第229話 タクマとシイナの隙あらば設定語りROOM/2
――宙色市内『異階』の一室。
シイナ:タクマさん。
タクマ:お、どしたよ?
シイナ:折り入ってご相談があります。
タクマ:え、またどうしたよ、そんな改まって。
シイナ:ラインを設けましょう。
タクマ:はい? 何? 何についての?
シイナ:浮気についてのです!
タクマ:はぁぁぁぁぁ――――ッ!? え、お、俺、身に覚えないけど……?
シイナ:はい。私も身に覚えはありません。しかしですね。
タクマ:お、おう……?
シイナ:昨日、タクマさん、電話で女の人と話してたじゃないですか?
タクマ:お~? ……ああ、裕子さんな。俺のお得意様の一人なだけだぜ?
シイナ:いや、アウトですアウトです。
タクマ:アウトなのぉ!?
シイナ:もう、名前呼びの時点でアウトです。私の中でジェラがシーますね。
タクマ:日本語を崩壊させんな! ……って、マジかよ。
シイナ:考えてみてください、タクマさん。
タクマ:う、うん、何だよ。
シイナ:昨日私が味わった気持ちは多分、男性Vのときのタクマさんと同じです。
タクマ:…………ぅわっちゃあ。(手で顔を覆う)
シイナ:わかりました? わかってくれました?
タクマ:ああ、うん。わかった。理解した。実感した。痛感した。
シイナ:何よりです。……ですから、今後絶対必要になってくると思うんです。
タクマ:ライン引きが、か?
シイナ:いいえ『我慢』です。
タクマ:……『我慢』かぁ~。
シイナ:そうです。恋愛はまだしも、夫婦になると絶対にお互い必要になります。
タクマ:俺とおまえでも、か?
シイナ:父様と母様でも、です。
タクマ:…………あ~~~~、何かやってたな~~~~!
シイナ:あの二人、定期的に『相手について相手に愚痴る大会』を開いてますよ。
タクマ:……恐ろしいことしてんな。
シイナ:今、振り返ると、夫婦仲を自ら壊しにいってるようにしか思えません。
タクマ:それでもあのラブラブっぷりなんだよなぁ、父ちゃん達。
シイナ:やっぱり適度なガス抜きが重要なんでしょうね~。
タクマ:え~、じゃあ俺達もやる? 『相手について相手に愚痴る大会』……。
シイナ:えっ! タ、タクマさん、私に何か不満、でも……?(おそるおそる)
タクマ:へ? いや、うぅ~~~~ん……。(腕組み考え)
シイナ:…………。(ハラハラドキドキ戦々恐々)
タクマ:いやぁ、今はないなぁ。しいてあげるなら男Vのときくらい?
シイナ:あ、ないんですか?
タクマ:え、だって可愛いし、服のセンスいいし、俺とも実は結構趣味合うし。
料理も作ってくれるし、美味いし、家事も分担でやってくれてるし。
俺を尊重してくれるのが嬉しいし、だから俺も尊重したくなるし。
男性Vについてもなぁ、普通に面白かったしなぁ~。
アレは俺の了見が狭かったと思うわ。いや、ホント悪かったわ……。
あとさ、おまえて実は相手を立ててくれるタイプなんだよな。
一緒にいるといつも感じるわ。さりげない気遣いとか、そういうのさ。
言葉じゃなく、態度と行動で俺を大切にしてくれてるのわかるんだよな。
だからさ――、
シイナ:はい、それでは設定語りルーム、2回目、スタートです!
タクマ:……あれ?
シイナ:誰が『相手について相手に褒め聞かせる大会』を開けと言いましたか!?
タクマ:…………あれ?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
シイナ:はぁ~、顔が熱い……。どうも、シイナです。
タクマ:俺っておかしいこと言ったか? う~っす、タクマだぜ~。
シイナ:自覚がない。この男、自覚が一切ない……!
タクマ:?????????
シイナ:わかりました、これが終わったらやり返してやりますよ、チキショー!
タクマ:お、おう……?
