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第169話 今日で終わり。これで終わり

 あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~、ひっどい……。


「もう、完全に洗い流すしかないじゃないですか……」


 どうも、またもや泣かされた一般庶民すぎる占い師、シイナ・バーンズです。

 何なんですかね、8月の終わりから私、泣かされ過ぎでは?


 ちなみに今、洗面所です。

 ユウヤさんに泣かされてお化粧デロデロなので洗い落してます。


 お付き合いの報告もあったので、気合入れてきたんですけどねぇ……。

 お洋服も、アクセサリも、私が持ってる中で一番高いコーデでキメたんですよ。


 それなのにコレです。

 さすがに高いお洋服を着たまま、顔だけすっぴんとか女性として死刑宣告です。

 なので着替えます。収納空間から取り出したジャージに。


 壮絶に芋い、紫色のジャージにです!

 うわぁ~~~~ん! あんまりじゃないです? これはあんまりじゃないです!?

 だけども、他に替えが、ない! じーざす!


「はぁ~、ユウヤさんめぇ……」


 悪いのは、全部あの野郎ですよ。

 まさか、このタイミングでプロポーズとか、本当にあいつは~!


 ああ、でも、不本意ながらも懐かしい。

 そうでしたね。ユウヤさんは、こういうサプライズが大好きでした。


 異世界でのお見合いの席でもサプライズでプレゼントをしてくれました。

 当時、私が好きで集めていた古文書のうちの一冊を。


 それは、そのときの私はまだ持っていなかったもので、思わず跳び上がりました。

 そしてそんな私を見て、あっちでのユウヤさんはおかしそうに笑っていました。


 思い出しました、思い出しましたよ。

 全く、あの男は何も変わらない。カッコよくて、イケメンで、趣味もよくて!

 そのクセ、こういうサプライズで人を泣かせてくる。ズルい男ですよ!


「……ああ、参りましたね、本当に」


 せっかくのお化粧を洗い流し、鏡にはすっぴんの私が映っています。

 服はとっくにジャージです。クッソ~、いつも部屋にいる私が鏡にいるぞ~。


 あ~、メインの部屋に戻りたくない。

 だって考えてみてくださいよ、あそこの部屋、ユウヤさんがいるんですよ。

 バッチリスーツでキメたままのあの男が。そのままの格好で!


 その一方で私は、自宅でしか見せない『気楽な格好』です。

 つまり私は、このままの姿でこれからユウヤさんの隣に座ることになるのです。


 い、生き恥!

 まごうことなき生き恥!


 これ、私悪くないですよね? 

 泣いた私じゃなくて、泣かせたユウヤさんが悪いと思うんですけどねー!?


 まぁ、今さらそんなことを気にする人なんていないでしょうけど。

 私もそれがわかってるから、この格好になっちゃってるんでしょうけどねー……。


 それにしても、まさかプロポーズとはなぁ~。

 そうですか、そう来ますか、ユウヤさん。あなたは本当に、そういう人ですよ。


 本当に、お変わりないようで、むしろホッとしてる部分もあります。

 さてさて、いつまでも鏡とにらめっこしてても仕方がありません。戻り――、


「おシイちゃ~ん、いるぅ~?」

「はい、スダレ姉様?」


 洗面所に、スダレ姉様が入ってきました。

 そして姉様は私の方を見るなり、しばし固まって、


「わ、すごいねぇ、おシイちゃん、とっても似合ってるよ~。ベストコーデだぁ~」

「何ですか、このクソ姉。今の身軽になった私に挑戦状ですか?」


 自分でも異常にしっくり来てるけど、これをベストとするのは認めませんよォ!

 私だって、まだまだ女の子であることをやめたくない年頃なんですよ!


