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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十一章 覚悟を捧ぐエンドレスラストバトル
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第243話 一本目/当日/『最終決闘』一本目:前

 タイジュが、一人ずつに対して丁寧に頭を下げて挨拶をしていく。


「お久しぶりです、マリクさん、ヒメノさん」


 そう言って、正座してマリクとヒメノに挨拶をし、


「お久しぶりです、シイナさん、タクマさん」


 そう言って、正座してシイナとタクマに挨拶をし、


「お久しぶりです、スダレさん。初めまして、ジュンさん」


 そう言って、正座してスダレとジュンに挨拶をする。

 その、折り目正しい態度に、シイナなどは逆に面食らって挙動不審になる。


「て、丁寧……ッ!?」

「おまえも敬語キャラなんだからあれくらい丁寧でもいいんだぞ」

「何ですか、私が丁寧じゃないとでも~!?」


 タクマをポカスカ殴るシイナを、俺含めた家族が生ぬるく眺めた。


「――すぅ、はぁ」


 一方で、ラララは一人離れた場所で正座して、静かに呼吸を整えている。

 先程までのテンションの高さが嘘のようで、ピリッとした雰囲気を纏っている。


「ラララ……」


 挨拶を終えたタイジュも、ラララの方へと目をやる。

 そうなると、一気に空気が張り詰める。そして場に満ちるのは、鉄火場の空気。


「余計な前置きはなしでいいな」


 皆を代表して、俺が両者に告げる。

 すると、ラララとタイジュは同時に立ち上がる。

 その瞬間、スダレが『異階化』を行なって、場を『スダレのお部屋』に変える。


 果ての見えない、どこまでも真っ白い空間。

 スダレの異面体であるデスクトップPCが置かれたそこが、決戦の場となる。


「ルールの確認だ。『相手を剣で殺したら勝ち』。――以上だ」

「「委細承知」」


 非常にシンプル極まるルールだが、剣での勝負である以上、剣以外の殺害は不可。

 完全回復魔法の使用はありで、その他、トドメ以外ならば剣以外の使用もあり。


 ほとんど『何でもあり』に近いルールであった。

 これが、異世界でのラララとタイジュの《《いつものやり方》》だ。


「よ~し、それじゃあ巻き込まれないように離れるぞ~」


 俺が皆に促し、二人から距離をあける。大体2、300mくらいは離れたかな。

 そして、遠視機能を持った偵察用ゴーグルを皆が装着する。


「――構え!」


 拡声の魔法で俺が声を張り上げると、向かい合った二人の手に剣が出現する。

 西洋長剣風のラララの異面体――、『士烙草(シラクサ)』。

 日本刀型のタイジュの異面体――、『羽々斬(ハバキリ)』。


 片や、その苛烈なる攻撃から『斬魔剣聖(デュランダル)』と呼ばれた『剣士』。

 片や、その堅牢なる防御から『守護剣聖(コルタナ)』と呼ばれた『剣士』。


 二人一組の『連理の剣聖』が向かい合い、刃を構える。

 それを見届けて、俺は叫んだ。


「『最終決闘(ラストバトル)』一本目――、始めッ!」

「「――魔剣式!」」


 二人の声は、綺麗に揃っていた。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 それは、まさにコロシアムの再演。かに見えた。


「六道之弐――、天道、瞬飛士烙草(シュンヒシラクサ)ッ!」

「六道之伍――、地道、金剛羽々斬(コンゴウハバキリ)


