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第213話 ここで新キャラ投入はただの自殺行為では

 ラララ・バーンズは剣士だ。

 キリオは聖騎士で似てるように思えるが、その実、全然違う。


 どう違うかというと、キリオは抜けてるバカだがラララはナルシストなバカだ。

 自己肯定感が凄まじく高く、底抜けに明るく、そして何よりクソ強い。


 バーンズ家の戦闘面における第二の猛者。

 それが、今、試合場でバカ笑いを響かせているラララ・バーンズだった。


「ハァーッハッハッハッハッハァ――――ッ! とこしえに眠れ、少年Dよ! 君の屍を乗り越えて、この少女Lの魂はさらなる輝きを帯びた! 感謝するよ! 君の魂は常にこの少女Lと共にある! さぁ、共に往こう! かつての好敵手(とも)よ!」


 一事が万事この調子で、ラララは常に好敵手(とも)を求め続ける。

 つまりは総天然戦闘狂少女ナチュラル・ボーン・バトルマニアガールってこった。


 しかし、そんな性格も相まってかどうか知らんが、あいつは人気があった。

 バーンズ家の子供たちの中でも、何故か女性人気が高かった。

 まぁ、女性ながらも貴公子然とした態度は振る舞いが原因なんだろうけどな。


 だけどラララの本質はどうしようもなく『剣士』だ。

 しかも、剣一本のみで単身戦場に飛び込んで行くようなタイプのヤツ。


 ゆえにあいつは『華麗にして苛烈』と呼ばれた。

 俺が知る限り、タマキに最も多く喧嘩を売り続けたのが、ラララだったなー。

 それに嬉々として応じて、一回も負けなかったのがウチの長女なんだが。


 ちなみに変な名前については、ミフユが強硬に主張したからそうなったんだよね。

 曰く、『この子はそういう名前が絶対合うから、そうするの!』とのこと。


 ……『出戻り』元の影響、なのかねぇ。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 わー、ヤッベェ。


「なぁ、ガルさん」

『何じゃい、我が主』


 俺は、湧き起こる危惧を素直にガルさんに伝える。


「これ、ラララとお袋の『死闘★激闘★白熱バトル!』始まっちゃわない?」

『始まるに決まっとるだろ。ラララの性格なら確実に美沙子様にワクワクだぞ』


 だ~よ~ねぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~!


「めんどくさい。デメリットがどうとかじゃなく、それはめんどくさい」


 いやぁ、観戦してて正解だったわ。

 あいつに気づけなきゃ、大変なことになるところだった。


「ガルさんは引き続き内部探知よろしく。俺はラララを何とかするわ」

『できるんか、我が主』

「まぁ~、何とかなるんじゃねぇかな。あいつも魔法は使えないし」


 ラララの戦闘スタイルは魔法と剣技の組み合わせだからな。

 魔法が使えない現状、あいつは全力を出せない。それでも十分強いんだが。


「ま、最悪の場合でも、俺は『魔法の言葉』を知ってるから」

『わかった、そっちは任せたわい』


 さて、こっちも忙しくなってきましたよ~!

 俺は観客席から建物内部に戻ると、まずは偵察用のゴーグルを装着する。


 このコロシアム、相応に入り組んではいるが、迷宮ってほどじゃない。

 観客席から繋がる通路から回り込めば、選手控室に当たる場所に出られるはずだ。


 各所には監視用のゴーレムなども配置されている。

 俺はそれを『隙間風の外套』で避けていきながら通路に向かって走る。


 ラララをどうにかするなら、今のタイミングしかない。

 あいつが選手控室に戻るまでの間に、俺はあいつに接触する必要がある。


 控室には、道化がいる。

 さすがにそこでラララに声をかけるワケにはいかない。


 だからその前、あいつが控室に続く通路を歩いているところを狙うしかない。

 そこに監視用ゴーレムがいたら終わりだが、そりゃもう、賭けだ。


 走って、走って、走って、通路を曲がって、曲がって――、見つけた!

