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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十一章 覚悟を捧ぐエンドレスラストバトル
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第244話 一本目/当日/『最終決闘』一本目:後

 ラララの周囲に、六本の魔剣が出現する。

 それは、地面に落ちることなく、彼女を囲むように刃を下にして浮いている。


 奇妙な形状の剣だった。

 握りの部分がやけに短く、その分、刃が長い。両刃で、鋭く磨き抜かれている。

 それが六本、ラララの周りに音もなく浮いている。


「出たぁ、ラララの空剣(スライサー)……」


 離れた場所から見ていたアキラが、その剣を見て呟く。

 彼が呼んだ空剣こそは、ある意味で、ラララの代名詞のようなものだった。


 魔剣術六大主流派――、魔剣六道。

 その中、その中で最も魔剣術らしく、最も剣術らしくないのが、これ。


 ――六道之六、邪道・刻空剣。


「さぁ、勝負を決めようか、タイジュ」

「決められると思うか、ラララ」


 左手に異面体である『羽々斬(ハバキリ)』を握り締め、タイジュが彼女を睨む。

 しかし、その額に浮かぶ大量の汗を見て、ラララは笑った。


「強がりもそこまでいくと武器だね、タイジュ。決まるさ、これで」

「なら、やってみろ。今のおまえが異世界での全盛期に匹敵するとしても、俺はかつて、それに勝った。今度もそれを繰り返す。それだけの話だ」


 かつての勝利を誇るのではなく、あくまでもあった事実として告げる。

 そんな調子のタイジュに、ラララは「くは」と口元を歪ませる。


「それさ、それだよ。それでこそのタイジュ・レフィードさ。それでこそ、このラララが越えねばならない『剣士』さ。胸が躍るね。今日、このラララは君を越える」

「やってみろ。と、俺は言ったぞ、ラララ」

「ああ、そうするさ!」


 悦にまみれたラララの大声に呼応して、六本の空剣が花のようにパッと広がる。

 そして六本全てが彼女の元から高速で飛翔し、空中を縦横無尽に駆け巡る。


「あらゆる高度、あらゆる角度、あらゆる方向、あらゆる死角から襲い来る六振りの我が刃、果たしてかわせるかな、タイジュ! ――邪道、刻空士烙草(コックウシラクサ)ッ!」


 邪道・刻空剣。

 その正体は、魔力を介した空剣(スライサー)と呼ばれる専用武具の念動遠隔操作だ。


 術者である『剣士』が自らの剣を振るい、尚且つ、六本の空剣を遠隔操作する。

 これには瞬飛剣や斬象剣以上に頻繁かつ精密な魔力操作が要求される。

 そのため、空剣に他の六道の効果を及ぼせないという大きなデメリットがあった。


「腕一本で、抗えるものなら抗ってみなよ、タイジュ!」


 六本の空剣を操作しながら、ラララがシラクサを手に地を蹴り、その姿を消す。

 それを見て、タイジュは後退しつつ舌を打った。瞬飛剣が来る。


「――金剛ハバ」


 後背より、二本の空剣が襲い掛かってくる。


「……く」


 間一髪避けるも、金剛剣発動のために練った魔力が、空しく霧散する。

 そこへ、ラララが突っ込んでくる。


瞬飛士烙草(シュンヒシラクサ)ッ!」


 一瞬にして、タイジュの身に二桁を超える切り傷が刻まれる。

 そこで、彼はようやく金剛剣を発動させる。


金剛羽々斬(コンゴウハバキリ)


 防御に特化した魔剣術は、彼の身を防衛専用に作り替える。

 そうして増強された集中力が、今まさに迫りつつある危機を教えてくれる。


 上、右、左、背後、四方向の死角より空剣。

 さらには、ラララ自身の瞬飛剣によって、百を超える斬撃が繰り出されている。


 高速飛翔する空剣に、迫るラララの斬撃。

 物理的に逃げ場はなく、金剛剣で防ぐしかないが――、無傷での防衛は不可能か。


 そう結論づけたタイジュは、早々に次の判断を下す。

 無傷で凌ぐのが無理。ならば、負傷覚悟でラララに迫り、刃を届かせるのみ。


「行くぞ、ラララ」

「やはりそう来るか、タイジュ・レフィード!」


 金剛剣で斬撃の雨を叩き落とし、空剣二本を叩き落とし、タイジュが前進する。

 実をいえば、それは正解。

 一歩でも後退すれば、背後の空剣が彼の急所を抉っていた。


 タイジュが落とせなかったのは、背後と右側面からの空剣。

 瞬飛剣の斬撃はほぼ防ぎ切ったが、この二本の刃を落とすのは間に合わなかった。


 鋭く研がれた空剣が、タイジュの右わき腹と背中にグッサリ突き刺さる。

 大量の失血に、神経を焼く激痛。

 脳髄が悲鳴をあげ、タイジュの意識が白む。


 だが、致命傷ではない。で、あれば、対抗は可能だ、

 自ら前に出た分、背後の空剣の命中点も急所からややズレていた。助かった。


「……属性羽々斬(ゾクセイハバキリ)


 ここで、タイジュが発動させるのは彩道・属性剣。

 六種の属性を用いてほぼ万能の対応力を誇るそれこそ、タイジュにとっての活路。


「光属性、閃輝天(センキテン)


