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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第六章 愛と勇気のデッドリーサマーキャンプ

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第122話 二日目/異階/何にもならない結末

 異面体(スキュラ)の先にある力――、異能態(カリュブディス)

 それに目覚めて、まずケントが思ったことがある。


 ……あれ、何か『異階』が壊れる気配がないぞ?


 以前、郷塚家の件でアキラが異能態になったときには、すごい勢いで壊れたのに。

 今はといえば、そんな様子は一切見られない。


 そういえば、女将さんの異能態も『異階』を壊さないって聞いたな。

 と、思い出して、そこからふと気づく。


 もしや『異階』を壊すのって、アキラの異能態だけなのでは?

 うわぁ~、その可能性、高ェ~。あの人、とにかく破壊的だからなぁ~……。


「何がおかしいんですかぁ、ケント・ラガルク!」

「ん、ああ。いや、別に?」


 怒りから声を荒げるドラゥルに、ケントは何気ない様子で接してしまう。

 そんな態度を取られて、ドラゥルが気分を害さないはずがない。というか火に油。


「ああああああああああああああああ! そうですか、そんなに私にセンパイを取られるのがイヤなんですね、ケント・ラガルク! ブッ殺してやりますよぉ~!」

「そこは特に心配してないけどな。おまえじゃお嬢の相手はできないよ」

「センパイ『達』! あいつ、八つ裂きにしてくださァァァァ~~~~い!」


 ドラゥルが、タマキ『達』にケントの排除を命じる。

 タマキが応戦のために腰を低く落として構えを取ろうとするが、ケントが止めた。


「大丈夫ですよ、お嬢」

「ケントしゃん?」


「あいつらの攻撃は、お嬢にゃ届きません。俺が守りますから」

「でも、それじゃケントしゃんが!」


 不安の声をあげるタマキに、ケントはただ、全身を燃え盛らせながら、微笑んだ。

 それは、タマキの胸から不安を取り除く、力強い笑みだった。


「廻れ、熾靭火車(エタニア・プロミナ)


