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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第八章 安心と信頼のハードモードハート

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第176話 星空の下で、一緒に電波を受信しよう

 今、『異階』となった教会の中で、男と女が怒りをぶつけ合っていた。


「ユウヤ・ブレナン! あんた、何でタクマを穴に落としたのよッ!」

「マヤ・ピヴェル! 君はどうして、シイナを狙うような真似をしたんだッ!」


 激しい調子で互いに叫び、そして互いに答える。


「あの男が邪魔だったからに決まっているだろ! 俺からシイナを奪ったんだぞ!」

「あの女が邪魔だったからに決まってるでしょ! あたしのタクマを誑かしたわ!」


 平行線。

 ものの見事に、平行線。


 マヤの背後には彼女の異面体である『骸奪妓(ガラダギ)』が不気味に蠢いている。

 その姿は、褪せた灰色をしているねじれた古木。

 葉は一枚もついておらず、凶器にもなりうる鋭い先端をした枝が伸びている。


 能力は『対象の記憶を養分とし、トラウマの種を植えつける能力』。

 タクマも、シイナも、このおぞましい能力により、人生を歪められてしまった。

 ある意味では、今回の一件の元凶とも呼ぶべき異面体である。


 一方、ユウヤとマヤを隔てている黒い穴こそ、ユウヤの異面体『汪喰崖(オウグラガイ)』。

 シンラの異面体に近い性質を持った、一度落ちたら二度とは上がれぬ底なしの穴。

 ユウヤは、この穴の場所と大きさを自由に操ることができる。


 殺傷力こそ皆無だが、対応の難しさという点において屈指を誇る異面体であろう。

 その、決して這い上がれない地獄の穴に、タクマとシイナは落ちていった。


「あああああああああああああああああああああああああ! 何でよ、何であの女と一緒に落ちていったのよ! タクマ、タクマタクマタクマ! タクマタクマタクマタクマタクマァ! あんたはあたしに唯一寄り添える『特別』な人間だったのに!」

「クソォ、クソォクソォクソォクソォクソォッ! どうしてだ、何でこんなことでシイナを失わなくちゃいけないんだ! あの女がいなくなったら、俺の躍進もここで止まるじゃないか! あの女が必要だったのに、誰よりも『特別』なあの女がッ!」


 口々に騒ぐ二人の姿はみっともなく、そして醜かった。

 互いに、穴に落ちた二人を求めながら、しかし、その相手を微塵も想っていない。


 自分が。自分が。自分が。自分が! 自分が! 自分が!

