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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
幕間の幕間 三組三様、恋模様

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第139話 タクマ・バーンズとシイナ・バーンズの場合

 真理恵さん。真理恵さァ――――んッ!

 直前でドタキャンなんてひどいですよォ~~~~ッ!


「……って、言っても仕方がないんですけどねぇ~」


 はい、何せ真理恵さんはおまわりさんです。

 そりゃあ忙しいでしょう。たまの休日だって潰れちゃうでしょう。かわいそう。


 そんなワケで、どうも。

 とても一般的な占い師のミスティック・しいなことシイナ・バーンズです。


 本日、8月30日、夜です。

 今日は本来であれば、念願叶って菅谷真理恵さんとサシ飲み会でした。

 ところがその予定はなくなりました。一分前のことです。


 おまわりさんは大変です。

 私は善良な一般市民なのでおまわりさんへの協力も欠かしません。


 次回のサシ飲みは、真理恵さんに一杯目を奢ってもらうことで手を打ちました。

 フフフ、高いお酒を頼んでやりますよ。ええ、大吟醸とかそういうの。


 しかしながら、これからどうしましょうか。

 ぶっちゃけ何も考えてません。

 駅まで出てきているので、どこかで何か食べていこうかな。


 う~ん、こういうとき独り身はいいですね。

 選択肢が無限に存在します。今の私は世界で最も自由な存在。至高にして最高!


「…………寂しい」


 8月の終わり。まだまだ気温は高く、夜でも空気が生ぬるいです。

 そんな中を一人、空気よりも生ぬるい気持ちで歩く。そんな私は孤独です。


 どうしましょう、宙ぶらりんです。

 もう、完全に女子会な気分でいたのに、投げっぱなしにされました。

 真理恵さんが悪いんじゃなくて、犯罪大国日本が悪いんですけど。


 ……それはさすがにイチャモンかな。


 しかし、このまま帰るのはさすがに敗北者すぎます。

 おめかしして出てきた意味がありません。せめて食事はしていきましょう。


 でも、どこで?

 ちょっと、ここから行けそうな場所を考えてみましょう。


 ファミレス――、この時間は絶対満杯で無理。

 一人居酒屋――、ボッチであることを衆生に晒せというのですか。

 一人焼肉屋――、ボッチであることを衆生に以下同文。

 一人その他――、ボッチであることを以下同文。


「どうしましょう、選択肢がありません……!」


 選択の余地がないという意味ではなく、言葉通りに選択できるものがない!

 こうなったら新規開拓と割り切って、近くの穴場っぽい食堂でも探しましょうか。

 なんて思っていたら――、


「ねぇねぇ、そこのお姉さん、一人? 俺らと遊ばない?」

「ひぇっ!」


 お、おおお、男の人に声をかけられてしまいました!

 しかも一人じゃなく、三人。皆さん、背が高くてゴツくて、髪もキラキラです。


「あ、何々、可愛いじゃん!」

「へぇ、いいね。おめかししてるのに一人? 彼氏にすっぽかされた? ひでー」


 あ、あ、あ、ああああああ~、あっという間に三方を囲まれてしまいました!

 しかも三人共背が高いので、私からすると壁です、壁。怖ぁい!


「あ、あの、えっと……」


 迫りくるパリピウォールに圧倒されて、私はカタカタ震え出してしまいます。

 ぜ、絶対に目を合わせたらいけません。

 私の陰キャ魂がパリピに吸われてエナジードレインです。死ねます。


「オイオイ、そんな怖がんないでよ、お姉さん。俺ら優しいからさ、ね?」

「そうだぜ~? こんな時間に一人じゃ、怖いお兄さんに狙われちゃうかもよ~?」

「え、自己紹介ですか?」


 あまりにブーメランな言葉だったので、そう言ってしまいました。


「はぁ? 何言ってんの、俺らの何が怖いって?」


 そしたらパリピさん達に睨まれました。

 ああああああああああああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいィィィッ!


「よぉ、この女、ちょっと生意気じゃね?」

「そうだな。このまま店連れてって、わからせちまうか?」


 えええええええええええ、私、メスガキじゃないのに『わからせ』ですかァ!?


「おまえ、ちょっと俺達と来いよ」


 男達の一人がそう言って、固まる私の右腕を掴もうとしてきます。


「ぃ、いや……!」


 声を漏らし、身を引こうとしたら背中が何かにぶつかりました。

 まさか、四人目? そんな!

