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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十一章 覚悟を捧ぐエンドレスラストバトル
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第242話 一本目/前日/クソ雑魚魔力やめてください

 アパートの庭、の『異階』。

 今、俺が見ている前で、お袋とラララが対峙している。


「――魔剣式、瞬飛士烙草(シュンヒシラクサ)


 自身の異面体であり、愛用の剣でもある『士烙草(シラクサ)』を構え、ラララが呟く。

 一方で、お袋はその両手に、サブマシンガンを具現化させる。

 お袋の新しい異面体『裟々銘器(サザメキ)』だ。


「遠慮なしで行かせてもらうよ、ラララちゃん」

「いいよ、来てくれ、美沙子おばあちゃん!」


 お袋が両手のサブマシンガンをラララに向ける。

 そして、本当に遠慮なしにトリガーをひいて、弾丸を一斉掃射。


 サブマシンガンの連射速度は、一分に五百~千発程度。

 もちろんそれは、人間に対応できる速度ではない。

 しかし、魔剣術の六大主流流派の一つ、瞬飛剣であれば、その程度の速度は、


「せィッ!」


 掛け声一つと共に、幾重にも煌く剣閃。そして、火花がチカチカと瞬く。

 叩き切られた弾丸が、速度を失い地面に落ち、そのまま消えていく。


 ラララの後方に飛んだ弾丸は、一発たりともない。

 全て、その刃によって叩き切られて落とされた。恐るべき精度といえよう。


「やるねぇ……」


 手からマシンガンを消したお袋が、軽く口笛を一つ。


「ま、このくらいならね。ケントクンはもっともっと速かったよ」

「そりゃねー、タマキ守るモードのケントだモンよ」


 軽く額を濡らす汗を拭うラララに、俺はそう返す。そして、


「で、どうよ――」


 俺は、隣に座ってるもう一人のギャラリーに向かって感想を伺ってみる。


「う、うぅ~~~~ん……」


 腕を組んで唸っているのは、俺と同じ小学生。ただし年齢は一つ上。

 バーンズ家の次男、マリク・バーンズであった。


「え、えっと、どこまで言えば、いいかな……?」


 ラララを前にして、マリクはオドオドとした調子で尋ねてくる。


「ハァーッハッハッハッハッハァ――――ッ! 忌憚なきご意見をお願いする!」

「ひぇっ……」


 いきなり笑い出すラララに、マリクがビクリと身を震わせる。

 あ~、懐かしいですね~。

 この二人、いっつもこんな調子だったわねぇ~。マリクはラララが苦手なんだぁ。


「う、うう、じ、じゃあ、言うけど……」


 黒縁眼鏡のズレを直して、マリクはきっぱり言い切った。


「すっかりクソ雑魚になっちゃったねぇ、ラララちゃん……」

「うわぁ、本当に忌憚なきご意見を言いやがったぞ、この次男ちゃんったら」

「え、え! ダメだった……!?」


 マリクが、えらく慌てた様子で俺とラララを交互に見るが、


「いいや、そう言ってもらって、むしろありがたいとも」


 わかっていたような言い方で肩をすくめるラララに、マリクは胸を撫で下ろす。


「やっぱり、魔力の扱いはガタガタみたいだね、このラララは……」

「う、うん……。見るも無残、っていう感じ、かな……」


 ウチで一番の魔法の使い手なマリクが言うと、重みがあるというか、何というか。

 俺にはそこまで細かい部分はわからんのだけどなぁ……。


「そこまでひどいのかい?」


 どうやら、お袋も俺と同じような感想のようだが、


「た、多分だけど、最盛期のラララちゃんなら、今の五倍以上は速く動けると思う」

「「そこまで!?」」

「いやはや、錆びついてるねぇ、やっぱり! ハァーッハッハッハッハッハ!」


 ラララさん、その高笑い、乾いてますよ。


「ラ、ラララちゃんは、一回、魔剣術を捨ててるから、仕方がないよ」

「残念ながらそれは慰めになってないのさ、マリクの兄クン!」

「ご、ごめんね……」


 おどおどしつつも言うべきことはちゃんと言うマリク。おどおどしつつも。


「しかし驚いたな、ラララの魔剣術がそんなに鈍ってるとはなぁ」

「ま、魔剣術での魔力扱いは、と、特に繊細、だから……」


 と、マリクが俺に説明してくれる。そこから、ラララが解説を引き継ぐ。


「このラララが呼ばれることとなった『斬魔剣聖(デュランダル)』の名は『魔を斬る剣聖』ではなく『魔で斬る剣聖』という意味でね、魔剣六道の中でも特に魔力の扱いが重視される、六道之弐、四、六の偶数術を極めたがゆえに与えられた称号なのさ!」

