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第216話 トーナメント終了、そして、誘われる

 死体を見つけた。ガキの死体だ。

 トーナメントで負けたヤツのものだろうが、通路に適当に放置されていた。


 一つではなく、複数。

 粗大ゴミみたいな感じで、積み上げられている。


「どれも、死後一時間以上は経ってるな……」


 つまり蘇生は不可能。ここに放置しておくしかない。

 ま、別にそれで何かを感じたりはしないんだけど、所詮は他人だしな。

 ただ――、


「……ふぅむ」

『何だ、我が主。気になることでもあるのか?』


 あごに手を当てて考えている俺に、ガルさんがそんなことをきいてくる。

 気になることといえば気になることだが、これは……。


「ん、多分、別件だ。関係ないと思うわ」

『そうか。ならば、ここからどうする』

「あの道化野郎がこの『絶界』にいないなら、もうさっさと出るしかないな」


『つまり、やるべきことは』

「この空間を作ってる『金色符』の発見と、回収か破壊。……ま、破壊するかね」


 あの道化野郎が、素直に『金色符』を使っているとは思えない。

 何らかの方法で回収可能にしているか、もしくはいつでも壊せる状態にあるのか。


 どちらにせよ『仕返し』は、この場ではできないってことだ。

 わ~、もどかしい。現実に戻ったら、総力を挙げてブチ殺すわ、あの道化野郎。

 それと……。


「…………ん?」


 気づいた。遠くから、声が聞こえる。

 これは、今まさに殺す決意を新たにした道化野郎の声だ。ああ、決まったのか。

 俺はその場で耳を澄まして、しばし道化野郎の声を聞く。


『決まったァァァァァァ――――ッ! 優勝は、少女Mだァ――――ッ!』


 本来であればそこに続く歓声はなかった。

 だが、ゴーレム越しに戦いを見ていた観客共は、きっと大興奮なのだろう。

 子供の殺し合いに熱中して、大の大人が大はしゃぎ、か。まさに大入りですわ。


「それにしても、お袋に負けたか、ラララのヤツ。……ちょっと意外だな」


 あいつの異面体は知っている。

 ラララの斬りたいものだけを斬る剣型の異面体――、士烙草(シラクサ)


