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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第七章 アキラとミフユの別異世界殲滅紀行

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第150話 は、8月ウウウウゥゥゥゥゥゥ――――ッ!?

 ヒメノがゆっくりとまぶたを開ける。


「ん……」


 周りを囲んでいる俺達は、それに気づいて揃って「おお」と声を漏らす。


「ヒメノ、起きた?」

「ヒーメノ! オレがわかるかー!」


 ミフユが顔を覗き込み、タマキが大声で呼びかけて、


「ヒメノ、久しいな」

「へぇ、この子が次女ちゃんっすか、初めまして~!」


 シンラが懐かしみ、ケントが挨拶をする。


「ホントに、人形みたいな子だねぇ、こりゃあ」

「だろ? 自慢の娘なんだぜ~!」


 お袋が感心し、俺がニシシと笑って、


「……おはよう、ヒメノ」

「はい、マリクお兄ちゃん。おはようございます」


 マリクが優しく告げて、ヒメノが小さく微笑んだ。

 ここは、まだ魔王城跡。すでに『異階』ではないが、俺達はまだ留まっていた。


 ヒメノが目を覚ます前に、タマキやシンラには説明はしておいた。

 ケントが「ガチで『なれらぁ系』だぁ……」とか零してたのが面白かった。


「私、みんなに助けてもらったんですね。ありがとうございます」

「体の方、精査したけどどこも異常はないよ。少し、疲れてるくらいだから」


 まだ地面に寝ているヒメノに、マリクがそう説明する。

 ヒメノは、身に宿す魔力量もあって体も丈夫で頑丈だ。鋼ボディに鋼メンタル。

 まぁ、肉体強度については金剛ボディのタマキとかいう例外がいるけど。


「フフフ……」


 説明しているマリクを眺めて、寝そべったままのヒメノがコロコロと笑う。


「何、どうしたの?」

「いいえ、マリクお兄ちゃん、年下になっちゃったんだな~、って」

「む」


 そこを指摘され、珍しくマリクが眉間にしわを寄せる。

 本当にこいつはヒメノにだけは素直に感情を出すよなぁ、とか思ってたら、


「それを言うんだったら、お父さんとお母さんがここじゃ最年少だよ!」

「うん、まぁ、そーね。マリクより一学年下だしねぇ……」

「そうねぇ~」


 俺とミフユは互いを見て、うんうんとうなずき合う。


「あら、本当ですわ。お父様とお母様ったら、随分と可愛らしいお姿ですわね」

「まぁ~、それはしゃーない。でも、俺達はおまえの親だぜー」

「もちろんですわ。私はマリクお兄ちゃんの妹で、バーンズ家の次女ですものね」


 笑ったまま、ヒメノは動かない。

 ヒーラーとして、今の自分の状態を理解しているのだろう。

 ま、すぐに治してしまうんだろうと思うが。


「ところで――」


 ヒメノの目が、俺達ではなく何故かケントの方に向く。


「そちらのお方は、どなたですの?」

「俺の親友だよ、ケント・ラガルクってんだ」


 そう説明すると、ヒメノは「まぁ」と少しだけ目を丸くする。


「あなた様が、ケント・ラガルク様。お話はお父様からたびたび聞いておりました」

「あ、そうなんすか。それは光栄というか、何というか……」


 ケント君、ちょっと照れておるね。

 ところで隣に座ってるタマキの顔がすごいことになってるけど、気づいてる?


「それと、ケント様と私は、初めましてじゃないですよ?」

「……え?」

「一回だけお話したことがありますわ、郷塚先輩」


 おぉ~~~~っと、これは意外な関係性が判明したぞ~~~~!

 何とヒメノ、ケントの中学の後輩だった~~~~!


「宙色市立宙色第一中学、一年五組、眞千草姫乃(まちぐさ ひめの)と申します」

「ま、眞千草の姫君ィィィィィィィ~~~~ッ!?」


 改めて名乗るヒメノに、ケントは大げさなまでののけ反りを見せる。

 タマキなども驚いて「何? 何!?」と、ヒメノとケントの間を目線が右往左往。


「あらら、あんた、眞千草の家なんだ、ヒメノ……」

「え~、ミフユさん。ケントの反応といい、おまえのその口ぶりといい、まさか?」

「そ。いわゆる名家ってヤツよ、眞千草家は。旧華族のお家柄よ」


 旧華族といわれても、俺にはちょっとピンと来ない。

 何だかすごい家なんだな~、くらいの認識なんですけど……?


「ケント君、姫君とは何ぞや?」


 俺は次に、デケェリアクション取ったままのケントに尋ねる。


「いや、そういえばウチの学校の今年の新入生にとびっきりの美人がいるって、いっとき噂になって、それが名家の眞千草の長女だっていうんで、名前もあって『姫君』って呼ばれるようになったらしいんすけど……」

「一回だけ、郷塚先輩に校内で道をお尋ねしたことがありますわ」

「マジか~……。全然覚えてねぇや。ごめん」


 ヒメノに言われても、ケントは本当に覚えていないようで、頭を掻く。

 すると、横からタマキが突撃の勢いでケントに抱きついた。


「ダメだぞー! 絶対ダメだぞー! ケンきゅんはオレのだからなー! いくらヒメノでもこれだけは絶対ダメなんだからな~! ケンきゅんは、オ~レ~の~!」

「まぁ、タマキお姉様はケント様とお付き合いを……?」

「そーだぞー! ケンきゅんはオレの彼氏なの! ね~、ケンき……」


 同意を求めるタマキだが、そこには口から血を垂らして白目を剥く彼氏の姿がッ!


