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第181話 神様集合in宙船坂家

 9月もいよいよ終わりが見え始めた頃、親父から呼び出しをくらった。


「アキラと、ミフユちゃんと、マリク君で来てくれないか?」


 何ですかぁ、その組み合わせ?

 不思議に思いつつ、週末に親父の家に行くことにした。

 その道すがら、


「絶対ヤバいわよ」


 ミフユに、そう脅されてしまった。


「何でさ」

「逆にきくけど、何でわからないのよ、あんた」


 ものすごく怪訝そうな顔で言われてしまいましたよ……。

 ええ、どういうことよ。さっぱりわからん。


「マリク、わかるか~?」

「ぇ、え~っと、は、はい、何となく、だけど……」


 何てこった、マリクもわかるのか。一体、どういうことなんだぜ!


「ヒント、神様」

「あ」


 わかっちゃった。


「神様かぁ~~~~!」


 そうだった、あの宙船坂家、スゲェめんどくせぇ神様がいるんだった!

 異世界から神器の鏡と一緒に流されてきた、冥界の神カディルグナ。


 俺達が転生と『出戻り』をすることになった、元凶ではないが発端ではある神。

 あとついでに、と、俺はチラリとマリクを見る。


「マリク君、アイツは?」

「デ、ディ・ティですか? ……えぇと、実は」


 あ。

 この、実に言い出しにくそうな感じの流れ、こいつはつまり。


「目が覚めたのか、アレ」

「は、はいぃ~、ちょっと前にぃ~」


 ディ・ティというのは、マリクが大司祭を務める教団で祭られていた神格だ。

 正式名称はディディム・ティティルで、何と『光と闇を司る神』である。


 ここで、異世界に存在する『神』について少し解説しよう。

 まず、俺達がいた異世界には『神』と呼ぶべきものが実際に存在していた。


 ただし、こっちでいう『世界を創造した全知全能の神』とかではない。

 そんなヤツがいたら、世界を挙げての全人類参加レイドバトルになってただろう。


 異世界にいたのは、日本の『八百万の神々』に近い概念の存在だ。

 つまりは『○○を司る神』、みたいな。


 そして、異世界の神には扱える力の大きさによる序列が存在している。

 例えば冥界の神カディルグナなら、堂々たる『特神格』。つまり最上位の神様だ。


 序列は上から『特神格』、『大神格』、『中位神格』、『小神格』、『矮神格』。

 最上位の『特神格』ともなれば、その力の影響範囲は世界の何割かに及ぶ。


 逆説、最大規模でも世界全土には届かないから『唯一神』なんてあり得んワケだ。

 だけども『特神格』だからこそ、世界を隔てる壁に穴開けちゃうんだなぁ。


 こうして振り返ってみると、カディルグナも傍迷惑な神だぜ。

 神様自体はすこぶるまともで、話のわかるいいヤツなんだがなー……。


 ちなみに俺達の異世界に死後の世界があるかどうかは確認されていない。

 ただ、カディルグナはその神格自体が死後の世界としての概念を内包してる。


 冥界の神っていう名前は、実は『冥界でもある神』って意味でもある。

 大陸西側に広く普及していた『冥王の庭カディルグナ』もそこを由来としている。

 要するに『特神格』レベルになると『世界そのものの一部』扱いなワケだ。


「そろそろ着くな。マリク、神器出しとけ」

「は、はいぃ~」


 宙船坂家を前にして、俺はマリクにそう促す。

 さてさて、一体何が待ち受けてるんでしょうね~。これから。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 かすかな緊張と共に、俺はチャイムを鳴らした。

 少し待つと、ドアが開いて親父がヒョコッと顔を出す。


「やぁ、いらっしゃい」


 柔和な感じに笑って出迎える親父。そこにすかさず、


「お義父様、お久しぶりです。ミフユです。本日はお招きいただきありがとうございます。こちらはお土産になります。つまらないものですけど、受け取ってくださいませ。長崎の老舗から取り寄せたカステラです。緑茶とのセットがベストですわ」

