第167話 今月もこの日がやってまいりました!
ジルー・ガットランも無事に始末できて、マヤの安全も確保されました。
シイナはシイナで彼氏できそうで、俺とミフユとしては何ともおめでたいな、と。
「だから騒ごうと思うんですけど、どうよ?」
「タイミングとしてはちょうどいいわね、前回からちょうど一か月くらいだし」
「だろ~?」
「マリクとヒメノとも会えたし、一回集まるのもいいわねー」
「OK、決まりだな。俺のスマホでみんなに連絡しておくわー。俺のスマホで!」
俺はテーブルの上に置いておいたスマホを手に取る。
この俺の、おニューの、最新型の、スマホを! シャキーン! と!
「…………。……ああ、うん、いいんじゃないかしら?」
「何ですかね、そのヌッル~いまなざしは?」
「いや、あれだけスマホ持ちたがらなかったクセに、こーなるかー、ってね……」
「先週までの俺は死んだ。今の俺は現代文明に適応したネオ金鐘崎アキラだ!」
「やっすいわねー、あんたの命。残機制?」
呆れられた上にさらに呆れられたよ、何でだよ!?
「ところで、アキラ」
「はいよ?」
「お義母様達、上手くいってるかしらね~……」
若干ながら心配げな様子で、ミフユが窓の外を眺める。
それなー、俺もさすがにちょっと気になってる。
実はシンラとお袋、現在旅行中。
いや、正確にはシンラの出張にお袋とひなたがついていってる形だけど。
シンラのやつ、わざわざ出張後に有給とって、出張先でお袋とデートだとさ。
ちょうど出張先に藤咲の別荘があるとかで、仕事のあとはそこで過ごすんだとよ。
もちろん、ひなたも一緒にね。
「どこまで行くと思う~?」
「どこまで、って?」
「だからぁ~、シンラとお義母様よ~。最近、少しイイ感じなんでしょ~?」
「そうみたいだねー。いうて、デートも週一で二時間程度だけど」
「親としては本当にしっかりしてるわよね、あの二人……」
自分よりも俺とひなたを優先しつつ、しかし、着実に自分の時間を重ねてる二人。
ミフユの言う通り、親としてはかなり理想的だよねー。とは思う。
今回の出張については、俺から提案した形だけど。
たまにはお袋も外に出た方がいいんじゃねえのかー、って感じで。
「そろそろ、シンラがお義父さんになる日も近いんじゃないの~?」
と、ミフユがここでちょっとニヤつきながら言ってくる。
「それはそれで、いいんじゃね? 異世界での繋がりを持ち出すとややこしいことになるけど、この世界に限るなら風見慎良が金鐘崎アキラの義父になるだけだしな」
それで、俺とシンラの関係性が変わるのかといったら、まぁ、変わらんだろーな。
だって結局、あっちが俺の父親になる気がないんだから。
それは、今まで常に感じていたことだ。
シンラは、ひなたとお袋を気にしつつ、俺との関係も大事にしてくれている。
そしてその関係とは、俺が父、あいつが息子、という今までの繋がり。
仮にシンラがお袋と再婚しても、その関係は変わるまい。
家庭事情だけを見ると、やたら複雑でややこしくなっちまうの、笑うけど。
「ちなみに苗字はどうなるのよ?」
「風見慎良が金鐘崎慎良になる。というか、そうしたいって本人が言ってた」
シンラのやつ、風見のままでいるの、イヤみたいなんだよねー。
風見家との間に相当な軋轢があるっぽい。いやぁ、何ともかんとも……。
「ふ~ん、そうなんだ~。って、ふと思ったんだけどさ、アキラ」
「へいへい? 何すか?」
「あんたのご実家の方はどうなのよ、お義母様の」
あ~、そういえばミフユには話したことなかったっけ~、それ。
「金鐘崎美沙子は現在、実家の金鐘崎家から勘当をくらっております」
「…………マジで?」
目を真ん丸にして驚くミフユが面白い。が。大マジなんだな~、これが。
あの『僕』を殺したクソ豚と結婚した時点で、実家から勘当されちゃったワケよ。
今年のお盆だって、お墓参りにすら行かせてもらえませんでした。
「シンラの実家のことも考えると、本当にどこにでもある話なのね……」
「そういうおまえはどうなのさ。大富豪佐村家のじいちゃんばあちゃんご親族は?」
「どいつも甚太と似たり寄ったりよ。夢莉叔母様にお任せしてるわ」
軽く言って、ミフユが肩をすくめる。
さ、佐村家ェ……。
「こうしてみると、本当に俺達の周り、ロクな大人がいないですねー!」
「だから、わたし達がしっかりしなくちゃって思うの、笑えないわねぇ……」
「同意するしかないの、マジで笑うわ」
さてさて、それじゃあまずは俺がしっかりしてるとこ、見せちゃおうかな。
「かけるぜー、家族に、俺が、連絡をするぜー! 俺のスマホで!」
「ウッキウキね、あんた……」
かくして、月に一度のバーンズ家大宴会、開催だァ~~~~!