「ん、そうじゃなくてぇ~」

「はい、じゃあ何です?」


 ファイティングポーズをとる私に、スダレ姉様はただ一言、


「……大丈夫?」


 あー。

 本当にこの姉は、クリティカルに来ますねー。

 それに対して、私はこう返します。


「大丈夫です」

「ん、わかったよぅ~」


 姉様は微笑んで、コクリとうなずいて、洗面所を出ていきました。

 心配、かけちゃってますね~。今度何か、プレゼントでもしなきゃかな~。


「……うん、大丈夫。私は大丈夫です」


 軽く両手でペチンと頬を張って、私は今度こそ洗面所を出ます。

 ここは、スイートルームから少し離れた場所にあります。


 さすがに、すっぴんになるところを誰かに見られるのはイヤです。

 もうなっちまった以上はどうしようもないですけどー! すっぴんですけどー!


 はぁ、覚悟を決めましょう。

 これからみんながいるところに戻って、ユウヤさんをいじめてやります。


 あの野郎にも私と同じく、生き恥をかかせてやり――、あれ?

 何か、いきなり伸びてきた手が私の腕を掴んで……?


「悪ィ」


 その声は、タクマ君?


「なッ――」


 驚きの声をあげることもできず、私はタクマ君に引っ張られます。

 そして、近く部屋の中に連れこまれ、彼はドアを閉めました。

 そのドアには、金属符!?


 ――部屋の中が『異階化』して、私と彼は二人きりになりました。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 いてもたってもいられずに、つい、タクマは行動を起こしてしまった。

 トイレに行くと称して部屋を出てから、シイナを無理矢理『異階』に連れ込んだ。

 金属符の設定によって、外での三十秒がここでの三分になっている。


「変なことをする気は、ない」


 まずはシイナに対して、それを宣言しておく。


「それは、わかってます。でも、何で……?」

「何で、って、それは俺のセリフだろ、シイナ!」


 理解できない顔をしているシイナに苛立ち、タクマは声を荒げた。


「どうしてだよ、シイナ。何であんな野郎のプロポーズを受けたんだよ!?」

「ああ、それですか……」


 大声を発するタクマに、シイナは得心が行ったようで軽くうなずいた。

 だが、そのあっさりとした態度が、タクマの中の苛立ちをさらに加速させる。


「何だよ、その反応。シイナ、おまえがあのユウヤってヤツに告白されたって聞いたとき、俺の気持ちがどれだけささくれ立ったか。今日だって、付き合うって聞いて、どれほど絶望的な気分になったか! それなのに、プロポーズまで受けて……ッ!」

