第136話 金鐘崎アキラ弾劾裁判、判決!
判決!
「死刑!」
「死刑!」
「死刑!」
「死刑!」
「検察側、弁護側、全会一致により金鐘崎アキラを死刑に処す!」
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?
「控訴、控訴ォ~~~~!」
決まった判決に対し、俺は即座に控訴する。
そして、控訴審が始まるのだが――、開始後三分。
「――判決!」
「死刑!」
「死刑!」
「死刑!」
「死刑!」
「検察側、弁護側、全会一致により金鐘崎アキラを死刑に処す!」
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?
「上告、上告ゥ~~~~!」
決まった判決に対し、俺は即座に上告する。
そして、上告審も始まるのだが――、開始後三十秒。
「もはや本件の真実は火を見るより明らか! よって金鐘崎アキラ、死刑!」
カンッ、カンッ!
「じゃあ、上告を棄却すればよかっただろうがよォォォォォォォォ――――ッ!」
何でわざわざこっちに希望を持たせるようなことしたァ!
上げて落とすよりも『上げようとして落とす』の方がショックデカいんだからな!
「あらぁ、残念だったわねぇ被告人。死刑だって」
「ぐぬぅ……、決まった以上は仕方がない。甘んじて受け入れる」
ミフユに肩を叩かれて、俺は椅子に座った状態で歯噛みする。
「あら、受け入れちゃうんだ、有罪判決?」
「おまえを三週間も放置したのは事実だから……」
そればっかりは、言い訳のしようもない。言い訳するつもりもないけど。
「放置ねぇ……、ちゃんと、手紙は送ってくれてたじゃない」
と、ミフユは言ってくれるのだが――、
「ダメですよ、母様。そんなこと言ったら父様がつけあがりますよ!」
「そうだよ、おママ~。妊娠中は不安定だから~、夫の側がちゃんとしないと~」
娘二人が、容赦なく俺を詰めてくれる。
いっそ、そうしてもらった方が気が楽なのはある。本当に人生屈指の失敗だった。
「ッつかよォ~、ソレッて『美人局』なん? 何ッか、全然そんなことなッくね?」
ずっと外野で話を聞いていたタクマが、そんなことを言ってくる。
まぁ、そうだわな。ここまで話した範囲じゃ、全然『美人局』っぽくはなかろう。
『それはな、タクマ。我が主の無自覚なファインプレイによるものよ』
「どッゆことよ、ガルッさん?」
『話の途中、バルボが我が主を食事に誘ったであろう?』
「ッスね。誘ッてたな~」
『バルボめは、あそこで『我が主が食事の誘いを受けた』という事実から『我が主はラーミュと関係を持った』というところにまで強引にこじつけようとしていたのだ』
「ッとぉ、そりゃ随分無理矢理ッじゃね?」
聞けば、そう思うだろうが、どうやらこれが事実っぽい。
仕返し完了後、俺は現実側のクレヴォス邸を一通り確認し、魔剣などを入手した。
その際、バルボの日記があったので、軽く中身を確認してみた。
そこには、今、ガルさんが言っていた内容がほぼそのまま記載されていた。
「店側に命じて食事に魅了薬仕込んで、俺にそれを食わせて前後不覚の状態にすれば、ラーミュとの既成事実を作ることも容易い。それで、あとはミフユを追い込むだけで別れさせられる。……と、でも考えてたんだろうな」
「随分と、その、見込みが甘くありませんか……?」
シイナがそう指摘する。だが俺はそうは思わない。
こうして聞くと、確かにガバガバでしかないのだが、手段としてはなしではない。
『別れさせられるかどうかはわからぬが、既成事実を作るという点においては、おそらく、我が主が食事に応じてスープなり酒なりに多少でも口をつけていたら、高確率で引っかかっておったよ。実のところ、かなりギリギリだったわい』
「え、そうなんですかッ!?」
実はそうなんです。ガルさんの言う通りなんです。というのも、
「バルボは大商人だけあって道具も最高のモノを揃えてたんだよ。料理に入れる魅了薬も無味無臭、魔力感知不可能なシロモノで、即効性で効き目も抜群だったよ」
何で俺がそこまで知っているかというと、探索時にその魅了薬も回収したから。
のちに試す機会もあったが、とんでもねぇ逸品だった。
どこぞの錬金術師に作らせたものらしいけど、これに幾ら投資したんだか。
「金持ちにしかできないやり方、ですねぇ……」
『まさしくな。しかし、それも我が主の前には形無しになったがのう』
え~? 俺ちゃんと盛装していきましたよ? 全身、愛用の武装でさ!
