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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十一章 覚悟を捧ぐエンドレスラストバトル
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第250話 二本目/当日/『最終決闘』二本目:後

 刃が、荒れ狂う。

 ラララとタイジュを中心とした広範囲を、六本の刃が駆け巡り、飛び回る。

 その全てが、威力に特化した斬象剣の効果を帯びている。


「さぁ、生き延びてみせなよ、タイジュ! この斬撃の檻から逃げることはまずできないと思いたまえ! 君に許されているのは、防ぐか逝くかのどっちかだ!」

「後者はいらないよ、ラララ」


 純白の輝きを帯びた『羽々斬(ハバキリ)』を手に、タイジュがそう返す。

 前後と頭上から、三本の空剣が彼に迫る。

 さらには、ラララ自身までもが踏み込んで、瞬飛剣で斬りかかった。


「ならば、生き延びてみせろよ、タイジュ!」

「言われるまでもない。――王道、魔装剣(マソウケン)


 呟いたのち、ハバキリの輝きが一瞬だけ強まる。

 その一瞬のうちに、金属音が立て続けに四回。三本の空剣が、空中に跳ね返る。


「……む、ぅ!」


 そしてラララ自身までもが、受け止めた衝撃を殺しきれず、二歩ほど後退する。

 歪んだ顔で、彼女は白く輝く刀を握るタイジュを睨みつける。


「今のを、軽々と防ぐのかい……」

「そう、難しいことでもないさ」


 難しいことではない、はずがない。

 タイジュを襲った空剣は全てが斬象剣を帯びていて、触れれば切り裂く必殺の刃。

 一本目のように、ハバキリであっても断ち切れるはず。……なのだが、


「さっきと同じことをしたワケか、刃の腹を叩いて、はじき返した」

「それくらいはできる。今の俺ならな」


 確信に満ちた声で、タイジュはそれを言う。

 しかし、ラララにはわかる。その芸当がどれだけの難易度を誇るのか。


 前後と上。

 前から襲う空剣を囮にして、二方向の死角から同時に襲い来る破断の刃。

 さらにはラララ自身までも加わって、斬撃の雨を浴びせかけた。


 当然、逃げ場はない。

 そこに立てば敗れる以外の道はない、いわゆる『殺し間』。

 タイジュは、それを軽く打ち破ってみせたのだ。


「……震えが来るね」

「ビビッて欲しいところだ」


「当然ながら武者震いさ。君にとっては残念なことに、このラララは勇敢でね」

「ああ、知ってるよ」


 そして、タイジュが再び正眼の構えを取る。

 ラララに向けられたその刃には、炎のように立ちのぼる純白の魔力光。

 それは、何ら属性を帯びていない無属性の魔力である証だ。


「なぁ、タイジュ」

「何だ、ラララ」


「今の君は、《《一体どれだけもつんだい》》?」

「さぁ、どれだけだろうな。正確に計ったことはないよ」

「そうかい! だったら精々、がんばることだね!」


 ラララが、今度は六本全ての空剣をタイジュめがけて発射する。

 シンプルな、だが、だからこそ威力に優れ、非常に回避しにくい突進攻撃である。


「ああ、がんばらせてもらうよ」


 タイジュは表情を変えないままにそう返して、ハバキリを両手に握り直す。

 それから彼はゆるりと状態をひねって、直後に、姿がブレる。


 鳴り響く甲高い金属音、その数は、六。

 タイジュが、白く光る刃によって全ての空剣を跳ね返した音だった。

 目の当たりにしたラララが、軽く唇を噛む。


 ――王道の魔剣術、やはり、強い。


 当たり前のことだが、ラララは魔剣術の全てを知っている。

