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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第七章 アキラとミフユの別異世界殲滅紀行
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第144話 魔王城に到着しました。殺す!

 パ。


「つ、着きましたぁ~……」


 はい、到着しました。

 こちらの異世界の西の果て、魔王軍勢力圏最奥部――、つまり魔王城だッ!


「さすがはマリクね。距離制限なしの転移魔法を使えるのは、ウチであんただけだもんね。さすがだわ~、すごいわよマリク、天才ね。うん、いい子いい子」

「ぇ、えへへ……」


 恐縮するマリクの頭を、ミフユが優しく撫でる。

 マリクは褒めてこそ伸びる子。それが一貫したミフユの考えだ。俺もそう思う。

 ただなぁ……、


「さすがに魔力使いすぎだろ、マリク」


 今のマリク、全身汗だくなんよね。

 転移魔法ってのは、それだけでも大量の魔力を消費する。


 それに加えて、転移先の距離が遠くなればなるだけ、消費魔力量も増す。

 ゲームのように自由自在にワープ、とはいかんのだよ、現実は。


「ぇ、ぼくはまだ、大丈夫……、ぜぇ、はぁ……」


 俺はマリクの頭をペチンと叩いた。


「痛ァい!?」

「息乱してる時点で疲れてるの丸わかりなんだから、無理するな。OK?」

「は、はぃぃ……、無理しません……」


 ったく、こいつはよー。

 マリクは、実は体がかなり弱い。


 虚弱体質というほどではないのだが、体力が低いし、疲れやすい体質だ。

 魔法に関して天賦の才を持っているのだが、その割に体内の魔力量も高くはない。


 ある意味で、タマキとは正反対のフィジカル貧乏だ。

 まぁ、だからこそ、一人で頑張るとし過ぎるんだろうけどな。


「今までは一人だったかもだけど、今は俺達がついてる。あっちの世界に帰れば、家族もいる。一人で頑張ろうとするな。みんなが、おまえを支えてくれる。……な?」

「…………ぁぃ」


 俺がそう諭すと、マリクはグスッと鼻を啜る。

 こりゃ、帰ったらみんなでどっか遊び行くかね。マリクも連れていって。


「さぁ~て、あれが魔王城ね~」


 一方で、こちらはウキウキのミフユ。

 高台になっているここからは、魔王軍の本拠地である魔王城が非常によく見える。


「……すごいわね、アレ」

「……ああ、すごいな、アレ」


 共に魔王城を眺める俺とミフユが、全く同じ感想を抱く。

 そこにあるのは、まさしく誰もが想像するであろう『魔王城』だった。


 峻険たる山々の真ん中にデデンとそびえる巨大な漆黒の城。

 尖っている。ものすごく尖っている。そしてトゲトゲしている。禍々しいほどに。


 あと、何かモンスターっぽい彫像が色んな場所に配置されてる。

 多分あれ、動くよね。近づくと動くたぐいのやつだよね。俺、知ってるよ。


 しかも無駄に建物が多い。

 尖塔も十本以上あるし、内部、どんな造りになってるんだ、アレは……。


 背景は黒雲で、しかも雷がゴロゴロしておる。

 その辺りの演出も含めて、実に魔王城。丁寧なまでにテンプレを踏襲しておる。


「きっとあのお城の中には無数のモンスターが跋扈しているのよ。そして内部は一度入って生きて戻った者はいない死のダンジョンがあって、最上階の玉座の間に続く大扉は封印が施されていて、その封印を解くためには城内四カ所に陣取っている地水火風を司る最高位の魔族、魔王軍四天王をそれぞれ倒して封印を解くためのカギを手に入れないとダメなのよ! そして、封印を解いた先、長く真っすぐな通路を越えた場所でついに魔王と対峙するのよ。今こそ、長きに渡る因縁の決着のときだわ!」

「初対面ですらない魔王との長きにわたる因縁とは何ですか?」


 素直に疑問を覚えてしまったよ、俺は。

 でも、ダンジョンにはなってるっぽいんだよなー、あの外観を見るに……。


「どう思うよ~、マリク」

「ぇ、ぇと……、多分ですけど、トラップ、だと思います」


 ああ、やっぱりか。

 あそこに見える魔王城自体が巨大な一個のトラップになってるワケだ。

 おそらくは、入った者が出られなくなる異空間系の罠だろうな。


「え~、何よそれ~! 魔王軍四天王とのバトルはどうなるのよ~! 魔王の玉座の間に通じる門を開けるための、四つの鍵は~? 魔王との因縁は~?」

「ぜ~んぶ、脳内設定ですよねぇ! 世界はおまえのものじゃないんだよ!」


 俺がそう叱ると、ミフユは途端に唇を尖らせて「何よ~!」とブーたれる。

 その顔は可愛いし、何ならその設定もなかなか面白いと思う。だが脳内設定だッ!


「じゃあ、どうするのよ~。あの城がトラップなら、魔王はどこにいるのよ~」

「地下。もしくは魔界から攻めてきたらしいし、異空間じゃね?」


 まぁ、どっちにしろあそこにある魔王城は見せ札ですね、間違いなく。

 で、これからどうするか、ってところなんだよなー。


 あの城に向かったところで、ほぼ確実に魔王とは御対面叶いません。

 ふ~む、そうすると――、消し飛ばすか、あの城。


「ガルさん、ちょっと増幅器(ブースター)やってくれね?」

『ぬ? ああ、あの城を吹き飛ばすのか?』


「ああ、それが一番手っ取り早かろ。消し飛ばして、相手の出方を見よう」

「え~!? わ、わたしのラストダンジョン探索はどうなるのよ~!」

「黙りなさい」


 ええい、すっかり『なれらぁ系』に毒されおってからに!


