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第184話 守るってことの意味を教えてやるよ

 ケントはもう、諦めた。

 はい、遅刻。今日はもう、遅刻でェェェェェ――――ッす!


 80年代ラブコメのオープニングのような遭遇のしかたをした二人。

 現在は、第一中学から少し離れた場所にある空き地で真っ向対峙している。


「おまえ、風紀委員長だよな? 学校はどうしたんだよ?」

「さっき校長に直談判してきたであります! 綱紀粛正のためお休みしますと!」


 うわぁ、まっすぐバカだぁ。


「いや、さすがにその理由で休みは認めちゃ……」

「認めてもらったであります!」


「ウソん」

「それがし、成績は学年トップでありますゆえ、多少無理が利くであります!」


 両手を腰に当てて胸を張るキリオ。

 ケントは口をあんぐりしつつ、思い出すのは『バカと天才は紙一重』というアレ。


「それよりも貴殿、不審者殿!」


 キリオが、ビシィッ、と、ケントに指を突きつけてくる。


「中学の頃からストーキングに手を染めるはいかんでありますよ!」

「…………はぁ?」


 何か、いきなりとんでもないいちゃもんをつけられている気がする。


「そりゃ、姉貴殿はあの通りの美人さんであります! それがしも姉貴殿と知らず見惚れたくらいには美しかったでありますからな! まさに絶世の美女であります!」

「うん、まぁな」


 それについては100%同意し、うなずくケントだが、ここからだ。


「だからってストーキングはいかんであります!」

「何で、そーなんだよ!?」


「だって貴殿、姉貴殿に横恋慕してるでありましょう? それはマジでいかんでありますぞ! 中学生ならもっと普通で真っ当で健全な恋愛をするべきであります!」

「全方位に渡って普通で真っ当じゃないヤツに諭されるのも腹立つなぁッ!?」


 大体何なんだ、横恋慕ってのは。


「言っておくけど、俺は本当にタマちゃんの彼氏だぞ」

「あ~、はいはい。そういうのは別にいいであります。日本は言論と表現の自由が認められている国でありますゆえ、口に出して言う分には自由でありますからな!」


「マジでムカつくなぁ、この野郎!」

「年上に向かってこの野郎とは何でありますか! 先輩は敬うべしであります!」


 クソふざけたキャラしてるクセに、いちいち言うことが真っ当なのもムカつく。

 わずか30秒で、額に青筋が幾つ累積したかわからないケントである。


「貴殿と姉貴殿は知り合いのようではありますが、姉貴殿が男子と交際するなどあり得ぬことでありますからな。サッサと姉貴殿の居場所を吐くであります、不審者殿!」

「はぁ、何だそれ! 俺がタマちゃんを拉致したとでもいうのかよ!」

「いかにもッッッッ!」


 今度は腕を組み、仁王立ちでキリオが肯定する。

 これにはさすがに、ケントも首を横に振るしかなく、


「いやいや、あの子はタマキ・バーンズだぞ? 拉致するとかできるワケないだろ? もう一回言うぞ、あの子は、タマキ・バーンズ、なんだぞ?」

「ほほぉ、やはり貴殿も『出戻り』でありましたか。つまりは前世における姉貴殿の知り合いといったところでありますな。やはり、横恋慕ッ!」


 また、ビシィッ! と、指を突きつけられた。


「何だよ、その横恋慕ってのは!」

「叶わぬ恋に暴走してストーキングするのは横恋慕でありましょう!」


「ストーカーなんぞやっとらんわ!」

「姉貴殿の彼氏となれる存在は、唯一、ケント・ラガルク殿のみ! 彼以外の男子が姉貴殿の彼氏を名乗るなど笑止千万であります! まさに横恋慕でありましょう!」

「…………。…………は?」


 止まった。

 動きと呼吸を含めたケントの一切が、その瞬間、止まった。


「おぉっと、その反応。もしや貴殿、ケント・ラガルク殿をご存じないでありますか? 本当に姉貴殿のお知り合いで? いやはや、怪しいでありますなぁ~!」


 あれ、おかしいな。確か、俺がケント・ラガルクじゃないっけ?