「あ、ありがとう、ミフユちゃん……」


 ニコヤカ~、に笑ってお土産を渡すミフユに、親父がちょっとヒいている。


「お、お母さん、流れるようなスムーズな、挨拶、でしたね……」

「あいつはこういうのそつがないけど、そつなさすぎて親父ヒいてるの笑うわ」


 何なら、親父の顔は笑顔だけど、それ、引きつり笑顔っていうんですよ。


「ま、まぁ、どうぞ家の中に」

「へ~い」


 ミフユから受け取った土産を手に、親父が俺達の家の中に招き入れてくれる。

 あ~、ここ来ると『帰ってきたぁ~!』っていう感じになるわー。


 やっぱ、自分が最初に過ごした家って特別だよな。

 って思ってると、マリクが興味深そうに家の中を見回している。


「どうした、マリク?」

「こ、ここで、ぉ、お父さんが小さい頃を過ごしてたんですね……」


 そうだぜ、俺じゃなく『僕』だった頃の話だけど、まだ記憶はばっちり残ってる。


「アキラの小さいときのアルバムとかもあるけど、あとで見るかい?」

「是非ィッッッッ!」


 光の速さでそう返したのは、マリクではなくミフユだった。おまえさぁ……。


「とりあえず『観神之宮』いこうぜ、親父。さっさと用件済ませてぇわ」

「わ、わかったよ、それじゃあ、行こうか」


 そして俺達は、カディルグナの鏡がある地下へと向かう。

 途中、親父がマリクに声をかける。


「マリク君が持っている神器を、出しておいてくれないか?」

「は、はいぃぃ~!」


 あららん、マリクったらかなり緊張しちゃってるわ。

 神様関連の話だからか、それとも俺の親父に言われたからなのか……。


「それと、アキラとミフユちゃんも、魔剣と聖剣を出しておいてくれないかな?」

「あ? 俺達もかよ?」

「ああ、そうだ。ミフユちゃんもこのために来てもらったようなものさ」


 前を行く親父に言われ、俺とミフユは互いに顔を見合わせる。


「ガルさ~ん、起きろ~」

『フゴッ! 何じゃい、我が主。いい夢見とったんだがの~』


 インテリジェンスウェポンって夢も見るんか。本当に魔剣の形したおじさんだな。


「ベリーちゃ~ん」

『はぁ~い、マスタ~! 今日も元気にベリーちゃんでぇ~っす♪』


 あっちの聖剣は元気だなー。包丁だけど。

 そして、マリクも収納空間(アイテムボックス)から神が宿る器を取り出す。


「こ、これです……」


 それは、いかにも古めかしいランタンだった。

 火はついていないが、中にポツンと小さい光が宿っているのが見える。


 これが、カディルグナの鏡と同じ神器。

 中には『光と闇の神』であるディディム・ティティルが宿っている。


「ディ・ティ様~、で、出てきてもらえますか~?」


 マリクが神様に向かって呼びかける。しかし、何も起こらず、し~~~~ん。


「……ぁ、あれ? ディ・ティ様?」

『死ぬわ』


 オイ。


『死ぬわ。死ぬのよ。死ぬに違いないわ。今度という今度こそ死ぬわ。わかる、わかるのよ、マリク。今回は死んだわ、あてぃし。絶対死んだわよ。クッソ~、何で目覚めちゃうのよ~。ずっと眠ってれば死なずに済んだのに。はぁぁぁぁ~~~~!』


 凄まじい勢いで漏れ出るため息。漏らしてるのは、もちろん神様です。

 ランタンから、光の粒子をポンと散らして顕現する、淡い光を纏った妖精の少女。


 背中にトンボみたいな透明な羽根を生やしてるそれが、ランタンの中の主。

 マリクの教団のご本尊『光と闇の神』ディディム・ティティル。


 その神としての序列は、何と――、『矮神格』ッッッッ!

 マリクの教団は異世界屈指の規模を誇るなのに、このご本尊、神としては底辺!


「本当はただの『照明を司る神』でしかないからね、ディ・ティ様……」

『そうよぉ、あてぃしはただのランプの神様なのよぉ~! それがどうして『特神格』に呼び出し受けちゃうのよぉ~!? はぁ~、死んだわ。これは死んだわ……』


 ミフユの言葉に、早くも死を覚悟するティ・ティ。

 こいつ、変わってねぇぇぇぇぇ~~~~!


 実のところ、マリクの教団が大きくなったのは、マリクがいたからだ。

 別に、ディ・ティの教えに導かれたとか、そういう話は一切ない。


 マリクが『大賢者にして大司祭』だからそこに人が集まって、教団が形成された。

 そんだけ。以上、この話は終了です。っていうね……。


『マリクゥ~、助けてマリクゥ~、あてぃしまだ死にたくないのぉ~、もっともっと神器の中で惰眠を貪っていたいのに~。愚民共があくせく働いて日銭を稼ぐ様を、神様として面白おかしく見物しながらダラダラしてたいのよぉ~!』

「最低だよ、おまえ」


 俺は思わず言ってしまった。このビビリのニート神がよぉ!