 次の瞬間、ラララ・バーンズの姿がその場から消失する。

 そして、タンッ、という一歩の音が鳴った間に繰り出される斬撃は総数六十八。


「……む」


 初撃が、コロシアムのときよりも増えている。

 それを正確に把握しながら、タイジュのハバキリが受けの軌道を描く。


 彼が扱う金剛剣は、一切の攻め技を持たない魔剣六道でも変わり種の剣術。

 しかし、それゆえに防御技の種類は多種多様で、あらゆる攻撃への対処が可能だ。


「この程度は、容易い」


 六十を超える連撃を捌き切り、タイジュがハバキリを構え直そうとする。

 いつもならばラララはここで離れようとする。だが、


「まだ終わりじゃないぞ、タイジュ!」


 その気合の声と共に、彼女はシラクサを突き出し、踏み込んでくる。

 それは一見単調な突きのようにしか見えない。しかし、見えないからこそ、怖い。


「……何だ?」


 大きく後退しながら、タイジュは彼女の作戦を読もうとする。

 ラララの使っている魔剣術は瞬飛剣。超絶高速機動を旨とする、先手必勝の剣。


 それを使っておきながら、ただの突き。

 動きは大雑把で隙も大きく、避けてくれといわんばかりの――、そういうことか。


「はァ――――ッ!」


 ラララが、突きを幾重にも束ねて放ってくる。

 それはいずれも大きな動きのままの、隙だらけのものでしかない、が、


「――金剛羽々斬」


 わざわざタイジュは金剛剣で弾き、回避することなく真っ向から対抗する。

 ラララの口元が、にわかに歪んだ。


「さすがはタイジュ、即座に順応してくるか」

「慣れを利用しようとするとはな、猪口才だな、ラララ」


 タイジュが無表情にそう述べる。

 彼は気づいていた。

 ラララの放つ無数の突きが、少しずつ速度と精度を上げていた、その事実。


 大雑把で隙が大きいように見えたのは、ラララがそう見せていただけだ。

 そうして、その動きに慣れさせておいてからの急加速による奇襲。

 急激な緩急を利用したその奇襲こそ、ラララが描いていたシナリオに違いない。


「その程度は読むさ。俺はおまえの何だ?」

「言ってくれるよ、だったら、これは受け切れるかな!」


 無表情に告げるタイジュに、ラララは軽く苦笑して、シラクサを構え直す。


「魔剣式。六道之四――、破道、斬象士烙草(ザンショウシラクサ)!」


 異面体が纏う魔力が、大きく変質する。

 そして、ラララの動きから速度が失われ、代わりに刀身より強烈な圧が放たれる。


「魔剣式。六道之参――、彩道、属性羽々斬(ゾクセイハバキリ)


 彼女に応じるように、タイジュもまた魔剣術を切り替える。

 今、ラララが使ったのは万物破断を誇る破壊に特化した魔剣術。破道・斬象剣。


 その威力は他の五種の魔剣術を遥かに凌ぎ、金剛剣ですら受け止めきれない。

 防御は不可。ならば、徹底して避け続けるしかない。


 そのためにタイジュが使うのが、万能の対応力を誇る、彩道・属性剣。

 六属性を使い分けるこの魔剣術で、タイジュはラララの斬象剣をくぐり抜ける。


「タイジュ――――ッ!」

「真っ向勝負は、御免被る。闇属性、暗渦界(アンカカイ)


 タイジュのハバキリが闇を纏い、それを振り抜けば、場に漆黒の霧が広がる。

 視覚だけでなく、五感全てを不能にするジャミングの魔法だ。


「しゃらくさいね!」


 だが、ラララは一刀のもとにそれを切り伏せ、パッと散らした。


「……何?」


 コロシアムのときとは違って、今のジャミング魔法はそうそう斬り裂けないはず。

 それをいともたやすく両断するラララの剣に、タイジュは軽く驚く。


「ハァーッハッハッハッハッハァ――――! どうしたんだい、タイジュ! 随分な驚きようじゃないか。このラララが、以前と同じラララであるとでも思ったかい!」

「そうか、なるほどな」


 闇の霧が完全に消えて、タイジュはその場から飛び退いた。

 そして、ハバキリを白い地面に突き立てる。


「地属性、塊牙烈(カイガレツ)