「……祝福してくれてたじゃないですか、タクマ君」

「あんなモン、表面だけに決まってるだろ! 祝えるワケあるかよ!」


 そんな当たり前のことを、彼は今さらシイナに向かって口走る。

 一番、自分のことをわかってくれているはずの彼女に。


「なぁ、シイナ……」


 タクマが、シイナに詰め寄る。

 彼は背が高く、シイナはマヤより背が低い。彼女からすればタクマは壁のようだ。


「何ですか、タクマ君」


 それなのに、シイナは気圧された様子も見せず、タクマを見上げる。

 一見、威風堂々とも受け取れてしまうその態度に、彼はますます苛立った。


「おまえ、本当にユウヤのことが好きなのか? おまえを道具扱いしたあいつが!」


 抑えようとしても、声はどうしても大きくなってしまう。

 シイナは、だが驚きもせずに、困ったような笑みを浮かべて首をかしげる。


「そうですね。あの人は、前は私を道具にしました。でも、もう謝ってくれました」

「謝っただけだろ! どうせ、またすぐおまえを道具扱いするに決まってる!」


 そうだ、そうに違いない。

 今はよくても、いずれまた必ず本性を現す。そうに決まってる。


 タクマの中に根付く、全く根拠のない決めつけ。

 だがそれを、シイナは優しい笑顔でふわりと受け止める。


「あの人は、もう、そんなことはしませんよ」


 信じられない返答だった。

 それを聞かされて、タクマは絶句する。


「……本気で、言ってるのか?」

「もちろん、本気ですよ。私、わかるんです。ユウヤさんはもう二度と、私を商売の道具として使うようなことはしません。絶対に。確信があります」


 そう言い切るシイナの顔に、不安や迷いは一切なかった。

 その瞳を見ればわかる。彼女は、心の底からユウヤを信じ切っている。


「シ、シイナ……」


 タクマは愕然となる。そして、頭は真っ白に、目の前は真っ暗になってしまう。

 目の前の女が、本当に自分の愛した姉なのか一瞬わからなくなった。


 だが、間違いなく彼女はシイナだ。

 異世界でも想い合って、けれども、その想いは実らずに終わった、最愛の人。


「もう、いいですか? そろそろ戻らないと、さすがに怪しまれますよ」

「ぅ、あ……」


 立ち尽くし、声も出せずにいるタクマの横を、シイナが通り過ぎようとする。

 そして彼女はドアの金属符を外し、外に出るのだろう。


 そうしたら、終わる。終わってしまう。

 あっちの世界と同じようにこの世界でも、自分達の繋がりが、想いが。


 今、シイナを行かせてしまえば、全てが終わる。

 異世界と同じく最後の最後まで、姉と弟という関係性で終わる。閉じる。潰える。

 彼女を愛した時間が意味をなくしてしまう――、今日で終わり。これで終わり。



「俺と結婚してくれ、シイナ」



 無意識のうちに漏れ出た言葉に、自分自身が驚いた。

 だが、口に出してから、これしかないと理解する。

 目の前の、自分が愛する女性を自分のもとに繋ぎとめる手は、もうこれしかない。


「……タクマ、さん?」


 シイナが、驚き顔で彼を見返し、家族ではない方の呼び方をする。

 そのことにタクマが小さな驚きと喜びを感じた、次の瞬間、


「本当ですか! 私と、結婚してくれるんですか!」


 何と、シイナは嬉しそうに笑顔を弾けさせて、両手をパンと打ち鳴らした。


「わかりました! それなら、私、ユウヤさんとの婚約を撤回します!」

「え、ぇ? あ……、シイナ?」


 突然の態度の急変に、タクマは戸惑う。

 だが、そんな彼にシイナはその場で飛び上がるほどに喜んで、抱きついてくる。


「ありがとうございます、タクマさん! 私、あなたと幸せになります!」

「え、ぃ、いや……、オイ?」


 シイナの高すぎるテンションに、彼はついていけない。

 プロポーズをしたのは自分なのに。受けてもらえて、喜ぶべき場面なのに。


「私、ずっと夢でした。母様みたいに、好きになった人と結婚することが。……やっとその夢が叶うんですね? やっとタクマさんと、一緒になれるんですね?」


