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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十一章 覚悟を捧ぐエンドレスラストバトル
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第241.5話 一本目/二日前/金鐘崎家はかしましい

 シンラとヒナタが遊びに来た。


「…………むぅぅぅぅ」


 そしてシンラが、ラララを前にしてものすごく難しい顔をしている。

 あ、ラララは昨日からミフユの部屋に泊まっとります。


「そうか、あのコロシアムの際に――」

「うん、ごめんね、シンラお兄ちゃん……」


 腕を組むシンラを前に、しおらしく素になって謝るラララ。

 シンラもまた『絶界コロシアム』に関わった人間、今やお袋の婚約者である。

 そりゃあ、ラララの話をしないワケにゃいかんのだが。


「ヒナタよ」

「何?」

「これは礼を言うべきなのか? 怒るべきなのか?」


 あれぇ、何か長男くん、すっとんきょうなことを言い出したぞ?

 この反応には、ラララも軽く目を丸くする。


「え、あの……?」

「うむぅ、ここは礼を言うのが筋な気がするが……」


「お兄ちゃん。みんなが混乱し始めてるから、説明が先じゃないかな」

「おお、そうかもしれぬな」


 ヒナタの忠告に、考え込んでいたシンラがポンと手を打つ。

 なお、場にはミフユ、タマキ、お袋も同席している。みんな、ポカン顔っすわ。


「ラララよ」

「は、はい、何かな……?」


「よくぞ、父上をその場に多少なりとも足止めしてくれた。おかげで、余が先に美沙子殿のところにカッコよく駆けつけることができたぞ! 心より礼を言う!」

「完全に私利私欲じゃねぇか、おまえよォ!?」


 シンラの派手なぶっちゃけに、俺はさすがに物言いをつける。


「そうは言われますが、父上! あそこはさすがに余が駆けつけてこそのクライマックスでありましょう! 逆に父上が駆けつけてたら、その、締まらないし!」

「あー、おまえ! よりによって『締まらない』って言ったな、コラァッ!?」


 何でだよ、あの一件を締めくくったの、俺の異能態じゃねぇかよ!


「父上の出番は余のあとでしたので、余が先に駆けつけてこそ、父上の出番にも意味が生まれようというもの。つまり、正しいのは、余! 美沙子さんを助けたのが余であったこと。それこそが重要であり、正解なのです、父上!」

「ただの私欲をそれっぽく理論武装してんじゃねぇよ!?」


「でもほら~、万が一、父上が先に駆けつけてたら、余も『真念』を得られなかったかもしれないし、美沙子さんも父上に『真念』を譲渡できなかったかもですぞ?」

「む……」


 それはまぁ、そうかも、しれねぇけど……。


「と、いうワケでラララについては『よくぞ父上を止めてくれた』でプラス評価。『美沙子さんを見殺しにしようとした』でマイナス評価。総合してプラマイゼロ。余としてはおまえに言うべきことは何もない。『最終決闘』、がんばるのだぞ」

「え、でも、私、おばあちゃんを見殺しに……」

「美沙子さんが許してるなら、余から言うことはない。余は関係者だが、第三者だ」


 キッパリと、シンラは自分の立場を明確にして、ラララに申し渡す。

 俯くラララを見て、さらにシンラはニヤリと笑う。


「それにラララよ、おまえ、今、死にたい気分であろう?」

「う……」


「誰も罰してくれぬことが逆に辛かろう? 優しさに身を斬られる思いだろう?」

「うん……、結構、キツい」


「それでよい。誰もおまえを罰することはせぬ。それこそが罰となる。精々、過去の己を省みて、そこにある罪を直視し、心に刻むがよい。おまえは『いい子』ゆえな」

「シンラお兄ちゃんがお父さんみたいなことを言ってますが、それはこの人が一番得をしたから言えることです。この人は見た目より全然現金な性格をしています」

「ヒナタよ……」


 わざわざ敬語になって解説し始めるヒナタに、シンラがジトッとした目になる。


「ねー! こいつ現金だよねー、ヒナタねー!」

「ねー! お父さん、ねー!」

「美沙子さん、見てください! ここに毒親と毒妹がいますよ、俺の危機です!」


 お、何だいシンラ君、お袋にだけは一人称『俺』なのかい?


