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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第七章 アキラとミフユの別異世界殲滅紀行

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第149話 魔王よ、おまえは強かった。だが――、

 まずは壁を抑える。


「――『兇貌(マガツラ)』ァ!」


 俺はマガツラを具現化して、火の四天王の対処に当たらせる。

 この赤竜人は馬力がありそうだが、俺はこいつとケントとの戦いを見ていた。


 だから、もうこいつの能力は《《理解している》》。

 万が一どころか、億が一、那由多が一にも負けはない。マガツラ、強いんで。


 そして、俺自身は水の四天王の相手をする。

 さっきまでとは違う、見るからに人形めいた動き。だが、魔力は膨れ上がってる。


「ガルさん、あいつを殺しきることはできるか」

『無理』


 はい、即答いただきました~!


「何で? あなた、殺傷能力に特化した魔剣さんですよね?」


 不死殺しだって能力の内じゃございませんこと?


『あの二体がただの不死身なら、俺様の力でバッサリ行けるんだがなー』

「ただの不死身じゃない、と?」


『見りゃわかるじゃろ。あの二体は肉体は独立しているが、今は魔王の端末みたいなカタチになっておる。わかりやすくいえば、魔王の爪とか髪みたいなモンよ。切ったところでまた伸びる。そして、魔王を殺さん限りは伸びるのも止まらんわい』

「なるほどねぇ、じゃあ、やっぱり当初の作戦通り、俺はここで持ちこたえるか」


 マリクもミフユも前衛型じゃないから、火と水の四天王がいたら邪魔なだけだ。

 俺の異能態が使えればどうとでもなるが、今は怒りのボルテージは高くはない。


「――まぁ、仕方がない」


 水の四天王の首をガルさんで刎ねつつ、俺は口元を綻ばせる。

 魔王は確かに強い。俺一人なら対処のしようもなかったかもしれないくらいだ。


 しかし、残念ながら相手が悪い。

 ウチのミフユちゃん様とブチギレ真っ最中のマリクのコンビだからな。


「いやぁ、消化試合だな、こりゃ」


 復活してきた水の四天王を左右二分割しながら、俺は小さく呟いた。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 クレーターを飲み込む爆炎――、キャンセル。

 クレーター全域に振る雷光――、キャンセル。

 万物を腐らせて殺す腐蝕毒――、キャンセル。


 大地を裂いて溢れるマグマ――、キャンセル。

 全てを切り裂く真空の斬撃――、キャンセル。

 原子まで凍てつく絶対零度――、キャンセル。


 魔王城をも圧壊する超重力――、キャンセル!

 触れた者を即死させる呪い――、キャンセル!

 見た者を消滅させる死の光――、キャンセル!


 爆炎、雷光、毒の同時攻撃――、キャンセル!

 溶岩、風、寒波の多重攻撃――、キャンセル!

 重力、呪い、光の複合攻撃――、キャンセル!


「――ヌルい」


 魔王が使おうとした魔法、その全てを無効化して、マリクにはなお余裕があった。


「完全にぼく達をナメてますよね、おまえ。基礎術式が全部同じなんだから、表出する現象に差異があっても、毎度術式の同じ場所を壊せば関係ない。手間減らすためにコピー&ペーストで手ェ抜いてるのバレバレです。容易いんですよ、クソボケが」

「フフフフン! ウチのマリクがそう言ってるってことは、魔王だ何だと呼ばれながら、あんた実は雑魚ね! つまりあんたなんて容易いってことよ、クソボケが!」


 親子揃っての煽り散らしに、無表情のままながら魔王の気配に怒気が増す。


『我を、愚弄するか、脆弱な人間風情が』

「御冗談。愚弄してるのはあんたでしょ、魔王とかいう雑魚」


 魔王の前にして、ミフユが包丁の形をした聖剣を突きつける。


「その『魔王』っていう単語ね、ウチじゃちょっと特別なの。それを、あんたみたいな別に怖くもなんともない、エフェクト過剰の演出だけの雑魚が名乗るのが、わたしは気に食わなくて仕方がないのよ。だからあんたを仕留めて、返してもらうわ」