 どこまで行っても、結局そこへ戻る。

 自らを『特別』と呼ぶ二人は、間違いなく、ありふれた『普通』の人間だった。


 ゆえに彼も彼女も、その責任を相手に求める。

 マヤが、ユウヤを睨んだ。

 ユウヤが、マヤを睨み返した。


「あんたのせいよ、ユウヤ・ブレナン! こんなことになるなら、あんたなんかと組むんじゃんかった! 殺すわ。あたしからタクマを奪った責任を、取らせてやる!」

「君のせいだぞ、マヤ・ピヴェル! こんなことになってしまうなら、君なんかと組むんじゃなかったよ! 殺す。俺からシイナを奪った責任を、取らせてやるぞ!」


 そう、最初から二人は組んでいた。

 マヤはタクマを手に入れるため、ユウヤはシイナを手に入れるために。


 ジルー・ガットランを抱き込んだ上で、彼に『再誕の赤(リターン・ブラッド)』を造らせた。

 ユウヤが製造資金を提供し、マヤが主成分となる『魔血』を提供したのだ。


 造られる薬品自体は何でもよかった。

 使えさえすればよかった。マヤの危機と、ユウヤの救援の演出に使えれば。


 だが、結果はこれだ。

 お粗末としか言いようのない、無様な結末に終わった。


「ユウヤ・ブレナンンンンンンンンン――――ッ!」

「マヤ・ピヴェルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――ッ!」


 そして、一つの責任を二分する二人が、その責任を押し付け合って対峙する。

 灰色の捩れ木が、不気味な軋み音を立てた。

 教会の中央に空いた穴が、徐々に大きさを増していく。


 醜い殺し合いが始まるまで、あと数秒。

 だが、カウントが終わりかけた瞬間、空間的に隔離されている『異階』が揺れる。


「な……?」

「じ、地震ッ!?」


 この『異階』において地震が起きるなどありえない。

 ならば、原因は別にある。

 だが、マヤとユウヤがそこに考えを巡らせる前に、答えの方からやってくる。


「――オ、オウグラガイが!?」


 ユウヤは見た。

 底なしの無限暗黒領域であるはずの自分の異面体から、光が溢れる様を。


「これは、星? 星空が……ッ!」


 マヤは見た。

 教会に空いた大穴から飛び出し溢れる、数多の輝きを、星を、銀河を、星空を。

 ドバっと溢れた星々が、教会の中を染めあげる。


 そこには天井はなく、壁もなく、床もない。

 宇宙。星空。星の海、銀河の集まり、無限に広がる大宇宙、そして――、


「よぉ。久しぶり」


 殺し合おうとしてしていた二人を上から見下ろし、彼は軽く挨拶をする。

 その腕の中には、ウェディングドレスを着た彼女の姿もある。


「タクマ!?」

「シイナッ!」


 マヤとユウヤが彼と彼女の名を叫ぶ。

 だが、反応したのは彼の方。


「なるほどね。《《これ》》が、《《そう》》なんだな」


 呟く彼の瞳は、まるで様変わりしていた。何と、タクマの瞳は地球になっていた。

 その瞳が示すものは、数多の命、数多の形、数多の道、数多の可能性。


 ――これぞ『真念』に到達したタクマ・バーンズの形。


異能態(カリュブディス)――、『磐天千甚使(バンテン・センジンシ)』」



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 はい、ど~も皆さん。

 いかにもクライマックスな感じですね、シイナ・バーンズです!


 見てください、私達の周り。

 宇宙です。星です。銀河です。うわぁ、すごぉ~い!


 っていうね、何か見覚えのあるというか……。

 これ、私が異面体使うときに出てくる『無量夢幻帯(オムニバス)』によく似てます。


 でもあっちは『可能性』を可視化した空間に過ぎません。

 一方でこっちは、タクマさんの異能態が展開する、とんでもねぇ領域なんですよ。


 まぁ、その力はこれからすぐにわかるでしょう。

 ところでですね、実はですね、皆さんももうとっくにおわかりかと思います。


 そう、そうなんです!

 タクマさんだけじゃなく、私も異能態に覚醒しちゃいました~! イェイイェイ!


 いやぁ、これってはっきりわかるモノなんですねぇ。

 はい、ちなみに私の異能態(カリュブディス)、名前は『流々々天(ルルルテン)』。


 可愛い名前ですよねー。能力は、あれぇ~? 何だろう、よくわかんない……?

 あと、私の体にも変化が起きてるはずなんですけど、どうなってるんだろう?


「タクマさ~ん、タクマさ~ん」

「ん、どしたよ?」


 タクマさんは私の呼びかけに答えてくれて、こっちを向いてくれます。


「わ、地球アイ、いいですね~。すごい神秘的です、カッコいい!」

「そうか? あんがとな!」

「ところで、私はどうなってますか~? どんな風に変わってますか~?」


 私は、タクマさんにそれを尋ねました。

 ちょっと、ドキドキワクワクです。私の頭の中にあるのはタマキ姉様です。


 異能態になったときの姉様は、本当に、憧れるくらい綺麗でした。

 あそこまではいかずとも、私にもタクマさんに並ぶくらい神秘的な何かが――、


「頭にアンテナ生えてるぞ」


 …………はい?


「頭にアンテナ生えてる」


 …………はい!?