その連絡をするぜ、俺の! 最新モデルの! スマホでッ!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
集まったのは、週末の土曜日のことだった。
会場は、もはや毎度の恒例となっているホテル最上階ワンフロア。広いぞー!
メイン会場に使ってる一番高いスイートの他にも、部屋が十以上あるしな。
「う、うわぁ……、広いなぁ、すごいなぁ……」
「そうですね。さすがは、市内でも一番高いホテルですわね」
最初にやってきたのはマリクとヒメノだった。
しっかりと手を繋いでいて、見た目は完全に姉と弟。でもそも実体は真逆。
「お~っす、マリク、ヒメノ」
「ぁ、お、お父さん……」
「お父様。本日はお招きいただきまして、ありがとうございますわ」
マリクとヒメノが、同時にぺこりとお辞儀をしてくる。
兄はいつも通りにおどおどしつつ、妹は育ちの良さをうかがわせる礼儀正しさで。
「ま、今日は無礼講だ、楽しくいこうぜ」
そして俺は、二人をメイン会場になる部屋に連れて行った。
それからはさして時を置かずに、どんどんと面子が揃っていった。
「こんちゃ~っす。お茶とお菓子、持ってきたっすよ~!」
「はい、これ、みんなの分。こっちがオレとケンきゅんの分なー!」
「おまえの分だけで他のみんなの分に匹敵するの、クッソ笑うんですけど?」
「仕方ないだろー! ちょっと体動かしたあとなんだよー!」
タマキが持っていたビニール袋の大きさを見て、噴きそうになってしまったわ。
こいつ、運動しないと普通なんだけど、体動かした途端ハラペコ化するの何なの。
「で、何をしたんだい、ケント君?」
「いやぁ、タマちゃんにせがまれて、ちょっと『異階』で軽く手合わせを……」
わぁ、もう絶対しんどいヤツ~。
無限に等しいスタミナを持つタマキとスパーリングとか、エグいて。
「で、結果は?」
「やってるうちにタマちゃん、テンション上がって異能態になっちゃって……」
「絶対勝てるワケないじゃん!?」
ケント、ちょーかわいそー……。
こいつの異能態はなー、タマキがピンチにならないと発動しないらしいからなー。
「だ、だってだって! ケンきゅん、すごいんだぜ! オレがカムイライドウで本気で攻めても、全然余裕で捌かれちゃうんだぜ! かっこよかったんだよー!」
と、ウチの長女が顔を赤くして騒ぎますが、なるほどなー。それでかー。
真念が『愛情』なタマキは、ケントへのラブが高まるだけで異能態しちゃうから。
「ちなみにケント君、実態は?」
「余裕なんてあるワケないじゃないですか……。常にギリギリっすよ……」
ケントがぐったりしていらっしゃる。
まぁ、でも、守勢に回ったときのケントは、キリオ並に難攻不落だからな。
「ちょっと、今日はゆったりさせてもらいたいっすわ」
「おう、休んでけ休んでけ」
そして、ケントとタマキはメインの部屋へと向かっていった。
それから数分後、スダレがやってくる。
「こんにちはぁ~。差し入れだよぉ~!」
「おっすおっす。ありがてぇな。何持ってきてくれたんだ~?」
「ウチの手作りのケーキだよぉ~!」
「…………」
見えてる地雷が来ちゃったよ!
