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第211話 Bブロック第二試合:少年Svs少女H

 ガルさんの話で、一つの謎が解けた。


『フン、なるほどな。『絶界コロシアム』。何とも安直なネーミングじゃわい』

「何かわかるんか?」


『わかるとも、ここはな、我が主。『異階』のプロトタイプである『絶界』だ』

「……『絶界』?」


 いかにも知ってます風なその言い方からすると、もしかして――、


「ここを作り出してるのは古代遺物(アーティファクト)のたぐいか?」

『御明察。その通りよ。この空間を作り出しているのは金属符の原型『金色符』よ』


 ……こんじきふ?


『かつて存在した古代文明が遺した最高の発明とも呼べるアイテムでな。どういう効果かというとな、それを使用すれば『世界を創造できる』。そういうアイテムだ』

「……何て?」


『世界を創造できる。そう言ったぞ』

「え、それどんな比喩?」


『比喩じゃないんだな~、これが。マジで世界を創造できるのだ』

「オイオイオイオイ」


 何じゃそりゃあ。

 いくら古代遺物でも、さすがにそんなモンは聞いたことが――、


「……そういえば、おまえは『世界を滅ぼす魔剣』だったな」


 割と身近にいたわ、世界基準!


『さすがは我が主よ。そこに気づくか』

「割と嬉しそうに声弾ませてんじゃねぇよ、親戚のおじさん」


『美沙子殿の幼少時の姿、我が主に似ていたなぁ! いやはや、親子よのう!』

「本気で親戚目線なんだよなぁ……」


 しかも、自分自身でそれを積極的に受け入れてるっていうね……。


「で、その『金色符』ってな、どんなモンなのよ?」

『おう、それな。簡単に述べれば、世界規模の避難先を創造するアイテムでな。生物の創造こそ不可能だが、生物が発生可能な環境の構築と、最小で部屋一つ分程度から、最大で世界全土と同等の面積まで、任意の広さの空間を設定可能だぞ』


 何じゃあ、そりゃあ。

 実質『異世界を1から作れちゃうアイテム』じゃねぇか……!

