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フィニィの魔法の国  作者: 日生
二章 魔法の国
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新米魔法使い1

 その日のお使いを終え、フィニィは昼の街中をうろついていた。


 近頃はまたアクウェイルの依頼が増えてきた。だが採ってきてもすぐに魔法を作るわけではなく、材料を机に並べてにらめっこをするばかり。


 どうやら新しい魔法を作ろうとしているようだが、材料が足りないらしい。他に何が必要なのかと訊けば「まだ採れる時期ではない」という。


 仕方がないので午後は魔法の国の探索に勤しむことにした。

 西の城壁、南の市場、両替商の連なる通り、ピューイの乗り場、いくらかは巡ったがまだ見ていない場所もある。


 さしあたっては、北でちらりと見かけた黒い大きな建物が気になっている。


 針の先のような高い屋根がその辺りに密集していた。どうも普通の民家ではなさそうだ。


 フィニィは小走りに北へ向かった。


 だが途中、路地から出た時に目の前を不思議な者が横切り足を止めた。


 ぶつかる寸前だったが、相手のほうは気づかず、うんうん唸りながら通り過ぎていった。


 大きな帽子をかぶった小さな子供。上着から尾羽のような白い羽根がはみ出して、先が時々地面を擦っている。羽根の先はほのかに赤かった。


 袖口からも羽毛が出ていた。羽毛の中に人間らしい手があり古いノートを開いて持っていた。帽子の下から見える髪も毛髪でなく羽毛だ。


 人の形をした鳥の子である。


 翼はないがフィニィは子守り鳥を連想した。

 つい揺れる尾羽につられて後を付いていった。


 鳥の子は通りの【素材屋】に入った。魔法薬の素材を売る店である。


 そこでは比較的簡単に採れる素材をまとめて購入することができる。個別に探集者に頼むより安く済むため多くの魔法使いが利用しており、街中には素材屋がいくつか点在している。探集者たちも特定の依頼がない時は店に素材を持ち込み小銭を稼いだりする。


 鳥の子が入った店の看板にはアクルタ商会の名が刻まれていた。


 店の中には天井まで様々な素材がぎっしり詰まっていた。棚に収まりきらず縄で吊り下げられているものもある。

 乾燥させた葉や木の実、虫の死骸、キノコ、魚の干物、蛇の抜け殻。いかにも子供の拾ってきそうなありとあらゆるガラクタじみたものがこの国では大事な商品だ。


 種類ごとに整理されてはいるものの、品数が多過ぎて慣れている者でなければとても目当ての品は探し出せない。

 鳥の子は棚の前にいた女の店員にさっそく話しかけていた。


雷吐き(ティトゥ)の冠ちょーだい」


 店員の顔には驚きと呆れが表れていた。


「そんな貴重な素材はうちでは取り扱っていません」


「え?」


 鳥の子は何もわかっていなかった。

 店員はきっとこの子は誰かに頼まれて買いにきただけなのだろうと考えた。


「専門の探集者に依頼してください。よければうちから繋ぎましょうか。紹介料はいただきますが」 


「・・・お金かかるってこと?」


「メジュ銀貨三枚ほどですよ」


「ぼったくりだ!」


 子供の大きな声に店員はいささかむっとした。


「お父様かお母様かお師匠様にご相談なさい。ここにティトゥの冠なんかありません。他の店でも同じですよ」


 言い捨てて他の客のもとへ行ってしまった。


 鳥の子はしょんぼりと店を出た。


 その背中がなんだか可哀想で、フィニィはこっそりと近づき鳥の子の袖を引いた。


「ふあっ、だれ?」


 驚いた拍子に、鳥の子のどこかの羽根が一枚、二枚舞った。


 夕焼けのようなオレンジ色の瞳にフィニィが映り込む。顔には羽毛がなく、十にも満たない少女の面立ちをしていた。フィニィともさほど目線の高さが変わらない。


 フィニィは、ティトゥの冠は何個欲しいのか尋ねた。


「え・・・くれるの?」


 今から取ってくる、と答えた。


「ほんとに? でも、いくら? 銀貨一枚でも足りる?」


 鳥の子が上着のポケットから実際に出してみせた。それしか持っていないのだ。


 フィニィは使いもしない銀貨など欲しくない。

 材料を取ってくるから魔法を作るところを見たいと伝えた。


「見せればタダなの? おトク~。いいよいいよ、見せたげる。ねえねえだったら他のもタダになる?」


 鳥の子は持っていた古いノートを見せた。

 何かたくさん書いてあるがフィニィには読めない。


夕陽石(レレント)踊り子(アッハ)の汗と逆さ頭(グヴィン)の髪の毛。ぜんぶタダ?」


 フィニィは頷いた。鳥の子は嬉しそうに飛び跳ねた。


「やった! ありがと! でも、なんでタダなの? ふつーはお金とるよ。あんたダレ?」


 フィニィはフィニィだと答えるしかなかった。


 すると鳥の子はピアと名乗った。


「わかった、フィニィは探集者の見習いなんでしょ。見習いだからお金とれないんだ。下積みのうちはたいへんだよね。ピアはもう独り立ちしてる魔法使いだけれども」


 鳥の子はどこか自慢げだ。

 フィニィは子供の魔法使いもいるのだなあと思っていた。


「いつとってこれる? 今日? あした?」


 フィニィは今日と答えた。

 夕方までには戻ってこられる。どこへ持っていけばよいか尋ねると、ピアはフィニィを自宅の前まで連れて行った。


 外見は土で作ったかまくらのような小さな家だ。

 扉と窓が付いており、上に煙突が突き出していた。周囲とは違う独特な形の家なのでフィニィはすぐに覚えた。


「はやくとってきて!」


 ピアに急かされ、さっそく出発した。

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