表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十一章 覚悟を捧ぐエンドレスラストバトル
270/601

第249話 二本目/当日/『最終決闘』二本目:前

 先に到着したのは、ラララ・バーンズだった。

 場所は、前回と同じ宙色市内の高級ホテル最上階。自身がやさぐれた場所だ。


「……パパちゃんに、ママちゃん」


 部屋に入ると、そこにはアキラとミフユがいた。

 他に、マリクとヒメノ、そしてスダレもいる。必要な人員だけ、ということか。


「悪いな、ラララ。さすがに毎回ギャラリー満員は難しかったわ」

「いや、うん、大丈夫」


 話しかけてくるアキラに、ラララは固い面持ちで短くそれだけ返す。

 いつもの彼女ならば、ここで高笑いの一つでも飛ばす場面だ。


 しかしそれもないのは、もしかしたら決まるかもしれないからだ。

 これから始まる一戦によって、本当にタイジュとの間に決着がつくかもしれない。


 それを思うと、とてもじゃないが高笑いなどしていられない。

 ただし、しっかりと寝ることはできた。

 自分がどんな状態であっても寝つけるように、異世界のときに鍛えたおかげだ。


 そのため寝不足は回避できたが、起きてからはずっと緊張しっぱなしだ。

 朝からずっと、午前がそろそろ終わる今までラララは散歩をしていた。


 もしかしたらこれで決まるかもしれない。

 そう思うと、とてもではないがジッとしていられなかった。


 気が逸る。

 ソワソワする。


 部屋に来てからずっと、ラララは時計をチラチラ見続けた。

 それを見かねたのか、ミフユがポンと背中を叩いてくる。


「……ママちゃん?」

「大丈夫?」


 一言、それだけを確かめに来てくれたようだ。


「――うん」

「そう。確かに、血色は悪くなさそうね。表情筋カチコチみたいだけど」

「ぅ……」


 うなずくラララの頬をその手でさらりと撫でて、ミフユはクスッと笑った。


「大丈夫。……私は、大丈夫だよ」

「『このラララは』じゃないのね~」

「あ……」


 指摘され、ハッとする。そして改めて自分の緊張度合いにため息が出そうになる。


「あ~、ダメダメ、シャキッとしないと」

「何だ寝不足か。田中」

「いや、そういうワケじゃないけどね、佐藤。――って、」


 振り向くと、そこにタイジュが立っていた。


「おはよう。今日はよろしく頼む」


 軽く手を挙げて挨拶してくる彼を見て、ラララは顔が一気に熱くなるのを感じる。

 その、一瞬で上昇した熱が、大声となって彼女の口から衝いて出た。


「もォォォォォォ! 何なのよォォォォォォォォ~~~~ッ!?」


 叫ばれたタイジュが、表情を変えずにまばたきをする。


「……何かしたか、俺?」


 何もしていないからこそ、彼には理解できないのであった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 広く豪華だったホテルの部屋が一瞬で真っ白い空間に切り替わる。


「はぁ~い、準備完了だよぉ~」

「ありがとな、スダレ」

「で、二人の方はどうかしらね~?」


 スダレに礼を言うアキラの隣で、ミフユがラララとタイジュに促す。

 返ってくるのは、高笑い。


「ハァーッハッハッハッハッハァ――――ッ! こっちは準備OKだとも、ママちゃん。い~や、準備など不要! このラララは常在戦場で生きているからね! いつだって本番OK、二十四時間体制でリハーサルから感想会までこなしてみせるよ!」