「なッるほど。噂流しッたり父ちゃんを仕事で縛ッたりして母ちゃんを追い込もッとしたけど不発に終わッたんで『美人局』っぽい手に出よッとしたら、今度は父ちゃんがはッちゃけちまッたワケだ。そのバルボってヤツ、手ェ出す相手間違ッてね?」
「金と力があって、大抵何でも思い通りにしてきたヤツなんて、そんなモンだ」
バルボのヤツは美人局に失敗した時点でも、自分の勝利を疑っていなかった。
千人の異名持ち傭兵という暴力装置が、手元にあったからだろう。
だから、いつまでも自分が俺より上だと錯覚し続けた。
あの食事の席で、それを自覚しないままミフユをディスったのが、運の尽きだ。
それさえなければ、食事はともかく会話くらいは多少できたろうに。
――ま、話したところで末路は変わらんかった気もするが。
「以上が、俺の『浮気騒動』の顛末だ。浮気じゃないけどな。浮気じゃないけど!」
「強硬に主張するわねぇ……」
「だって浮気じゃないモンッ!」
ミフユに軽く呆れられたが、これについては激しく主張せざるを得ない。
「そっか~、そっか~、そんなことがあったんだねぇ~、知らなかったよ~」
自分が知らなかったことを知れて、スダレさんはご満悦。
「やっぱり、人に歴史ありですね~。父様は父様でしたが」
シイナが妙な納得のしかたをしているが、納得してくれたなら、まぁ、よし。
「ケントしゃんは、これも知ってたのか~?」
「一応、聞いちゃいましたよ。相変わらずやりすぎてますけど、団長ですしね」
バカップル共は手を繋ぎながらそんなことを言っている。
クソ、ケントのヤツ、頬が緩みっぱなしじゃねぇか。
「なるほど。納得いたしましたぞ。父上に多少の過失あれど、浮気とは別問題。しかしながら、内容自体は確かに『浮気騒動』でありましたな。美人局未遂も含め」
裁判長のシンラもそう言って、木槌をカンカン鳴らしてる。気に入ったな……。
かくして、俺の弾劾裁判もこれにて決着――、おや、ひなた。
「ねーねー、おとーさーん」
「ん~? どうした、ひなた~?」
俺達のところにトコトコ歩いてきたひなたが、シンラに抱き上げられる。
すると、ひなたはこちらをグルリと見回し、言った。
「しけーはー?」
「「「あッ!?」」」
うぉいィィィィィィィィィィィィ――――ッ!?
「そうでした、父様、死刑でした! 極刑、極刑です!」
「わ~、忘れてたね~、危ない危ない~、おひなちゃんえらい~」
汗を拭う真似をするシイナと、ひなたを撫でるスダレ。
おのれおまえら、一生涯忘れててほしかったのに。のにィ!
「お嬢、キッチンからアレ持ってきてください!」
「はいさっさ~!」
ケントに指示されて、タマキがキッチンへと駆け足で向かう。
何? 何なの? 一体何を持ってくるの? 俺、これからどうなっちゃうの!?
「父上、いえ、アキラ被告」
「さっき判決出したんだからもう被告呼びやめろや!?」
「そうはいきませぬ。刑の執行がまだだからです」
「アッハッハッハッハ!」
「傍らで楽しそうに笑い飛ばしてんじゃねぇぞ、お袋ォ!」
笑うわ。は、俺のセリフなんだよ! 俺の専売特許なーんーでーすー!
「持ってきたぜー!」
タマキの声に、俺はビクッとなってしまう。
その手に乗せているのは、一枚のお皿。そして皿の上には、上には――、
「……シュークリーム?」
が、三つ。
「こちら、父上が来られる前に、余と美沙子殿であらかじめ作りおきしシュークリームにてございまする。有罪判決の場合、こちらを父上にお召し上がりいただきたく」
シンラ、この野郎。
ちゃっかりお袋と共同作業してやがる。
まぁ、それはいい。
二人のことは二人のこと。それはいい。それはいいんだ。
「シンラ君」
「はい、父上。何か?」
「シュークリームが三つある意図を、聞いていいかい?」
俺がそれを問うと、シンラの瞳がキラリと輝いた。
やはりか。やはりこれは俺が思った通り――、当たりつきシュークリーム!
三つのうち、おそらく二つはハズレ。一つは当たり。
ハズレの二つは、どうせワサビかカラシか、その辺りだろうよ。
つまり、アタリさえ引けば、俺は無事!
死刑から生還した奇跡の男になれるってことだァ! この死刑、すでに見切った!
「こちら、今回の死刑たる『当たりなしシュークリーム』となりまする」
「…………え?」
当たり、なし?
「こちらの三つのシュークリームはそれぞれ『ワサビ』、『カラシ』、『デスソース』が入っております。父上には、全て食べていただきたく存ずる!」
「おまえ、アホかよオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ――――ッ!?」
何で三つ用意した、何で!?
全部ハズレなら、別に一つでいいじゃんかよォォォォォ――――ッ!
「なお、この死刑の発案者は母上にてござりまする」
「ミフユさんッ!?」
言われて、俺はバネ仕掛けみたいな勢いでミフユを見る。
すると、このババア、口に手を当てて楽しそ~に笑っていらっしゃりやがる!
「何? 何なの? そんなに俺をいじめて楽しいのか、おまえェ!」
「アキラさん、わたし、あなたを信じてるから」
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?
そこで新婚当時の呼び方してくるのはズルいよォォォォォォォ!
「ぐ、ぅ、……み、ミフユさん。俺が食べきったら、ほ、誉めてくれる?」
「うん。いっぱい褒めてあげるわ、アキラさん」
はい、無事に後戻りできなくなりましたァ~!
ポイントオブノーリターンだったっけ、こういうのってさァ~~~~!
「いいぜ、やってやんよ! こちとら、ミフユ・バビロニャの勇者なんじゃいッ!」
俺は覚悟を決めた。こうなりゃもう、全力全開全速前進あるのみ!
「わ~、おパパ、素敵~、初手デスソース希望なのよ~」
「チッ、見せつけてくれやがりますね、父様。初手デスソース希望です!」
娘達が囃し立てる中、俺はその場にいる全員を見渡す。
「見とれよ、おまえら。これがアキラ・バーンズの生き様じゃい!」
そして俺は、一つ目のシュークリームを掴んだ。
『仲良き家族で何よりだわいのぉ~』
魔剣の形をした親戚のおじさんがほっこりした三秒後、俺は絶叫した。
初手、デスソースでした……。