 私は絶望的な気持ちになって、その場に立ち尽くしてしまいます。しかし、


「おめッら、こんなットコで、何やッてんだ?」


 背後から聞こえてきた声は聞き慣れた、独特のイントネーションを持つ声でした。


「えッ、か、片桐さん……!?」

「片桐さんッ、こ、こんばんはっす!」

「どうも、片桐さん、ご無沙汰してますッ!」


 パリピウォールの三人が、いきなり居住まいを正して頭を下げてきました。

 恐る恐る振り向くと、そこには困った顔をしたタクマ君がいました。


「おめッら、ウチの身内にコナッかけんのやめてくんねッか?」

「えぇ、片桐さんのお知り合いだったんすか!?」

「す、すいません! 俺ら、そうとは知らず、とんだご無礼を……!」


 顔を青くするパリピの三人に、タクマ君は「わかッたわかッた」とだけ言います。


「今日ッところは見逃してやッからよ、さッさと散れや」

「「「は、はいィィィィィ~~~~!」」」


 シッシと手を振るタクマ君に、三人は退散していきました。

 そして残ったのは、私の背後に力強く立つタクマ君と、それを見上げる私です。


「ヘヘッ、ッぱ、この見た目ッとマガコー卒はブラフきくッしょ」

「タクマ君……」


 私は、彼に言いました。


「実は結構、いっぱいいっぱいですね?」

「あッたり~、今、メッチャ膝笑ッてるわ~、ぶッちゃけ怖かッた!」


 喧嘩できないクセに大物ぶるからですよ……。

 彼に助けてもらいながら、今さら震えるその姿にクスっと来る私でした。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 結局、居酒屋に入りました。

 フフフフ、一人ならばそこは禁断の地でした。私だけではどうにもなりません。


 しかし、今はタクマ君が一緒です。

 つまりこっちは二人です。二人なら、一人じゃできないこともできる。

 そう、居酒屋に堂々と入るとか、そんなことだって。


 勝った。勝ちました。

 今度という今度こそ私の勝利です。


 すっかりお腹もすきました。

 この空腹こそ、満腹という最後の勝利への前振りに違いありません。


 今の私に、恐れるものなどないのです。

 さぁ、祝杯を挙げましょう。タクマ君と一緒に、勝利の余韻に浸るのです!


 何、飲もうかな。

 ビール? 焼酎? カクテル? ……気分的には強いお酒もありかな!


 ああ、心から無敵な気分。最強の称号は今の私のこと相応しい!

 だって、今の私を脅かすものなんて、もう、世界のどこにもないんですから!


「シイナ、好きだ。俺と付き合ってくれ」


 えええええええええええええええええええええええええええええええええッ!?


 それは、あまりにも不意打ち過ぎました。

 居酒屋に入って、個室に通されて、向かい合って座って、その直後です。


 まだ、メニューも見ていません。

 そんな状況でタクマ君――、いえ、タクマさんは、私に言ってきたのです。


「あ、あの、タクマさん……?」

「…………」


 タクマさんは、無言で私を見つめてきています。

 お酒も飲んでいないのに顔は真っ赤で、そしてすごく真剣な面持ちです。


 さっきのパリピ達のときより、ずっとずっとテンパってるの丸わかりです。

 そんな彼を前に、私はどう答えるべきか少しだけ考えて――、


「タクマさん」


 名を呼ぶと、タクマさんは肩を震わし、瞳を揺らしました。

 そこに私は努めて微笑みを作り、言います。


「まずは、ご飯を食べましょう。タクマさんも、まだ食べてないんでしょう?」

「え、何で知って……」


 と、言いかけたタクマさんのお腹がグゥと鳴りました。

 ほぉ~ら、やっぱり。


「タクマさんはいつも、ご飯の時間が遅かったじゃないですか。お仕事を優先して、自分のことは後回しにしてたでしょ。きっと、今もそうなんですよね?」

「ん、まぁ……」


 私の指摘に、タクマさんは居心地悪そうに視線を泳がせます。

 本当に、この人は、もう……。


「それ、ダメだって異世界(あっち)でも言ったじゃないですか。食事の時間の乱れは、生活リズムの乱れに繋がりますよ。って、何度言っても聞かないんだから」

「いや、悪いって……。俺もさ、仕事にのめり込んじゃう方で……」


「それも知ってます。タクマさんのことなんだから」

「シイナ……」


 タクマさんが、私を見つめてきます。

 そのまなざしに耐えかねて、私は彼にメニューを渡しました。


「はい、これ。さっき助けてもらったお礼です。今日は私が奢ります。好きなものを頼んじゃっていいですよ。お酒もいいですけど、飲み過ぎないでくださいね」

「シイナ、あのよ……」

「お話は食べてからで。お願いしますから……」


 メニューを盾に、彼の顔を見ないようにしながら、私はそれだけ返しました。

 そこからは、二人で食事しました。会話はありませんでした。


 空気が重くなっていることを自覚しながらも、でも、私は何もできませんでした。

 いえ、それどころか、食べた料理の味も、飲んだお酒の味も覚えていません。


 料理を頼んで、それが来たから食べた。

 それが、ここ数十分の全てでした。

 そして、テーブルの上のお皿が全部空になったところで、タクマさんが言います。


「……ダメか?」


 もう、本当にイヤになります。

 この人、最短距離で結論だけをきいてきやがりましたよ。


 私に何の言い訳もさせないつもりですね。

 ああ、本当にもう、完全に胸の内を見透かされてるじゃないですか!