「さっき思いっきり素のおまえに叱られたけど、俺」

「あ~、うるさいなぁ、タイジュは。聞こえない聞こえな~い!」


 淡々と指摘してくるタイジュに、両手で耳を塞いで無視を決め込むラララである。


「ところでタイジュ、お師様ちゃんは?」

「何かどっか行った」

「ああ、そう……」


 本当に『ああ、そう』としか返せない答えが来たので、そう返すしかなかった。

 異世界の頃からそうだったが、あの先代『剣聖』はフラッとどっか行くのだ。


「『勝てヨ』とは言われた」

「そうかい。お師様ちゃんからしたら、そうだろうね」


 サイディの直弟子は本来であればタイジュ一人。

 ラララはあくまで押しかけ弟子に過ぎず、サイディには勝利を望まれていない。


「それは、でも、どうでもいいことなんだ。タイジュ」

「そうだな、俺にとっても、それほど重要なことじゃない」


 二人の手に、それぞれ異面体にして愛刀である『士烙草(シラクサ)』と『羽々斬(ハバキリ)』が顕れる。

 と、同時に、まだある程度弛緩していた場の空気が、戦場のそれに変わった。


「やろうか」

「ああ、やろう」


 向かい合う、二人の『剣士』。

 言葉は少なく、睨み合って始まりのときを待つ。


 それを見守る家族達は、前回同様かなり距離をあけた上でゴーグルをつけている。

 開始の号令を、家長アキラ・バーンズが大声で告げる。


「『最終決闘(ラストバトル)』二本目――、始めッ!」

「「魔剣式――」」


 二人の声は、やはり、綺麗に重なっていた。

 高まりつつあった緊張が爆ぜて、膨張した魔力が二人の間に対流を生じさせる。


「六道之四――、破道、斬象士烙草(ザンショウシラクサ)!」


 立ち上がり、いつもならば瞬飛剣を選択するラララはここで斬象剣を選ぶ。

 それは、彼女の決意の表れだった。一気に決める。これで、勝負をつけてみせる。

 だが、タイジュの方は、静かに構えたままで――、


「六道之伍――、地道、金剛羽々斬(コンゴウハバキリ)


 ……金剛剣を選んだ?


 意外、というほどではないにせよ、なかなか見ない行動だった。

 ラララが斬象剣を使う場合、タイジュは大体、属性剣を用いた回避を選んできた。


 金剛剣で斬象剣を防げないということもないが、その確率はかなり低いはず。

 それでも選んできたということは、何か策でもあるのか。


「いや、行こう!」


 一瞬いぶかしむラララだったが、瞬時にその疑念を捨て去り、攻勢に出る。

 タイジュがサイディと共に『百年異階』での鍛錬を行なったことは知っている。


 その上で、ラララはここで攻めを選ぶ。

 探りを入れたところで、それが自分の隙に繋がる可能性だってある。


 だったら、不安による様子見よりは自信による攻めを取る。

 それが、攻勢に特化し『斬魔剣聖(デュランダル)』と呼ばれた『剣士』ラララの選択だ。


「タイジュッ!」

「……来い、ラララ」


 悠然と構えるタイジュへと、ラララが一気に踏み込んでいく。

 強化魔法を最大の倍率で施した彼女の動きは、まさに弾丸と呼ぶに相応しい速度。


 そこから繰り出される斬象剣の一閃は、事実上、あらゆる物質を両断する。

 無論、それは異面体にも適用される。

 今のラララのシラクサを防ごうとすれば、いかにハバキリとてひとたまりもない。


 それはまさしく、一本目と同じ展開だった。

 しかし、ラララはそこまでタイジュを甘く見ていない。

 何か仕掛けてくる。その確信がある。


「ハァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!」


 だが、同時に自信もあった。

 何を仕掛けられようとも、この一刀でまとめて切り伏せてみせる。その自信が。


 互いの間合いはいよいよ詰まり、至近距離。

 肉薄する両者の間で、互いを探ると同時に攻防が始まろうとする。


 ラララの一撃は、大上段からの一気呵成の振り下ろし。

 まさに真っ向勝負。そしてラララは、この攻撃で勝負を決める気でいた。

 強化された彼女の肢体が、理想的な駆動を経て、攻撃を繰り出す。


 ――とった!


