第145話 対決、魔王軍四天王! 楽しい余興付き!
お昼ご飯、美味しゅうございました。
ただし七割、ガルさんが食べたんですけどね……。
「もうおなかいっぱいよ~……」
「ぅぅ、苦しいです……」
『何じゃい、貴様ら、大したことないのう。この程度の量で』
「そりゃあね、ガルさんは直接食べるワケじゃないからね……」
ガルさんの食事って、万物をマナに変換して吸収することだから。
なお、一番吸収効率がいいのが生きてる生物の血肉ですって。実に魔剣らしい。
「さ~て、少し食休みしたら行くかァ~、あそこ」
俺は、魔王城跡地の巨大クレーターに目をやる。
地の底まで深々と抉れたそこは、一見すれば何もかもが終わった場所に映る。
しかし、俺は感じていた。
何かがある。もしくは、何かがいる。
この距離からでもはっきりとわかる、異質な存在感。
魔力ではある。だが、ただ強いだけの魔力ではない。こんな感覚は初めてだ。
「さて、何が待ち構えているのやら」
ここでちょっとウキウキしてしまう辺り、少しミフユに毒されたかな。
などと思っていると、食休みを終えた当の本人がスックと立ち上がって、
「それじゃあ、行くわよ。SSSランク依頼を完遂するのよ!」
「それ、俺らを厄介払いするためのていのいいお題目ですけどね~」
「いいの! 冒険者ギルドのギルド長から直々に受けた依頼なんだから正式なモノよ! 世のどんな冒険者も受けたことがない、前人未到の高難易度クエストよ!」
「おまえ、本当に今回はエンジョイしてるよねー……」
「フフ~ン、ギルド長から前払いで報酬もいただいちゃったし、やらなきゃ!」
えっ、いつの間にそんなものを!?
「それじゃあ、みんな、そろそろいいわよね! 行くわよ!」
「は、はいぃ~……」
『了解ですわい、ミフユ様!』
俺達は魔法で空に上がって、丘の上から魔王城跡地を目指す。
さぁ~て、何が待ち構えているのやら……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
期待とは裏腹に、クレーターには何もなかった。
「あれぇ~? おかしいわねぇ……」
ミフユが眉根を寄せて辺りを見回すが、そこに見えるのはまっさらな地面だけ。
それにしても、綺麗なモンだ。魔法に抉られた地面は非常に滑らかだ。
「何もないな……」
俺もミフユと一緒になって探すが、本当に何もない。
今は、クレーターの底に降り立っているが、やはり見えるのは地面のみだ。
そのクセ、奇妙な気配はやはりここにある。
何というか非常に気持ち悪い。ここに何かがあるはずなのに、ここには何もない。
ふ~む……。
「マリク、おまえはどうおも――」
俺がマリクの意見を聞こうと振り向くと、あいつは屈みこんでいた。
何をしようとしてるのか。俺は覗き込む。マリクは地面に金属符を置いていた。
「あ、もしかしてッ!」
その可能性に思い至った瞬間、場が『異階化』する。
そして、誰もいなかったその場所に、いきなり四つの人影が出現する。
『ぬぅ!?』
『何者だ、貴様ら……!』
頭に直接響いてくるような声。人間のものではない。――つまり、魔族!