「で、今はその肝心の魔力の扱いが、今はボッロボロ、と……」

「ハァーッハッハッハッハッハァ――――!」


 わろとるわろとる。頬に一筋の汗を垂らしつつ。


「……どうしよう」


 急に真顔に戻るな。そして不安げになるな。眉をハの字にしちゃって、もう。

 まぁ、仕方がないよね。

 異世界では剣振ってなかった時期の方が長いんだし。


「魔剣術の種類は俺も知ってるが、属性剣とかよりも瞬飛剣や斬象剣の方が、魔力の扱いが重要になってくるのか? 何か属性剣の方が魔剣術って感じがするが」

「い、一般的なイメージだと、そうかも。で、でもね、属性剣は、むしろ制御が簡単な部類なんだよ。瞬飛剣とか、斬象剣とかの方が、ずっと難しいんだ……」


 え、そーなん!?

 マリクの解説に、俺もお袋も揃って驚く。知らんかったです。


「ほら、地水火風に光闇。そういうのは想像しやすいだろう、パパちゃん。想像のしやすさは、そのまま制御のしやすさなのさ。魔力ってヤツは精神で扱うものだから、瞬飛剣の場合は『何よりも速く、そしてその速度を制御できる自分』を想像しなきゃいけないし、斬象剣の場合は『何物をも断ち切る刃』を想像しなきゃいけない」

「……それが案外難しい、と」


 マリクとラララが、同時にうなずいた。なるほどねぇ。

 確かに言われてみれば『何物をも断ち切る刃』ってのは想像しやすそうで難しい。


 何故なら俺達には『常識的な感覚』が身についているからだ。

 例えば、包丁で鉄は斬れない。強化魔法を使えば可能かもだが、普通は無理だ。

 そういう『普通は無理』という感覚が、想像する際にノイズになるワケか。


「ふむ、つまりは『想像力』みたいなものが魔力の扱いでは重要で、ラララは現役から長年離れてたから、そこがだいぶ退行しちゃってるワケだ」

「ハァーッハッハッハッハッハァ――――!」


 わろとるわろとる。頬を伝う汗の量が増えとりますわ。


「……本当にどうしよう」


 そしてまた真顔になる。弱り果てて困り果ててって感じが涙を誘います。笑うわ。

 ラララから挑戦状を叩きつけた『最終決闘』一本目は、明日。時間ないねぇ!


「ラララ君はご自分の状況を理解した上でタイジュに挑んだんか?」

「それは、うん、まぁ……」


 言いにくそうに口をもごもごさせるラララ。

 ふ~む。この辺は、ミフユやお袋にも入れた『制限』の範疇なのかもしれんが。

 それにしたって考えなしじゃないかなぁ、それはなぁ!


「ふ~む……」

「う~ん……」

「さてさて……」


 俺とラララとお袋の視線が、マリクへと注がれる。


「ぇ、え……?」

「ズバリきくけど、今からできる対策とかって、あったりする?」


 そのためにマリクをこの場に呼んだといっても過言ではない。


「た、対策っていうか、根本的に魔力の扱いの精度を治す方法なら、あるよ……?」

「「あるのッ!?」」


「へぇ~、さすがはマリクちゃんだねぇ、すごいねぇ~」

「え、えへへ……」


 ビックリする俺とラララに、感心してマリクを撫でるお袋。

 クソ雑魚とまで評されたラララの魔力の扱いを根本的に治す方法、それは一体?


「で、それは何?」


 興味をそそられた俺は、単刀直入に尋ねてみる。


「ぇ、えっと、これからラララちゃんが――」

「うんうん。これからラララが――?」


「こ、ここで百年くらい、魔力の精度に関する練習をすればいいんだよ」

「なるほど。ここで百年くらい、魔力の精度に関する――、うん?」


 待って待って、今こいつ、何て言った?