 コロシアムのときと同じく、タイジュはラララに向けて岩の牙を発生させる。


「試すつもりかい。――構わないさ!」


 ラララが、大きく身をひねってシラクサを振りかぶった。


「斬象――、空津波(カラツナミ)ッ!」


 そして、シラクサの刃が大きく横一文字に空を切って、鋭い音が響き渡る。

 シャキィン、と、そんな感じの、いかにもな鋭さを有した斬撃音である。

 その一閃で、刃の間合いの外にある岩の牙が、全て切断された。


「斬象剣の遠当てか、恐ろしいな」

「飛翔する斬撃の射程を即座に見切ったくせに、よく言うね」


 ラララが肩をすくめるも、すぐさまシラクサを構えて、タイジュを見据える。

 タイジュもまたハバキリを構えるが、次の一手を決めあぐねる。

 そこに、ラララが声をかけてくる。


「なぁ、タイジュ」

「何だよ、ラララ」


「一つ、確認しておきたい」

「いいぞ。何でも応えられる範囲で答えてやる」


「君、コロシアムのとき、手加減してたろ」

「ああ」


 こともなげに、タイジュはあっさりと答えた。


「なるほど、それがわかるくらいには腕を磨き直したか」

「そんなところさ。悪かったね。気を遣わせてしまったみたいだ」


「俺は、田中が好きな佐藤だからな。おまえのことは大事に扱うさ。いつだって」

「それは『剣士』にとっては侮辱だとわかって言っているのかな……?」


 真顔で返すタイジュに、ラララは目を細めて再度問う。

 タイジュは相変わらずの鉄面皮で、


「そのつもりはないが、俺はおまえを『剣士』として認めたつもりはないよ」

「認めさせてやるさ。この『最終決闘』でこのラララが勝つことで、ね」


「やってみろ。コロシアムのときのままなら、永久に不可能だぞ」

「まさか、ここまで戦って、今のラララの腕前がわからない君じゃないだろ?」

「…………」


 タイジュは押し黙る。ラララの言う通りだからだ。

 彼女は明らかに、コロシアムのときよりも強くなっている。


 今とて、彼は次の一手に悩んでいる。

 何を繰り出しても、ラララの斬象剣に斬られるヴィジョンしか浮かばない。


「たった数日で、相当な鍛錬を積んだようだな」

「ああ。このラララは随分ブランクが長かったからね。必死の思いだったとも」


 異世界でのラララは『最終決闘』に敗れて25で剣を捨てた。

 それから天寿を全うし『出戻り』した彼女の腕前は、相当落ちているはずだった。


 コロシアムでの一戦でも、実はタイジュはかなり手を抜いていた。

 そしてラララは、あの時点ではそれにすら気づいていなかった。


 あれから数日。

 そんな鍛錬を積む時間など無いと思っていたが――、


「…………」

「気が鋭くなった。やっと本気を見せる気になってくれたね、タイジュ」


 ラララが薄く笑う。

 そして構えた彼女の刃を這う魔力、それは、斬象剣のものではなくなっている。


「瞬飛剣に切り替えたか、随分と滑らかな魔力の転換だな」

「さすがに、それは見逃さない、か。騙せないね、君のことは……」


 斬象剣に見せかけた、瞬飛剣での超高速の不意打ち。

 それを狙っていたらしきラララが、軽く口笛を吹いてみせる。


「守りについては、俺の方が長じているつもりだ」

「そうだろうね。何せ君は『守護剣聖(コルタナ)』だからね。ただ――」


 タイジュは、全感覚、全知覚能力をもって、ラララを捉えていた。

 彼女のどんな小さな動きも見逃すまいとして、極限まで集中力を尖らせていた。

 なのに、見えなかった。


「自分がすでに騙されている事実に気づいてないだろ、タイジュ」


 声は、背後から。


「……な、」

「遅い」


 振り抜かれたシラクサが、身をひねろうとした大樹の右腕を斬り飛ばす。


「――全快全(ヒール・パーフェク)


 走る激痛を堪え、タイジュは全回復魔法を唱えようとする。

 しかし、そこで活性化されるはずの魔力が働なない。魔法が、使えない。


「我がシラクサで、《《君の中の全回復魔法を切り捨てた》》」


 ラララが斬りたいものを斬る、異面体の能力!?


「なるほどな……」


 残された左腕に改めてハバキリを具現化させ、タイジュは悟った事実を語る。


「最初から、これが狙いだったのか。ここまでは手加減していたな?」

「腕を斬り飛ばされて顔色一つ変えないのはさすがだけど、まぁ、そういうことさ」


 何のことはない。

 ラララは数日前とは比較にならないレベルで強くなっていた。

 それこそ、異世界での全盛期にも匹敵するレベルで。


 その事実を隠し続け、実力の半分程度でタイジュとやり合ってきたのだ。

 そして、彼がそれに慣れるのを待って、本気になった。


 瞬飛剣で狙ってみせた急激な緩急による奇襲。

 あれもまた、こちらの奇襲を悟らせないための見せ札でしかなかった。


「どうだい、タイジュ。このラララの組み立ては、大したものだろう?」

「まだ、俺は負けていないぞ、ラララ。勝つ前から自分を誇るな」


 笑うラララに、タイジュは冷たくもそう告げる。

 するとラララは顔から笑みを消して「そうだね」と返し、うなずいた。


「だったら、このラララは君に圧倒的な差を見せつけ、この一本目をいただくことにするよ。タイジュ・レフィード、このラララの前に、君はここで倒れることになる」


 そして、これまで以上に強大な魔力が、ラララの全身から放たれ始める。


「使う気か、おまえが一番得意な、六道之六を……」

「無論だとも、必殺技は最後の最後にお目見えするものさ!」


 ラララがその目を大きく見開く。


「――魔剣式!」


 そして『斬魔剣聖(デュランダル)』の最大奥義が、今、ここに開帳される。


「六道之六――、邪道、刻空剣(コックウケン)!」

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