「――ヒメノも、僕の妹も、返してもらう!」


 浮遊する魔王へ、ミフユとマリクが立ち向かっていく。

 魔王が、手を動かした。それだけで強大な魔力が鳴動し、周囲に稲妻を走らせる。


「キャンセル!」

『……くッ!』


 だが、魔法は発動しない。

 魔王が行使せんとしていたのは、この場に核融合を生じさせる核熱魔法。

 しかし、それもまたマリクに阻まれた。


「何です、魔王、おまえ……?」


 阻んだマリク自身が、空中を旋回しながら疑問を覚える。

 魔王は、さらに周囲に十を超える魔法を展開しようとする。だがマリクが速い。


「キャンセルッ!」


 ひとたび手にした異面体を振るえば、それだけで全ての魔法が発動前に霧散する。

 そして、無防備な魔王へと、彼は突っ込んでいき――、


「こォのォォォォ!」


 異面体から伸ばした魔力の刃で、魔王の胴をバッサリと薙ぐ。

 刃は、確かに直撃した。その手応えを感じつつ、マリクは後ろを振り向くが、


『…………』

「やっぱり、無傷……」


 纏うローブこそ斬り裂けたが、器であるヒメノの肉体には跡もついていない。

 ローブの裂けた部分から、彼女の白い脇腹が覗いている。


「マリク!」

「お母さん……」


 マリクの隣に、ミフユが飛んでくる。

 ここまでの一連の攻防を、マリクはミフユに見守るよう頼んでいた。


「……どうなの?」


 経緯を端折り、結論だけを尋ねる母に、マリクはしっかりとうなずいて答える。


「全部、わかりました」


 マリクは、全て見抜いた。

 魔王という存在も、その本質も、その根底も、何もかも。

 そしてそれを、彼はミフユにも伝える。


「……じゃあ、わたしはそれをすればいいのね?」

「はい。お願いします。一緒に、あのクソボケに身の程と道理と分際を叩き込みましょう。アハハハハハハハハ、教育してやるよぉ~、雑魚風情がよォ~~~~!」


「マリク、今のあんた、パパそっくりよ……」

「えっ、本当ですかぁ!?」


「何で嬉しそうなのよ。ま、いいけど。それじゃ、ベリーちゃん、行くわよ!」

『は~い、マスター! ベリーにお任せでぇ~っす!』


 魔王が数千に及ぶ火球で二人を狙う位置しようとしてくる。

 一発でも喰らえばアウト。骨も残さず焼き尽くされる火力がある。


「キャンセルするまでもないですよ!」


 詠唱もしない。ただマリクはパチンと指を鳴らす。

 それだけで、二人に向かってくる火球が虚空に散った。一発残らずだ。


「今です、お母さん。行ってください。援護はぼくがします」

「なら、大丈夫ね。わたしの安全は確定したわ。……マリク、任せるわよ」

「はい!」


 年下の母親に撫でられて、マリクの中に誇らしい気持ちが生まれる。

 そして、ミフユはベリーを手に、魔王へと突っ込んでいく。

 当然、それを排するべく魔王は次々に魔法陣を展開していく。だが――、


「もう、無駄だよ」


 ヒュン、と、マリクがフルイキョウコツを横に振り回す。

 それだけで魔王が生み出した魔法陣は砕け、光の粒子となって消えていく。


『オノレ……!』


 無表情のままで、魔王が声だけで怒りをあらわにする。

 しかし、その声に意味はなく、そこに感じられる怒気も実は怒りではなかった。


 マリクは、魔王という存在の真実をすでに見抜いていた。

 魔王は、現象だ。

 言ってしまえば台風にも近しいもの。ただの巨大にして膨大な魔力の塊だ。


 始まりはきっと、見知らぬ世界に発生したゴーストか何か。

 生前の未練か何かが大元だったのだろう。

 それは発生当初から「消えたくない」という強い衝動を内側に抱えていた。


 それは同種よりも遥かに強い欲求で、周りの同種を取り込み、大きさを増した。

 基本的にはひたすらそれの繰り返しだと思われる。

 自らが消えないために、ただただ周囲の存在を取り込んでいった。


 ゴーストの体はほとんどが魔力で形成されている。

 だから、発生した『それ』は周りにあるものの魔力を吸収し続けたのだろう。


 結果、それは世界を滅ぼすまでに巨大化し、次元の外へ飛び出した。

 そしてさらなる魔力を求め、魔法が存在する世界へと引き寄せられていった。


 そう、真実はそれだけ。ただ、それだけ。

 ならば魔王軍とは何なのか。魔王とは何なのか。何故『器』が必要なのか。


 きっとそれは、残滓なのだ。

 かつてどこかの世界に存在して『それ』に喰われた誰かの意思の残滓。

 魔王軍四天王も、魔王城も、魔王という呼び名も、全て。


 巨大化した『それ』に呑まれ、そしてその一部となって動く端末。操り人形。

 四天王が不死身であることからもわかる。

 魔王軍という存在自体が、魔王と呼ばれる『それ』を形成する一部分でしかない。


 台風で例えるなら、魔王軍の魔物一体が、降り注ぐ雨の一滴のようなものだ。

 元は台風の中に含まれていた水分だが、雨となって落ちればそれはもう違うもの。

 おそらくは、そういう理屈。


 魔王軍四天王が不死身なのは、存在として本体である魔王に近しいからだろう。

