第202話 タクマとシイナのお茶濁しRADIO/5
――宙色市内『異階』スタジオ。
シイナ:タクマさん、こ、これ以上はさすがに……。
タクマ:何だよ、シイナ。もう終わるつもりか? まだまだこれからだろ?
シイナ:だ、だってこんな、こんなの……ッ! ンッ……!
タクマ:おまえがヤッてイイって言ったんだぜ? なぁ?
シイナ:そ、ぅ、ですけどぉ、ぅ、あ、ぃ、ぃや、あ、ぁ……。
タクマ:震えてるな。そんなに気持ちいいか?
シイナ:ば、ばか、ァ、ぁ……ッ、ふぁ、ャ、そ、そこは、ッ、ダメェ……ッ!
タクマ:ここか。ここだな、シイナ。
シイナ:ぁ、あンッ、ゃ、タ、タクマさん、そ、そこはァ、ぁ、あ……ッ。
タクマ:あ~ぁ、ほら、こんなになって……。どうだ?
シイナ:キ、キクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ~~~~ッ!
タクマ:いや、おまえ、ゴリッゴリじゃねぇか。さすがにコリすぎだろ!
シイナ:あんあんあんあん、あんあんあんあん、うぃ~~! あぁ~~~~ッ!
タクマ:うっわ、かけらも色気がねぇ声出たぞ、今。おっさんだおっさん!
シイナ:うるさいですねぇ! 肩もむって言ったのそっちでしょ!
タクマ:そうだけどさぁ、今のは見事におっさんだったな~。
シイナ:おっさんおっさんって、私、あなたの可愛い婚約者ですけどぉ!?
タクマ:って言っても、ビール好きじゃんな? チューハイとか、日本酒とか。
シイナ:いいですよねぇ~、ビール! 旬は過ぎちゃいましたけど大好きです。
タクマ:どう飲むのが好きなんよ?
シイナ:え? そりゃあもちろん、ビール、おつまみ、ジャージに動画、ですよ!
タクマ:おっさんじゃん……。
シイナ:ち~が~い~ま~す~。可愛い可愛い、占い師のシイナちゃんです~。
タクマ:……トシ考えろ、な?
シイナ:ひっど!? 今のはさすがにひどいですよ、タクマさん!
タクマ:いやぁ、さすがにアラサーで自分をちゃん付けはねぇだろ……。
シイナ:くぁ~~ッ! 自分がまだ二十代前半だからってぇ~~~~!
タクマ:おまえは大人の女なんだから、ガキの態度は似合わねぇっての。
シイナ:今ここに、私の怒りが頂点に――、って、え?
タクマ:おまえが可愛いのは知ってるよ。けど、大人の女でもあるんだからさ。
シイナ:お、大人、ですか、私が……?
タクマ:え? うん。大人じゃん、実際さ。
シイナ:どんなところが、です……?
タクマ:え~? ウチで縫物してたりとか、何か書いてるときとか、かな~。
そういうときはスゲェ大人びて見える。見てるだけでドキッとするぜ。
いや、実際大人だし、大人びて、は失礼か。わりぃ、謝る。
シイナ:そ、そ、そうなんでひゅか……。
あ~、別に謝ることはないでひゅよ……。その、嬉しいです……。
タクマ:でも今は頭にアンテナ生えてるけどな。
シイナ:何で上げるだけ上げて、そこから全力で地面に叩きつけるんですかぁ!?
タクマ:アハハハハハハハ。やっぱシイナは面白ェや!
シイナ:こ、この野郎ォ~~~~! 『お茶濁しRADIO』始まりますよォ!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
シイナ:どうも。彼氏に『面白ェ女』認定されました、シイナです。
タクマ:おっす。彼女を『面白ェ女』認定しちゃった、タクマだぜー。
シイナ:ホント、こいつ最低です。ホント、こいつ最低。
タクマ:悪かったっての。ちょっとシイナが心配になってさぁ~。
シイナ:私の何が心配になったんですか、最低男のタクマさん。
タクマ:え、おまえ、彼氏できてキャラ薄くなったとか思われてそうじゃん。
シイナ:…………。
タクマ:うわッ、スゲェ顔になった!? 長年浸かった梅干しの表面みてぇな!
シイナ:何です? 私の何が薄くなったんです? え、キャラ? どういうこと?
タクマ:ほら、第八章終わって、俺とくっついたじゃん。シイナ。
シイナ:そうですねぇ。念願叶って、ようやく。はい。
タクマ:つまりキャラクター的に見ると『非モテ』属性がなくなったじゃん?
シイナ:…………。
タクマ:うおおおおおお、顔にできたシワで迷路できそうになってる!?
シイナ:あのですね、タクマさん。(深ぁ~いため息)
タクマ:な、何だ……?
シイナ:つまり、私にタクマさんという彼氏ができて『非モテ』じゃなくなって、
リア充を敵視することがなくなって、そういう部分が薄まった。
と、いうことなんですよね、ことの概要をまとめると。
タクマ:ま、まぁ、そうかな……。
シイナ:――フッ、バカバカしいッ!
タクマ:お?
シイナ:彼氏ができたからって、依然、リア充は私の敵なんですよォ~~~~!
タクマ:いや待て、それはおかしいだろ!?
シイナ:いいですかタクマさん、私にはタクマさんがいます。私は今、幸せです。
ですがそれはそれとしてリア充は憎い。リア充は敵で、リア充は仇です。
もはや私という人間のDNAに刻み込まれた、原初の衝動なのですッ!
タクマ:おまえはリア充じゃないんか?
シイナ:違いますよぉ!
タクマ:悲鳴じみた声で否定されたわ……。え、俺がいても違うんか?