「頭にアンテナ」

「三回も言わなくていいんですよォ~~~~!」


 私は、タクマさんにそう返し、収納空間から鏡を取り出しました。

 そんな、そんなまさか、ア、アンテナなんてそんな、そ、そ、そんな……ッ!


「生~え~て~る~~~~ッ!?」


 鏡の向こうにいる私の頭の左右にきっちり二本、アンテナが生えていました。

 こう、ニュ~ンと伸びてて、先端がちょっと丸くなってる感じの。


「嘘でしょ? 嘘でしょう!? これが私の異能態? これがッ!?」


 ちょっと待ってくださいよ、前話までシリアス一辺倒だったじゃないですか!

 どうしてここでそんなネタ方向に振り切れるんですか、ちょっと作者サン、ねぇ!


「……あれ?」


 私、今、誰に何を言いました?

 とか思った瞬間に、私の頭の中に自分の能力詳細が流れ込んできました。


「え~と……、え~っと……、えぇ……、うわぁ……、あぁ~……」

「ど、どうした、シイナ?」


 いきなり呻き出した私を、タクマさんが心配そうに見つめてきます。

 大丈夫です。大丈夫ですけど大事故です。これは結構アカンですよ、タクマさん。


「タクマさん、私達、こうして異能態に覚醒したじゃないですか、お互い」

「そう、だなぁ。まさか至れるとは思ってなかったけど……」


 ですよね。私もそうです。至ろうとなんて思ってなかったですし。

 そう、だったんですけど――、


「ちなみに、タクマさんの『真念』って『信頼』だったらしいですよ。ずっと誰も信じてこなかったタクマさんが、私からの愛情を信じることで、至れたらしいです」

「へぇ~。……って、オイ、待てよ」


 いったんうなずきかけて、タクマさんの顔色が変わります。そりゃそうですよね。


「で、私の『真念』が『安らぎ』ですって。ずっと『普通』じゃないことに悩んで不安に苛まれてた私が、タクマさんの腕の中でやっと安心できて、至れたそうです」

「それはわかった。わかったけど、()()()()()()()()()()()()()()()!?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 はい、つまりそういうことなんです。

 私の能力、『第四の壁ブッ壊し(メタフィクション)』なんですよォォォォォォォ――――ッ!


 はぁ~い、今まで私が呼びかけてた読者サン、お元気ですか~!

 私は元気ですよ~!

 って、何なんですか、このたわけた能力はァ!?


 いいんですか? 本当にいいんですか、こんな能力出しちゃって!?

 知りませんからね?

 読者サンに叱られても知りませんからね! 私のせいじゃないですからね!


「この能力、タクマさんの異能態とセットらしいです。タクマさんが異能態を展開してる間だけ使用可能で、上位存在の『作者サン』と『読者サン』と交信できるようになって、さらにその方達と同じ視点で状況を認識できるようになるみたいです……。ふぇぇ、これとか、完全にただの説明セリフじゃないですかぁ~……」

「シイナの異能態がキワモノであることはよく伝わったわ……」


「私のせいじゃない。これは私のせいじゃないです~~~~! 猛抗議しますよ!」

「……おう」


 ちょっと、その本気のドンビキやめてくださいよ、タクマさぁ~~~~ん!?


