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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第七章 アキラとミフユの別異世界殲滅紀行
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第141話 王城壊滅。魔王軍、関係なし!

 俺の恨みを買った以上、この場にいる全員、命の花を散らしてもらうぜ!

 と、勢いに乗った俺は考えてたんだが――、


「花で思い出した」


 ふと、我に返る。


「ガルさん、ミフユ、ちょいタンマ」

『どうした』

「何よ?」


 俺はミフユに近づいて、チラリとマリクの方を横目に一瞥。


「あのさ、マリクの方が先じゃね?」

『「あ~!」』


 魔剣の形した親戚のおじさんと母親、揃って声をあげ、納得。


「そうよ、そうだわ。絶対ヤバいわよ! すぐガス抜きしないと!」

『早くしろ、早くするのだ、我が主!』


 そして、揃って慌て出す。

 この時点で、バーンズ家におけるマリクの立ち位置が少し垣間見えるの、笑うわ。


「わかってる、わかってるって。お~い、マリク~!」

「は、はいぃ! 何ですか、お父さん~!」


「あのな、《《好きにやっていいぞ》》!」

「え……!」


 マリクが、俺の言葉に驚きの表情を浮かべる。

 その近くにいた国王が、歯軋りをして俺達に向かって怒声を響かせた。


「おのれ、異界の蛮族! 我らに楯突くだけでなく、賢者殿をもたぶらか――」

「やったァァァァァァァァァァァ――――ッ!」


 だが残念、国王の声、マリクのデカ喜びに掻き消されて上書き!

 そして、諸手を挙げるウチの次男の右手には、いつの間にか握られている赤い骨。


 それは、人でいう大腿骨で、長く、太く、血のように真っ赤だ。

 実はこれこそ、マリクの異面体(スキュラ)。名を『篩嬌骨(フルイキョウコツ)』という。


「やったやったやったやった! やったやったやったやったやった! やったやったやったやったやった! やったやったやったやったやったァァァァァ――――ッ!」

「け、賢者殿……?」


 赤い骨を振り回し、飛び跳ね喜ぶマリクを前に、国王はたじろぐしかなかった。

 そして、国王の野郎は気づいていない。

 マリクの握る骨から、キラキラと七色の光が放たれ始めていることに。


「始まるわね~」

『始まるわいの~』


 フルイキョウコツ発動の前兆を見て、ミフユとガルさんが趣深い声を出す。

 俺も同じ気分で次男を眺めつつ、呟いた。


「さて、今回は、《《何のコスプレかな》》?」


 真っ赤な骨が放つ輝きが、いよいよ強くなってくる。


「マジカルシュラバルウワキショウ! ラブリーアイジンナイヨウショウメー!」


 突然始まる、マリクの詠唱。……詠唱? ……まぁ、詠唱。

 輝けるフルイキョウコツを振り回し、その場に七色の光の軌跡を残し、躍り回る。


「慕情・純情・愛情・訴状! 無情に炎上・下剋上――!」


 なるほど、今回のコスプレは――、


「魔法少女少年マジカル・ハニートラップ! 見るも無残にここに見参~!」


 ピンクのフリルマシマシドレスな魔法少女かー……。


「キラリ~ン★」


 と、確かに自らの言う通り、それはそれは、見るも無残な登場だった。

 場にいる俺達以外の全員が完全に呆気に取られている。ポッカ~ン、みたいな!


「あれれぇ~? どうしたのかなぁ~? みんな何で静かなのかな~? ハニートラップと一緒に『キラリ~ン★』しよ? そぉ~れ、キラリ~ン★」


 身振り手振りに、声までブリッ子。見ているこっちが痛々しい、今のマリク。

 だけど、実はあれでまだまだマシな方。というのも――、


「「「…………」」」

「『キラリ~ン★』しろっつってんだろうがよォ~~~~!」


 ほら、キレた!

 コスプレしたマリクはヤベェんだって、バーンズ家の炸裂地雷代表なんだって!