 告げると、手足にある炎のリングが、甲高い音を立てて高速回転を開始する。

 だが、したことといえばそれだけだった。

 迫るタマキ『達』を前に、炎のリングを回しながら、特に彼は動きを見せない。


「どうしたんですぅ、ケント・ラガルク! そんなおもちゃを回して満足なんですかぁ~? お遊びは終わりでいいですよね? じゃあ、死んじゃってくださいよ!」


 タマキコピーの一体が、超速で賢人に襲いかかる。

 その拳が、振りかぶられて――、爆裂。


「……え?」


 それを見たドラゥルが、きょとんとなる。

 タマキに、そんな能力はない。殴ろうとした瞬間に、拳が爆ぜる能力など。

 しかも、煙が晴れてみると、爆発した拳が欠けていた。


 コピーであるがゆえに痛みはない。

 立て続けにケントに迫り、今度は蹴ろうとするが、その足が爆発した。


「はぁっ!?」


 続けざまの、ドラゥルの驚愕。

 二度目の爆発により、そのタマキコピーは片足も失い、立てなくなって倒れる。


「さすがはお嬢。攻撃の威力が半端じゃない」


 言って笑うケントへ、五体のタマキコピーがそれぞれ襲いかからんとする。

 しかし、結果は一体目と同じ。攻撃のモーション中に爆発していくだけだった。


「何です、何が起きてるんです! どうしてセンパイ『達』が倒れてるんです!?」


 戦慄に顔から血の気を引かせ、ドラゥルがワナワナと震えている。

 そこに、特に感慨を持たないまま、ケントが告げた。


「『先制反射』。敵の攻撃を、その攻撃前に反射する、俺の能力の一つ目だ」

「こ、攻撃前に攻撃を反射ァ~ッ!? そんなの、完全に反則じゃないですかぁ!」


「へぇ、殺し合いに反則なんてあったんだな。知らなかったよ」

「ぐ、だ、だったら……ッ!」


 唇を噛みながら、忸怩たるものを顔に浮かべて、ドラゥルはタマキを睨む。

 瞬間、残るタマキ『達』も一斉に、タマキ本人へと狙いを切り替えた。


「先に、センパイをもらっていくだけ――」

「輝きを放て、熾靭天輪(エタニア・フレイエル)!」


 今度は、ケントの背中の大きな炎の輪が回転を早め、輝きを強めた。

 するとどうだ。タマキを狙っていたタマキ『達』がケントへと向かっていく。


「何で!?」

「『導線支配』。敵の攻撃の的を、俺だけに集中させる。俺の能力の二つ目だよ」


 これこそが、異能態『熾靭戟天狼』が誇る能力。

 自らに敵を集め、その攻撃を無限に無効化し続ける――、『絶対防護』であった。


「お、おまえ、そんな攻撃的な見た目して、タンク役なんですかァ~!?」

「見た目なんぞ知るか。俺は、お嬢を守れさえすれば、それでいいんだよッ!」


 叫ぶケントの周囲で、爆発が連鎖する。

 そして、自分の攻撃をそのまま跳ね返されたタマキ『達』が、次々に倒れていく。

 それを見届けて、ついにタマキが堪えきれなくなった。


「スゲエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェ――――ッッ!」


 タマキが、弾けたように跳び上がり、さらにケントの周りでグルグル回る。


「すげぇ、すげぇ、すげぇ! ケントしゃん、すげぇ! やっぱケントしゃんはすごかったんだ、強かったんだ! オレが考えてた通りの人だったんだァ!」


 異面体を装着したまま、タマキは心底嬉しそうに跳ね回る。

 ケントはフッと笑い、手を伸ばしてそんな彼女の頭を軽く撫でてやった。


「お嬢がいてくれたから、俺はここまで来れました」

「オレが……?」

「ええ、そうです。ずっと信じてくれてありがとな、タマキ」


 自分で自分を信じられなくなったときも、タマキだけは信じ続けてくれた。

 ちょっと前まで重荷や呪いのように感じられたそれが、今は、こんなにも嬉しい。


「これからは、俺が君を守るから」

「……うん。うん!」


 少しだけ濡れた声でうなずいて、タマキがバシンを拳を手に打ちつける。


「だけど、オレも、強くなる」


 言い放たれたその声には、強い決意が漲って、


「もっともっと強くなる。守られてるだけなんて絶対にヤダ!」


 拳を握り締めるその身より、強烈な熱が解き放たれて、


「ケントしゃんが前に進んだのに、オレだけこのままなんて絶対にイヤだ! オレも、ケントしゃんと一緒に前に進んでやるんだァァァァァ――――ッ!」


 想いの乗った叫びと共に、タマキを包む純白の装甲が解けて、力が渦を巻く。


「……ハハッ」


 それを見ていたケントが、額に手を当て、軽く苦笑した。


「嘘だろ、お嬢。本当にあんたは、どこまでも規格外だな」


 言いつつも、その顔は笑っている。

 こうなることが、心のどこかでわかっていたのかもしれない。


 そう、これは必然の覚醒。

 タマキの異面体が司るのは『強さへの欲求』である。


 そして、彼女にとっての『強さ』の象徴はケント・ラガルクなのだから。

 言い換えれば、タマキはずっとずっと、ケントを追い求め続けてきた。


 ゆえに、彼が変われば、彼女もそれを追随する。当然の帰結として。

 その想いを人は何と呼ぶのだろう。

 きっと誰もが、それを『愛情』と呼ぶはずだ。


異能態(カリュブディス)――、『天淨天華(テンジョウテンゲ)』ッ!」


 だからだろうか、タマキの異能態は、名も姿もこれまでとは一変した。

 装甲は消えて、身に纏うのは裾の長い、半袖の白いワンピースのみ。


 しかもかなり薄手で、タマキの体の線がうっすら陰となって垣間見える。

 髪は、銀色になって腰まで届く長髪となり、瞳も鮮やかな瑠璃色。


 何より目を引くのは、背に生えた大きな純白の翼だろう。

 それも相まって、タマキの姿は今までのイメージを完全に破壊するものだった。


 天使のように美しい。

 ただただ清らかで、美しい。


 だけど、ケントはすでに察している。

 《《こっちこそが本来のタマキの姿なのだ》》、ということを。


 まさにそれは『愛情』という『真念』を持つ者として相応しい姿であろう。

 ただし――、


「ウォォォォォオオオオオ! 見て見てケントしゃん! オレ、羽根生えた、羽根! うお、飛べる~! 魔法なしで飛べる~! ヒャハァ~~~~イ!」


 どれだけ清楚で美しい姿になろうと、中身はタマキなのである。

 ケントが見ている前で、彼女ははしゃぎ、辺りをバビュンバビュン飛び回った。


「お嬢~、壁にぶつからないようにしてくださいよ~?」

「大丈夫だよ~! だってオレにはケントしゃんがついてるも~ん!」


 そういう問題じゃないけど、タマキなら壁にぶつかることはないか。と思った。

 そして、ケントはまた一つ確信を深める。やっぱ『異階』壊れないじゃん!