 最後はそれを使って、お袋に勝負を仕掛けると思っていた。

 そうなったら、お袋も百髏器(トドロキ)を使って反撃に出るのは目に見えてる。


 殺しこそしないが、気絶はするであろう最後の勝負。

 てっきり、ラララが勝つと思っていたが、そうか、お袋が勝ったか。


「あんまり、よろしくはねぇな……」

『何故、そう思う。我が主』

「決まってんだろ」


 踵を返し、俺はコロッセオの方に向かう。


「このままじゃ、ミーシャ・グレンが研ぎ澄まされちまうからだよ」



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 大泣き。


「うぁぁぁぁぁぁ~~~~ん、負けたぁ~~~~! 負けちゃったぁ~~~~!」

「よしよし、そんなに泣くんじゃないよ……」


 例のごとく、意識を失ったラララを死体と偽って『異階』に連れてきた。

 そしたら、目覚めたラララはこの調子である。


「もぉぉぉ~~~~! 何で負けるのぉ~~~~! ヤダァ~~~~!」


 手足をジタバタさせてイヤイヤするその姿は、年相応の子供である。

 実際に彼女が何歳なのかはわからないが、それを見て美沙子はクスリと笑う。


「何とも、変な心地だねぇ」

「むぅ~~~~! 何がだよぉ~~~~!?」


「アキラに、ちょっとだけ重なるのさ、今のアンタを見てるとね……」

「ぇ……」


 ふてくされてかけていたラララが、美沙子のその言葉にキョトンとなる。


「あの子はね、まだ『出戻り』もしてなくて、集さんの家にいた頃は、割と癇癪持ちでね、今のアンタみたいに泣いてごねてなんて、しょっちゅうだったのさ」

「パパちゃんが……」


 懐かしみながら語る美沙子だったが、そこでハッと気づく。


「ああ、今のはアタシじゃなくて前の『あたし』の記憶だねぇ。そいつを懐かしむってのは、ちょっと違うかもしれないか。同じ美沙子ではあるんだけどね……」

「異世界でのパパちゃんは、どうだったの……?」


 興味深げなラララに問われ、美沙子はそれを思い出そうとする。

 異世界での小さかった頃のアキラ。その記憶は、それは、その思い出は――、


「……あれ?」


 何も、思い浮かばなかった。


「どうかしたの?」

「いいや、何でもないさね。それより、今はゆっくりしてるヒマはないよ」


 思考を強制的に中断し、美沙子は話題を切り替える。

 ラララもやっと顔つきを引き締めて、涙を腕で拭って、大きく息をついた。


「負けちゃったから従うさ。でも、このリベンジはいつかするからね! 私は、このラララは、負けたままじゃいないから。私は剣、刃こぼれはしちゃいけないの!」

「そうかい。だったらそいつは、この一件が終わったあとで受け付けてやるさ」


「このラララは、今からでもいいんだよ!」

「アンタも大概懲りない子だね……」


 泣いたカラスがもう笑う、という言葉を、美沙子は思い出していた。


「だぁ~って、異能態使えるとか聞いたら滾るじゃないか! このラララは、己の輝きを磨くことに貪欲なのさ。強者との戦いこそがこのラララを輝かせるのだから!」

「もったいないねぇ、アンタも別嬪さんなんだから、オシャレでもすりゃいいのに」


「そういうのは必要ないね。このラララは一振りの剣。装飾はむしろ邪魔さ」

「そうかい? 何とも、色んな考え方があるもんさね」


 感心する美沙子の耳に、ラララの小さな呟きが、確かに聞こえた。


「――もう『女』として生きるのは、いい」


 それに、美沙子は反応を見せなかった。

 この子も何かを抱えているらしいが、それは自分が踏み入るものでもあるまい。


 子供の心は子供のもの。

 バーンズ家の教育方針であるそれをアキラに教えたのは、美沙子自身だった。


「それよりも、ミーシャおばあちゃんのことさ! 異能態を使えるなんて、パパちゃんからも聞いたことがなかったよ! 本当かい? 本当に使えるのかい!?」

「ああ、使えるさね。アキラにも言ってないけどね」


 事実だ。

 金鐘崎美沙子――、いや、ミーシャ・グレンは異能態を扱える。

 もちろんそれは『出戻り』する以前からだ。


「それはどんな異能態なんだい? どういった『真念』から生じたもので、どういう効果があるんだい? 是非とも後学のために、教えてほしいところだよ!」

「前のめりだねぇ、アンタは……」


「異世界ではこのラララもタマキの姉ちゃんも到達しえなかった境地さ。だから、興味があるに決まってるじゃないか。教えておくれよ、ミーシャおばあちゃん!」

「そういえば、タマキちゃんは使えるようになってたねぇ、異能態」

「な、何だってェェェェェェェェ~~~~!?」


 ラララ、愕然。硬直。頬、プックゥ~!