 止まったままのケントの頭の中に、そんなアホな疑問が浮かんでしまう。


「姉貴殿はケント・ラガルク殿以外に振り向くことはないであります! 貴殿の胸の内にも熱い慕情が滾っていることでありましょうが、諦めるであります! 不審者殿は中学生、ならば! まだ十分間に合うであります! 真っ当な恋愛を――」

「俺、郷塚賢人」


 キリオが一人で盛り上がっているところに、ケントは名乗った。


「む? そういえば名前を伺っていなかったでありますな。失敬。そうでありますか。貴殿、名を郷塚賢人殿と――、ん? ごうつか、けんと? ……けんと?」


 キリオの動きが止まりかけたところで、ケントがトドメの一押し。


「もう一つの名前は、ケント・ラガルクな」

「…………」


 今度は、キリオの動きが完全に止まった。


「…………」


 そしてケントも、そんなキリオを眺め、黙り込む。


「……あの、貴殿」

「おう」


「ケント・ラガルク殿?」

「おう」


 指をさされ、名前を問われ、ケントはしっかりうなずいた。

 これでダメなら、あの小二共に会わせるしかないな、と思うケントであったが、


「何と、貴殿がケント・ラガルク殿でありましたか!」


 キリオは、あっさりとケントの言い分を受け入れた。そして彼はケントに――、


「じゃあ、なおさら許せんでありますなァ!」


 キレた。


「何でだよッ!?」


 話がどう転ぼうと、ケントがツッコむ運命は変わらないようだった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 とてもすごい因縁をつけられている。