「なぁ、ところでさ、シイナ」

「何ですか。今、割とナーバスですよ。あと一押しで、泣きが入りますよ?」


「あとで何か奢るからやめとけ。……で、そろそろ決着(ケリ)つけるか?」

「あ~、そうですね。それがいいかもですね~」


 言って、私はタクマさんの目線を追って、そこにいる二人を見下ろします。


「何でよ……ッ!?」


 そこにいる、顔を真っ青にしながらこっちを攻め続けているマヤさんと、


「どうしてだ、何でこっちの攻撃が届かないんだァ!」


 同じことをしているユウヤさんを。

 お二人とも、異面体の他、魔法とか魔法アイテムとか、色々使っております。


「本当、ご苦労なことですよね~」

「そろそろ飽きてきてんだけどな、俺」


 二人からの攻撃を捌いているのは、タクマさんです。

 いえ、正確には――、タクマさんが造り出す『絶対抗体』ですね。


「シイナ・バーンズゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


 マヤさんが、異面体の枝を伸ばして私を狙ってきます。

 でも、そのときにはすでにタクマさんの能力が発動しています。


 瞬く星々が集束し、そこに生まれたのは炎の尾を持った四足の燃え立つ獣。

 それが、炎の尾でもって伸びる枝を焼き払いました。直後に獣は星へと還ります。


 これこそ、タクマさんの異能態の能力。

 詳しくは『どんな能力・効果であっても、即座に対抗存在を生み出せる能力』。


 母様の異能態とはまた違った形の『半全能』と呼べる能力です。

 しかも自動発動なので、私とタクマさんが話してる間も、常に発動していました。


 自らが表に立つのではなく、裏方として表に立つべき存在を別に構築する。

 まさしく『裏方にして親方』であるタクマさんらしい能力と呼べるでしょうね。


 もちろん、任意での使用も可能ですよ。って、作者サンが言ってます。

 あと、私の能力とのセット運用前提、らしいですね。

 私が作者サンから必要な情報を受信して、タクマさんが『抗体』を造る。って。


 ……どんなチートですか、それ。


 こうしている間も、マヤさんは私を、ユウヤさんはタクマさんを狙っています。

 でももう、無駄なんです。無理なんです。無謀なんです。無体なんです。


 二人がどんな攻撃を仕掛けてこようと、それは全て無に還ります。

 私が読んで、タクマさんが対策を打つことで、何もかもが徒労に終わるのです。


「ええ、そうです。全部、徒労でしたね、マヤさん。あなたのやったことは、異世界では私達の人生に甚大な影響を与えました。でも、おかげで私は、こうしてタクマさんの隣に立てる女になりました。ありがとうございます」

「ううううううううああああああああ! シイナ・バァァァァンズゥゥゥゥゥ!」


 私が、マヤさんの絶叫を聞く、その隣で――、


「残念だったな、全部無駄に終わったな、ユウヤ・ブレナン。おまえは、異世界ではシイナを支配できてたんだろうけど、でも、おまえがいたおかげで、俺はこうして本当の意味でシイナと一緒になれたよ。感謝してるよ。ありがとうな」

「ぐぅぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉ! タクマ・バァァァァンズゥゥゥゥゥ!」


 タクマさんが、ユウヤさんの怒声を聞いて、朗らかに笑っていました。


 マヤさんもユウヤさんも必死です。とにかく必死です。

 でも、もう無理なんです。二人が何をしようとも、状況は決して覆りません。

 だって――、


「ここからあの二人が逆転する展開とかは、かったるくてやってらんないって作者サンが言ってました。つまり、まぁ、そういうことですね。ご愁傷様です!」


 無慈悲。作者サン、あまりに無慈悲。私、思わず合掌しちゃいました!


「ってことらしい。じゃ、そろそろ終わりにするわ。ここでオレが創造するのは、もちろん、自分を『特別』だと思ってるおまえらに対抗するための『おまえらにどうしようもなく己の無力を悟らせる抗体』だ。……生きてたら、また会おうぜ」


 軽く手を振るタクマさんの背後に現れる、超、超、超、超巨大なタクマさん!

 デッカ、デッカイ! 視界に収まりきらない大きさってどんだけですか!


「潰れろ」


 リアルタクマさんが呟いて、巨大タクマさんが二人をデケェ両手でサンドします。


「「うわああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」」


 プチッ。


 かくして、今回の元凶二人は諸共に夏場の蚊みたいな最期を遂げたのでした。

 あ、でもあとで蘇生しますよ。父様も仕返ししたいでしょうしね。


 ……それにしても、アンテナは、ない。

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[良い点] まさかの第4の壁www
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