 ラララは刹那にその確信を得る。しかし、


「そこだ」


 カン、という音がして、必殺であるはずの一撃は、容易く防がれてしまった。


「……な?」


 脇に避けるタイジュを目で追うラララの顔に、表情は浮かんでいなかった。

 何が起きたのか、すぐには理解できなかったからだ。


「――次ッ!」


 しかし、即座に思考を切り替える。

 初撃が防がれたならば、次を。それも防がれたならば、次の次を。ただ繰り返す。


「そうだな、そういう潔さが、おまえの持ち味だな」


 一歩後退して構え直し、タイジュがそんなことを言ってくる。

 ラララは、耳を貸すことなく、必殺の斬象剣を再び繰り出さんとする。


「全部、受け止めてやる」

「そういうセリフは、別の機会に言ってほしいところだよ!」


 軽口を返しながらも、ラララは斬象剣に高速の連撃を撃ち放っていく。

 それは、瞬飛剣には届かずとも、十分な速度を持った攻撃であるはずだった。


 さすがにタイジュといえど、この高速必殺剣は防げまい。

 だがその考えは甘い希望でしかなかった。ラララは直後にそれを思い知らされる。


「それは俺には通じないぞ、ラララ」

「ハハハハ、ウソだろう?」


 目の前の光景に思わず乾いた笑みが浮かぶ。

 ラララが放つ攻撃全てが、タイジュのハバキリによって打ち払われていく。


 一撃では致命傷にならない瞬飛剣ではなく、全撃必殺の斬象剣の連続攻撃が、だ。

 その数は十を超え、二十を過ぎて、三十近くにまで達する。

 しかし一度も、タイジュに届かない。それどころかハバキリすら断ち切れない。


「……なるほど、ね」


 繰り返される攻防の中で、ラララはだんだんと理解してきた。

 そして見えた事実を、戦慄と共に認識する。


「この超高速のやり合いの中で、シラクサの腹だけを的確に叩いて払ってるワケか」


 刃を受け止めるのではなく、その側面を叩いて逸らす。

 それが、タイジュがやっていることだった。

 言葉にすれば簡単だが、ラララの攻撃は超高速で放たれ、しかも全てが必殺だ。


 それを、全く臆することなく真っ向から受けて立ち、そして防ぎきる。

 とてつもない胆力と技の精度を保証する図抜けた技量がなければ不可能な芸当だ。


 単純に、剣の腕が上がっている。

 一本目時点のタイジュとは、まるで比較にならない。


「これが、君の『百年異階』の成果か、タイジュ・レフィード!」

「そういうことだよ、ラララ・バーンズ。今の俺は、全てを防ぐぞ」


 タイジュのその言葉が、悪寒となってラララの背中を舐める。

 ああ、その通りだ。間違いない。確信がある。


 斬象剣も、瞬飛剣も、今のタイジュには絶対に防がれて終わる。

 そして彼女はそこから、タイジュの言葉の真意を悟る。これはつまり『誘い』だ。


「……チッ!」


 舌を打って、ラララは後方に跳ねて間合いを空ける。

 タイジュはそれを追わなかった。構えを解いて、自然体の状態で立っている。


 今のラララには、そんな彼が名前通りの不動の大樹のように映った。

 小癪にも、タイジュはラララの判断を待っているのだ。


「全てを使って挑んでこい。そういうことだね?」

「ああ。話が早くて助かるよ、ラララ」

「言ってろ、バカ」


 ラララの周りに、六本の浮遊する魔剣が出現する。

 握りの部分が極端に短いそれは、空剣(スライサー)

 彼女にとっての切り札である、魔剣六道が一つ、邪道・刻空剣に使われるモノだ。


「そうだ、それでいい」


 タイジュが、改めて構えを取る。

 左足を半歩踏み出し、身を斜めに傾けて、ハバキリは低めに突き出す。


「おまえの全力を、俺は今から超えていく」

「できるのかな、そんな無理難題」

「できるできないを問うところじゃないな。やる。それだけだ」


 言って、タイジュは構えを変える。

 それはいわゆる正眼の構え。攻防どちらにも移行できる基礎中の基礎たる構えだ。

 そしてラララはそれを目にして、一つ、察する。


「君も、切り札を切るということだね、タイジュ」

「前回はこれを使わせてもらえなかったからな。使うさ、今回は」


 その、ちょっとしたタイジュの恨み節を聞くラララの頬を、汗が伝い落ちていく。

 たった今、彼女の中でタイジュへの警戒度がMAXになった。

 最初から警戒はしていたが、今のそれは、明らかに危機感が違っている。


 自分が極めた、攻めに特化した魔剣六道の偶数術。

 その六番目である刻空剣は、最も魔剣術らしい魔剣術と呼ばれることがある。


 しかし、にも関わらず刻空剣は『邪道』の名を冠している。

 それは一体何故なのか?


「来なよ、使いなよ――、君の『王道』を!」


 答えは、魔剣六道の中に全ての魔剣術の原型となった『王道』が存在するからだ。

 タイジュが極めた魔剣六道奇数術の中に、それは含まれている。


「諸共切り裂いてやるさ、このラララの刻空剣でね!」


 叫びと共に、ラララの周りに浮いていた六本の空剣が、高速飛翔を開始する。

 それに対して、タイジュもまた正眼の構えから気を発し、告げる。


「行くぞ、ラララ。これが今の俺の全てだ」


 そして二本目の開始時と同じように、真っ白い戦場に二つの声が同時に響いた。


「六道之六――、邪道、刻空剣!」

「六道之壱――、王道、魔装剣(マソウケン)


 二人が操る刃に、魔力の輝きが迸った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