 ん? だが待て、今、ガルさんは『避難先』っつったよな。


「なぁ、ガルさん。もしかしてそのアイテムって……」

『さすがは我が主だな、察しがいい。その通りだ。『金色符』が造られたのは、俺様が創造されたのと同時期。古代文明を滅亡に追いやった最終戦争真っただ中の頃よ』


 ああ、やっぱり。

 ガルさんは『世界を滅ぼす魔剣』。そんなモンが理由なく作られるはずがない。

 あったのだ。ガルさんのような武器が必要とされる理由が。


 それこそが、今、ガルさんが語った最終戦争。

 異世界で、俺達の時代より遥か一万年前に起きた、世界を滅ぼしかけた戦争だ。

 そこで、とある勢力が創造した最終兵器が、ガルさんだった。


『『金色符』を創造したのは俺様を造ったのと同じ勢力でな。その意味では『金色符』は御同輩というワケだ。だからここが『絶界』なのはすぐにわかったわい』

「なるほどね、万が一、自分達が負けたとき用の避難先として作ったのか」


 しかし、それで出てくるのが『異世界作っちゃう系アイテム』とか何なんだよ。


『神になりたかったのではないか?』

「わ~、ありそ~……」


 避難先を好きに作れるならついでに世界そのものを作って神様になっちゃえ~。

 みたいな感じだろうか。バッカだな~。滅びて当然だな~。


「なぁ、ガルさん。このコロシアムがどういう場所かわかったりしない? 構造的にダンジョンっぽい感じではあるけど、どういう意図があるのかがいまいち掴めん」


 そもそも、あの道化野郎とか、子供同士の殺し合いとか、何なんだよ。

 いちいちエンタメチックな演出を感じたりもするし、どうにも狙いがわからん。


『簡単だ、我が主。ここはな、言ってしまえばテレビの収録スタジオだ』

「……それって、オイ」


 ガルさんの言わんとするところを、俺はすぐに察する。

 そして、口から衝いて出たのが、次の質問。


「まさか、あのガキ同士の殺し合い。《《本当に見てるヤツがいるのか》》?」

『《《いる》》』


 こともなげに、ガルさんは実にあっさりとそう答えた。

 ふくん、そういうことか。つまりこりゃあ、イベントか。興業か。エンタメか。


 しかし『絶界』、すごいな。

 俺達が通常使ってる『異階』とは、全然性能が違う。

 空間的に現実とは断絶してるはずなのに、内部の出来事を外に発信できるとは。


 だがそうか、なるほどな

 エンタメ。イベント。子供同士の殺し合いを生配信、か……。



『どうする、我が主。無辜の民が娯楽のための犠牲となっているぞ』

「知ったこっちゃないわな」

『じゃわいな~』


 名も知らぬ他人が他の名も知らぬ他人の犠牲になったところでな。

 それについてはどうでもいい。本当にどうでもいい。好きにして、ってな感じよ。


 ま、世の中探せば、こういう悪趣味な催しも他に幾らでもあるだろ。

 それについて、正邪を問うつもりもなし、正否を争うつもりもなし――、ただ、


「ひなた狙ったのは、許せんよなぁ。それは許せんよなぁ」


 その一点を理由として、俺はこのイベントをブチ壊すことを決意する。

 イベントをブチ壊し、主催者をブチ殺し、何もかも台無しにしてくれるわ。


「さて、そのためにはどこから切り崩していこうかなー」


 道化野郎の居場所を探るのがセオリーではあるが、あいつ用心深そうだからな。

 尋常じゃないレベルでセキュリティを構築してる気がする。いや、絶対してるわ。


 いっそ、そのセキュリティごと根こそぎ行くのもいいか。

 と、そんなことを考えていたときだった。


『次の試合はぁ~、Bブロック第二試合、少年Svs少女Hでぇ~っす!』


 聞こえたのは道化野郎の声。

 俺が今いる場所は、どうやらコロシアムにかなり近い場所のようだ。


「……少年Sに、少女H」

『我が主、もしや――』


 胸騒ぎがする。

 俺が考えていた最悪の展開が、起きている可能性がある。


「ガルさん、コロシアムの客席に出る。場合によっては、そのまま行動開始だ」

『心得た。シンラにひなたよ、どうか無事でいるのだぞ……!』


 そして俺はガルさんを手にその場を駆けだした。

 こういうときのイヤな予感って、当たっちまうんだよなぁ、俺……。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 少年Sはシンラ・バーンズである。