「えー! シンラが『俺』って言ったぜー、おかしゃん! 聞いたかー!」

「ええ、聞いたわ。聞いたわよ、タマキ。これはちょっと、事情聴取が必要ね!」

「ハァーッハッハッハッハッハァ――――! コイバナかい、コイバナだね! ならばこのラララも加えていただきたいものだね! さぁ、いつでも構わないよ!」


 タマキがそれに気づき、ミフユが乗っかり、ラララがいきなりキャラを取り戻す。

 こうして、場は一瞬にしてコイバナの空気に飲み込まれた。


「なーなー、おとしゃんのおかしゃん、シンラと結婚するんだよなー!?」


 あっという間に三人に囲まれ、お袋はタマキからいきなり右ストレートをくらう。


「え! ぁ、ぇ~、ああ、そ、そうだねぇ……」


 お袋は困ったように目線を泳がせるが、残念、俺には助けられません!


「ま、まぁ、結婚は、うん、するょ……、ぅん……」


 声ちっちゃあい! お母様、声がミニマム!


「「「きゃー! やっぱりーッ!」」」


 対照的に、大声ではしゃぐカミさん、長女、五女。

 あまりに声がデケェので、俺は壁に金属符を貼って『異階化』しておいた。

 いつの世も、騒音と悪臭はトラブル発生原因の双璧だ。


「シンラ、シンラ! あんた、もうお義母様に婚約指輪は送ったの?」

「それは二人で選んでいるところですが……」


 え、ウソッ!?

 いつの間にそんな話が! 俺、聞いてませんけどッ!?


「そりゃ、子供に聞くことじゃないでしょ」

「ぐふぅ……」


 ヒナタに正論を衝かれて、思わずダメージを受けてしまった。

 そ、それはそう。確かにそう。婚約指輪に子供の意見が必要なはずがない。


「へぇ~、ちゃんと選んでるんだぁ~? 内側にちゃんと刻印はいれるのよね? あんたとお義母様の場合は『S to M』と『M to S』になるのかしら?」

「はい、それに加えて二人の誕生石を埋め込もうか、という話にもなっております」

「へぇ! それは素晴らしいじゃないか! やるねぇ、シンラの兄クン!」


 ちゃんとミフユに受け答えするシンラに、ラララが膝立ちになって騒ぎ出す。


「でもねぇ、式はどうしようかって思っててねぇ……」


 少し困った風に、頬に手を当てて言うお袋。

 その反応に、またミフユが驚きの表情を浮かべて、お袋の方に寄っていく。


「えーッ! 何でですか、お義母様! 式と披露宴は絶対必要ですよー!」

「でもねぇ、さすがに費用もバカにならないし、アタシも三十路すぎだろ? 今さらドレスなんか着たって、似合いやしないと思うんだけどねぇ~……」

「「「そんなことありませんよッ!」」」


 ため息をつくお袋に、ミフユ、シンラ、ラララの三重唱(トリオ)


「何言ってるんですか、お義母様! これからですよ、お義母様の女ざかりは!」

「そうとも、おばあちゃん! その外見のどこにドレスを着ない理由があるの!?」

「俺は美沙子さんのドレス姿が見たいです! 俺は美沙子さんのドレス姿が見たいです! 俺は美沙子さんのドレス姿が見たいです! 俺はッッッッ!」


 シンラが特に必死過ぎるのマジ笑うんだが?


「みんな、必死ねー。抱っこー」

「へいへい」


 一人、コイバナの輪に加わらないヒナタを抱っこしつつ、俺は遠巻きに眺める。


「おまえは加わらんのか?」

「コイバナに加わるにはあと5年は必要でちゅ」


 では、7歳で加わっているミフユは一体……?