 俺が立っている石壁の向こう側。

 そこに、選手控室へと続く通路があり、ラララが歩いている。


 俺は周りを見て、さらにラララのいる通路の方もゴーグル越しに確認しておく。

 監視用のゴーレムは見当たらない。OK、だったら即時行動開始だ。


「はい、このタイミングだァ――――ッ!」


 ラララが俺の前を通る瞬間に、俺は金属符を地面に貼り付ける。

 そして、石壁とラララを巻き込む範囲を『異階化』し、マガツラを具現化。


「どうもこんにちは、俺とマガツラです!」

「おっとォ~!?」


 マガツラで石壁をブチ抜いて、そのままダイナミック挨拶。ラララに接触する。


「何だい、少年。なかなか派手な登場じゃないか! もしや君、この少女Lに魅せられてしまったのかい? ああ、そうだとしたら、何という罪深いことだ! 今日もまた、この少女Lの迸らんばかりの輝きが、人々の魂を焼いてしまったというのか!」

「…………」


 立ち尽くす俺の前で、いちいち大げさにポーズをつけてるラララ。

 こいつ、記憶なくしててもいつもと何ッにも変わんねぇなぁ~~~~ッ!?


「え~っと……」

「ああ、いいとも! この少女Lに称賛の言葉を浴びせたいんだね、いいとも!」


 と、ラララが両腕を広げて受容のポーズをとる。そこに、俺は言ってやった。

 これこそは、こいつの動きを確実に止める『魔法の言葉』。くらえ!


「俺、おまえより強いヤツ知ってるけど」

「むむ? 何だって、それは聞き捨てならない――」

「オラァ! マガツラ、ドッゴォ――――ンッ!」


 ラララが反応を見せた瞬間に、マガツラでブン殴った。『絶対超越』、発動!


「何をするんだ、いきなり!」


 とはいえ、今の一撃、自分から後ろに跳んで衝撃を殺すのはさすがにラララだが。

 でもいいんだ、マガツラの拳は当たったから、何の問題もな~し。


「君は、一体何者だ。このラララに向かって――、ん? おや? あれ?」


 ラララが不思議そうに首をかしげる。

 それは、自分の名前を思い出したことに対してか、それとも俺に気づいてか。


「…………。…………。…………。…………もしかして、パパちゃん?」


 どうやら、俺に気づいたことによる反応らしかった。


「そう、パパちゃん。アキラ・バーンズ」


 俺がコクリとうなずくと、ラララは途端に目を丸くする。

 そして一気にその顔を赤くして、床にヘタリと座り込んで、両手で顔を覆い隠す。


「やだ、やだやだやだ! 待って待って、本当に待って! 私、何のおめかしもしてないよぉ~! こんなところパパちゃんに見られたくないぃ~! やぁだぁ~!」


 イヤイヤとかぶりを振りながら、泣き出してしまうラララ。

 あらら、素が出ちゃったよ。さっきまでのナルシスっぷりも素ではあるんだけど。


「もぉ~、何でよ~、何でこんなところでパパちゃんと会っちゃうのぉ~!?」

「本当に変わらんなぁ、おまえは。いっそ安心するわ……」


 ラララがこうして素を見せる相手は、自分の旦那か、俺達家族だけに限られる。

 ゆーて、こいつも『常在戦場』とか言っちゃう人なので、いつでもこうではない。


「ううう、最悪。ホント、最悪。せめて革製の防具くらいは欲しかった……」


 ラララが言う『おめかし』=『武器防具での武装』である。

 こいつ、性格こんなだけど、中身は生粋の剣士だからね。割と修羅道の住人だ。

 異世界で最終的に結婚した相手も、長年のライバルだった幼馴染の剣士だし。


「え~、本題入っていい?」

「うぅ~、ちょっと待って……。もぉぉぉ~~~~……」


 すっかり勢いをなくしたラララだが、そこで立ち上がって深呼吸。そして、


「ハァーッハッハッハッハッハァ――――ッ! このラララは落ちこまない! 我が輝きは永劫不変、見る者全ての魂を焼き尽くす、美の極致なのだから! 人はこのラララをこう呼ぶ、太陽の化身! 太陽を超えた太陽と! 我が輝きは、永遠なり!」