シイナ:はいはい、それじゃあ早速今回の設定語り行きますよ! タクマさん!
タクマ:あ、うん。どうぞ……?
シイナ:はい、それでは今回も引き続きバーンズ家『異面体』紹介です!
タクマ:ウチの母ちゃんこと、ミフユ・バビロニャの異面体『NULL』だな。
シイナ:外見は、空中を浮遊する大きなくらげですね。
NULLのステータスは以下の通りです。
攻撃力:★★☆☆☆☆☆☆☆☆(2)
防御力:★★★☆☆☆☆☆☆☆(3)
速度 :★★☆☆☆☆☆☆☆☆(2)
技巧 :★★★★★★★★★☆(9)
射程 :★★★★★★★★★☆(9)
能力 :★★★★★★★☆☆☆(7)
タクマ:射程こんな長いんか、NULL……。
シイナ:触手が結構長く伸びたりするのと、母様から離れても活動できるので。
タクマ:あんまその辺はこれまで描かれてなかったよなぁ。
シイナ:ですね~。そもそも戦闘が得意なタイプでもないですし。
タクマ:ステータス的にもバッチリ非戦闘型だよなー。
シイナ:そうですね。前回の父様の『マガツラ』と比較するとわかりやすいです。
タクマ:そのくせ、母ちゃん自身は割とイケイケっていうね……。
シイナ:メインヒロインのクセに、服装がバリバリにロリポップですからね。
タクマ:時々よぉ、目に痛ェんだよ、キラキラしすぎてさぁ。
シイナ:陽キャのタクマさんがそう言っちゃうんですか……。
タクマ:俺は自分で別に陽キャのつもりねぇっての……。
シイナ:え~! タクマさんは陽キャですよ~! パリピのウェ~イですよ~!
タクマ:あれ、俺今、罵られてる? 罵られてるよね、これ?
シイナ:そんなことはないですよ~? それで、NULLの能力ですが~。
タクマ:おう、確か『薬物生成』だったよな?
シイナ:ですね~。薬物も毒物も生成できる、すごく便利な能力です。
タクマ:薬物の広域散布もできるけど、薬によっては触手から注入するんだっけ。
シイナ:第一章にそれに関する言及がありましたね。
体育館で眠らせた生徒達に忘却毒を注入する場面ですね~。
タクマ:特定の記憶だけを消し去る忘却毒とか、考えてみると頭悪いよな。
シイナ:そういう芸当もできるからこその技巧9なんでしょうけどね。
タクマ:あと、攻撃力は低いけど、力もないワケじゃないんだよな、NULL。
シイナ:第四章で佐村夢莉を殴るために金庫を持ち上げてましたからね。触手で。
タクマ:死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。金庫で殴られたら人は死ぬって。
シイナ:そういう場面でしたから……。
タクマ:ちなみにNULLが生成できる薬物って、どんなのがあるんだ?
シイナ:結構多いというか、ほぼ何でもありなのでは?
タクマ:えぇ……?
シイナ:融解毒、忘却毒、眠り薬、痺れ薬、濃度圧縮活力剤とか、他にも様々と。
タクマ:今後も色々場面に合わせた薬が出てくるんだろうなぁ……。
シイナ:そろそろ母様の本編出演も増えそうですしね~。
タクマ:第七章以降はおとなしかったからな。そろそろ出しゃばるぞ、あの女。
シイナ:言い方……。まぁ、間違ってないと思いますけど。
タクマ:それでNULLといえば――、名前がなー、他と違うよなー。
シイナ:父様含め、他の異面体は漢字表記ですけど、NULLだけ例外ですね。
タクマ:これは、何でなんだ?
シイナ:母様の『真念』が『自由』だからですね。ルールの外に出る性質です。
タクマ:ルールの外に出る性質、か。なるほどなー。自分を例外にするワケだな。
シイナ:はい。それもあって、NULLは異面体のルールから外れてるんです。
タクマ:『異階』でしか使えない、みたいなルールには従ってるんだな。
シイナ:お話の都合です。
タクマ:ぶっちゃけやがった……!?