「こんなでも、神様には変わりないのよね、ディ・ティ様」

『待ってミフユ、こんなって何よ!?』

「冥界の神カディルグナ様に、神喰いの刃のガルさんに、闇喰いの刃のベリーちゃんに、ただの照明の、じゃなくて光と闇を司る神ティ・ティ様。……何かあるわよ」


 ディ・ティの抗議を受け流しつつ、ミフユが緊張を孕んだ声で言う。

 それは、確かにと思えた。


 カディルグナからは異世界のモンスターの怨念である『鬼詛』を浄化する方法を見つけることを依頼されている。それについては、合間合間に調べてはいるのだ。

 だが、魔王すら食い尽くしたベリーでも『鬼詛』の浄化は不可能だという。


 理由は、ベリーが聖剣であるから。

 怨念から受肉したモンスターならば、ベリーは特攻を発揮する。


 しかしそれ以前の、ただのエネルギーでしかない『鬼詛』は斬ることができない。

 剣では空気は切り裂けない。という感じの理屈らしい。


 ガルさんも同じ理由で『鬼詛』をどうにかすることはできない。

 という話は、わかった時点で逐一親父に伝えはしてたんだが、今日、呼ばれた。


 ――何かがあった。


 そう考えるのが妥当だろう。

 ガルさんやベリー、そして同じ神であるディ・ティまで必要とする、何かが。


 まさか、もう『鬼詛』が受肉を始めている、とか?

 いや、さすがにあり得ないか。それが発生したら、俺達だってわかるはずだ。


 相手は『特神格』であるカディルグナ。

 世界の一角を担う存在である以上、何が起きるかはわからない。


 これはさすがに、俺でも緊張する。

 一体、ここから先に何が待ち構えているのか。


 俺はガルさんを強く握り締め、カディルグナが待つ地下の泉へと足を踏み入れる。

 すると――、


『同属達よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~! うひぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~ん!』


 身構える俺達が見たものは、ギャン泣きする冥界の神だった。


「…………はい?」


 ポカンとなる俺達の前で、カディルグナが鼻水垂らして泣いている。


『あぁぁぁぁぁぁぁ~~~~ん、感じるのよぉ~! 我と同じなのよぉ~! 会いたかったのよぉ~! ざみじがっだのよぉ~~~~! うぁぁぁぁぁ~~~~ん!』

「ちょっと? ちょっと親父? 宙船坂集さん? 何ですかね、これは一体……?」


 俺が見上げると、親父は汗ダラダラになって、説明をしてくれた。


「ちょっと、カディ様、ホームシックになっちゃったみたいで……」

「神様なのに!?」


 親父の話を聞くと、カディルグナはガルさんやベリーの存在を知った時点で、ホームシックになりかけていたらしい。そこに、マリクが現れて、ついにカディルグナは限界を迎え、ここ数日寂しさに泣きっぱなしだったとか。


『おうおう、大変じゃったわいのう。泣くな泣くな、な? 冥界の神よ!』

『そうですよぉ~! べりーちゃんもお友達になってあげますから~! ね~♪』

『え、えぇ!? あてぃしとお友達に? 『特神格』の最上位神が、このあてぃしと!? これはもしや、下剋上? あてぃしの時代、き、来ちゃうのでは……?』


 寂しがる鏡の中の幼女を慰める、鉈と、包丁と、ランタンの妖精。

 何じゃあ、この異様極まる風景はぁ……?

 あ、いや違う。ランタンの妖精だけ全く別のベクトルに突き進んでいる。三下め!


「ふぅ~……」


 目の前の光景を見届けて、ミフユが一度深く息をつく。そして、


「さ、あとはベリーちゃん達に任せて、わたし達はお茶にしましょう。お義父様、アキラのアルバム、見せてくださいね。すごく楽しみですぅ~!」


 自分達がした無駄な緊張をすでに過去にして、そんなことを言い出すのだった。

 こ、心が強いッ!


「うん、それじゃあ、上に戻ろうか」

「何だったんだ、結局……」


 激しい徒労感に脱力しながら、俺はマリク達と共に、上に戻った。


『我、お友達がいっぱいできちゃったのよ~! 嬉しいのよぉ~~~~!』


 本当に嬉しそうな『特神格』の声が、ちょっと笑うわ。

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