「あ~~~~! 人がせっかく可愛くキラキラしてやってんのに、何だテメェら! あ? あァ!? こんなに可愛いぼくがキラキラしてるのに無反応? 無反応!? うわぁ、信じられない! こいつら人間じゃない! 人類じゃない! モンスターです、はい、モンスター決定です! この決定は覆りません! ならば殲滅だァ~!」


 魔法のステッキ代わりに血の色の大腿骨を振り回して、マリクが叫ぶ。吼える。

 普段はね、内気で気弱だけど、優しい子なんだよ。兎みたいな感じで。


 でもね、人一倍ストレスに弱くてね、しかも、抱え込んじゃう子なんだ。

 だから異面体を使って変身すると、その反動でああなる。触れたら爆ぜる子に。


「YES・ハートキャッチセールス! ハニートラップ!」


 ポーズと共に、掲げたフルイキョウコツの先端から目に痛いピンク光が溢れる。


「輝け、マジカルラブリー必滅召喚・ブリリアントお花畑インフェルノ!」


 うわぁ、とんでもねぇネーミング。

 これは効果もヤバイぞー、ブチギレマリクの真骨頂が見れちゃうぞー!


「ぉぉ……」


 固まっているばかりだった貴族達が、思わず声をあげる。

 ピンクの光輝が迸り、それが収まったのち、彼らが目にしたものは、百花繚乱。


 冷たい石造りの謁見の間に、色とりどりの花が咲き乱れている。

 赤、青、黄色、緑、ピンク他、様々な色、様々な形、様々な花と、様々な花。


 それが幻でないことは、甘く香る蜜の匂いが教えてくれる。

 そしてこの時点で、俺はガルさんを掴み、ミフユと共に飛翔の魔法で浮いていた。

 風の魔法で気流を発生させ、自分達の周りにそれを展開しておく。


「花……」


 場が場だというのに、景色に見とれたバカ貴族の一人が花に近づいていく。

 熱に浮かされたような顔をして、その貴族は屈んで近くの花に手を伸ばす。


「アハハ、キラリ~ン★」


 それをせせら笑う、マリクの声。

 そして、伸ばされた貴族の指先に小さく芽が顔を出す。


「……ぇ――」


 気づいたときにはもう遅い。

 芽は一気に数を増やし、そして生長していった。

 貴族の全身に、無数の花が咲いていく。


「ぅ、ぅあ! くぁぁぁぁぁぁあああああああああッ! あああああああああ!」


 絶叫するその口の中に、大きく見開かれたその瞳に、芽が吹き、育ち、花が咲く。

 貴族の体を苗床に、貴族の命を養分にして、床と同じ無数の花が咲き誇った。


「ぁぁ……」


 引きつり切った小さな声が、その貴族の末期の一声。

 そして、同じ現象が他の場にいる全員へと急速に広がっていく。


「いやぁ! は、花が、花が体に広がって……ッ!」

「うああああああ! ぬ、抜いても抜いても、花が、うあああああああああ!」

「ぃやだぁ、か、体から力が抜け、やだ、こんな、花に、喰われ……ッ!」


 もはや、謁見の間は阿鼻叫喚の地獄絵図。

 暴れ回る貴族や兵士達により、花弁が派手に空中に舞い上がっている。


 だが、これがヤバイ。

 俺達が気流の結界を張ったのも、花弁や花蜜の匂いを近づけさせないためだ。

 それらには、人を侵食する魔力が宿っている。触れれば、花に喰われる。


「アッハハハハハハハハハハハハハハ! あ~、お花綺麗だな~! いい匂いだな~! 可愛いな~! こんなお花に囲まれて、幸せだよなぁ、モンスター共! アハハハハハハハ! これは、モンスター退治です! だからぼくは何も悪いことはしていません! いいことしかしてないで~す! だって今のぼくは、魔法少女少年マジカル・ハニートラップなんだから! アハハハハハハハハハハハ! キラリ~ン★」


 周りの多数が花に喰われていくのを目にしながら、マリクが大爆笑している。

 その様子を上から見下ろし、ミフユがしみじみ言ってきた。


「アキラの激しい部分を一番受け継いでるのって、あの子よね」

『じゃわいの~』


 困った。

 返す言葉が見つからない。

 と、そうだ、


「マリクー、国王だけは残しておけよー。情報搾るから」

「あ、お父さん。は~い! わかりました~!」


 あれだけブチギレマリクしておいて、俺達との会話は普通に成立するんよね。

 ま、ストレス発散は大事。やられたらやり返しすぎなくちゃね。


 あと、別にマリクは素で頭がおかしいワケじゃないよ。

 あのブチギレマリクは異面体の影響が強い。


 マリクの異面体が司るのは『屈折』。使うと、自己の歪みが表に出やすくなる。

 わかりやすく言うと、ストレス発散専用はっちゃけ異面体ってコトだァ!