 発揮されたそれは、いわゆるスタングレネードに近い効果を発揮する魔法だ。

 一瞬の強烈な閃光によって、相手の視覚を一定時間喪失させる。


「ぅぐ……ッ!?」


 自身は目を閉じていたタイジュの耳に、ラララのくぐもった悲鳴が聞こえる。

 この光は、彼女の技の根幹をなす『敏感肌』にもダメージを与えるはずだ。


 そして、タイジュは目を閉じたままでも、相手の位置を正確に知ることができる。

 彼にもラララの『敏感肌』と同じような武器が存在する。


「――二歩、三歩、四歩離れたな。匂いでわかるぞ、ラララ」


 それは、嗅覚。

 ラララと同じほどに死んだ経験から磨き抜かれた『敏感肌』と同等の『超嗅覚』。


 目を閉じたまま、タイジュはさらに属性剣を振るう。

 今度は、幻影を作り出す。コロシアムでも見せた、火属性の陽炎身(カゲロウシン)だ。


 しかも、一つではない。

 今の自分にできる最大の数、十五体もの自分自身の幻影。

 その全てに、気をもって気配を移す『残身』を施し、ラララへの罠を仕掛ける。


 彼女の『敏感肌』は、特に気配の察知において優れた効果を発揮する能力だ。

 タイジュは、自信をもって断言できる。

 この十五体の『かりそめのタイジュ』に、必ずラララは引っかかる。


 そう、例えそれが、異世界の全盛期に比肩しうる今の彼女でもだ。

 そしてそこに、タイジュの勝利への道筋は存在する。


「……俺は認めないよ、ラララ」


 激痛をその強靭な意志力で抑え込みながら、タイジュは呟く。

 今のラララは確かに強い。自分がここまで追い込まれたのはこちらでは初めてだ。

 しかし、だからこそ、彼の中で認めがたいという想いが強まっていく。


「俺は、おまえの剣を認めないぞ、ラララ・バーンズ」


 そして彼は、嗅覚を頼りにラララの位置を確認し、自信は気配を消して移動する。

 十五体の『かりそめのタイジュ』がいる、その真っただ中へ。


 幻影を囮にして、自らもその中に混じってラララに不意打ちを仕掛ける作戦。

 ラララが次の攻撃で本物の彼を選べば、それでこの戦いは終わる。自分の負けだ。


 確率、十六分の一。

 賭けとしては、十分に勝率の高い賭けといえるのではないだろうか。


「猪口才な真似をしてくれるじゃないか、タイジュ!」


 ラララの声が聞こえる。

 視覚の喪失は、全回復魔法で治すはずだ。踏み込んでくるのは、この直後か。


 耳元を、空剣が飛び回る音がかすめていく。

 今の自分は、十六体の『かりそめのタイジュ』の中の一体。動きは止めている。


「……これ、はッ!?」


 次に聞こえてくるのは、ラララの驚愕の声。

 そこにある十六体の幻影に驚いている。しかし、まだタイジュは動かない。

 彼が次に動くのは、ラララが幻影を攻撃した直後、最大の隙を晒したそのときだ。


「なるほど、これが君の奥の手か! だが……!」


 戦場を駆け巡る六本の空剣が『かりそめのタイジュ』を次々に抉っていく。

 そしてラララ自身もシラクサを構え、タイジュ本人の隣にある幻影へ斬りかかる。


「そこだ、タイジュ・レフィード!」


 しかしハズレ。それはただの幻影だ。

 ラララはまたしても、彼の『残身』に引っかかってしまう。


 そして今こそ、タイジュに唯一無二の反撃のチャンスが訪れる。

 立ち位置的には絶好の間合い。しかも、攻撃直後でラララはほぼ無防備だ。


 いける。

 タイジュの中に確信が生まれる。


 しかし、そこに彼めがけて一振りの空剣が襲いかかってくる。

 真正面から。タイジュは冷静に、左腕のハバキリを用いて、打ち落とそうとする。


 この空剣を迎撃してからでも、ラララへの攻撃は十分に間に合う。

 タイジュの『剣士』としての感覚が、それを保証していた。


 ラララとの『最終決闘(ラストバトル)』一本目、自分はここに勝ち筋を拾う。

 その一手目として、彼はまず、迫る空剣を金剛剣で打ち払おうとする。


「自分がすでに騙されている事実に気づいてないだろ、タイジュ」


 聞こえた声は、さっきと全く同じセリフ。

 タイジュがそれに反応を示す前に、空剣に触れたハバキリが半ばから先を失う。


「……な?」


 何が起きたのか、タイジュは理解できなかった。

 そこに、ラララが振り向く。してやったりという笑みを口元に浮かべて。


 異面体を使う者同士の戦闘で勝つ方法は二つ。

 一つは、相手を完全に殺すこと。

 もう一つは、精神力の具現化である異面体を破壊して、その意識を奪うこと。


 ハバキリを断たれ、タイジュの意識が闇に落ちかける。

 その中で、彼はやっと理解した。

 打ち払おうとした空剣の刃が、斬象剣の効果を帯びている。


「バ、カな……ッ」


 刻空剣は、その複雑すぎる魔力制御から、空剣に魔剣術を行使できない。

 それは、異世界における全盛期のラララでも不可能なことだった。つまりそれは、


「このラララは、《《今このときこそが最強なのさ》》」


 ――彼女が、異世界での全盛期すらも越えているということ。


 タイジュは知らない。

 ラララが彼を越えるため、マリクの協力を得て過ごした百年の努力を。


 そして鍛え直された今の彼女は、文字通りのラララ史上最強。

 不可能とされる刻空剣と斬象剣の併用すらも実現してしまうレベルに達している。


「終わりだ、タイジュ・レフィード! 一本目は、このラララがもらう!」


 意識を失いかけるタイジュをラララは逃さない。

 他の五本の空剣が、次々に殺到し、彼の体をブチ抜いていく。そして、


「斬象、士烙草ァァァァァァァァァァ――――ッ!」


 咆哮と共に突き出されたシラクサが、タイジュの心臓のド真ん中を抉った。

 ラララとタイジュの『最終決闘』一本目は、ここに決着を見た。

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