「ゃ、やっぱり、異空間に、隠れてた……」
「わぁ~、さすがはマリクだわ! はい、いい子いい子!」
「ぇ、えへへ……」
う~む、ほめて伸ばす教育方針をどこでも実践する母親の鑑。……ではなく、
「やいコラァ! おまえらが魔王か、オイ!」
俺はガルさんを手に、その場に表れた四人に向かって指を突きつける。
すると、真っ赤な鱗に包まれた巨大な竜人が、背の翼を開いて威嚇してくる。
『貴様ら如きガキが、我らが王を呼び捨てとは不敬な! 焼き殺すぞ、コラァ!』
「ぅ、わぁぁ……」
竜人が見せる迫力に、マリクが怯えて尻もちをつく。
しかしこいつ、キャンプのときのドラガに似てるなぁ。こっちの方が強そうだが。
「そっかぁ~、魔王じゃないのかぁ~、期待外れね~……」
ガックリと肩を落とすミフユに、四人は一斉にムッとなる。
わ、わかりやすい連中だな……。
『貴様、小娘! 我ら魔王軍四天王を愚弄するか!』
と、体が蒼い半魚人みたいなヤツが叫ぶ。
『フフフ、僕達をバカにしたこと、後悔することになるよ? ヒョロロ~』
と、体が緑で細くてエルフみたいなヤツが横笛を吹く。
『……オデ、オマエタチ、コロス』
と、全身メタリックで一番デカいゴーレムみたいなヤツが片言で言う。
「う~ん、実に四天王!」
一見してわかる、見事なまでの地水火風四大属性揃い踏み。
これはあれですね、四天王の五人目として闇属性か光属性がいるパターンと見た!
「え~! 四天王! あんた達、魔王軍四天王なのォ!?」
そしてミフユが大層仰天する。
その反応に、絶対に火の四天王であろう赤竜人が、グフフと含み笑いをする。
『生意気なクソガキとはいえ、やはり我らを前にすれば恐れおののくか』
何やら腕組みして得意げだが、すいません、そういうんじゃないんです。
「見て、アキラ! 魔王軍四天王よ、魔王軍四天王! やっぱり思った通り、魔王がいるなら魔王軍四天王もいると思ってたわー! あ、写真撮っちゃお! パシャ!」
おまえら四天王、珍獣扱いです。
どっかの湖にいる謎の恐竜っぽい○○ッシー、みたいな感じの。
『ォ、オオオ、おのれ小娘! 我らを見世物扱いするかぁ!』
水の四天王な半魚人が顔色を紫にする。
ああ、地肌が青くて怒りで赤く染まっての紫かー……。わかりにくいなぁ!?
『ヒュロロ~。落ち着きなよ、水の。それよりも、ヒョロロ~。僕達にはやらなきゃいけないことが、ピュロロロ~。あるだろう? ピ~ヒョロロ~』
笛吹くか喋るか、どっちかにしてくんねーかな、風の。
『む、そ、そうであったな……』
『魔王城、コワシタヤツ、見ツケル』
ははぁ~ん、なるほど。四天王が『異階』に隠れてたのは、様子見のためか。
魔王城をオシャカにした犯人がクレーターに来るのを待ち構えてたんだ。
『コラ、ガキ共ォ! 魔王城を破壊したヤツはどこだ! 貴様らの仲間だろう!』
「仲間というか……」
「どこにいるというか……」
火の四天王に凄まれて、俺とミフユはマリクの方を見る。
それに合わせて火の四天王もマリクを見る。そして、他の四天王も。
『まさか、あのガキが?』
「ぅ、ぅぅ……」
怯えるマリクの姿に、四天王全員が一瞬ポカンとなって、直後
『『『ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』』』
揃って大爆笑よ。地のデカブツも一緒になって。
『こんなヘタレに魔王城が壊せるか、ボケがァ!』
『嘘をつくなら、もう少しマシな嘘をつけ!』
『子供は正直でなくちゃいけないよ? ピヒョロロロロ~』
火、水、風の四天王が立て続けに言ってくるワケですよ。ヘラヘラ笑いながら。
その瞬間ね、ちょっとね、俺とミフユがね……、
「「あ?」」
と、キレちゃったワケだ、これが。いやぁ、もう、アハハ。殺すわ。ブチ殺すわ。
「ミフユ、おまえどれ行く?」
「できればわたしが全員殺してやりたいけど、そうね……」
俺とミフユが額に青筋浮かべつつ打ち合わせをする。
だがそこに、トンと背中を叩く誰かの手。
「……マリク?」
そこには、愛用の魔導書を抱きしめたマリクが、半泣きになりながら立っていた。
「み、みんなで、やりたいです……」
「マリク、おまえ……」
震えながらも、マリクは自分の意見をちゃんと主張する。
引っ込み思案で内気だが、こいつは家族にならちゃんと自分の考えを言えるのだ。
「みんなでやるのもいいけど、それだと一人余らない?」
「ぃ。ぃえ、そっちのみんなじゃなくて……」
ミフユにそう返し、マリクが抱く魔導書が、強い輝きを帯び始める。
そして足元に広がる青白い魔力光。それが描く魔法陣は、俺も見覚えがあるもの。
「まさか、マリク。おまえが言うみんなって――」
「は、はぃ、《《ここに喚びます》》!」
し、召喚魔法だァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!
