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第168話 報告と、謝罪と、それからあともう一つ

 いえ~い、いぇ~い!

 どうも皆さん、ありふれた占い師のシイナ・バーンズです!


 さて、9月のバーンズ家の宴会ですが、まずは報告から始まりました。

 何の報告かというと、もちろん、私とユウヤさんの報告でっす!


「実は俺とシイナは、このたび、正式に付き合うことになりました」


 メイン会場となってる広々としたスイートルームで、ユウヤさんが言いました。

 皆の注目を一緒になって受けてる中での報告です。む、むずがゆい……!


「うぉ~! シーちゃん彼氏できたんか~!」

「へぇ、あのも……、じゃなくて一般的なシイナさんに、彼氏か~……」


 聞き逃さなかった私は、笑顔のままでケントさんの方を向きます。


「も? あの、今、何て言いかけましたか、ケントさん。も? 何です? も?」

「いやぁ~、めでたいっすね~! 実におめでたい!」


 一瞬、ギクッとなりながらもすぐに笑顔作りましたよ、この人!

 思ったより面の皮が厚かったようです。やりますね、タマキ姉様の彼氏さん。


「そ、そっかぁ、シイナ、またこの人と付き合うんだね……」

「あっちでもご夫婦でこっちでも、って、もう運命なのかもしれませんわね」


 穏やかに祝福してくれてるのが、マリク兄様とヒメノ姉様です。

 マリク兄様、可愛くなっちゃったな~……。

 現状、父様の一つ上なだけですよ、この次男。ちっちゃ~い。可愛い~。


「シイナ、な、何か変な目で、見てない……?」

「いぃえ~、そんなことはないですよ~?」


 失敬な。ショタは私の性癖にはないのです!

 でも純粋に可愛いと思っちゃうのは、止められないですね~。はい。


「ッジかよ! やッたじゃん、シイナ姉。やッとボッチ卒業ッてかァ?」

「ボッチとか言うもんじゃないでしょ、あんた、おめでたい席なんだからさぁ……」


 そして、タクマ君と、マヤさん。

 私とユウヤさんの報告を、タクマ君は満面の笑顔で喜んでくれました。


 その隣で、マヤさんはまるで彼と長年一緒だったみたいに、気安く接しています。

 タクマ君と彼女とは、あっちでは別れたけれど結婚までした仲です。


 その距離感、その空気感は、再会したばかりとは思えないものでした。

 っていうのを感じて、そこに痛みを感じる資格は、今の私にはないですけどね。


「本当はシンラとお袋もいるんだけど、今回はいないから、次回だなー」


 父様が、この場にいない人についてユウヤさんに説明しています。


「シンラさん。……陛下まで、こちらにいらっしゃるんですか」

「ん~? ああ、そうか、そういえばおまえは帝国の御用商人だったな、ユウヤ」

「はい、そうです。あちらでは、重用していただきました」


 ユウヤさんは、朗らかに笑って父様と話をしています。

 その様子を、母様とスダレ姉様が、ジッと覗き込んでいました。


「ねぇ、ユウヤ」

「ちょっといいかなぁ~、おユウ君さぁ~?」

「あ、はい。何でしょうか、ミフユさん、スダレさん」


 二人が、ユウヤさんのことを呼びます。

 その様子を見るに、スダレ姉様の方はいつもと変わりませんが、母様は真顔です。


「単刀直入にきくわ。あんた、今度こそ本当にシイナを幸せにしてくれるのよね?」

「母様……ッ!?」


 ビックリしました。

 まさか、このおめでたい席で、そんなことをきいてくるだなんて。


「あのねぇ、おユウ君とおシイちゃんが付き合うこと自体は、特に反対するつもりはないんだぁ、二人のことだしぃ。でもやっぱぁ、異世界でのことがあるでしょ~?」


 そして、スダレ姉様が端的にではありますが、そう説明してくれます。

 あちらでのことを知らないタマキ姉様やマリク兄様は、理解できかねる様子です。


「な~な~、ケンきゅん、何の話だ~?」

「いや、俺が知るワケないっすよ。死んでたでしょ、俺、そんとき」

「あ、そっか……」


 くっ、中身は物騒なのに、やり取りは平和。悔しい、和んじゃう……!


「え、えっと、ヒメノは、わかる……?」

「いえ、私もわかりかねますわ。何のお話なのでしょうか……」


 場が、にわかにザワつきます。

 そんな中、ユウヤさんも真顔になって母様に相対し、そのまま土下座を……!?