「お母さんは、身の程知らずだから」

「おまえのその、研ぎ澄まされた舌鋒が本当に懐かしく感じるわ」


「毒舌幼女はなかなか需要が尽きないので~」

「それは知らんけども……」


 すっかり困り顔のお袋を、野次馬四人(そのうち一人は彼氏)が取り囲んでいる。

 一方で、俺はヒナタを抱っこしたまま、ここでボ~っとしている。

 するとヒナタが何やら意味ありげにこっちを見上げてくる。


「何だよ?」

「お父さんってさ、みさちゃんのこと、大事?」

「そりゃな。大事に思ってるよ、今はな」


 自然と『今はな』という一言から口から漏れてしまう。

 本当に、お袋との間には色々あった。だからこその現状なワケだからな。


「じゃあ、私達よりも大事?」

「おっと~、なかなかエグイことを聞いてくるじゃないですか、末っ子ちゃん」


 だがイイぜ、下手に回りくどい聞き方されるよりは、好印象だ。


「そうだなぁ、一番大事なのはミフユだな」

「それは知ってる。みんな知ってる。ウチで知らない人、いないから」


 あ、はい。何かすいません。


「ん~~~~、お袋とおまえら(子供達)か……」

「うん」


「とりあえずヒナタさ」

「なぁに?」

「自殺願望でもあるの?」


 チリ、と、俺の身からほのかに殺気が燃え立つ。

 そんなくだらん質問をしてくるヤツは、異世界では例外なくブチ殺してきた俺だ。


 ヒナタも、それは知っているはずなんだがなー。

 しかし、ヒナタは殺気を間近に浴びながら、それでもニッコリと笑って返す。


「うん。知りたいの。お父さんがみさちゃんをどう思ってるか」

「…………」


 その屈託のない笑顔を、俺は睨みつけながら、


「――チッ」


 結局は、軽く舌を打って眉間にしわを寄せる。


「本当におまえは、ミフユの跡継ぎだよなぁ。そういう押しの強さ、そっくりだぜ」

「お母さんはずっとずっと私の憧れの女性でぇ~~っす」

「言ってろ」


 ケラケラ笑い、俺はヒナタの質問に答えてやる。


「俺の中じゃ、おまえらは立派な大人なのさ。異世界で、アキラ・バーンズは確かにおまえらの親だった。だけどその関係性は、おまえら全員がちゃんと育ち、俺とミフユのもとから巣立ってくれたことで、一つの決着を見てるんだよ」

「みさちゃんとは~?」

「決着も何も、アキラ君はまだ7歳ですよ、お嬢さん。育つのもこれからで、巣立つのはずっと先でしょうが。要するに、おまえらとお袋の違いはそこだよ」


 俺の中で、最も大事なのはミフユ。それは揺るぎない。

 そして次に大事なのはお袋と子供達。そこは多分、基本的には同列だ。


 ただ、俺とお袋の関係性は未だ発展途上。これからも変わっていくかもしれない。

 一方で、子供達との関係性は、基本的に俺は見守る側でしかない。


 ま、ケントやタマキ、タクマとシイナ、スダレの一件なんかもあったけど。

 それだって、俺は力を貸す側で、当事者じゃなかったしな。


「そっかそっか、お父さんの中ではみさちゃんと私達は同列だけど、私達に対しては一線引いた位置に身を置こうとしてるんだね、お父さんは」

「だって、おまえらの心はおまえらのものだモン」


 結局、行き着く先はそこ。

 俺とミフユは、子供達をちゃんと一人の人間として見ることを重視している。

 だからそれぞれの判断を尊重したいし、状況次第で一個人として対立もありうる。


 で、お袋の方はですね、俺ではなく『僕』がまだまだ甘えたい年頃なので。

 その影響が、かぁぁぁぁ~~~~なり、強い。

 ま、ここに来るまで、お袋とは本当に色々とあったからね~……。


「ふぅ~ん、そうなんだ~。ふぅ~ん」

「何よ? 何です?」


「ところでお父さん、周りに気づいてる~?」

「あ? 周り?」


 ヒナタに促され、俺は顔を上げる。

 すると、俺の周りに全員がいた。

 ミフユ、タマキ、ラララ、シンラ、お袋の計五人。全員が俺を囲んでいる。


「…………何です?」

「面白そうな話してるじゃない。もっと聞かせなさいよ」


 気圧される俺に、ニマニマ顔のミフユがそんなことを言ってくる。


「お母さん、だっこ~!」

「はいは~い」

「あっ、ヒナタ、おま、に、逃げんなァ~~~~!?」


 ヒナタが俺から離れてミフユの方へと逃げていった。

 そして、囲まれた俺は、主にミフユとラララから質問責めに遭うのだった。


「おまえらはコイバナでもしてろよぉ~~~~!」


 そう悲鳴をあげる俺を、お袋が笑って眺めていた。

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