の生皮剥ぐぞ、ボケがァ!」

「すいませんすいませんすいません……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 あの『連理の剣聖』が、女装してる小学三年生にひたすら謝り倒している。

 そろそろ、割って入った方がいいかなー、と眺めていたミフユだが、


「おまえらさぁ……」


 マリクが、眉間を指でつまんできつく目を閉じて声の調子を落とす。


「あさっては大事な日なんだろ? そりゃあお互い焦るのもわかるけどさ、だからってここでリスク高い選択して何になるの? メリットがデメリットを上回ってればいいって話じゃないだろ。おまえらは万全の状態であさってに臨む気はないのか?」

「そ、そんなことはないよ……!」

「俺もです。あさってはベストなコンディションで臨むつもりです」


 そう返す二人に、マリクは再度ため息をついて、


「じゃあ、一夜漬けみたいなマネをして調子を落とすなよ。それよりも今までやってきたことの復習とか、まとめとか、そういうことに時間を費やして、準備を全部済ませておくことの方が重要なんじゃないのか。……悔いなんて、残したくないだろ?」

「……うん」

「……はい」


 一転して諭すような言い方をするマリクに、二人は反省の様子を見せる。

 それを見ていたミフユは、ちょっと感激しそうになった。


「やっぱ何だかんだ言ってもお兄ちゃんなのよね~、マリクったら」

「あ、お母さん!?」


 ブチギレにも一区切りついたマリクが、やっとミフユに気づいた。


「う……」


 そして、みるみるうちにその顔が別の意味で真っ赤に変わっていく。


「もぉ、やだぁ~! いるならいるって言ってよぉ~! 恥ずかしぃ~~~~!」


 マリクはその場にペタンと座り込んで、両手で顔を覆ってイヤイヤし始める。

 その様子が本当に女の子っぽくて、とてもこいつが次男とは思えない。


「ホントに、あんたの女装は出来がよすぎて笑えないわねぇ~……」

「このラララも、マリクの兄クンの女装の完成度には一目置かざるを得ないよ」

「も~、う~る~さ~い~!」


 田中んチの庭に、ピンクなプリンセスの悲鳴がこだました。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 マリクが帰った。

 吹き荒れて過ぎ去っていく様は、まるっきり台風のようであった。


「あんたも災難だったわね」

「いや~、あれはこのラララ達が悪いかなって……」


 現在、二人がいるのは田中んチである。

 タイジュとサイディは、隣の佐藤んチに戻っている。


「それよりもママちゃんは何か用事があって来たのかな?」

「いや、うん、ちょっとね~……」


 心配だから見に来た、というのも何だか今さらな気がして、ミフユは言葉を濁す。


「そうかい? ああ、少し待っててくれよ。お茶を淹れてくるから」

「別にいいのに」

「そういうワケにもいかないさ」


 言って、ラララは台所に引っこんでいく。

 一人残ったミフユは、田中んチの居間を軽く見渡した。


「……お義父様のおうちに通じるものがあるわね」


 昭和に建てられた平屋は、ミフユから見てもなかなかに趣深いものがあった。

 見ているうちにふと、写真立てがあることに気づく。


 それを手に取ってみると、写っているのは二つの家族。

 田中家と佐藤家だろう。多分。

 何年も前に撮られたものらしく、小さいタイジュとラララが並んで写っている。


「あらー……」


 そこに写る二人は、ちょうど今のミフユと同じくらいの年齢。

 顔つきはどっちも明るく笑っていて、タイジュなどはまるで印象が違って見える。


「――そういえば」


 写真を見ているうちに、思い出したことがあった。

 次にラララに会ったときに聞いておこうと思ったことだ。今、聞いてしまおうか。


「ねぇ~、ラララ~!」

「はいは~い、何だいママちゃん。もう少し待ってておくれ~」


 と、返してくるラララに、構わずミフユは思い出したことを質問する。


「あんたってさ、何でまた剣を始めたの?」


 あるいは、その質問さえなければ、結末は変わっていたかもしれない。

 ミフユがしたのは、つまりそういう質問だった。

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