「ケ、ケンきゅぅぅぅぅぅぅ~~~~ん!?」

「そらぁ、タマキの全力の頭突き喰らえば、そうもなるわな……」


 むしろ、人としての形を保っているだけでも奇跡だろ。

 タマキの頭突き、一撃でアイアンゴーレムをブチ砕く威力があるんだぞ。


 まぁ、タマキに新たな恋敵登場か、みたいな展開にはなりそうもない。

 ケントはもう、ずっとタマキ一筋だろうしなー。


「ぇ、ぇっと、ぁ、あの……」


 ケントを介抱するタマキを眺めていると、耳をかすめる小さな声。

 ふと見やると、マリクが何かを言いたそうにしている。


「マリク、どうかしたかー?」

「ぁ、はい、ぁの、元の世界に帰る準備、できました~……」

「お」


 そっかそっか、準備ができたかー。


「お~い、マリクが準備できたってよ~! いつでも帰れるっぽいけど、忘れものとかないか~? ちゃんとその辺りも見ておけよな~!」

「えー、もう帰るのかよー!? せっかく異世界来たのに~!」


 と、ケントを膝枕しつつ、頭なでなでしてるタマキが不満を零す。

 いや~、俺はできれば早く帰りたいんだがなー。


 何せ、、もう8月が終わってしまう。

 だが俺は、その前に何とか、夏休みを延長する方法を考え出さねばならない。


「美沙子殿、忘れ物などはございませぬか?」

「別にありゃしないさ。さっさと帰って、餃子作らなきゃねぇ」


「お義母様のスタミナ餃子、楽しみですわ~!」

「ニラ・ニンニクマシマシでも気にならないのが『出戻り』の利点の一つだよな~」

「夕飯の時間すぎてたら、明日にでも回すかねぇ」


 あからさまに瞳を輝かせるミフユと、今晩の夕飯を想像する俺。

 口臭なんざ、魔法で軽く消せるんだよなー。やっぱ魔法便利だわー。


「さぁ、帰るわよ、みんな! こうしてミフユ・バビロニャは新たな愛用の聖剣包丁とSSSランク冒険者の称号を引っ提げて、宙色市に凱旋するのよ!」

「あ」


 ミフユのその言葉に、俺は思い出した。


「そうだミフユ、おまえ、SSSランク冒険者になれないぞー」

「ええええええええええええええ!? な、何でよッ!」


 ベリーちゃんを持ったまま愕然となるミフユに、俺はその理由を教えてやる。


「だって俺とおまえ、ギルドで冒険者登録してねぇじゃん」


 俺が言うと、ミフユは一瞬キョトンとなって、


「あ」


 と、単音を発する。直後に、悲鳴。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 そう、そうなんです。

 俺とミフユ、冒険者ギルドに行きはしたけど、登録はしてないんですねー!

 その前に冒険者に因縁吹っ掛けられて、ギルド長登場だからね!


「待ってよ、ちょっと待ってよ! じ、じゃあ、魔王討伐依頼を達成してSSSランク冒険者になったのって、わたしじゃなくて……」


 俺とミフユの視線が、SSSランク冒険者のマリクへと注がれる。


「ぇ、ぁ、ご、ごめんなさ……」

「何で謝るの? あんたはよくやったわ! ママ、最高に鼻が高いわよ、マリク!」

「ぅ、は、はいぃ~!」


 一瞬涙目になったマリクを、ミフユは声も高らかに称賛して撫でる。

 本当は無念この上なかろうが、褒めて伸ばす方針を貫く姿勢には頭が下がるわ。

 あとで、いっぱい甘やかしてやろう。俺はひそかに決意する。


「そ、それじゃあ、日本に帰ります~!」


 そして、マリクが魔法を発動させ、俺達は日本へと帰還した。

 実質、半日ほどの異世界転移だったが、マリクやヒメノと会えたし悪くなかった。


 さぁ、帰ったら、今度こそ8月を救う手段を考えるぞ。

 俺の夏休みはまだまだ終わらない。いや、これからこそが本番なのだァ!


「あ、着いた」


 気がつくと、俺とミフユは俺の家にいた。

 そうか、マリクのヤツ、全員を自宅に帰還させたのか。……芸が細かい。


「着いた~、でも、さすがに夜ねェ~……」

「そりゃそうだろ……」


 言いかけて、俺は固まる。え、夜?

 俺はすぐさま立ち上がって、部屋の一角にかけてある時計を見た。


 その短針は12を少し過ぎており、長針は1のところに差し掛かっている。

 え~、つまりこれは……、


「終わっちゃったわね、8月……」


 ミフユが、嘆息と共に俺に絶望を突きつけた。


「は、8月ウウウウゥゥゥゥゥゥ――――ッ!?」


 9月1日の夜のアパートに、俺の悲嘆の声がこだましたのだった。

 さらば……、さらば、夏休み……!

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