 しかし、今はその記憶はなく、ただの少年Sでしかない。


 自分が誰かもわからず、生きて帰りたければ子供同士で殺し合えと言われる。

 ほとんどの子供が不安と恐怖に押し潰される中、彼だけは違っていた。


「本当に、相手を殺して勝ち上がれば、生きて帰れるんだよね?」

『ウフフ~、イイねぇ~、そういうこと聞いちゃう子、ポイント高いよぉ~!」


 顔色一つ変えずにそれを尋ねる少年Sに、道化は満足そうに笑う。

 そして、約束をする。


『ああ、生きて帰すさ。ちゃんと記憶も添えて、おうちに帰してあげるよ~』

「わかった」


 ニヤニヤ笑う道化には、特に何も感じない。

 いやらしいヤツだとは思うが、少年Sは特に興味を持たない。


 とにかく、勝てばいい。殺して勝って、生き残る。

 それができさえすれば自分は家に帰れる。今はどこかもわからない家だが。


 目的は固まった。

 あとは、そのために邁進するのみだ。何があっても挫けてはならない。

 異世界において大国を築き上げた男は、子供にされながらもその性質を変えない。


 一つの目的を定めたならば、それを必ず実行・達成する。

 それを繰り返し、ついには皇帝にまで上り詰めたのが、シンラという男だった。


『次の試合はぁ~、Bブロック第二試合、少年Svs少女Hでぇ~っす!』


 武器が揃えられている部屋の中で、スクリーンの中の道化が少年Sを呼ぶ。

 自分の番だ。相手は、とても小さな女の子。

 おそらくは今回の参加者の十六人の中では最年少で、とても怯えている。


 何故か、その子のことが気にかかったが、少年Sは努めて気にしないようにする。

 今の自分には『生きて帰る』という目的がある。

 それを実現するためには、相手が誰であろうとも、打倒するのみだ。


「武器は、これにしようかな」


 少年Sが選んだ武器は、取り回しやすい短めの槍だった。

 穂先は細く、突き刺すことに特化した造りをしている。急所を突きやすい武器だ。


 ――あんな小さな女の子なんだから、せめて苦しませずに殺してあげよう。


 震えるばかりの少女Hを横目に見ながら、少年Sは冷静にそう考える。

 記憶があってもなくても、性根は変わらない。少年Sとはこういう人間なのだ。


 そして、結局少女Hが武器を選べないうちに、二人はコロシアムに転移する。

 広い、円形の試合場。そこに、二人は一瞬にして移動する。


 観客席には、もの言わぬゴーレム達。

 だが実は、その向こう側にはゴーレムの視界を介して試合を眺める観客がいる。


 その数はおよそ千人。

 この悪趣味な催しを楽しむべく、世界各地から『絶界』にアクセスしている。


 だが、そんなことは少年Sにはどうでもいい。

 彼はただ、殺して、勝って、生き残る。その目的を実行するだけだ。


『それじゃ、試合開始ぃ~!』


 道化の声と共に、サイレントチャイムが同時に響く。

 その音に、少年Sと向かい合う少女Hが、涙を流しながらへたり込んだ。


「こわいよぅ、こわいよぅ……」


 ああ、泣いてる。かわいそうだな。早く殺してあげなくちゃ。

 少女Hの怯える声を耳にしても、少年Sが思うのはそんな程度だった。

 そして、彼は少女Sに向かって槍を構えようとする。


「……あれ?」


 構えようと思ったが、何故か、手が動かなかった。

 槍を杖のように立てたまま、少年Sが動かそうとしても手は全く動いてくれない。


「え、何で……」


 不思議に思った。こんなことがあるのかと、少年Sはそう思い、驚いた。

 そこに、少女Hの泣く声が聞こえてくる。


「たすけて、おとうさん……」


 その声を耳にした瞬間、心の奥深くから理解が押し寄せてきた。

 生きるために目的を定めた場所より、ずっとずっと深いところから、唐突に。


 ああ、そうか。そうだったのか。

 理由はわからないが、自分は、目の前の少女のために生きているのだ。


 自分の命など、彼女の命に比べれば塵芥にも劣る程度の価値もない。

 あの泣いている女の子は、自分にとって、宇宙で最も尊く、価値のある命なのだ。


 何故そう思ったのかはわからない。

 だけどそう思った。そして理解して、納得した。


 この納得に優るものは、どこを探しても見つからない。

 自分という人間は、あの子のために生きている。その人生を、笑顔で彩るために。


 少年は槍を放り捨て、泣いている少女へと近づいた。

 ああ、イヤだ。理由はわからないけど、この子の泣き声を聞いていたくない。

 だから少年Sは優しく笑って、少女Hに手を差し伸べる。


「どうしたの、大丈夫?」


 慈しみに満ちたその声に、少女は涙にぬれた顔を上げて、呟いた。


「……おとうさん?」


 そして、少年Sは、己の形を取り戻す。


「ああ、そうだよ、ひなた。おとうさんだよ」


 金鐘崎美沙子がそうであったように、風見慎良もまた、人の親なのだった。

 彼が娘を傷つけることは、例え何が起ころうとも、絶対にあり得ない。

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