「――参陣せよッ!」
マリクの叫びと共に、召喚の魔法陣から光が溢れる。
俺とミフユは目を閉じて、そして光が刹那に消えたのち、ゆっくり目を開ける。
魔法陣の真ん中に、抱きしめ合ってるケントとタマキがいた。
う、うわぁ……。タイミングゥ……。
「……え?」
「……あ、あれ?」
しばし、抱擁に浸っていた二人が、状況の変化に気づいて周りに目をやる。
そして硬直。そして驚愕。そして顔面蒼白。そして、絶叫。
「「わあああああああああああああああああああああああああああ!?」」
「ご、ごめんなさいィィィィィィィィィ~~~~!」
飛び退き、離れるケントとタマキに、マリクが超速でごめんなさいをする。
「な、な、何? 何だこれ! あ、あれ、団長に女将さん!?」
「うわわわわわ、一体なんだよぉ! って、お、おまえ、もしかしてマリクか!」
こっちを見るケントと、マリクに気づくタマキ。
とりあえずあれだね、この状況で俺達がすることは一つだね。
「ケントォ~、タマキと上手くいってるようじゃ~ん。よかったねぇ~!」
「それでケント、どこまで行ったの? 手は繋いだ? おでこキスくらいはした?」
親として、娘の交際についてちゃんと知っておかないとな~!
「あんたらはまず先に謝るという行為の必要性を知れよ!?」
それはマリクがしたことだから、俺達に責任はないので~、俺、悪くないし~。
「へぇ~、マリクも『出戻り』してたんだ~! それにしてもちっこいな!」
「ぅぅ、ぉ、タマキお姉さんがおっきぃだけで……」
そして、タマキに抱きしめられて、マリクが窒息しそうになっておるわ。
「しかし、一体全体何なんすか? 変なトコに召喚されたみたいですけど……」
辺りを見回し、俺達に尋ねてくるケント。直後にタマキが四天王を指さし、
「なーなー! 何あいつら、スゲー四天王って感じなんだけど! ものすごい悪者っぽく見えるから悪いヤツ四天王だな! あいつら、やっつけていいのか!?」
わぁ、目の前のバトルに瞳爛々やんけ、喧嘩屋ガルシアさん。
だがタマキの弾んだ声を聴いて、火の四天王の赤竜人が『ガハハ!』と笑い出す。
『何だ、小娘、貴様! 我らをやっつける? 笑わせるなよ? 我が手にかかれば貴様などは一瞬にして消し炭となるだけよ! グハハハハハハハハ!』
あ、バカ。
「……今、何て言った?」
ケントの顔から、一切の表情が消える。
あ~ぁ、おバカさん。よりによってその地雷を踏み抜いちゃうのか~……。
「対魔王軍四天王の一戦目、決まっちゃったわね……」
ミフユも諦め調子でそんなことを呟く。
まぁ、この場合は地雷を踏む方が悪いってことで、俺達は観戦よ~!
「おまえ、今、タマちゃんを殺すって言ったよな?」
って、呼び方変わってるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――ッ!?