「わ、私の国が……」


 次々に花に喰われていく貴族や兵士を前に、ただ一人無事な国王が膝を折る。

 やがて、場にいる国王と俺達以外の全員が花畑に呑まれ、宴は終わった。


 全員、花に養分を吸い取られ、息絶えた。

 全員、花畑の一部と化すことで、人であることをやめさせられた。


「ああ、スッキリしたァ~~ッ!」


 そして、それをやった張本人は、ツヤッツヤの満面笑顔でそんなことをのたまう。

 室内なのに風が吹き、花が煽られ散っていく。

 そしてまさに文字通りの花吹雪が謁見の間を荒れ狂い、虚空に溶けていった。


 残されたのは、俺達三人と国王のみだった。

 よ~し、ここからは楽しい楽しい尋問の時間だァ~~~~!


「さて、国王陛下。俺らが帰る手段、教えてくれよ」


 床に降り立った俺が、ガルさんを突きつけて国王に問いただす。

 すると、国王は怒りに顔を赤く染め、その大柄な身をわななかせて、


「ふざけるな、異界の蛮族共! よくも、よくも我が愛する民――」


 ザンッ!

 右腕を切り飛ばした。


「ぐひッ!?」


 肘から先がなくなった自分の腕を見て、国王が顔面を驚愕に歪ませる。

 響き渡る悲鳴。左手で右腕を押さえ、国王はその場にうずくまって身を丸めた。


「国王陛下。俺らが帰る手段、教えてくれよ」


 魔法に長じるマリクがまだいるってことは、ただじゃ帰れないってことだ。

 何か、特別な方法があるに違いない。それを教えてもらわないとなぁ。


「の、の、呪われろ、異界の蛮族共……、き、貴様らなど、貴様らなどに……!」

「国王陛下」


 俺達に丸めた背中を見せる国王の、そのうなじに俺はガルさんの切っ先を当てる。


「感じてるよな、首の後ろに当てられたものを。俺がこれをもう少しだけ押し込めば、あんたは死ぬ。どうしようもなく、死ぬ。一国の王のあんたが、だ」

「ぅ、ひ、ひぃ……!」


 顔は見えないが、国王は丸めた身を激しく強張らせた。

 さすがに、死ぬのは怖いと見える。しかし、


「し、死など恐れぬ。蛮族共に屈する、余では、ない……!」

「おお、なるほど。さすがだー。国王陛下のお覚悟、確かに見せてもらったぜ~」


 ま、いいんだけどね、別にこの場で吐かせないでも。

 だってさ――、


「頼むわ、ミフユ」

「はいはい。おいで、NULL」


 ミフユのNULLにちょいと自白剤を合成してもらえば済む話なんだから。


「国王陛下におかれましては、さっさと吐きやがれあそばせ♪」


 ちょっとミフユも楽しそうなの、気のせいかな?



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ――最悪です。


「魔王倒さなきゃ帰れないとか、何なんだよォ――――ッ!」


 国王に自白させた結果、変える方法は存在することが分かった。

 ま、召喚魔法が存在するなら、送還だってできるはず。


 しかし、今現在、この世界は魔王が張った結界に包まれているとのこと。

 そのせいで、この世界に来ることはできても出ることはできないんだってさ。


 何それ、めんどくっせぇなぁ!

 こちとら、瀕死の8月を救って夏休み延長プロジェクトの真っ最中だったのに!


「フフ~、こういうのもちょっと新鮮かもね」

「おまえねぇ、何でそんな楽しそうなの……?」

「うぅ、ま、またやっちゃった、ぼ、ぼくのバカ……!」


 というワケで、俺達は誰もいなくなった城を出て、最寄りの街を目指す。

 国王はもちろん殺した。今回、俺が何もしてないから、マガツラで殴り潰したよ。


「ねぇねぇ、冒険者になっちゃうのかしら、これから!」

「ホントーに楽しそーですねー、ミフユさんはよー!」


「前に見た『なれらぁ系』のアニメが面白かったんだも~ん!」

「知らんがな!」

「ぅぅぅぅ~、ぼ、ぼくは何てことをォ~」


 親子三人+魔剣の形をした親戚のおじさん一振りの珍道中、は~じま~るよ~!

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