「ミフユさん……、いえ、お義母さんからすれば、あっちの世界で俺がやったことは、許せることではないと思います。確かに俺は、あっちの世界ではシイナの能力を自分の商売の道具として扱ったことがあります。言い訳のしようもありません」

「「なっ!」」


 その場にいる家族のみんなが、ユウヤさんの告白に声をあげ、表情を変えました。

 同時に、和やかだった空気が重みを増し、幾つかの視線が彼を貫きます。


「だけどッ!」


 ユウヤさんの声が、広い部屋にこだましました。


「俺は、誓いました。もう二度と、シイナをそんな風には扱わないと。こっちに戻ってきて、シイナと再会して、俺は痛感したんです。俺は、シイナが好きです。あっちの世界では自分の愚かさのせいで、その好きな相手を幸せにしきれなかった。だから今度こそ、今度こそは、そんな失敗はしません。俺は、彼女を幸せにします!」


 絨毯の上に頭を擦りつけて、ユウヤさんは堂々と声を張り上げそう断言しました。

 私が見ている前で、母様が見ている前で、みんなが見ている前で。


 彼に向けられていた厳しいまなざしが、その熱い言葉によって和らぎます。

 母様は、まだしばらく真顔のまま土下座し続けるユウヤさんを見つめ続けます。

 でも、やがて――、


「……母様」

「いいわ、わかったわ」


 それだけ言って、母様は真顔をやめて、口元を綻ばせました。

 その目が、チラリと私を見ます。私はその視線に、小さくうなずき返しました。


「ふぅ~ん、そっかぁ、ウチもわかったよぉ~」


 スダレ姉様はいつも通りフニャフニャしながら、その場を離れていきました。

 去り際、姉様にポンと肩を叩かれました。


「ありがとうございます!」


 ユウヤさんは、母様と姉様にそうお礼を言って、ようやく頭を上げました。

 私は、そんな彼に寄り添うと、自然を口元に笑みが浮かんできます。


「ユウヤさん、そこまで私のこと、真剣に考えてくれてたんですね」

「当たり前だよ、シイナ。もう一度言うけど、俺は今度こそ、君を幸せにする」


 彼の言葉はどこまでも真っすぐで、私の笑みはますます深くなります。

 ユウヤさんの瞳には、笑う私がハッキリと映り込んでいました。


「そうだ、のどとか渇きませんか? 何か飲み物を……」

「待ってくれ、シイナ」


 一旦、場を離れようとする私を、ユウヤさんが呼び止めます。


「どうか、しましたか?」

「ああ。ごめん、本当はもう少し先にするつもりだったけど……」

「……はい?」


 何でしょうか、私はユウヤさんを見返します。

 宴会に突入しようとしていたみんなも、同じようにユウヤさんに注目します。


 ユウヤさんは、流れるような動作で懐から何かを取り出しました。

 それは小さな四角い箱で、開けると中に指輪が……、え?


「実は前から用意はできてたんだ」

「…………え?」


 固まる私に、はっきりと、ユウヤさんは言いました。



「――俺と、結婚してほしい」



 え? ……え? えええええええええええええええええええええええええええ!?


「わぁ、プロポーズだァ~~~~!」

「オイオイ、マジっすか?」


「わ、わ、ヒメノ、プ、プロポーズだって……!」

「はい、マリクお兄ちゃん。私も驚いていますわ……」


「へぇ、あのイケメン、すごいグイグイ行くじゃん。ね~、タクマ?」

「……信ッじらんねェ」


 場が、一気に騒然となります。

 私は正直、頭の中が真っ白になっていました。


 そうなるのは当然です。

 だって、今日、家族のみんなに『お付き合いの報告』をしたばっかりなんですよ。

 それなのに、こんないきなり、プロポーズ、だなんて……。


「……驚かせて、すまない」


 立ち尽くす私の前で、ユウヤさんはそう言って、指輪を差し出して跪きました。

 外国の恋愛映画にあるような、プロポーズの場面のように。


「だけど、俺は本気だ。君を幸せにしたい。大切にしたい。その一心なんだ」

「で、でもユウヤさん……。私達、まだお付き合いを決めたばかりで……」


 さすがに早すぎやしませんか。

 そう、話を持っていこうとしました。でも、彼は言うのです。


「お互いを知り合う時間なら、たくさんあったじゃないか。お互い、死ぬまで」

「それは、そうですけど……」


 何せ、私と彼は異世界で一度夫婦として添い遂げた仲です。

 互いを知り合う時間など、今さら必要はないのかもしれません。でも――、


「ユウヤさん……」


 驚きばかりが先行する私の頭が、ユウヤさんの顔を見て少しだけ冷めました。

 ユウヤさんの唇が、にわかに震えていることに気づきました。


 彼にしても、このプロポーズは一世一代のモノに違いありません。

 よくみれば顔も、どこか不安を抱えているようにも映ります。


 その顔つきに、私は彼の決心を感じました。彼の決心と、強い本気を。

 この人は、それほどまでに私のことを……。


 胸が打ち震えました。

 全身を巡る血の流れが速まって、今の私は、頬が赤くなっていることでしょう。

 私の目には涙が浮かび、私が見る彼の姿がにじみます。


 それでも、見えます。わかります。

 私のことを真っすぐに見てくれるユウヤさんの顔つきは、あの駅ビルの屋上で私を助けてくれたときと、全く同じでした。凛々しくて勇ましいユウヤさんでした。


「……ユウヤさん」


 もう、堪えきれません。

 私の目から涙が溢れ、声を出そうにも、嗚咽が漏れるばかりで言葉になりません。

 それでも、私の気持ちは決まっています。答えは、決まっています。


「…………はい」


 頑張ってそれだけを言って、私は、彼に差し出された指輪を受け取りました。

 周りから、喝采の声が上がりました。


 ――ユウヤさん、本当に、あなたって人は。

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