「ぁ、あの……」


 と、そこで、マリクが控えめに挙手をする。

 何か提案でしょうかね、我が次男坊。


「はい、マリク君。どうぞ」

「ぼ、ぼく、あれをやりたい、です……」


「あれ、とは?」

「……く、四柱法(クワドラブル)です」


 ――おお! なるほど、それはいいなぁ! 確かにそれがあったな!


「いいわね。せっかくの機会だし、久々にやりましょうか」

「ああ、ガルさんも加われば、四人の術者で成立するしな~」

『フフン、俺様はもちろん、構わんぞ!』


 こうしてマリクの提案によってやることは決まった。

 そしたらいっちょ、バーンズ家と親戚の鉈のおじさんの絆を見せてやりますか。


「よし、じゃあ俺達三人が手を繋いで、ガルさんはその輪の真ん中に配置だ」

「は~い、マリクを手を繋ぐの、久しぶりね」

「ぅ、うん。久しぶり、嬉しいです、お母さん……」


 俺とミフユとマリクは、三人で手を繋いでその場に三角形を作る。

 そして、その三角形の真ん中にガルさんがフワリと浮く。


 これで準備は完了。

 俺達がこれから行う『四柱法』はいわゆる協力魔法。合体攻撃とかのたぐい。

 本来は四人の術者が手を繋いで行うのだが、今回は一人が鉈なので、それは無理。


「よし、やるぞ。全員、魔力のコントロールはマリクに預けろ」


 俺はそう告げて、手を繋いだ状態で魔力の放出に意識を割く。

 それはミフユもガルさんも同じで、全員の魔力がマリクの方へと集まっていく。


 マリクは、魔力量は並より少し上程度。

 そのくらいの魔力なら、俺達の異世界では探せばすぐに見つかる。

 ウチでは全く魔法を使えないタマキですら、魔力量ならマリクよりも上だ。


 だが、それでもバーンズ家で魔法といえばマリク。

 それは、家族の誰もが認める事実だ。

 その理由は、他の誰も真似できないレベルの、圧倒的に精緻な魔力操作技術。


 端的にいえば『魔法の腕前』そのものが、家族の誰よりも突出しているからだ。

 今だって、集められた大量の魔力を、微塵も零すことなく操作している。


 その精度は、俺からしても別次元としか思えない、戦慄するほどのもの。

 ただ集められただけではない、それをまとめて、糸をよるように相乗させていく。


 そうすることで四人の魔力は相互に干渉し、興味し合って、力を増していく。

 これから放たれる魔法の威力は、きっと俺達の想像を絶する。

 それだけは確信できる。


「……ぃ、いきます」


 やがて、魔力を一点に集束させたマリクが、空を見上げた。

 そこには分厚い黒雲。時折雷光が光るそこへと、今、魔力が解き放たれた。

 黒雲に大穴が空き、その向こう側に、鮮やかな青い空が覗く。そして、


「ブッ潰れろォォォォォォォォォォォォォォ――――ッ!」


 振り向いた先で、一筋の黒い流星が魔王城へと落ちていく。

 あれこそは、マリクが俺達の魔力を使って放った――、超重力崩壊魔法。


 俺達が見ている先で、魔王城が漆黒のドームに包まれる。

 その内部では、魔力によって発生した仮想質量が魔王城に強烈な負荷をかける。


 原理でいえば水圧に近いそれだが、かかる圧はその数万倍、数億倍に達する。

 そんな圧力に耐えきれる物体は普通には存在しない。

 だがあそこは魔王城、対物理、対魔力の備えくらいはしているだろうが――、


「ぁ、ま、魔力的な防衛機構は全て無視できるよう、術式編んでるから……」


 そう、ウチの子、天才なんです!

 え、何? 対物理、対魔力の備えですって? 意味ないんだわー! ガハハハッ!


 チュドォ~~~~~~~~~~~~~~~~ンッ!


 あ、魔王城爆発した。

 今のは、超重力によって発生した空間の歪みが元に戻る際の爆発。


 つまりは、魔法の効果が終了したことを示す合図だ。

 そして、魔王城は消滅し、あとに残ったのは大きく抉れたクレーター。


 いや~、実に壮観。俺達だけじゃ一撃でこの威力は絶対に出せない。 

 さすがは『大賢者にして大司祭』。魔法の腕前は天下一品だ。


「よ~し、少し休んだら現地に飛んでみますか~」

「そうねぇ~。マリクも疲れたでしょ?」


「ぇ、ぁ、ぼ、ぼくは……」

『我慢するでないわ、マリク。汗だくではないか。休め休め』

「は、はいぃ~……」


 う~む、何て立派な親戚のおじさん!


「ついでにお昼もここで食べちゃわない? ちょっとしたピクニック気分ね~!」


 言いつつ、ミフユが収納空間から取り出したレジャーシートを広げる。


「待って、昼飯は? ここに来るまでに何も買ってないだろ?」

「あるじゃない。ほら、グーパー」

「ああ!」


 俺はポンと手を打つ。そういえばありましたねぇ、アレ!

 よく覚えてたな~、ミフユ。俺はすっかり忘れてたわ、二人のときのヤツ。


「ぇ、な、何があるのかな……?」

「それがさ~、ミフユのヤツさぁ~……」

「ちょっと! 詳しい説明はいらないから、さっさと出してよ! 笑えないのよ!」


 説明しようとする俺を、ミフユが必死に阻んでくる。笑うわ。

 丘の向こう側、魔王城があったところにできた大型クレーターを眺めつつ、


「……ぇえ、そ、そんなことが~」

「アキラッ! 何で言っちゃうのよォ~~~~!?」


 とても平和でのどかなランチタイムを過ごしたのだった。

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