星夜
夕陽の残光までこの世から失せた頃、ようやく閉めきられた部屋から外に出る。
彼を迎えるのは一面の星空。
他はどこまでも深い闇である。
庭に咲き誇る花の色も、宮殿の素晴らしい彩色も、何もわからない。鮮やかなものはすべて夜の世界ではぼんやりとした影でしか存在できなかった。
なぜ、と毎夜恨む。
黒いフードを取る。
昼間は顔まで全身を布で覆っていなければならず、もしもそこに少しでも隙間があれば、たちまち火ぶくれとなってしまう。彼が外気に肌を晒せるのは夜の間だけ。
星の光は彼を焼かない。
だがなんの慰めになろう。
星は花の色を教えてくれるわけもなく、熱を与えてくれることもなく、冷たい孤独を思い知らせる。
なぜ、自分は陽のもとで生きられない。
なぜ自分だけがこうなった。
国の者たちは夜の呪いと噂する。
母が夜に彼を生んだからだという。
夜の森に入らずとも、禁忌に触れずとも、たったそれだけのことで呪われるのか。
彼は腹の底から憤慨した。
はじめに母を責め立てた。次に父を責め立てた。最後に兄たちを残らず責め立てて、何一つ状況が変わらないことを悟った。
そして今、闇の中にあって夜を睨む。
「なぜ・・・」
憎悪と嘆き、その両方。
強く噛みしめた唇から、涙のように血が滴り落ちた。
――そこから遠く離れた夜の中、うすぼんやりと光を帯びる子供がユピの根から頭を上げた。
起きた拍子にネズミが転がり落ちる。
まだそちらは寝惚けている。寝惚けたまま、もごもごと何か喋り続けていた。
それとは別に、胸を締めつけるような叫びがかすかに聞こえる。
ただ夜の中で幾重にも反響し、どこから聞こえてくるのかがはっきりわからない。
わからないが、確かに誰かが泣いている。
気になったフィニィは哲学ネズミをフードの中に放り込み、肩かけ鞄を持ってユピの森の外に出かけた。
魔法の国の上空にも小さな星々が瞬く。
その銀色の優しい明かりは、フィニィにアンテを思い出させる。砕けて消えた彼女の欠片が空に散り、どこにいても見守ってくれているように思う。
眺めているうちに東の空から闇が薄れてゆく。
夜がひくにつれ、フィニィの耳に響く誰かの泣き声もさらに遠ざかり、間もなく、何も聞こえなくなった。




