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蟹よ!来たれ!

作者: 江澤 縁

雪が溶けて、アスファルトが完全に見えるようになってきた。やっと、足元に気を使わずに歩ける!と、ウキウキしながら、月が変わったことを思い出したので壁にかけてある先月のカレンダーを破り、4月のカレンダーに決まった予定を書き足す。

夫がテレビのチャンネルを変えると、大型スーパーで毛蟹に特集をしていた。雪解け後の蟹である。おおっ!と、夫の方を振り向いた。


「毛蟹の美味しい季節がやってきましたよ!」


蟹を食せるかもしれないことへの期待に満ち溢れています!来たれ!毛蟹よ!


「半額を狙って買いに行ってくる」


と、いつもと変わらず通常運転で答えてくれる夫が頼もしい。

今日は、この土日の夕方が勝負の時。書く必要もないのに、蟹を食べれますようにと強く願掛けカレンダーの予定に黒の太いマジックでカニと書いた。


オホーツク海の雪解け後の毛蟹は身が引き締まって美味しいことで有名だ。

流氷毛蟹というんだよと、夫に教えてもらった。雪まつりの季節に道外からきた友人に、札幌市内の市場で流氷毛蟹について友人と熱く語っていたら、市場のお兄さんから、流氷毛蟹って何?聞いたことないよと言われて言われた為、私が間違って覚えてしまったのだろうかと悶々とし、後で夫に確認を取れば、道東では流氷毛蟹と言うらしい。


お土産がたらば蟹が目的だった友人に毛蟹の良さをしつこくアピールしたところ、小さめの毛蟹も購入し満足した表情で帰っていった。その1週間後にたらば蟹を食べない息子が、毛蟹は食べたという報告があったので、また1人、毛蟹の偉大さを実感してくれて嬉しい限りだ。


しかし、雪解け後ではない通常の毛蟹も美味。これもまた、重要な真実である。


2年前に夫ともに車で3時間ほどかかる遠方の毛蟹祭りにいき、格安のいい毛蟹を買うべく販売開始の1時間前についたものの、既に長蛇の列が…100人以上並んでおり、列を整備してたお兄さんに

「今から並んで毛蟹を買えるかわかりません。先頭に並んでいる人は、朝の5時にきてました」

と、申し訳なさそうに言われてしまった…。


さらに残念なことに無料で参加できる毛蟹の早食い参加券も終わってしまっていた…。決まった時間内に食べ残した残量が少ない人が優勝で毛蟹をもらって帰れるらしい。

皆々様の毛蟹に対する情熱は止まることを知らない…。


素直に諦め、同じ会場で売っていた漁れたて茹でたてお値段も優しい少し小さめの毛蟹をゲットし美味しくいただ。甲羅は尖ってて、食べるのに時間がかかるが、仕事を頑張ってよかった…幸せ。


早食いを見学した夫が珍しく笑いながら戻ってきた。夫に何があったか聞いた場合、いつもは何故か教えてくれないのだが、その時は笑いながらスンナリ教えてくれた。


「挑戦者たちが毛蟹の甲羅まで口に入れてた」


皿の上にの残量が少ない人が、甲羅はトゲトゲしているので、口内に入れるはかなり危険ではないだろうか?口の中が血だらけになりそうだ。タダで毛蟹を食べられるならそれだけで満足なはずなんだが…人の欲と闘争本能はとどまることを知らない…と、衝撃を受けながら帰路についた。

毛蟹は、いいお値段はするが、それほどまでに美味しい食べ物なのだ。


札幌に住んで4年になる。

1年目は流氷毛蟹は美味しさを夫から聞くものの、いいお値段だっためスルー。


2年目はテレビで大手スーパーが雪解け後のオホーツク海でとれた毛蟹のPRを見たので、夫が半額になる時間と日にちを狙い見事にゲット!カッコいいぞっ!!夫!!!好きっ!カニの狩人と、夫を褒め称ええるもスルーされる。


3年目はテレビで毛蟹のPRを見て、この季節がやってきた!と、夫が何店舗か毛蟹を物色に行くも半額はなく、定価で残りが1匹や2匹しかない。ゲット出来ずに終わる。おそらくウィルス騒動で外出自粛のため、家で人生の楽しみを堪能するべく多少いいお値段がしても毛蟹を買っていく人が増えたに違いない。


そして4年目。今年もテレビで偶然にも毛蟹のPRを目にすることになった!去年はよく売れてたのであろう。今年は1000匹仕入れるとのこと。

もはや運命としか言いようがない。今年も食べなさいという北海道の大地のお告げだ!


夫から

「かね!カネ!!金!!!」

と、軍資金を夫に請求され、私も蟹をよろしく…と、期待を込めて渡す。

でも、なかった時に辛いので、期待しすぎないようにしよう。



時が経つのは早い。窓に目を向けると夕日が沈む時間が遅くなってきた。まだ冬のコートは手放せないけど、春が近づいて時が経つのは早いなあと、しみじみ思う。気づけば、夫の姿も消えている。スーパーを物色に行ってるに違いない。とりあえず、晩御飯を作ろう。


午後8時を過ぎ、食べ終わったころに夫が

「なかった。明日も厳しいかも…」

と、半額の魚を2、3匹買ってきた。本命をゲット出来ずだが、大量だ!カッコイイ!ありがとう、夫!好き!!

明日の毛蟹は、せめて2割引になってるといいなあ。


翌日は蟹を買ってきてね!と念を込めながら送り出し、午後8時過ぎ夫が玄関を開けながら

「完敗だった」

と戻ってきた。


今年も蟹は食べれずかあと思いながらお出迎えすると、蟹がっー!

「今年は定価で買ってきた」

と、半額の魚と一緒に蟹を渡された。恐らくウィルスがおさまらないのが尾を引いている。四季の楽しみがないと人は生きていけないのだろう…。

それにしても、なんと贅沢な…と、心の中で震えながら受け取る。


「北海道外で食べるとこの金額の倍はするから」


確かに、送料がかかるからなあ。

カニに包んでいるラップを破る。蟹をつぶらな目とあった。魚と目が合うと命をいただく罪悪感から目を逸らすけど、蟹に関しては、しっかり頂くからね!と、テレパシーを送って晩ご飯にする。


鋏を使って蟹の殻を切る。食べるのは大変だけど、身がしまって柔らかくて蟹特有の甘味があって美味しい…特に蟹味噌が最高だわ…。これを糧に頑張るぞっ!時間をかけ無言で食べつくした。


カニと書き込んだカレンダーを目にはいる。北海道に来年いたら、カニではなく『半額の毛蟹よ!きたれ!』と、念を込めて書こう。執念が足りなかったわ…。


4月上旬は雪は溶けて花も開花してないけど、毛蟹は特に美味しい季節なのだ。また、明日から頑張ろ!

毛蟹は年中美味しいですが、流氷が運んできた栄養豊富なプランクトンを食べて育った3月下旬からの毛蟹は、一番美味しいらしいですが、実際に美味しかったです!


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