 そう言って、シイナは今度は涙ぐむ。

 コロコロ変わる表情を、いつもは可愛いと眺めていたタクマではあるが、


「待てよ、シイナ。……ユウヤは、いいのかよ?」

「彼にはちゃんと謝ります。ユウヤさんには悪いことをしてしまいましたが、でも、いいんです。私の夢が叶うんですから。タクマさんと、結婚できるんですから!」


 そしてまた、シイナははしゃぎ出す。

 プロポーズをした張本人を、完全に置いてけぼりにしたままで。


「ま、待ってくれよ、シイナ。おまえ、そういうのは『普通』じゃないっていつも言ってたじゃねぇか。それは、どうなるんだよ? おまえは……!」

「それはもういいですよ。別に」


 信じがたい言葉を聞いた。

 あれほど『普通』にこだわっていたシイナが、それをあっさり撤回してしまった。

 タクマの中にあった驚愕が、この段階で徐々に別の感情に変わり始める。


「シイナ、おまえ……」

「だって私にとって一番価値があるのはタクマさんです。私にとって、タクマさんは全部です。タクマさんもそうだから、私にプロポーズしてくれたんですよね?」


 問われ、だが、タクマは咄嗟には答えられなかった。


「……ああ、そうだ」


 数秒を経てやっと、彼は首を縦に振る。弱々しい動きで。

 シイナが、ニッコリと笑った。


「じゃあ、いいじゃないですか。お互いに気持ちが通じてるなら、何の問題もありません。もう『普通』がどうとかはどうでもいいです。愛し合ってるんですから!」

「そ、それはそうだけど、ぃ、いや……、ぁ……」


 タクマは言いかけて、だが言葉が続かない。

 話している相手は、シイナ。それは間違いない。だがこの得体の知れなさは何だ。


 どうして、彼女は急にここまで、自分との結婚に乗り気になった?

 それがまるでわからない。わからなくて気持ちが悪い。シイナが、気持ち悪い。


「なぁ、シイナ、あのさ……」

「タクマさん、タクマさん! どういう家庭にしたいですか? 子供は何人欲しいですか? 家事の分担はどうしましょう。タクマさんは専業主婦をお望みですか?」


 シイナは瞳をキラキラ輝かせて、タクマとの将来について語り出している。

 それが、彼には理解できない。気持ち悪い。こんな……、


「おい、シイナ、聞けよ」

「みんなもきっと驚くでしょうね。だって、私とタクマさんが結婚するんですから! 異世界だと血縁の問題もありましたけど、こっちだと関係ないですモンね!」


 タクマの制止もきかず、シイナは一方的に喋り続ける。

 それが、彼に不気味さを感じさせる。何だこれは。何なんだよ、これは。


「シイナ、聞いてくれ! 俺は……!」

「タクマさんは、私を愛してくれました。こっちでも、あっちでも。だから今度は、私があなたを愛し抜きます。安心してください、私は一途ですから」


 そうじゃない。そういうことじゃない。違う。

 タクマは、はしゃぐシイナを呆然と見つめるしかなかった。


「……シイナ、おまえ」

「タクマさんのこと、愛してます。タクマさん、大好きです。タクマさんが結婚してくれるなら私、これまでの全部を捨てることだって厭いません。愛してますから!」


 シイナが、タクマへの愛を高らかに謳う。彼からの求愛を全面的に肯定する。

 それは、タクマ自身が求めてやまなかった景色だ。そのはずだ。


 だというのに、何だこれは。この感じは。

 違和感と不気味さと、得体の知れなさに満ち満ちた、この不快な感覚は。


「タクマさん……」


 シイナが、彼に寄り添って涙混じりの目で見上げてくる。

 その手を祈りの形に合わせて、彼女は、囁くような声でタクマへと告げる。


「私、あなたと一緒に、幸せになります」


 その瞬間、タクマの中で膨れ上がっていたものが、ついに爆発した。


「やめろシイナ、おまえ――、おまえは『普通』じゃねぇよ!」


 悲鳴にも等しい、心からの絶叫だった。

 そして彼はハッと我に返る。今、自分は彼女に向かって、何と言った?