 タイジュが用いている魔装剣は、ほとんどの魔剣術の源流となった技だ。

 だが、魔装剣自体に何らかの特色のようなものはない。


 斬象剣のように、切れ味のみを追求しているワケではない。

 金剛剣のように、受けと捌きだけで成り立っているワケでもない。


 瞬飛剣のように、速度だけに特化して先手必勝を目指しているワケでもない。

 属性剣のように、あらゆる状況に対応できる万能性を有しているワケでもない。


 魔装剣は、ただただ純粋な、誰もが想像する魔剣の技でしかない。

 魔力で身体能力を底上げし、攻撃の威力を高め、剣の範囲外に技を届かせる。


 そんな『普通の剣技ではできないことをするための技』でしかない。

 だが、それこそが厄介なのだ。


「おおォ!」


 ラララが空剣を操作し、さらに自身も踏み込んで攻撃を仕掛ける。


「魔装剣――、咆光剣撃(ロアブラスト)


 タイジュが呟くと共に振るわれた刃より白い輝きが奔り、空剣を二本撃ち落とす。

 魔装剣の基礎を担う技の一角である、遠当ての剣技だった。


 同じ広範囲の技でも、刻空剣の方が遥かに威力が高いが、迎撃に使えばこの通り。

 そして、タイジュはさらに全身に白い光を帯びて、ラララの攻撃を捌き切る。


 魔装剣は、何かに特化した魔剣術ではない。

 だが同時に、全ての魔剣術の源流になった技でもある。

 つまりそれは、《《全ての技のエッセンスを含んだ魔剣術でもある》》ということだ。


 斬象剣ほどではないが、剣の切れ味を高められる。

 金剛剣ほどではないが、受けと捌きの技に秀でている。


 瞬飛剣ほどではないが、自らの動きを鋭敏化することができる。

 属性剣ほどではないが、複数の属性を用いた対応力を発揮することができる。


 原点にして基礎。

 万有にして最優。


 魔剣六道の中で最も総合力に優れた魔剣術。

 それが、魔剣六道之壱、王道・魔装剣という技なのだ。


「……どうする?」


 一本目であれば確実に通じていた攻撃をあしらわれ、ラララはその一瞬、悩む。

 今のタイジュはまさに難攻不落と呼ぶにふさわしい。

 刻空剣まで使って攻めているのに、ほとんどダメージを与えられていない。


 このままでは攻めきれずに疲弊して負ける。

 いや、それはないだろう。魔装剣には、致命的な欠点がある。


 他の魔剣術よりも、消費する魔力量が何倍も高いのだ。

 魔装剣は、ほとんどの魔剣術の原点。

 それは、技の発展途上で克服された欠点が残っているということでもある。


 タイジュがあまり魔装剣を使わない理由も、そこにある。

 彼が宿す魔力量は、ラララよりもだいぶ少ない。

 それが、タイジュが防御に特化せざるを得なかった理由の一つでもあった。


「魔装剣を使ってきた以上、あっちは短期決戦を狙っていると見ていい」


 この推測は外れてはいないと思う。

 そして、そこから見えてくるラララの勝ち筋は――、魔力量に任せた持久戦。


 戦いが長きに及べば、今は鉄壁を誇るタイジュでも、やがて綻びが見えてくる。

 そして彼が攻めに転じたところで一気に総攻撃を仕掛ければ……、


「……ダメだ、そんなの」


 浮かびかけたプランを、ラララは即座に破棄する。

 勝つだけならば、それでいい。きっと勝てる。きっとであって、確実ではないが。


 しかし、ラララにとってこの『最終決闘(ラストバトル)』は勝つための戦いではない。

 もちろん、勝たねばならない。それは前提条件だ。

 だが、彼女の『目的』は、自分が勝利したその先にこそある。


 ミフユに語ったその『目的』。その『理由』。

 そうだ、自分はこの戦いで目の前の彼に、タイジュに勝利して、そして――!