 多分だが、魔王が最初に食らい尽くした世界にいた存在ではないかと思う。


 そして『器』が必要なのは、元々がゴーストだから。

 憑依という手段でしか、明確な自我や意識を得ることができないのだ。

 あともう一つ理由があるが、それはのちのちに控えておく。


 とにかくこれが、マリクが看破した真実。

 そして、だからこそ、対処は容易い。あまりにも簡単だ。


 何故なら、魔王は簡単な魔法しか使えないのだから。

 どれだけ強大な魔力を誇っても、初級魔法しか使えないならマリクの敵じゃない。


 マリクの認識には、一部誤りがあった。

 魔王が使う魔法の基礎部分はすべて同じ。彼はそれを手間を省くためと考えた。


 しかし違った。

 改めて観察してわかったが、《《魔王はその術式一種類しか使えないのだ》》。


 数多の魔法が使えるように見せかけて、根幹部分はすべて同じ。

 多数ある効果も、多少アレンジが加わった結果に過ぎない。


 いや、そのアレンジすら、意識してのものではない可能性が高い。

 敵を排除するために魔法を使う。魔王の意志が働いているのはきっとそこだけだ。

 発動した魔法の効果自体は、ランダムで決まっているのではないか。


 台風時、吹き荒れる風の向きや雷の発生地点が決まっていないのと一緒だ。

 それもまた、魔王という存在の大元が現象であることの証左だった。


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!」


 ミフユが、魔王へと突撃する。

 魔王は無数に魔法を準備するが、全部同じ。マリクはもはや見飽きていた。


「キャンセル」


 ガラスの割れる音がして、空中の魔法陣が砕け散る。

 そして、ミフユが魔王に肉薄した。


 その手に構えるは、闇喰いの刃ベリルラント・カリバー。という名の包丁。

 白銀色の切っ先がついに、魔王の『器』となっているヒメノの体を――


「わかってんのよ、全部ッ!」


 素通りして、ミフユはそのまま地面に向かっていった。

 魔王が『器』を必要とする理由。

 それは、自らの本体を誤認させる『囮』として使うためだ。


 現象として発生した魔王は「消えたくない」という原始的な本能を抱えている。

 その本能が生み出した唯一の浅知恵。それが『囮』としての『器』。

 ならば、魔王の本体はどこにあるのか。


「ここよォォォォォォォォォォォォォォ――――ッ!」


 雄叫びと共に、ミフユが聖剣包丁の切っ先を、地面にある魔王の影に突き立てる。

 すると、影が震え、そこに闇が膨れ上がりかけた。


『わ、すご~い! この闇、美味しいですぅ~! 濃厚で、コクがあってぇ~!』


 しかし闇は爆ぜなかった。

 ベリーが、それを急速に吸収し始めたからだ。


 上空のヒメノの体がビクンッ、と震える。

 そして無表情だったその顔がショックを受けたように歪み、脱力する。

 その身を包んでいた魔力も消えて、彼女は地面に落ちていく。


「ヒメノ!」


 マリクが、落ちる妹の体をすぐさま飛んで抱きとめる。

 しかし彼は小学生で、彼女は推定中学生。受け止めるのも大変だった。


「ぼく、お兄ちゃ~~~~ん!」


 だけどもそこは踏ん張って、しっかりとヒメノを抱きしめた。

 すると、双子の妹が「ぅぅん……」と小さく声を漏らす。生きてる。よかった。


『――――ッ――――! ――――ッッ! …………ッ!?』


 空間が激しく軋む。

 それはまるで、魔王という現象の最期の抵抗のようでもあった。


『わ、おぉ~いしぃ~い! ベリーちゃん、こんな食べたら太っちゃ~う!』


 だが残念、そんな魔王の足掻きも、闇喰いの刃の前ではスパイスでしかなかった。

 唯一、あの聖剣が魔王を食い尽くせるかが懸念点だったが心配無用だったか。


「無事に、終わったみたいだな」

「あ、お父さん!」


 声をかけられて振り向くと、そこにはアキラがいた。

 彼はマリクが抱きかかえるヒメノを見て、無事なのを確認すると笑みを作る。


「よくやったぞ、マリク」

「ありがとうございます!」


 撫でられて、嬉しくなる。

 そしてアキラは、聖剣に喰われていく魔王を見下ろし、呟いた。


「魔王は欠点も多かったが、強かった。何で勝てたと思う?」

「それは――」


 確かに魔王は強かった。

 しかし、ただ力が強いだけで知性はほぼなく、技術など全くなかった。

 だから勝てたのだと思う。マリクがそう告げると、アキラはうなずいて、


「そうだな。魔王は現象だったが、意思と欲求を持つ現象だった。仮に、魔王に対等に意見できて物事を教えられる存在がいたら、きっと結果は変わってただろうな」

「……そうかも、ですね」


 マリクもうなずき返すと、アキラは真顔でこう言った。


「魔王よ、おまえは強かった。だが――、おまえは独身だった。それが敗因だ」


 ドヤ顔で言う父に「それはどうかな」と思いはしても言えないマリクだった。

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