「……あの、マリクの兄クン。一本目は、明日」

「ぅ、うん。だから、《《これからここの時間の流れ》》、《《速くするね》》?」


 おお、なるほどな! 『異階』内の時間の加速によってそれを補うって寸法か!


「――って、思いっきり俺とお袋巻き込まれるんだが! あと寿命は!?」

「じ、寿命は『不老の呪い』をみんなにかけるから、だ、大丈夫……」

「いやいや、ちょっとマリク君! 俺達が巻き込まれる件についてはッ!」


 抗議する俺に、マリクはニッコリと柔らかく微笑んで、


「うるせぇなぁ! 娘が修羅場なんだから大人しく付き合えや、親ッ!」


 清々しいくらいのブチギレを見せてくれやがりましたよ、この次男ったら!


「ぼ、ぼくはラララちゃんに付き合うよ、お父さんと、美沙子さんは?」

「おまえさぁ~、それはズルいよ? この流れでその質問はさすがにズルいよ!?」

「ごめんなさい……」


 そこで素直に謝るのがマリクというヤツである。

 あ~あ~、百年かぁ~、そっか~。


「ま、付き合ってやるさね。アタシはラララちゃん側だしねぇ」

「しゃあねぇな~! もぉ~!」


 お袋まで同意するなら、もう多数決でも勝てないじゃん。仕方ないですねぇ!


「ところで空腹とかうんことか、どうすりゃええのん?」

「あ、そ、その辺は呪いで何とか……」


 便利だなー、呪い!

 さすがはマリク君だぜ、ちきしょー、このやらぁ! やってやらぁ!


「ぁ、あの、ラララちゃん……」

「何だい、マリクの兄クン?」


「ひ、百年間、付きっきりで魔力の操作を叩き込むから、がんばってね……?」

「それは、嬉しいけど……、どうしてそこまで……?」


 俺もそれは気になった。

 マリクが見せる、ヒメノに対するレベルにも匹敵するラララへの献身っぷり。

 百年付きっきりはさすがに度を越しているように思うが……。


「ぼ、ぼくは、ラララちゃんに勝ってほしいから……」

「マリクお兄ちゃん……」


 小学生の姿をした兄の答えに、ラララは少しの間動かなくなり、すぐにうなずく。


「ああ、このラララは必ず勝つさ。勝って、そして――」

「勝って、それで……?」


「あ、うん。何でもないよ。ハァーッハッハッハッハッハァ――――!」

「ひぅっ……!?」


 高笑いにビビるのは変わらんのかい。


「こりゃあ、『斬魔剣聖(デュランダル)』も完全復活するだろうねぇ」

「何言ってんだよ、お袋。復活じゃねぇよ、新生さ」


 何てったって、ウチの魔法の天才児が百年付きっきりだぜ。

 異世界にいた頃より、断然強くなるのは間違いなしだ。父親の俺が保証する。


「ところで、アキラ」

「ンだよ、お袋」


「アンタは、どっちが勝つと思うんだい?」

「あ~、そうだなぁ~、ぶっちゃけどっちでもいいんだよな、俺自身は」


 そこで俺は、素直に自分の心情を吐露する。


「おや、そうなのかい?」

「まぁな~。ラララもタイジュも、俺からすれば家族だし」

「なるほどねぇ。アンタからすれば、そういうモンかもしれないねぇ……」


 ラララ側に立つと宣言したお袋と違って、俺は『理由』を聞いてないからね。

 それに、だ――、


「俺はさ、お袋。とにかく『最終決闘』が無事に終わってくれりゃ、それでいいよ」

「何だい? 何か、勘働きでもあったのかい?」


 さすがは我が母親殿、わかっておられる。鋭いというか、何というか。


「明確に予感がしてるワケじゃないんだけどな。なぁ~んか、変な感じがな……」


 こういう『感じ』がするときって、大抵ロクでもねぇコトが起きるんだよなぁ。


「そ、それじゃあ、ラララちゃん、始めるよ……?」

「ハァーッハッハッハッハッハァ――――! 始めてくれたまえ、兄クン!」

「ひぃ……!?」


 テンドンしてる我が子らを見つつ、俺は呟く。


「百年経って覚えてたら、シイナにでも占ってもらうかねぇ……」


 そして体感百年後、見事にそんなことは忘れ去っていた、俺なのであった。

 この忘却を、俺はのちのち、後悔することになる。

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