「な、何か嬉しいことでもあった?」
「うん! あのねぇ~、来月でジュン君、単身赴任終わるのぉ~!」
「おお、それはよかったなァ!」
「だからウチ、嬉しくてぇ~、オクラとピーマンとブラックペッパー入りデスソーススポンジの苺とにがりのショートケーキ作って来ちゃったのぉ~!」
「……あ、うん」
今回、皆でゲームをして負けたら罰ゲームという企画があるんですよ。
罰ゲームの内容、完全に決まったな……。
「あ、ねぇねぇ、おパパ~?」
「はい、何よ?」
「おシイちゃん、ユウヤさんに告白されたんだってぇ~?」
おっと、ここでその話題が出てくるとは。
「そうらしいぜ。シイナがどうするかはわからんけどなー」
「そっかぁ~、ふぅ~ん、そうなんだぁ~……」
何やら腕組みをして考え込むスダレ。
シイナに一番近い姉妹だから、思うところもあるのだろう。
「ん、わかったぁ~。でも、ウチが一番最初に知れなかった情報は全然嬉しくないからぁ~、別にどうでもいっかぁ~。にゅ~ん……」
「おまえは本当に相変わらずだね……」
「にゅ~ん? お部屋行くねぇ~」
そして、スダレもメインの部屋へ歩いていく。
俺もそろそろ部屋に行っておくかなー。と思ったら、タクマが来た。
「あッれ、父ちゃんッじゃん? 入口で何ッしてんだよ?」
「いや、何となく待ってただけだけど、そっちはマヤも一緒かよ」
「は~い、アキラさん、この前はありがとうございますッ!」
タクマと一緒に来たマヤが、俺に深々と頭を下げて感謝の言葉を述べる。
「ああ、いいよ。気にするなって、災難だったな、ホント」
「はい……。でも、おかげで助かりました」
マヤは心底からホッとした様子を見せていた。
ま、ジルーなんてヤツに目ェつけられたら、気が気じゃなくなるだろうしな。
「これであたし、毎日グッスリ寝れます。あとは――」
と、マヤは隣に立つタクマの方を流し見て、
「こいつが、あたしとヨリを戻してくれればいうことないんですけどねー」
「バッカ、おめッ! いッきなり何言ッてンだよ!?」
タクマが、マヤの言葉に大層驚き、激しく取り乱す。
オイオイ何ですか、この展開はァ?
「おまえら、そんなことになってんの!?」
「そーなんですよー! あたし、ちょっと前からず~っと言ってるのに、こいつ、検討するしか言わないんですよ? ひどいと思いませんか? ひどいですよねー!」
「世論をッ味方につけッようとしてんじゃッねぇ!」
必死に反論するタクマだが、マヤの方は馬耳東風ですね、これは!
まぁ、結婚する前の二人って、まさにこんな感じだったなー。
何となくだけど思い出したわ。
マヤがタクマを引きずっていくような、この感じ。
割とお似合いなように見えるんだけどなー、俺からすると。
タクマがどうするつもりなのか知らんが、それは二人の話だからなー。
「痴話喧嘩するのはいいけど、とりあえず部屋行っとけー」
「待ッ、父ちゃん、痴話喧嘩なんッかしてねェッしょ……!?」
「ハイハイ、タクマ、行くわよ~」
そして、顔色を変えるタクマを、マヤがズリズリ引きずっていった。
う~~ん、見慣れた光景。懐かしさすら感じてしまうわ。
さて、これでおおよそ揃ったな。
今度こそ俺も部屋の方に――、リンゴ~ン。お? エレベーターの音?
「あ、こ、こんにちは……」
やってきたのは、いつもよりも着飾っている感じのシイナだった。
「おう、シイナ。いらっしゃい。……それと?」
シイナは一人ではなかった。
その隣に、一人のスーツ姿のイケメンを連れていた。
「こんにちは、本日はよろしくお願いします。アキラさん」
余裕たっぷりの動きで俺に向かって一礼をする。
そこに立っていたのは、土産もバッチリ持参してるユウヤ・ブレナンだった。