竜の傭兵5
今朝の空には雲が多かった。
風に吹かれるように花の塊がてんてんと荒野に転がる。毎日何度も爆撃され草の生える暇のない不毛の地。だが毎朝必ずそこには色とりどりの花が咲く。
フィニィは花人に渡された大量の花束から、一本ずつ取って骸骨たちに供えていった。
荷車から死体を下ろし終え、ゼノは休憩がてら、しゃがんだり駆けたりひょこひょこ動く子供の頭をなんとはなしに眺めていた。
今朝も蘇った兵士たちと一戦交えた後である。
やはり塵になった兵士は現れなかった。体格と戦い方の癖でゼノはあの兵士のことを識別していたからまちがいない。彼は確かに死んだのだ。
魔法の国の兵士たちは時々、本当に黒い兵士たちを殺せるのかと弱音を零すことがある。大臣の言葉を疑う者もいた。
しかし昨日のことでこの戦いにも必ず終わりのあることがわかった。
ゼノの戦いもいつかは終わるのだろう。そんなことはとうの昔から知っていたが、改めて実感した。いつからか、彼は死んでも自分は黒い兵士たちと戦い続けているような錯覚をしてしまっていた。
だが違う。ゼノはやはりゼノで彼らではなく、一度死んだら終わりだ。
それを心のどこかで待ち遠しく思う。
「なあ」
ちょうど小さな頭が傍に駆けてきた。
呼びかけると透き通った瞳がゼノを見上げた。
「俺が死んだら花を供えてくれ」
子供の瞳が一瞬揺れた。
それが収まった頃、いいよ、と小さく答えた。
抱えているたくさんの花を見せ、どの花がいいか訊いてきた。
「お前の好きな花でいい」
土くれのような己の惨めな亡骸に、この子が選んだ花を供えられる。
とても幸福な未来に思えた。
フィニィは、いいよと答えた。
そして少しだけ震える声で続けた。
「あんまり、しなないで」
か細い手がゼノの指を掴む。
胸の裂けそうな願いと悲しみが込められていた。しかしそのささやかな力では何者も引き留めることができない。
この子供はこれまで何度も誰かに置いていかれ、おそらくこれからも置いていかれるのだろうとゼノは思った。
子供はいつも身勝手な大人に託される。
かつてのゼノも置いていかれた者だった。それがいつの間にか置いていく側に回ってしまった。
「悪ぃな」
片手で覆える小さな小さな頭をなでてやる。
戦いは彼の望みであるが、それとは別に、この泣きそうな子供をできる限り守ってやろうと思った。
花人が転がってきてフィニィの頬をこする。
あの日、ユピの根の下で触れた魔女の手もこんな感触だったとフィニィは思い出した。
風が吹き、花が香る。
兵士たちは束の間の安らぎにたゆたっていた。