シイナ:母様からすると『不自由があるから自由を満喫できる』らしいです。
タクマ:じゃあそれを最初に言えばいいじゃん!
シイナ:(そっと目を逸らす)
タクマ:あ、おまえ、今思いついたんだろ、それ! なぁ!?
シイナ:私じゃないです~! 電波トバしてくるヤツのせいです~!
タクマ:でもさぁ……。
シイナ:はい、何ですか?
タクマ:母ちゃんってさ。
シイナ:はい。
タクマ:『真念』が『自由』な割に、ものすごくしっかりしてるっていうか……。
シイナ:フリーダムな部分もありますけど、ポジション的には常識人側ですよね。
ふたり:金銭感覚はこれ以上なく壊れてるけど。
タクマ:怖かった! 本気で『家いる?』って言われたときはマジに怖かった!
シイナ:こっちの想像通りの変動を、そのっまんましてきましたからね、母様ッ!
タクマ:はぁ~、身内に上流階級の極みがいるのがここまで恐ろしいとは……。
シイナ:反面教師にしましょう。母様のこと。私達は『普通』でいいです。
タクマ:だな……。
シイナ:でも、家計簿とかきっちりつけてるんですよねー、母様。
タクマ:何でそっちの金銭感覚はきっちりしてるんだよ、ワケわかんねぇ……!
シイナ:そこはほら、異世界で十五人を育て上げた鉄人主婦ですから。
タクマ:その辺、属性積みすぎなんだよなぁ~!
シイナ:ヒロインで、世界最高値の娼婦で、ロリポップで、主婦で、大富豪。
タクマ:その属性が一番フリーダムだろうがよぉ~!
シイナ:ちなみにこれは初出しの情報ですが――、
タクマ:おう。何だよ?
シイナ:母様、十五人育て終えた時点でもスタイル崩れしてませんでした。
タクマ:そぉ~~~~だったぁ~~~~!
シイナ:さすがは世界最高値の娼婦……。自分を維持するすべを極めている。
タクマ:その薫陶を受けたおまえとか姉ちゃん達も大体同じだったじゃん?
シイナ:母様の子として生まれたことを感謝しなくちゃ……!
タクマ:で、おまえは最近どうなの? その、スタイルの維持は?
シイナ:…………。
タクマ:シイナ?
シイナ:…………。
タクマ:おとといだっけ、言ってたよな。■■Kg太ったって。
シイナ:うわぁ、言いやがりましたね! 口に出しましたね、この野郎!?
タクマ:おまえが俺に頼んだんだろうがぁ~~!
『もし私が間食とかしてたら、私のことを叱ってください!』ってよ!
シイナ:それは言いましたけど、何で今言うんですかァ~!
タクマ:おまえが今、その手に未開封のポテトチップスを持ってるからだよッッ!
シイナ:……はっ!? いつの間に!
タクマ:ホントやめろ、おまえ。ホント。これから冬が来て、それから正月だぞ?
シイナ:冬でお正月だから、何だっていうんですか~!
タクマ:こたつと寝正月でおまえが太る未来しか見えねぇって言ってんだよォ!
シイナ:そ、そ、そ、それは……! うわぁん!
タクマ:ほ~ら、言い返せねぇじゃねぇか。……よし、終わったらジョギングな。
シイナ:ええっ!?
タクマ:軽く10kmくらい走れば、この時期でもいい汗かけるだろ。
シイナ:そ、それはその、前向きに、検討して、善処を……。(視線右往左往)
タクマ:ハイ決定! これ決定ね。この決定は覆らねぇから!
シイナ:あばばばばば、あばばばばばばば……。
タクマ:おまえ運動嫌いもいい加減にしとけよ? 俺はそこは妥協しないからな。
シイナ:そ、それでは引き続きタマキ姉様の異面体を……。
タクマ:それじゃあ今回はここまでだぜ~! またな~!
シイナ:いやぁぁぁぁぁぁ!? タクマさん、お慈悲を、お慈悲をぉ~~~~!
タクマ:やです。おしまい!
シイナ:あああああああああああああああああああああああああああああ!?