「チッ、団長の野郎。さも異能態はそれだけ危険な力だ、みたいな空気出して、危険なのは自分自身だけじゃねぇか。あの野郎ォ~、騙されたぜ……」

「ちょっと……」


「ウオオォォォォォォ! 空中で宙返り~! からのぉ~、きりもみでグルングルン~! アハハハハハハハハハハ! すげぇ、魔法より思い通りに動ける~!」

「うわぁ、洞窟の中なのに本当に一切ぶつからずに飛んでる。器用~。超器用……」

「あの……」


「う~む、しかし今のお嬢、絵になる。もしかして女の子らしくしたら、破壊力がヤバいことになるんじゃ? ……あ、想像するだけでヤバイかも。心頭滅却心頭滅却」

「私を無視するのもいい加減にするですよォォォォォォォォォ――――ッ!」


 ずっと外野に置かれ続けていたドラゥルが、限界を迎えて爆発する。

 それに、ケントはチラリと流し見るだけ、タマキは飛ぶのをやめて地面に降りた。


「何ですか、状況わかってるんですか、二人とも! 私がいるんですよ? タマキセンパイを世界で一番愛する私がッ! なのにどうして私を無視できるんです!?」

「だってもう、終わってるからな」

「はぁ? どういうことですか、それぇ……?」


 腕を組んで、感慨のない声で言うケントに、ドラゥルはコメカミを痙攣させる。


「言葉通りの意味だよ。まだやる気なら、やってみろ。今の俺を、コピーしてみろ」

「……フッ、アハハ、ウフフフフゥ! 言ってくれますねぇ、泣き虫のガキが!」


 軽く笑ったあとで激怒を表し、ドラゥルがキラビカガンにケントを映す。


「何が異能態ですか! 私の目の前で、当てつけみたいに二人でイチャイチャして、タマキセンパイは私を撫でてくれたんです! 彼女は私のものですよぅ! あなたなんか、ここから出てくるコピーに嬲り殺されて……! コピー、に……。……え?」

「出てこないな」


 ケントが鏡に映って、すでに十秒以上が経過している。


「そ、そんな、キラビカガン!?」


 ありえない事態に、恐慌寸前に陥ったドラゥルが、自分の異面体を振り向く。

 ビキッ、と、音がしてその表面に亀裂が入ったのは、まさにそのとき。


「え……」

「もう。いいな」


 ケントは軽く言って、右手を軽く挙げた。

 それを見たタマキが「あ~い!」と、近くにいるタマキコピーへ拳を振りかぶる。


「幾つか、間違いを訂正してやるよ。ドラゥル・ゼルケル。一つ目は、俺達は別にイチャイチャしていない。二つ目は、お嬢はおまえのものじゃない。三つ目は、お嬢を世界で一番愛してるのはおまえじゃない。最後の四つ目は――」

「とりゃあ!」


 タマキの一撃が、タマキコピーの顔面を捉える。と、同時、


「俺の能力が『絶対防護』なんだから、それと対になるお嬢の能力は、究極の攻撃特化。対多数一撃必殺の力――、『絶対突破』。それを、見落としていたことだよ」


 全てのタマキコピーとキラビカガンが、一斉に砕け散った。


「ぅ、あ……」


 全回復魔法を使う『出戻り』同士の戦闘で勝つ手段は二つ。

 相手を殺すか、または精神の具現化である異面体を破壊して意識を奪うか。


 キラビカガンを破壊され、ドラゥル・ゼルケルは失神した。

 それを見下ろし、ケントは呟いた。


「異能態に目覚めた俺達にとって、おまえはもう、毒にも薬にもならない存在で、実力差で勝負にならず、考え方の差で話にならず、おまえにとって何一つ思い通りにならない、シャレにならない結果で終わったな。ああ本当に――」


 ケントの目線が、ドラゥルから外れる。 


「何にもならない結末だったな」


 洞窟の上から、はしゃぐタマキの声が聞こえる。

 ケントも彼女の方を見上げる。もう、ドラゥルのことは頭から消えていた。

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