「……ズルい!」

「そういうトコだけ見ると、アンタも可愛げがあるんだけどねぇ」


 言って、美沙子は金属符を壁から剥がす。


「さ、動くよ。ラララちゃん。アンタはシンラさんとひなたちゃんの確保をお願いするよ。シンラさんの方は、記憶がない分、ちょっと危なっかしいからね。頼むよ」

「ミーシャおばあちゃんは?」

「決まってンだろ、オードへの仕返しをしてやるのさ」


 弾丸の入っていない拳銃を手に、美沙子は軽くウインクをする。


「仕方がない。このラララは一振りの剣さ。だから勝負には誠実に臨むとも。……え? 何だって、さすがの輝き、だって? そう思うならいいさ。称賛を許すよ!」

「それじゃ、行動開始さね」

「無視しないでよぉ~、おばあちゃ~ん!?」


 ラララが何やら騒いでいるが、美沙子はそれには応じずに控室に戻る。

 シンラとひなたは、ラララとアキラがいればまず大丈夫だろう。


 美沙子には、美沙子にしか果たせない役割がある。

 それは、オード・ラーツの殺害。

 こんなくだらないイベントを企画したあの道化を、地獄に落としてやることだ。


「ごめんなさ~い、ちょっと迷子になっちゃったぁ~!」

『オイオイ、待ちくたびれちゃったぜぇ~、少女Mちゃんよぉ~!』


 控室に戻ると、そこにはゴーレム数体と、スクリーンの向こう側のオード。

 相変わらず、チャラい様子で、美沙子のことを見て笑っている。


『いや、それにしてもすごかったねぇ、Mちゃん。まさに圧巻の勝利だったねぇ! 特に最後の決勝! 少女Lとの白熱した戦いは、見てて血が滾っちゃったねぇ!』


 道化の声は興奮に沸いていた。だが、美沙子は白ける。

 決勝戦など、最後以外はすべて茶番だ。何をどう見れば興奮できるのか。


 それとも道化は演技をしている?

 いや、それもありそうになかった。美沙子の感覚が、この道化に裏を感じない。

 オードは小物だ。それは間違いない。こいつはただの虫けらだ。


 子供の姿に戻って、美沙子の感覚は『喜々として死屍』の頃に近づきつつあった。

 その彼女の研ぎ澄まされた知覚が、道化の素顔をしっかりと捉えている。


 この男には、自分を騙すことはできない。そう確信できる。

 今の自分よりも鋭い感覚の持ち主など、そうそういるはずがない。


 思いつくのはさっきまで話していたラララと、シイナくらいなものか。

 特に、シイナはヤバイ。あの子の『目』を欺ける人間は、おそらく存在しない。

 その意味でいうなら、ラララの『肌』もそれに次ぐか。


『少女Mちゃんさ~、君のおかげで今回のイベント、大成功しちゃったんだよね~。今回のルールでの開催、初めてだったからちょっと不安だったんだけどさぁ~!』

「今回のルールって、どんなルール?」

『ん? 知りたいかい? いいよぉ~、君にだけ特別に教えてあげるさ~! 今回のイベントはねぇ、『転生者同士の殺し合いトーナメント』なんだよね~!』


 ――やはり、か。


 美沙子が予想していた通りだった。

 ひなたとラララが召喚されていた時点で、それについては推測できていた。


 つまりは、最初にいた十六人全員が、転生者――、『出戻り』。

 いや、ひなたが巻き込まれたことを考えると『出戻り』の可能性がある人間、か。


『記憶のない君には何を言ってるかわからないだろうけどねぇ~、異世界からこっちに転生してきた人間、もしくはこれから転生するかもしれない人間をランダムで十六人、魔法で召喚転移したんだよ。この逃げ場のない『絶界コロシアム』にね!』

「すごぉ~い、そんなことできるんだぁ!」

『できるさ、僕がいる『組織』ならね。朝飯前だよ~!』


 ……『組織』?


『でね、他にも趣向が凝らしてあって、召喚された十六人はねぇ~、全員が他の誰かで何かの『縁』で結ばれているんだよ。つまり、知り合い同士での殺し合いが起きる可能性があるんだ。スリリングだろぉ~? もちろん、君がこれまで殺してきた相手の中にも、君と『縁』があった人間がいたはずさ! 記憶はないだろうけどね!』

「やだ、こわぁ~い! 嘘ォ~!?」

『それこそ嘘だろ。君は、相手が誰でも殺すことを躊躇わないだろ~!』


 美沙子が適当に反応すると、オードはそれにすぐにのっかってくる。

 何というか、非常に御しやすい相手だという印象だ。


『ま、その『縁』がどういう『縁』かまでは知ったこっちゃないけどねぇ~。僕はイベントが盛り上がればそれでいいのさ。――だから、少女Mちゃんさぁ~』


 道化が目を見開き、スクリーンに顔を寄せてアップになる。

 そのいやらしい笑みに嫌悪感を催しつつ、美沙子は「なぁに?」と首をかしげる。


『君、僕のところの『組織』に来ないか。僕が所属してる『Em(エム)』に』


 道化の誘いに、美沙子はニヤリと笑い返した。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 美沙子がオードに誘いを受けていたのと同時刻、ラララは少年Sと合流していた。

 そして彼女は、少年Sを見るなり、こう言った。


「君は、誰だい?」

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