 天を仰ぎたい気持ちになります。

 でもタクマさんは、そんな私の答えをジッと待ってくれています。


 言いたいこと、たくさんあるでしょうに。握った拳、ずっと震えてますよ。

 これはダメです、白旗です。

 私にはもう、逃げ場がありません。タクマさんったら、困った人……。


「――私も、好きです」


 ああ、言ってしまいました。

 好きですよ、ええ。タクマさんのことが好きです。今でも、今までも、ずっと。


 タクマさんの瞳が、小さく見開かれました。

 すぐに喜ばないのは、このあとに私が続ける言葉も察しているからでしょう。

 そういう部分も含めて見透かされてるの、本当にイヤになります。でも言います。


「だけど、付き合えません」

「どうしてだ?」


 そうですよね~、食い下がってきますよね~。納得するはずないですよね~。

 だから私は、これまでも何度も言ってきたことを、彼に言おうとします。


「だって、私とタクマさんは家族――」

「家族じゃないだろ」


 ですが、それは途中で遮られてしまいました。


「ここは日本で、俺は片桐逞で、おまえは山本詩奈だ。家族じゃない。今の俺達は、バーンズ家じゃないんだ。違うか、シイナ? 違うなら、そう言ってくれ……!」

「それは……ッ、……違い、ません。タクマさんの言う通り、です」


 私は声をあげかけて、すぐに勢いをなくしながら、そう返しました。

 タクマさんの言う通りです。ここでの私達は赤の他人。血の繋がりはありません。


「なら……!」

「でも……!」


 お互いに言葉を発して、先に言ったのは、私でした。


「じゃあ、今の私達は家族じゃないんですか? 家族って、血縁だけなんですか?」

「シイナ……」


 声を失う彼に、私は、さらに言葉を重ねていきます。


「私は、タクマさんが好きです。大好きです。愛しています。でも、でも……、同時に家族であるタクマ君のことも、大好きです。お姉ちゃんとして、弟が可愛いです」

「そりゃ、俺だって、シイナ姉のことは家族としても好きだよ……」


 そう、そうなんです。私も彼も、やっぱり家族であることを、忘れられません。

 断ち切れませんし、捨てられません。肉親の情が、どうしてもそこにあるんです。


「あなたは片桐逞で、私は山本詩奈です。でもやっぱり、それと同時にあなたはタクマ・バーンズで、私はシイナ・バーンズなんです。だから付き合えません。家族同士で付き合うなんて、どう考えても『普通』じゃありません……!」

「俺は、それでもいい! それが『普通』じゃないとしても、俺はおまえがいい。シイナが、詩奈が好きなんだよッ! おまえじゃなきゃ、俺は……ッ」


 ああ、ひどい人。タクマさん、本当にひどい人です。

 こんなにも真っすぐに、私のことを好きと言ってくれる。それが、すごく苦しい。


「これ以上は、やめてください。タクマさん……」


 もう、耐えきれそうにありません。

 私は俯いて、タクマさんに深く懇願しました。お願いします、タクマさん。


 彼の顔は、今の私からは見えません。

 でも、息遣いが聞こえてきます。それはとても苦しそうで、胸が激しく痛みます。


「どうしても、ダメなのか。『普通』じゃないことが、そんなに?」

「…………。……他に一つだけ、大きな理由があります」


 これは、言うべきか迷いました。

 でも、タクマさんは納得してくれそうにありません。なら、言うしかありません。


「私――」


 そうやって顔をあげたとき、私が見るタクマさんの姿は、ひどく歪んでいました。

 彼を見たとき初めて、私は自分が泣いていることを自覚しました。


「私は、自分がバーンズ家の一員であることを、呪いたくないんです……」

「それは……ッ」


 タクマさんが、ハッと息を飲みました。

 私の言わんとしていることを、理解してもらえたみたいです。


 これ以上、タクマさんに求められたら、私はきっと最悪な考えに辿り着きます。

 自分は、バーンズ家に生まれるべきではなかった、という思考に。


 それはイヤです。それだけは、絶対にイヤです。

 私を生んでくださった母様。育ててくださった父様。タマキ姉様、シンラ兄様。

 他のみんなだって、私は大好きです。愛しています。


 私みたいな人間を慈しみ、愛してくれた人達を裏切ることだけは、できません。

 だってそれは、私が一番大好きな目の前の彼をも呪うことになるのですから。


 ――それだけは、イヤなんです。


「私達、これまで通り家族でいましょう、《《タクマ君》》」

「……《《シイナ》》」


 ここまで言っても、シイナ姉とは呼んでくれないんですね。本当にひどいなぁ。

 私、今メチャクチャ泣いてますよ。それなのにまだ許してくれないんですか。

 まだ、私のことを好きって言うつもり――、


「……帰ります。お金、ここに置いておきますね」


 私は立ち上がり、お店を出ようとしました。

 すると、タクマ君は私を追ってはきませんでしたが、声を張り上げて、


「次は俺が奢ってやるからよ、また一緒にメシ食おうぜ! シイナ!」


 はい、楽しみにしておきますからね、タクマ君。

 これじゃあ、あの温泉のときと一緒じゃないですか、あ~、涙が止まりません。


 きっと今の私、バケモノですよ。

 お化粧が崩れてひどい有様になってると思います。全部あの聞かん坊のせいです。

 どうして私なんて好きになっちゃうんですか。バカ。嬉しい。でも、バカ。


 ……早く、彼氏を作らなきゃなぁ。

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