「いや、おまえスゲェよ……」


 あそこから盛り返すんだから、実際、すごいよ。こいつも十分、芯は強い。


「で、本題入っていいですかね?」

「ハァーッハッハッハッハッハァ――――! 構わないとも、パパちゃん。さぁ、存分に語りたまえ! 何なら、その間、このラララは踊ってあげてもいいんだよ!」

「えーっとですねー」


 俺はケントじゃないのでツッコミは入れず、ラララに事情を説明した。


「ほほぉ、シンラの(あに)クンにひなたちゃん。そして、パパちゃんのママちゃんが!」

「あ、ヤバ……」


 パパちゃんのママちゃんのところで、明らかに表情が輝いたぞ、こいつ。


「このラララは知っているよ、パパちゃんのママちゃんといえば、伝説の女傭兵、『竜にして獅子』ミーシャ・グレン! ああ、何たる僥倖! このような場で、そんな相手と刃を交えることができるとは……! 新たな好敵手(とも)が、このラララの前に!」

「いや、ただの主婦の金鐘崎美沙子だよ……?」

「ただの主婦の金鐘崎美沙子に『出戻り』した、ミーシャ・グレン、だろう?」


 クッソォ、鋭い!

 こいつ、バトル関連になると頭の回転早くなるのやめてくれないかなぁ!


「あの、ラララさん……?」

「戦いたい! このラララの技と力を尽くして、鎬を削り合いたいッ!」


 あ~ぁ、やっぱこうなるかー。こうなっちゃうよなー。

 家族を助けたい、って頼んでも『じゃあ、戦ったあとで』って言うのがこいつだ。


 ひなたを助けることに協力はしてくれるだろう。

 しかし、同時にお袋と戦うのをやめるつもりはない。というのも伝わってくる。


 わかってはいたけどさぁ、ホンマ、こいつはさぁ……。

 しゃ~ないな~、最終手段だ。


「オイ、ラララ。お袋と戦うのをやめて、俺に全面協力するんだ」

「何を言っているんだい、パパちゃん。このラララから魂を輝かせるべき瞬間(とき)を奪うというのかい? それはさすがに相手がパパちゃんといえども――」


「協力してくれないなら、タマキの居場所教えてやんないモン!」

「あ――――ッ! ズル~い! それはズルいよぉ、パパちゃ~~~~ん!?」


 再び素に戻るラララ。

 フン、こっちはおまえの弱点など知り尽くしておるわ!


「ちなみにな、タマキ、彼氏できたぞ」

「え、嘘ッ!?」


「相手はな、あいつだ。ほら、あの、ケント・ラガルク」

「えーっ! 本当ォ~!? タマキの(あね)ちゃん、初恋実らせたんだぁ~!」


 やはりこいつも女子、コイバナにキャッキャしよる。


「そーだよ。そしてな」

「うん?」


「ケントは、俺並に、強い」

「…………ッ!」


 そのとき、ラララの瞳の色が変わるのを、俺は確かに見た。


「さぁ、どうする、ラララ。タマキとケントの情報を諦めてお袋と戦うか。それとも、タマキとケントの情報を報酬として、俺達に全面協力するか、どっちだ!」

「パパちゃんのママちゃんと戦って、姉ちゃんとケントクンの情報も手に入れる!」


「通るか、ボケェ!?」

「しょぼ~ん……。仕方ないなぁ、わかったよぉ~、そっちに協力するよ~」


 頬膨らませブーたれつつ、ラララはやっと折れたのだった。

 タマキ、ケント、ダシにしてすまん。でも、こうするのが最適解だったんだ!


 キリオの件もあるし、今度、真面目に何かお礼をしないといけない気がする……。

 ま、それを考えるのは現状を切り抜けてから、だな。


「A・Bブロックの勝者はお袋になるだろうから、決勝戦でよろしくな」

「むぅ~、八百長みたいでヤダなぁ~……」

「――タマキとケント」


 ボソッ、と、俺は呟く。


「わかってるぅ~! でも、絶対教えてもらうからね~!」

「へいへい」


 そして俺は金属符を剥がして、空間を復帰させる。

 俺とラララは再び壁に隔てられて、ラララは控室に、俺は逆方向へと歩き出す。

 金属符の設定を調整しておいたので、現実での時間は一分も経っていない。


『我が主』


 そろそろ外に出るかというところで、ガルさんが俺に呼びかけてくる。


『コロッセオの内部探査、終わったわい』

「お、ナ~イス!」


 こうして俺達は、一歩一歩着実に、反撃の体制を整えつつあった。

 さて、お袋の方は、今頃どうなっていることやら……。

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