「はい、知ってます」


 シイナが、タクマの今の言葉を全面的に認める。

 その表情は一変していた。あれだけ輝いていた瞳が、冷たく凍え切っていた。


「今の私が『普通』じゃないことくらい、知ってます。そして……」


 彼女は眉尻を下げて、哀しそうに笑った。


「タクマさんの今の言葉が、私が、あなたの求愛に応じられない理由です」

「な……?」


 シイナの言っていることの意味が、わからない。


「やっぱり自覚がないんですね、タクマさん」

「な、何の、だよ……?」

「私なんかより、タクマさんの方がずっと『普通』にこだわっている。そのことに対する自覚です。やっぱり、私の思った通りでした。ああ、当たっちゃった……」


 死にそうな声だった。哀しさに満ちた、胸が詰まるような声だった。


「8月の終わり、タクマさんは私に告白してくれました。でも、私はそれに応じませんでしたよね? そのとき、タクマさんはどう思いました? 何を感じました?」

「何、って……、残念だったに決まってるだろ!?」


 タクマが声を張り上げて答えると、シイナはそれにうなずきながらも、


「それもあったと思います。でも、タクマさん、本当はホッとしてたんでしょ?」

「……はぁ?」


 問い返すタクマの声は、裏返っていた。


「私が告白を受け入れなかったことで、タクマさんはホッと安心したはずです。これからも『普通の家族』という関係性を保てることを確認できたから……」

「待てよ、シイナ。それじゃ、それじゃあ、まるで……!」


 タクマの言わんとしているところを察したか、シイナは小さくうなずいた。


「そうです。タクマさんがしてくれる告白は、最初から私が断ることを前提とした、ただの確認行為でしかないんです。私とあなたの関係性が『普通』であることを確認する。ただそれだけのための、それ以外には意味のない行為なんです」

「そ、そんなバカなことあるか!? 俺は、おまえを愛してる! おまえへの告白だって、心からおまえと結ばれたいと思って……!」


 しかし、訴えるタクマに、シイナは小さくかぶりを振る。


「もし、私があなたからの告白を受け入れたら、きっと今さっきと同じことが起きてましたよ。喜ぶ私を、あなたは受け入れきれなくなっていた。違いますか……?」


 問われてしまう。シイナから、まっすぐに。

 何てふざけた質問を、と、思った。怒りを覚える。憤りが高まる。

 だがそれも、次の彼女の言葉に霧散する。


「もし違うなら、今すぐ、私のことを抱きしめてください。そうしたら、私も抱きしめ返します。そして今度こそ本当に、タクマさんだけのシイナになります」

「言ったな……!」


 怒りよりも激しいものが、タクマの血の流れを早くする。

 彼は、両腕を開いた。シイナはすぐ目の前だ。抱きしめることなど造作もない。


 シイナの言っていることは、何も正しくない。

 自分はシイナを確かに愛している。世界の誰よりも強く想っている。


 そんな自分が『普通』であることにこだわっているなんて、あるはずがない。

 それこそ、シイナの思い違い。勘違いも甚だしい。的外れの推測。


 ずっと、そう思っている。そう思っているのに――、だけど、両腕が動かない。

 広げかけたまま、シイナを抱きしめることができない。


「……何でだよ」


 どうして両腕が動かない。シイナを抱きしめるなんて、難しいことじゃない。

 簡単だ。簡単であるはずだ。今この場でそれをするのは、何よりも簡単な行為だ。

 抱きしめられるはずだ。簡単に、抱きしめられるはず!



 ――でもそれって、『普通の人間』がすることか?



 泡のように浮かんできたその思考に、タクマは愕然となる。

 そしてシイナも、そんな彼の表情を見て察したように、小さく目を伏せた。


「ほら、ね……?」


 声を震わせ、彼女はタクマの横を通り過ぎる。

 彼はそれを蒼白になった顔で振り返り、見送ることしかできない。


「タクマさんが私を好きなのは本当だと思います。でも、それ以上にタクマさんは自分の中にあるタクマ・バーンズという『普通な自分』が可愛いんです。だから、それを変えてしまうような『普通じゃないこと』は受け入れがたいんですよね?」

「ち、違う、俺は……」


 タクマは必死に反論しようとする。だが、言葉には一切力はなく、


「違いませんよ。あっち(異世界)でもこっち(日本)でも、ずっと私を試してたクセに……」


 トドメとばかりにシイナに冷たいまなざしを向けられ、彼は何も言えなくなる。


「今日で終わりです。これで終わりです。さようなら」


 そして叩きつけられた、シイナからの別れの言葉。

 彼女はドアの金属符を取り外し、そのまま、部屋を出ていった。


『あ■たが、■た■を■したのよ』


 棒立ちになっているタクマの耳の奥に、遥か昔に聞いた声が蘇っていた。

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