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革職人ガルダ/禁断のレーザーカット魔法/アーリオオーリオ2.0 3




「駄目だ」

「駄目でしたね……」


 再び、マシューはガルダと共に、レストラン『ロシナンテ』でワインを飲んでいた。

 今日はローランの息子ではなく、娘のティナが給仕の手伝いをしている。


「はい、料理、お持ちしました!」

「ありがとうございます。偉いですね」


 ティナが恥ずかしそうにはにかんで、厨房へと引っ込んでいった。

 マシューは、暗い気分が少しばかり晴れたような気がした。


「ま、くよくよしても仕方ありません。腹ごしらえといきましょうか」

「そうだな」


 二人は、馬鎧に焼き印を付ける方法を様々なアプローチから調べてみた。だが、どれも駄目だった。マシューは知り合いの鍛冶師全員に「無理だ」と断られ、ガルダは自分で金型を作ろうとしてこれもまた駄目だった。


 そんな脱力感を癒やすには、飯と酒だ。


「今日は潰れないようにしましょうね」

「うるせえなぁ……お、こりゃ美味いぞ」


 鶏モモ肉のソテーに、付け合わせはアスパラガスだ。皮目はしっかりと焼いてパリッとした食感を出しつつも、肉には火が入りすぎず柔らかい食感が楽しめる。絶妙な塩梅であった。


「飯も美味くなったもんだな。肉は安くなったし野菜も美味くなった」

「シェルランドくらいですよ。他は昔とさほど変わりません。ああ、でも、酒と茶は王都の方がバリエーション豊かでしたね」


 シェルランドの町は、魔法使いの気位が他の地域ほど高くない。金が出るとなれば農業だろうが牧畜だろうが喜んで手伝う。王都であれば下々の仕事に関わるのは賎業と見なされる。


 また、魔道具を作ることも厭わない。魔道具とは魔力を注ぐだけで魔法が発動する道具だが、人間が直接放つときの1割程度しか力が出せない。そんな弱々しいものが魔法使いの代わりのような扱いをされることに、普通の魔法使いであれば憤慨する。だがこの町の魔法使いは「でも作るの面白いしあったら便利じゃん?」で済ませていた。


「魔法使い様々だな」

「料理人のおかげでもありますがね」

「そうだな」


 そう言って、ガルダはワインを一息に飲み干す。


「たまにローランの奴が羨ましい。料理の道に進めば良かったと思うときがある」

「突然何を言い出すんですか」

「一人親方にはなったは良いが、結局は客の御用聞きに過ぎねえ。俺が何を作りたいか、見失っちまいそうなんだ」

「ガルダ……」


 革職人は徒弟制だ。親方が弟子を取り、技術を仕込む。一度誰かの弟子に付いたならば、別の門派に移籍したり、あるいは独立したりすることはそれ相応の理由がないと難しい。


 だがガルダは今、誰かの下で働いているわけではなかった。数年前、自分の師匠が流行り病で亡くなったのだ。師匠を亡くした弟子は、新たな師匠を見つけるか看板を受け継いで独立するしかない。ここでガルダは独立を選んだ。独立するに足る技量がすでにガルダには身についていた。


 マシューは友人としてのひいき目抜きに、ガルダの腕を高く評価している。仕事が好きで、真面目だ。マシュー以外にも評価する人間が増え、独立した人間の歩む道としては理想的とさえ言える。


 それでもガルダには独立独歩で歩むには欠点があった。孤独が苦手なのだ。


「御用聞きには御用聞きのプライドがあります。少なくとも私はそうです」

「……お前を馬鹿にしたわけじゃねぇ。むしろお前くらい凄けりゃ御用聞きなんて馬鹿にする奴はいないだろう。俺自身のことだ」

「それでも、何も持たない人間は御用聞きにさえなれませんよ」

「けど俺は師匠みてえになりてえんだよ! 魔法みたいに、いや、魔法以上に、なめした革が芸術品になる。このローランの料理だって魔法だ。『あの人』の料理を模倣しようとしてるが、確かにこの中にはローランしか作れない何かがある。けど俺の手は、誰かの言う通り動くだけで、自由自在の魔法にはならねえんだ」

「ガルダ……」


 こればかりは商人であるマシューに言えることは少なかった。

 客側の目線で売れるかどうかを判断するのがマシューの仕事だ。

 技術者同士のテクニカルな話に踏み込んでも、部外者の評価でしかない。


「師匠はもういねえ。わからねえことを聞いてもろくに答えちゃくれなかったが、それでも腕前を見せて道を示してくれた。俺はできる限り師匠の期待に応えたつもりだ。腹を減らしたときはペペを作ってくれた。俺も師匠のために見様見真似でペペを作った……。なんで死んじまったんだ、師匠」


 ずいぶんと思い詰めている、とマシューは感じた。

 酔いと疲労が極まると、ガルダの口から死んだ師匠との思い出話が出る。

 一種の泣き上戸だ。

 だがここまでの泣き言を聞くのは、マシューも流石に初めてだった。


 丁度そんな話をしているときに、店主のローランが突然割って入った。


「別に俺は、俺だけが作れる料理にこだわってるわけじゃねえ。単純に、『あの人』が使ってた素材が手に入らねえんだよ。手に入る素材でやりくりして工夫してるだけで大した仕事はしてねえ」


 そう言いながら、テーブルに置かれたワインを自分のグラスに注ぐ。

 マシューたちの他に客はおらず、ローランはこれ以上仕事をする気はなさそうだった。


「ローラン、そんなこたぁねえ。お前は大した奴だ」

「そう思うならおめえもだ。飲んだくれてんじゃねえ」

「つってもよぉ……」


 ガルダはいかにも情けない声を出す。

 ローランは相手にしてられんとばかりに、マシューに向き直った。


「おいマシュー。俺ぁ革細工のことなんかわからねえが、相談しに行きゃいいじゃねえか」

「相談? どこに?」

「しらばっくれてんじゃねえ。持ってんだろ……『招待状』をよ」

「……どうやって知りました?」


 マシューが驚いて聞き返した。


「知っちゃいねえよ。でも俺があのレストランの話をしたのに、お前からはその話をしねえよな。お前はそういう秘密ってのがどうしても気になる性格だろう」

「いや……すみません。どう話せば良いものか迷っていました」


 マシューの頭に、領主スコットから言われた言葉を思い出す。

 あの森に害意を抱かないようにと釘を刺された。


「わかってるよ。大っぴらに言えねえことくらいは理解してるしな。それでも腹は立つが」

「すみません。とりあえずガルダの件が終わったらちゃんと説明します」

「今じゃ駄目なのか?」

「まず、ガルダには偏見なしであの人を見て欲しいんです」

「ほう」

「ですのでガルダ」

「んあ? なんだ?」


 ガルダは今日も酒のペースが速かった。

 疲れているのだろうと同情しつつも、酔っ払っているガルダに叱るような口調でマシューは告げた。


「明日の昼、森の屋敷に行きますよ。道具と余ってる革……ハギレで構いませんから、用意しておいて下さい。寝過ごすなどないように」





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― 新着の感想 ―
[一言] 森の屋敷がオッサン達の秘密基地的な存在になってるのが何かいいな。
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