「貴殿が死ななければ、姉貴殿は生涯未婚なんてならなかったであります!」

「あ、うん、ごめんなさい」


 ここまで、不可抗力なのに謝るしかない因縁もなかなかない。

 実際、キリオの言うことは全くその通りではあるのだから。でも何だろうか、


「だけどそれを俺に言っていいのはタマちゃんだけで、別におまえに言われる筋合いはないと思うんだけど。思わず謝っちゃったあとで言うのも何だけどさ」

「はぁ? 開き直りでありますか! 見苦しいでありますぞ!」


「何でそうなるんだよ……。タマちゃんと俺のことはおまえに関係ないだろ」

「関係あるに決まっているであります! 家族のことでありますぞ!」


 キリオが熱くなってきている。

 その言い分は、それだけを聞けば当然のことのように思えるが、


「それ、おまえの親父さんならこう言うぜ『タマキとケントのことはタマキとケントのこと』。ってさ。第三者が立ち入ったってめんどくさくなるだけだろうが」

「……むぐ、確かに父上殿なら言いそうでありますな」


 そこで言葉を詰まらせるキリオに、ケントはアキラの影響を確かに見た。


「だけど――!」

「お?」

「それがしは貴殿のことが許せんであります! 姉貴殿の人生を縛った、貴殿を!」


 瞳に光を滾らせて、キリオが握った拳を突き出した。


「貴殿さえいなければ、姉貴殿はもっと自由な人生を送っていたであります! 自ら、人生を縛ってしまうようなことはなかったはずであります!」

「ムチャ言いよる……」


 つまりは、ケントの存在、全否定である。

 キリオはお姉ちゃんっ子らしいので、その言い分も一部わからないではない。

 いや、やっぱわかんねぇわ。こいつ、ムチャクチャ言ってるモン。


「まぁ、異世界じゃ確かに俺が先に死んだけどさ、だから今、その分もタマちゃんを幸せにね、してあげたいなってね。俺は思ってるワケなんですよ」


 言っててすごい恥ずかしい。死にそう。本人にだけは聞かれたくない。

 しかし、キリオは露骨に侮蔑するような表情を浮かべる。


「何を今さら……、であります」

「いやいや、それこそ第三者が立ち入る部分じゃねぇっての……」

「立ち入るであります! それがしは姉貴殿を守れる男となるため己を鍛え上げてきたであります! 姉貴殿を悲しませる存在を、それがしは許さんであります!」


 キリオが、みたび、ビシィッ、と、ケントに指を突きつけてくる。

 それに、ケントは一言だけ返す。


「おまえ、タマちゃんナメてんのか?」

「え……」


「いやいや、何それ? は? タマちゃん守れる男になるべく、だァ? 何だそれ、おまえ。タマちゃんナメてるのか? ナメてるよなァ? なぁ? なぁ!?」

「ひぇっ、この人いきなりキレて怖いであります!?」


 ケントの態度の急変に、ここまで主導権を握っていたキリオが初めてビビる。

 彼は知らなかった。自分がすでに、ケントの地雷を踏みつつある事実を。


「タマちゃんを守れるって何だ? タマちゃんがおまえに守られなきゃいけないほど弱いとでも思ってんのか? それはナメてるだろ、ナメてるよなぁ!」

「な、何を言うでありますか! では貴殿は姉貴殿を守る必要はないとでも!?」


「守るに決まってんだろうがァァァァァァァァァァ――――ッ!」

「ええええええ!? 矛盾! 超矛盾であります! さすがにそれは理不尽ッ!」


 キリオの言う通り、ケントの言い分は理不尽なようにも思える。しかし、


「俺はいいんだよ! 俺はタマちゃんを守る男なんだから!」

「な、自分だけが特別理論でありますか、そんなモノが通用するとでも……」


「タマちゃん自身から守ってって言われてるから、俺はいいんだよ! 勝手に許可なく守ろうとしてるおまえなんぞと一緒にするんじゃねぇ! 俺は彼氏だァ!」

「ぎゃああああああああああああああ! ド正論でありますぅ――――ッ!?」


 真正面からの堂々たるケントの主張に、キリオは激しくショックを受ける。

 彼は、その場で膝を屈しそうになるものの、しかし、踏ん張った。


「だけど、前世でそれがしが姉貴殿を守れる男となるべく研鑽を積んだこともまた事実! それがしこそは、最も姉貴殿を守るに相応しい男なのであります!」

「……おまえ、タマちゃんのこと好きなの?」


 さすがにちょっと疑わしくなって、ケントはそれをキリオに尋ねる。


「え、いや、それは別に。家族愛は家族愛。異性愛は異性愛。ではありませぬか?」

「まぁ、それはそう。確かにそう」


「そんな、仲がいいからって何でもそっちに持っていこうとするのはいかんでありますぞ! 不健全であります! 家族愛と恋愛感情は違うであります!」

「でもこの前、タクマとシイナがくっついたぞ」

「えっ」


 ケントに言われ、キリオがそのままのポーズ、そのままの表情で止まる。


「…………」


 そして彼は急に腕組みをして何かを考え出した。


「……あ~。……あ~~。……あ~~~~! あ~~~~、なるほどな~~~~!」


 何か、ものすごく納得したようだった。


「それはそれ、これはこれ! タクマの兄貴殿に会う機会があったら、おめでとうでありますと祝辞を述べさせていただくであります! 今はケント殿であります!」

「え~、もういいよ~。疲れたわ~」

「いかんであります! それがしこそは、姉貴殿を守るに相応しい男。それを貴殿に認めさせるまでは、この話は終わらんでありますぞ!」


 自分よりも年上の自分の親友の息子を見て、ケントは『元気だなー』と思った。

 そして、昨日、アキラと話したことを思い出す。


「そういえばおまえ、聖騎士で騎士団長だったんだっけ?」

「いかにも! 国と民とを守り、ついには『剣にして盾』と呼ばれたであります!」


「ああ、そう。若の国ってそんなに人材不足だったのかねぇ……」

「は?」


 金属符を取り出すケントに、キリオは呆けたような声を出す。

 しかしそれに取り合うことはなく、ケントは金属符を近くの壁へと放った。

 それにより二人がいる空き地が『異階化』する。


「な、ケント殿……!」


 その場を『異階』に変える。その意味を、キリオは正確に把握していた。

 ケントが、自分の鞄を地面に置いて、チラリと彼を見る。


「おまえさ、人を守るってことをわかってないよ」

「な、何ですと……!?」

「おまえみたいなバカには、言葉(いう)より実行する(やる)方が早いからな」


 ケントが、キリオに向かって指をチョイチョイやって手招きをする。


「来い。俺が、守るってことの意味を教えてやるよ」


 キリオの額に、怒りの青筋が露わになった。

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