「タイジュ・レフィード、勝負だッ!」


 シラクサを構え、六本の空剣によって斬撃の嵐を作り出し、ラララが突進する。

 それを、タイジュは白く輝くハバキリを手に、真っ向から迎え撃つ。


「俺は最初からそのつもりだ、ラララ・バーンズ」


 長期戦狙いなどという、最も勝利に近い愚策を、ラララは投げ捨てる。

 勝つのだ。

 今、この場で、タイジュが最も強いこの瞬間、その強さを上回って、勝つのだ。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ――――ッ!」

「…………ッ」


 雄叫びをあげるラララと、無言を貫くタイジュ。

 しかし何故だろう、その戦いを見る者達の目には、二人の表情が似通って映った。


 甲高い剣戟音。

 白い空間に火花が幾度も瞬いて、吹きすさぶ風に血が混じる。


 タイジュの頬を、空剣が斬っていた。

 それはとりもなおさず彼の鉄壁が崩れかけたことを示す。


 怒涛の連撃が、ラララの乱れなき心が、不動の大樹を揺り動かしたか。

 だが、まだまだタイジュが折れるには至らない。まだ到底、崩れきらない。


 アキラ達が見ている先で、二人の刃が激突を重ねる。

 その実力はまさに伯仲。その戦いはまさに白熱。その戦いは全くの互角に進む。


 圧倒的な攻撃力でタイジュの守りを圧殺しようとするラララ。

 圧倒的な防御力でラララの攻撃を凌いで反撃を狙うタイジュ。

 まさに二人それぞれの在り方を象徴するような、気迫に満ち溢れた攻防であった。


 だがついに、その天秤が片方に傾く。

 空剣の一振りが、タイジュの左肩に深く突き立ったのだ。


「く……ッ」


 低く呻き、かすかに体勢を崩すタイジュ。

 しかし今の二人にとって、その『かすか』が勝負の分かれ目となる。


「今、だァ――――ッ!」


 ラララは、その隙を見逃さない。

 残り五本の空剣が、次々にタイジュの身に襲いかかっていく。


 彼は、それを必死に捌いていくが、隙を埋めきれない。そこに空剣が突き刺さる。

 今度は右の脇腹。刃は、彼の背まで貫通してしまう。


「う、ぐぅ……」


 身を強張らせるタイジュを、さらに三本目、四本目の空剣が貫いていく。

 一本目が貫いた左肩と、右の太もも。もはや動けるはずもない一目でわかる重傷。


 タイジュはまだ立っているが、出血量はおびただしく、動きもおぼつかない。

 窮地であった。誰が見ても、タイジュの勝ち目はないように思われた。


 だが、ラララは油断しない。

 今度こそ、最大威力の斬象剣でタイジュをハバキリごと両断する。

 それで、誰も文句のつけようのない、完全なる勝利だ。


「タイジュ・レフィード、覚悟ォ――――ッ!」


 ラララが深く踏み込んで、大上段からタイジュを斬り伏せにかかる。

 タイジュは、右手のハバキリでそれを受け止めようとする。


 だが、その刃にはもう、白い光は宿っていない。

 魔装剣はもう使っていない。それを察し、ラララは勝利の確信を深める。

 そこに、聞こえた。


「自分がすでに騙されている事実に気づいてないだろ、ラララ」


 ――何だって?


「……金剛剣、全覇鏡転(ミラー・イージス)


 キィィィィィン、と、これまでで最も甲高い金属音がそこに響き渡った。

 折れて宙を舞ったのは、ハバキリではなく、シラクサ。

 タイジュとハバキリを諸共両断するはずだった、ラララの刃だった。


「ぇ……?」


 何が起きたのか、ラララには理解できなかった。

 ただ、そこに自分の異面体が壊れたという事実があり、意識が遠のいていく。

 タイジュが何か言うのが聞こえた。


「魔装剣は、釣り餌だ」


 そして放たれたハバキリでの突きが、一本目とは真逆にラララの心臓を貫いた。

 ラララとタイジュの『最終決闘』二本目は、こうして決着した。

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