シイナ:あのですね、私は確かに幸せです。タクマさんのおかげです。
タクマ:お、おう、こっちこそ、ありがとな。俺も幸せだぜ。
シイナ:でも、リア充はそこだけを満たしても、なれないんですよ。
タクマ:え、そうなん?
シイナ:そうです。そうなんです。リア充というのはですね――、
生きてることが楽しくて楽しくて仕方がない、幸福に冒された人種です。
所かまわず幸せオーラを発散し、私のような存在を焼き尽くす天敵です。
タクマ:おまえは一体何と戦ってるんだ……?
シイナ:私のような陰キャのオタは、あいつらのオーラを浴びたら死にます。
狭い端っこの暗がりが心地いい闇属性ですから。光属性は特攻なんです。
タクマ:いや、知らんけど。
シイナ:タクマさんとお付き合いすることで、私も多少は光に寄りました。
しかし、やはり染みついた闇の在り方は、私にとっては心地いいのです!
タクマ:そんな壮大なテーマだったっけか、この話題?
シイナ:フ、これは私とリア充の物語ですから、タクマさんにはわからな――、
タクマ:でもさぁ。
シイナ:はい?
タクマ:光とか闇はわかんねーけど、俺はおまえといるときは、充実してるぜ。
シイナ:…………。…………はい、私もです。(顏真っ赤)
タクマ:じゃ、いいじゃん。
シイナ:くぅ~~、またイイ顔で笑って、この男はァ~~~~!
タクマ:シイナさぁ……。
シイナ:何ですかァ!
タクマ:おまえも笑ってるぜ。気づいてないのか?
シイナ:えっ!?
タクマ:ほれ(鏡見せる)
シイナ:うぐぅ!(本当に口の端っこが上がってる)
タクマ:ほら、笑ってる。可愛いぜ~!
シイナ:や、や、やめてくださいよぉ~~~~!?
タクマ:いいじゃん、今回で最後なんだろ? だったらもっと二人で話そうぜ?
シイナ:え、あの、お、お便りとか……。
タクマ:あんの?
シイナ:…………。
タクマ:ないんだな。
シイナ:…………はい。
タクマ:んじゃ、トーク決定な! おまえに逃げ場はないんだぜ~!
シイナ:……やぁん。(手で顔を覆う)
タクマ:あ、今のすっげー可愛い! もっかい、もっかい!
シイナ:やですよぉ! 絶対やですぅ~!
タクマ:別にいいだろぉ~、お便りもないんだし、イチャイチャしようぜぇ~。
シイナ:大体毎回してるじゃないですかぁ――――ッ!
タクマ:足りないに決まってンだろォ――――ッ!
シイナ:た、足りてないんですかァ~~~~!?
タクマ:え、おまえ、足りてたの……?(真顔になる)
シイナ:…………。
タクマ:…………。
シイナ:…………た、足りてないです。(目を逸らす)
タクマ:ほら~! 足りてないじゃんかぁ~!
シイナ:でもでもでも! 待ってください! 一応、まだラジオ中ですよ!?
タクマ:知るかそんなの! どうせ今回で終わりだろうが!
シイナ:うわぁ~、この何でも屋、最後の最後にお仕事ブン投げちゃった~!?
タクマ:いいんだよ。どうせここから出たら、今回のことだって忘れちまうんだ。
シイナ:そ、それはそうですけどぉ~……。
タクマ:もういいじゃねぇか。こんな時間稼ぎを5回もしたんだぜ。
シイナ:む、むぅ~……。いいのかなぁ。
タクマ:いいんだよ。それより、やりたいことがあるんだ。
シイナ:な、何ですか……?
タクマ:おまえを見てたい。
シイナ:……え?
タクマ:今のおまえのことを、もっと見てたい。
シイナ:そ、そんな。こんなアンテナ生えちゃってる私を、ですか?
タクマ:うん、面白ェよな!
シイナ:ちきしょー、この男は~~~~!
タクマ:でも、忘れちまうんだよな……。
シイナ:う……、
タクマ:今こうして俺が見てるおまえのことを、俺は、忘れちまうんだろ?
シイナ:そう、ですね。私も同じです。タクマさんのその瞳のことも、忘れます。
タクマ:まぁ、そりゃあ仕方がねぇよ。忘れるのは仕方がねぇ。そういう力だ。
でもさ、だから見てたいよ。最後の最後まで、今しか見れないおまえを。
シイナ:それは――ッ、私も、同じ、です……。
タクマ:じゃあ、いいじゃん。見せてくれよ、今のおまえの顔を、よく。
シイナ:私にも見せてくれますか? 今のタクマさんのお顔。よく。
タクマ:断る理由、どっかにあるか?
シイナ:はい……。(タクマの顔に手を添えて)
タクマ:シイナ……。(シイナの顔に手を添えて)
シイナ:やめてくださいよ、そんなしんみりするの。忘れても一緒でしょ。
タクマ:仕方ねぇじゃん。忘れたくないんだからよ……。
シイナ:そんなの、私だって同じですよ……。
タクマ:おまえが異能態になれば、また、今日のことも思い出すんだよな?
シイナ:はい、そうですね。私が異能態になれば、そのときはまた。
タクマ:じゃあ、そのときまでまたな。今のシイナ。
シイナ:はい、そのとき、また会いましょう。今のタクマさん……。
タクマ:これを読んでくれたおまえらも、またな。
シイナ:それじゃあ、これで『お茶濁しRADIO』は終わりです。
あ、私達はもうちょっとだけ、ここでこうしてますね。
シイナ:今まで見てくださって、ありがとうございました~。――終わり!